不当労働行為の救済命令に対する企業側の対応

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
不当労働行為とは、労働者の団結権等を不当に侵害する行為のことです。
労働者と使用者が対等な関係を築くために、労働者には、使用者の不当労働行為に対抗するための救済制度の利用が認められています。
本ページでは、不当労働行為に対する救済制度の概要や、救済申立てがあった場合、ひいては救済命令、訴訟や審判による救済が確定した場合に使用者に求められる対応・注意点等に触れ、説明していきます。
目次
不当労働行為の救済申立て制度
使用者に不当労働行為があったと思われる場合、労働者や労働組合は、労働委員会に対して救済申立てをすることができます。これを、不当労働行為の救済制度といいます。なお、具体的には、「団体交渉の拒否」や「不利益な取り扱い」等が不当労働行為に該当します。
申立てを受けた労働委員会は、遅滞なく当該不当労働行為の有無の調査、審問を行わなければならず、不当労働行為の事実が認められた場合には、救済命令又は和解による救済を図ります。ただし、救済の対象となるのは不当労働行為があった日から1年以内のものに限ります(労組法27条)。
救済の申立てをされた場合には、使用者側は答弁書を提出し、労働委員会に出席する必要があります。
なお、【不当労働行為】についての詳しい説明は、以下のページをご覧ください。
救済申立て制度の流れ
救済申立て制度は、以下のような流れで行われます。
- ①不当労働行為救済の申立て
- ②担当委員の選任
- ③調査(使用者側からの答弁書の提出、労使双方からの事情聴取)
- ④審問(証人尋問、当事者尋問)
- ⑤労働委員会による合議
- ⑥救済命令又は棄却命令
救済申立てに対する会社側の対応
労働者や労働組合から不当労働行為の救済申立てがなされると、労働委員会から使用者へ申立書の写しが送付されます。使用者は、申立書の内容を確認し、申立書の送付から原則30日以内に、使用者側の反論を記載した答弁書を労働委員会に提出しなければなりません。また、答弁書には、使用者側の主張に紐づく証拠を添付する必要があります。
労働委員会は、これらの提出書類、証拠等による調査結果をもとに、審問の手続きを進めていくことになります。
申立書の記載内容を確認する
申立書が送付されたときには、申立書の内容を確認して、どのような言動が不当労働行為だと指摘されているのかを正確に把握する必要があります。申立書が送付されてから、原則として30日以内に答弁書を作成して送付しなければならず、時間的な余裕がないので、弁護士等の力を借りながら対応すると良いでしょう。
答弁書に記載するべき内容
答弁書には、以下の項目を記載するべきです。
- 申立の趣旨に対する答弁(請求棄却を求める旨等)
- 申立書に記載された事実に対する認否
- 会社側の答弁を理由づける具体的事実
- 予想される争点及び争点に関連する重要な事実
- 予想される争点ごとの証拠
- 当事者間において行われた交渉等の経緯
証拠の添付
申立書と答弁書の内容が異なる点については、証拠を添付して証明する必要があります。不当労働行為とされる行為についての証拠は、会社の方が多く持っている場合が多いので、出し惜しみすることなく、提出できる証拠を活用して反論しましょう。
労働委員会による救済命令
審問の後で、労働委員会の中の公益委員会において合議が行われます。そして、使用者の不当労働行為の全部又は一部が認定された場合には、事案の内容に応じた救済命令を発します。
労働委員会は、労働者が団結する権利を守り、使用者との労働関係を調整するために設けられた行政機関です。各都道府県には「都道府県労働委員会」が、国には「中央労働委員会」があり、いずれも使用者委員、労働者委員、公益委員の三者で構成されます。
労働委員会の救済命令は、どのような命令を出すかについて幅広い裁量権を有しており、従わなければ罰則が適用されるおそれがある等、強い効力があります。
救済命令の内容として、解雇に対しては原職復帰命令、バックペイ(不当解雇期間中の賃金支払)命令、「団体交渉拒否」に対しては誠実交渉命令、「支配介入」に対しては具体的な支配介入行為の禁止命令、ポストノーティス(陳謝等を内容とする文書の掲示)命令等が考えられます。
なお、不当労働行為はなかったと認定されれば、棄却命令が出されます。
救済命令に対する会社側の対応
都道府県労働委員会の救済命令に不服がある使用者は、不服申立てができます。不服を申し立てる方法は、命令交付から15日以内に中央労働委員会に対して再審査の申立てをするか、命令交付から30日以内に裁判所に対して、行政処分である救済命令の取消訴訟を提起することによります。
これらの手続きを行わずに、救済命令が確定してしまった場合には、過料を受けるおそれがあります。
救済命令違反の制裁
再審査の申立ても取消訴訟の提起もしなかった場合には、救済命令が確定し、命令交付の日からその効力が生じます。そのため、使用者は遅滞なく命令を履行する必要があります。履行しない使用者には50万円以下の過料の罰則が適用されます。
また、取消訴訟の結果、裁判所の判決により救済命令が確定した場合、命令違反の使用者には1年以下の禁錮又は100万円以下の罰金の罰則が適用されます。
再審査請求
都道府県労働委員会によって発された救済命令に不服がある場合には、中央労働委員会に対して再審査請求の申立てを行うことができます。この申立てにより、救済命令は確定しなくなるので、過料が適用されることはありません。
再審査請求は、救済命令が交付されてから基本的に15日以内に申し立てる必要がありますので、ご注意ください。
取消訴訟
都道府県労働委員会による救済命令や、中央労働委員会による救済命令に不服がある場合には、命令が交付されてから30日以内に取消しの訴えを提起することが可能です。訴訟の相手方は、労働委員会が所属している都道府県又は国です。
都道府県労働委員会の救済命令に対して、使用者が取消訴訟を提起するときには、再審査請求を同時に申し立てることはできません。
司法的な救済方法
司法的な救済方法とは、裁判所での訴訟や労働審判を利用して労使間の紛争の解決を図る方法を指します。
具体的な救済の内容として、以下のものが挙げられます。
- 解雇………………原職復帰命令、バックペイ命令
- 団体交渉拒否……誠実交渉命令
- 支配介入………(具体的な)支配介入行為の禁止命令、ポストノーティス命令
法律行為の無効
私法上の違法行為にあたる不当労働行為の事実が使用者に認められた場合、その行為は無効となります。なぜかというと、不当労働行為の禁止を規定する労働組合法7条は、最高裁において私法上の強行法規としての効果があるものとされているからです(最高裁 昭和43年4月9日第3小法廷判決、医療法人新光会解雇事件)。
したがって、上記判例では「不利益取扱い」の不当労働行為にあたる解雇の効力が争点になっているほか、懲戒処分、配転命令等の効力が無効と判断されるおそれがあります。
損害賠償
労働組合の結成、運営への干渉等のような「支配介入」や不誠実団交等のような「団体交渉拒否」の不当労働行為に対しては、不法行為に基づく損害賠償の請求がなされるおそれがあります。
【支配介入】に関する詳しい内容は以下のページをご覧ください。
団体交渉を求めうる地位の確認訴訟又は仮処分
使用者に「団体交渉拒否」の不当労働行為が認められた場合であっても、その法的効力は当該行為の禁止に留まり、労働者に対して当然に団体交渉の請求権が認められるわけではありません。そのため、労働者は団体交渉を求める地位の確認及び仮処分の申立てを行い、交渉事項に該当するかどうかの法的な判断を仰ぐことができるとされています。
不当労働行為の救済命令に関する判例
労働委員会において、特定の言動が不当労働行為であると認定されて救済命令が下されたとしても、取消訴訟によって争うことにより、救済命令が取り消されるケースがあります。
これに関連する、次のような裁判例があります。
【大阪地方裁判所 平成31年2月20日判決】
- 事件の概要
当該事案は、補助参加人(労働組合)の組合員が、小中学校の英語指導助手のスーパーバイザーとして、英語指導助手に対する指導等に従事していたところ、英語指導助手が廃止になりスーパーバイザーも廃止になったため、契約が更新されなかった事案です。
- 裁判所の判断
その後、契約を更新しなかったことについて「組合を嫌悪して行われた」支配介入であるとする救済命令が発出されたので、原告は救済命令の取消しを求める本件訴訟を提起しました。
結果として、当該組合員が組合に加入する前に、英語指導助手及びスーパーバイザーの廃止を前提とする事業計画調書が作成されていること等から、英語指導助手及びスーパーバイザーの廃止を決めたのは組合加入後ではなかったと裁判所は認定し、本件救済命令を取り消しました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある