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過重労働による健康障害・労働者の危険に関する防止措置

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

事業者は、労働者を危険や健康障害から守らなければなりません。

そのために会社は、どのような作業を行う場合に、労働者がケガや病気をする危険が潜んでいるのか等を調査し、それに応じた適切な防止措置をとる必要があります。また、昨今問題となっている、過重労働による健康障害を防止する対策も講じなければなりません。

これらの防止措置を講じないと、労働災害へとつながり、使用者責任を問われるおそれがあるため注意が必要です。

本記事では、労働者の危険や健康障害を防止するための措置等について解説していきます。

労働者の健康障害・危険の防止措置について

労働安全衛生法では、事業者が、労働者の危険または健康障害を防止するための措置を講じることを義務付けています(労安衛法20条~36条)。

具体的には、危険物を扱う作業、高温または低温の場所で行う作業、重量物を扱う作業など、作業の内容ごとに、事業者がとるべき措置等が本法に定められています。これを受けて、事業者は機械・設備や作業などにより、労働者が危険な目にあったり、ケガや病気をしたりすることがないよう、適切な防止措置を講じなければなりません。

また、労働時間が長くなればなるほど、健康障害のリスクを高めると言われています。長時間労働が続くと、脳や心臓疾患の発症、精神障害、過労自殺、事故などにつながるおそれがあるため、過重労働による健康障害についても、防止措置をとることが求められます。

過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置

厚生労働省は「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、事業者は以下のような防止措置を講じる必要があるとしています。

  • ①時間外・休日労働時間の削減
  • ②年次有給休暇の取得促進
  • ③労働時間等の設定の改善
  • ④健康管理体制の整備・健康診断の実施
  • ⑤長時間労働者への面接指導

各詳細については、以下でご説明します。

①時間外・休日労働時間の削減

時間外労働の上限は、原則「月45時間、年360時間」と定められており、臨時的な特別の事情があって特別条項を結んだ場合でも、

・時間外労働:年720時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6ヶ月平均がそれぞれ全て1ヶ月あたり80時間以内
・月45時間超え:年6ヶ月まで

としなければなりません。
さらに、休日は「毎週1日以上、または4週を通じて4日以上」与える必要があります。

なお、時間外・休日労働時間が月100時間または2~6ヶ月平均で月80時間を超えると、脳や心臓疾患の発症など健康障害のリスクが高くなると言われています。そのため、できる限り時間外労働は月45時間以下とするように努め、休日労働も削減するよう努めなければなりません。

②年次有給休暇の取得促進

使用者には、年10日以上の年次有給休暇(年休)が付与される労働者に対して、年5日の年休を確実に取得させることが義務付けられています(労基法39条)。ただし、これはあくまで最低基準です。

年休の取得は、労働者の心身の疲労の回復、ワークライフバランスの実現に役立つだけでなく、生産性のアップなど会社にとっても大きなメリットがあります。そのため、労働者が年休の取得に引け目を感じることがないよう、年休を取得しやすい職場環境づくり、年休の計画的付与制度の活用などにより、年休の取得促進を図る必要があるでしょう。

なお、年休の計画的付与についての詳細は、以下のページをご覧ください。

有給休暇の計画的付与

③労働時間等の設定の改善

働き方改革により、「労働時間等設定改善法」と「労働時間等設定改善指針」が改正され、新たに、勤務間インターバル制度の導入や、他企業との取引で短納期発注・発注内容の頻繁な変更を行わないこと等が、事業主の努力義務となりました。

事業主は、労働時間等の設定の改善を図るため、本指針に基づき、主に以下の措置を講ずるよう努めなければなりません。

  • 労使による話し合いの機会の設定(労働時間等設定改善委員会など)
  • 業務の特性に応じた柔軟な働き方の導入(フレックス、変形労働時間、裁量労働など)
  • 時間外労働・休日労働の削減(ノー残業デー、代休の付与など)
  • 労働者の健康保持等に役立つ働き方の推進(深夜業の回数制限、勤務間インターバル制度など)
  • 多様な働き方の推進(ワークシェアリング、テレワークなど)
  • 労働者各人の健康と生活への配慮(特に健康の保持に努める必要があると認められる者、育児・介護を行う者など)

なお、勤務間インターバル制度についての詳細は、以下の記事をご覧ください。

勤務間インターバル制度

④健康管理体制の整備・健康診断の実施

労働者の健康管理のため、産業医や衛生管理者などを選任し、健康管理に関する職務を適切に行わせましょう。そのため、事業主は産業医に対して、時間外労働が月80時間を超えた労働者の氏名など健康管理に必要な情報を提供する必要があります。

一方、労働者には、産業医への健康相談の申出方法などを周知させなければなりません。
また、常時使用する労働者は1年に1回、深夜業等に常時従事する労働者は6ヶ月に1回など、定期的に健康診断を行う必要があります。

なお、事業主は、健康診断において異常が見つかった労働者については、健康保持に必要な措置について医師の意見を聴き、適切な事後措置をとらなければなりせん。

安全衛生体制や健康診断について詳しく知りたい方は、以下の各記事をご覧ください。

安全衛生体制
健康診断の実施義務

⑤長時間労働者への面接指導

長時間労働が脳・心疾患の発症リスクを高めるとされていることから、労働安全衛生法第66条の8により、事業者には、長時間労働により疲労が蓄積されている労働者に対して、医師による面接指導を行うことが義務付けられています。

面接指導とは、医師が問診などにより労働者の健康状況を確認し、必要な指導を行うことです。面接指導の対象となる労働者は、主に以下のとおりです。

  • ①労働者(高度プロフェッショナル適用者除く):月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積があり面接を申し出た者(面接の申出がない者は努力義務)
  • ②研究開発業務従事者:①の者と、月100時間超の時間外・休日労働を行った者
  • ③高度プロフェッショナル制度適用者:月100時間超の時間外・休日労働を行った者

※高度プロフェッショナル制度適用者については、厳密には、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1か⽉当たり100時間を超えた者をいいますが、難しい点を捨象すればこのような表現になります。

長時間労働者への面接指導について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

 
長時間労働者への面接指導

労働者の危険を防止するため事業者が講ずべき措置

労働安全衛生法では、労働者の危険や健康障害を防止するために、例えば、事業者に以下の措置を講じることを求めています。

  • ①危険防止措置
  • ②健康障害防止措置
  • ③危険が急迫した際の措置
  • ④リスクアセスメントの実施
  • ⑤危険有害業務従事者に対する安全衛生教育

このうち①~③の措置を怠った場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰則を受ける可能性があります。以下で詳細をご説明します。

①危険防止措置

事業者は、事業場において労働者を危険から守るために、危険を防止するための措置を講じる必要があります(労安衛法20条、21条)。業務において予測できる危険物や作業等として、以下のようなものが挙げられ、事業者は危険防止措置を講じなければなりません。

  • ①機械、器具その他の設備による危険
  • ②爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
  • ③電気、熱その他のエネルギーによる危険
  • ④掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険
  • ⑤労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険

②健康障害防止措置

事業者は以下のものを扱う作業において、労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じる必要があります(労安衛法22条)。

  • 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体など
  • 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧など
  • 計器監視、精密工作等の作業
  • 排気、排液または残さい物

また、労働災害を防ぐため、危険有害な作業が必要な機械、危険物、有害物等への規制も定められています(労安衛法37条~58条)。

機械・有害業務に関する規制の詳細については、以下のページをご覧ください。

機械・有害業務に関する規制

③危険が急迫した際の措置

事業者は、労働災害の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を退避させるなど、必要な措置を講じなければなりません(労安衛法25条)。
労働災害が発生した場合の措置について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

労働災害時の措置

④リスクアセスメントの実施

危険・健康障害の防止として、リスクアセスメントの実施が効果的です。

リスクアセスメントとは、事業場の潜在的な危険性・有害性を見つけ出し、労働者に危険・健康障害を生じさせるリスクを見積もり、リスクを低減させるための措置を講じることです。

リスクアセスメントの手順は、以下のとおりです。

  1. 事業場での危険性や有害性の特定
  2. リスクの見積もり
  3. 優先度の設定
  4. リスク低減措置の決定

これらの措置の効果として、以下のことが期待されます。

  • 職場のリスクが明確になる。
  • リスクに対する認識を職場全体で共有できる。
  •  
  • 安全対策についての合理的な方法で優先順位を決めることができる。

なお、製造業や建設業等の事業者は、リスクアセスメントの結果をもとに、労働災害の防止対策を講じるよう努める義務があります(労安衛法28条の2)。

⑤危険有害業務従事者に対する安全衛生教育

事業者は、危険・有害業務に就いている管理者や労働者に対して、その業務により危険な目に合ったり、けが・病気をしたりすることがないよう、安全衛生教育を行う必要があります。

また、事業者は、事業場の状況を踏まえつつ、新しい機械設備や化学物質などに対応した安全衛生教育を、随時行うよう努めなければなりません。

安全衛生教育の詳細については、以下のページをご覧ください。

安全衛生教育の重要性

労働者が遵守すべき事項について

労働安全衛生法では、事業者に対して、様々な措置義務を定めるとともに、労働者に対しても、事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守ることを義務付けています(労安衛法26条)。労働者が事業者の行う安全衛生措置を遵守することにより、労働災害の防止へとつながるためです。

これを怠ると、他の労働者にも危害を与える可能性があるため、義務違反をすると罰則が科されます(労安衛法120条柱書、同1号)。

詳しい内容については、以下のページをご覧ください。

労働者の自己保健義務
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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