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使用者による障害者虐待と防止措置について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2020年度において、障害者に対する虐待が行われたという通報・届出のあった事業所は1000ヶ所を超えており、虐待の対象となった障害者数は1400人以上に達しています。

社内で虐待が行われることがないように、企業は障害者やその周りの従業員だけでなく、企業全体の課題として意識改革を行う等、虐待を防止するために取り組まなければなりません。

障害のある方が、障害のない方と公平に社会生活を送るためには、職場の理解と協力が不可欠です。このページでは、障害者雇用に関する課題のひとつ、「障害者の虐待防止」について解説します。

障害者虐待防止法の概要

障害者への虐待を防ぐために、2012年10月1日に「障害者虐待防止法(正式名称:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)」が施行されました。

「障害者虐待防止法」には、使用者などによる障害者への虐待禁止に加え、虐待の防止を図ったり、養護者を支援したりするための取り組みが定められています。また、虐待の発見者に対する通報義務といった内容も組み込まれています。

障害者虐待防止法では、次の3つを障害者虐待として規定しています。

  • ①養護者による障害者虐待
  • ②障害者福祉施設従事者等による障害者虐待
  • ③使用者による障害者虐待

なお、①の「養護者」とは、障害者の身のまわりの世話をしたり金銭の管理等を行ったりする、障害者の家族や同居人等のことです。
また、②の「障害者福祉施設従事者等」とは、障害者福祉施設又は障害福祉サービス事業等に従事する者のことです。

このページでは、「③使用者による障害者虐待」について、解説します。

障害者虐待防止法における「使用者」とは

障害者虐待防止法における使用者とは、障害者を雇用する事業主や事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為する者のことです(障害者虐待防止法2条5項)。

例として、次に挙げるものが使用者に該当します。

  • 障害者を雇用する事業主:法人
  • 事業の経営担当者:法人の代表者
  • 事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者:工場長、労務管理者、人事担当者

障害者虐待防止法における「障害者」とは

障害者虐待防止法で保護される障害者とは、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害含む)・その他心身の機能の障害があって、その障害や社会的な障壁によって日常生活・社会生活に制限を受ける者と規定されています。

障害者虐待防止法における「障害者」は、障害者雇用促進法の対象となる「障害者」とほとんど同じ意味です。ただし、障害者に対する虐待の判断には、労働者が障害者手帳を保有しているかは関係ありません。

障害者雇用について、さらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

障害者雇用

使用者による障害者虐待の具体例

「使用者による虐待」には、下の表のような行為が該当します。

①身体的虐待
  • 障害者の身体に外傷が生じる、又は生じるおそれのある暴行を加えること
  • 正当な理由なく障害者の身体を拘束すること
②性的虐待
  • 障害者にわいせつな行為をすること
  • 障害者にわいせつな行為をさせること
③心理的虐待
  • 障害者に対する著しい暴言を吐くこと
  • 著しく拒絶的な対応をすること
  • 不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
④放棄・放置
  • 障害者を衰弱させるような著しい減食をさせること
  • 長時間に渡って放置すること
  • 当該事業所に使用される他の労働者による虐待行為を放置すること
⑤経済的虐待
  • 障害者の財産を不当に処分すること
  • その他障害者から不当に財産上の利益を得ること

これらの行為に該当すれば、たとえ使用者や障害者自身に虐待をした・されたといった自覚がなくても虐待にあたります。
それぞれの虐待について、以下で解説します。

身体的虐待

身体的虐待(障害者虐待防止法2条8項1号)には、次のような行為が該当します。

  • つねる、叩く、殴るなどの外傷が生じるおそれがあるような暴行を加えること
  • 正当な理由なく手足を縛る、監禁するなどして一所に拘束すること

その他にも、次のような行為も身体的虐待にあたると考えられます。

  • 熱湯を飲ませる
  • 異物を食べさせる
  • 有害な作業場での業務を強いる

性的虐待

性的虐待(障害者虐待防止法2条8項2号)には、次のような行為が該当します。

  • 障害者の身体を不必要に触ること
  • 性的行為を強要すること

また、次のような行為も性的虐待に該当するおそれがあります。

  • わいせつな画像や映像を見せること
  • 意図して性的な会話をさせること

心理的虐待

心理的虐待(障害者虐待防止法2条8項3号)には、次のような行為が該当します。

  • 酷く怒鳴る
  • 人格を無視した悪口等の暴言を吐く
  • 拒絶的な態度をとる
  • ほかの労働者と差別的な扱いをする
  • わざと恥をかかせる

放棄・放置

放棄・放置(障害者虐待防止法2条8項4号)には、次のような行為が該当します。

  • 食事を提供する契約であったのに与えないなど、障害者が弱ってしまうほど食事量を減らすこと
  • 仕事を与えず長時間にわたって放置したり、ネグレクトを行ったりすること
  • ほかの労働者から虐待を受けているにもかかわらずその状況のまま放置し、健康や安全などへの配慮をしないこと

経済的虐待

経済的虐待(障害者虐待防止法2条8項5号)には、次のような行為が該当します。

・障害者の通帳を勝手に管理して現金を引き出すなど、財産を不当に処分すること ・賃金等を支払わないこと ・正当な手続きを行わずに、最低賃金を下回る金額で賃金の支払いを行うこと

また、障害者であることだけを理由として賃金を減らすことは障害者差別に該当します。どのような言動が障害者差別にあたるかは「障害者差別解消法」に規定されています。

障害者の差別について詳しく知りたい方は、以下のページを併せてご覧ください。

障害者の差別について

使用者による障害者虐待を防止するための措置

障害者虐待防止法では、主に次の2つを、事業主が取り組むべき障害者虐待防止措置の柱としてあげています。

  • ①研修の実施
  • ②苦情処理体制の整備

障害者である労働者は、障害者雇用促進法や労働基準法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法といった労働関連法規によって保護されているため、使用者はこれらの法律を遵守することが求められます。

労働者への研修の実施

障害者への虐待を防止するために、事業主には、従業員への研修を実施することや、各種研修会への参加を勧めるといったことが求められます。
研修の内容としては、次のようなことを周知するようにしましょう。

  • 障害者の人権
  • 様々な障害の特性
  • 障害の特性に合わせた関わり方
  • 虐待にあたる行為の内容
  • 従業員が虐待の事実を見つけたときに求められる行動
  • 虐待の報告を受けた企業としての対応

また、職場の従業員同士がオープンに意見を交換できるような、風通しの良い環境をつくるために、事業主をはじめとした事業所全体で取り組むことが重要です。

障害者の特性や行うべき配慮等について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

障害者の特性

苦情処理体制の整備

事業主は、雇用する障害者やその家族からの苦情・相談を受ける窓口を開設し、その窓口について周知する必要があります。また、事業所内で万が一虐待が発生したときに相談窓口担当と労務管理・人事担当などが迅速に連携を図れるようにしておくなど、適切な対応ができるような体制を整備しておくことが求められます。

使用者による障害者虐待が発生した場合の流れ

使用者による障害者への虐待が発生した場合には、次のような流れで対応します。

  1. 市町村又は都道府県への通報・届出
  2. 市町村への通報・届出がなされた場合には、市町村から都道府県への通知
  3. 都道府県から都道府県労働局への報告

虐待が疑われるときには、所轄の都道府県労働局などの職員が企業に出向くなどして調査や指導を行います。

障害者への虐待は、職場での理解が不足していることが原因となる場合が多いため、障害者の人権や障害者への接し方についての理解を広げるための努力をする必要があります。

①市町村への通報・届出

使用者による虐待、あるいは虐待と思われる行為を発見した者には「通報の義務」(障害者虐待防止法22条1項)が、また、虐待を受けた障害者には「届出の権利」(同法22条2項)があります。

通報や届出は、事業所住所地の、市町村・都道府県の障害者虐待防止に関する窓口に行います。その内容が都道府県労働局に報告され、労働基準監督署やハローワークと連携した適切な調査・対応がなされる仕組みとなっています。

通報や届出を受けても、市町村・都道府県には是正等の指導をする権限がありません。したがって、通報等を受けた市町村・都道府県は、基本的に当該事業所に協力を仰いだうえで、通報等の内容や、当該障害者の身の安全が確保されているかの確認を行います。

事業所が非協力的だったとしても、通報等の内容から当該障害者の安全確保が必要だと考えられる事案では、速やかに都道府県労働局に報告し、市町村・都道府県、都道府県労働局が連携して対応を検討します。

②市町村から都道府県への通知

障害者の虐待に関する“通報”や“届出”を受けた市町村は、まず、都道府県に“通知”します(障害者虐待防止法23条)。通知の際には、次の事項を記載した「労働相談票」を添付します。

  • 虐待を受けた障害者の情報
  • 虐待があった事業所の情報
  • 具体的な虐待の内容 等

労働相談票の内容から必要だと考えられる場合には、都道府県は労働局などと協力をしながら、生活支援等の対応を行うことになります。

③都道府県から都道府県労働局への報告

障害者虐待の発見者からの“通報”、障害者本人からの“届出”、あるいは市町村からの“通知”を受けた都道府県は、事業所を所轄する都道府県労働局に“報告”します(障害者虐待防止法24条)。

都道府県労働局は“報告”の内容から、ハローワークや労働基準監督署等の対応部署を決め、事実確認及び対応を行います。

企業は、障害者雇用促進法、労働基準法、雇用機会均等法などの法令に従って、助言や指導を受けることになります。そして、それらに従う等して対応することが求められます。

使用者による障害者虐待の状況の公表

使用者による障害者虐待の状況は、年度ごとに厚生労働大臣によって公表されることとなっています。また、使用者による障害者虐待の事実があった場合には、障害者虐待の状況と併せて次にあげる事項も公表の対象となっています(障害者虐待防止法28条)。

  • 事業所の業種・規模
  • 使用者と虐待を受けた障害者との関係
  • 障害者虐待に対する措置(助言・指導等)

通報・届出による不利益な取扱いの禁止

従業員が障害者虐待に関する“通報”や“届出”をしたことを理由に、解雇などとするが「不利益取扱い」は禁止されています。

なお、“通報”や“届出”の内容が虚偽のものであったり、あるいは客観的にみて合理性がないものであったりする場合は、そもそもが障害者虐待に関する“通報”や“届出”があったものとはいえないため、この限りではありません(障害者虐待防止法22条4項)。

使用者による障害者虐待と通報後の対応事例

ここでは、千葉県健康福祉部障害福祉課から公表されている、使用者による障害者への虐待と通報後の対応事例について、2件をご紹介します。

【身体的虐待及び心理的虐待の事例】
この事例は、知的障害のある障害者が、仕事が忙しくなると集中が切れて騒ぐことが増えるため、使用者が叩いていた事例です。
支援機関の担当者からの通報により対応したところ、使用者は反省して暴力を振るうのをやめました。そして、障害者に問題行動が出た場合には、家に帰らせることで対応するようになりました。

引用元:障害者虐待事例集|千葉県

【心理的虐待及び経済的虐待の事例】
この事例は、精神障害のある障害者が体調を崩して休んだ際に、一方的に勤務時間の変更をされ出勤を強要されたため退職を申し出たところ、未払い賃金の支払いを使用者から拒否された事例です。

本人と母親の通報により対応したところ、未払い賃金は即日支払われました。また、使用者に対しては、障害者の特性に合わせた仕事内容について助言・指導が行われました。

引用元:障害者虐待事例集|千葉県

障害者虐待防止法に違反した場合の罰則

障害者への虐待が疑われる場合において、障害者の生命などに重大な危険が生じているおそれがあるときに、行政機関による立ち入り調査を拒んだり、調査に対して虚偽の報告をしたりしたときには、30万円以下の罰金に処せられることがあります。

また、虐待行為そのものが犯罪に該当するケースでは、刑事罰の対象になることもあります。どのような罪が成立するおそれがあるのかについては、下の表でご確認ください。

虐待行為の類型 該当する刑法の例
①身体的虐待 刑法第199条殺人罪、第204条傷害罪、第208条暴行罪、第220条逮捕監禁罪
②性的虐待 刑法第176条強制わいせつ罪、第177条強制性交等罪、第178条準強制わいせつ罪、準強制性交等罪
③心理的虐待 刑法第222条脅迫罪、第223条強要罪、第230条名誉毀損罪、第231条侮辱罪
④放棄・放置 刑法第218条保護責任者遺棄罪
⑤経済的虐待 刑法第235条窃盗罪、第246条詐欺罪、第249条恐喝罪、第252条横領罪
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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