業務災害の認定について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労災の補償にあたっては、「業務災害」に認定されるかが重要なポイントです。
労働者が業務災害を負った場合、事業主には労働者への適切な補償や再発防止策の徹底が求められるため、認定要件等をしっかり理解しておく必要があります。
ただし、業務災害の認定基準はいくつかの要素が絡んでおり、複雑でわかりにくい点もあります。本記事では、この点について具体例を交えて解説しますので、ぜひ参考になさってください。
また、労災発生時、事業主が負う責任についてもご説明します。労災の発生を未然に防ぐため、きちんと確認しておきましょう。
目次
業務災害の定義
労災には、「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
このうち業務災害とは、「労働者が業務上受けた負傷・疾病・障害又は死亡」をいいます。つまり、“仕事中に”又は“仕事が原因で”発生した災害のことです。
ただし、業務災害には具体的な認定基準が定められており、それを満たすものが労災補償の対象になります。認定基準の詳細は次項からご確認ください。
一方、通勤災害とは、「労働者が通勤中又は帰宅中に受けた負傷・疾病・障害又は死亡」をいいます。通勤災害にも具体的な認定基準があるため、以下のページで詳しく解説します。
なお、労災全般について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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業務災害の認定基準
業務災害と認められるには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの認定基準を満たさなければなりません。また、これらの基準を考慮し、“所轄の労働基準監督署”が業務災害に該当するか判断することになります。
以降、2つの認定基準について詳しくみていきましょう。
業務遂行性
業務遂行性とは、「労働者が、労働契約に基づき事業主の支配・管理下にあること」をいいます。
業務遂行性が認められるポイントは、「“実質的に”事業主が労働者を支配・管理していた」ということです。具体的には、以下の3つの類型に分けられます。
ちなみに、下で紹介する業務起因性は、業務遂行性に伴う危険が現実化したものと認められることをいいます。つまり、業務遂行性は、業務起因性の判断の前提条件となっているということです。
そのため、業務遂行性が認められなければ、もうひとつの認定基準である業務起因性は考慮されません。
業務遂行性3つの類型
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
所定労働時間内や残業時間内に事業場施設内において業務(特命業務や緊急業務を含む)に従事していた場合です。
また、準備や後片付け等の付随業務や、トイレや飲水といった生理的行為を行っていた場合も含まれます。
事業主の支配・管理下にはあるが、業務に従事していない場合
休憩時間や就業時間前後に事業場内で休んでいた場合や、事業主が提供した通勤バスに乗っていた場合です。これらは“業務中”ではありませんが、事業主の支配・管理が及んでいると考えられます。
また、会社のクラブ活動に“強制参加”していた場合も、業務遂行性が認められる可能性があります。
一方、休日に事業場内で遊んでいたような場合、基本的に業務遂行性は認められません。
事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張・社用での外出・運送・営業等、事業場の外で業務を行っていた場合です。また、事業場と就業場所の往復や、業務中の食事・トイレといった付随行為も含まれます。
なお、出張の場合、自宅や事業場を出た時から帰ってくるまでの全行程が対象とされています。
ただし、出張中に“任意で”飲み会に参加したような場合、積極的な私的行為にあたるとして業務遂行性が否定される可能性があります。
業務起因性と判断要素
業務起因性とは、「業務と災害の因果関係」のことです。つまり、業務に従事したことが原因で怪我や病気を負った場合、業務起因性が認められます。
ただし、上でも説明したように、前提条件である業務遂行性が認められない場合、業務起因性も認められません。
業務起因性の判断要素としては、以下のものが挙げられます。以下の状況下で災害が発生した場合、特段の事情がない限り、業務起因性が認められます。
- 作業中
- 業務に付随する作業中
- 業務に必要かつ合理的な行為
- 業務中の生理的行為(用便、飲水等)
- 緊急行為(事故処理・救護活動等)
- 業務中の反射的行為(落とし物を拾う等)
なお、“休憩中”に事業場内で負傷したような場合、その原因が設備の故障や事業主の管理不足であれば、業務起因性が認められるのが通常です。
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業務災害が認められる行為
では、実際に業務災害と認定され得るケースを具体的にみてみましょう。
・「業務遂行性」が認められるケース
・「業務起因性」が認められるケース
の2つに分け、それぞれ紹介していきます。
業務遂行性
災害発生時、業務やそれに付随する作業をしていた場合、業務遂行性が認められます。例えば、以下のようなケースです。
- 配送作業をしていた
- 業務を中断してトイレに行った
- 屋外での作業中、水を買いに行った
- 運転業務中に交通事故に遭遇し、救護活動を行った
また、業務中ではない場合も、以下のようなケースでは、事業者の支配・管理下にあったとして業務遂行性が認められる可能性があります。
- 休憩時間に、事業場内で休んでいた
- 退勤後帰宅するために事業場内を移動していた
- 強制参加の会社の飲み会に出席していた・出張中、会社へのお土産を購入した
- 会社で所属するクラブ活動の試合に参加した(ただし、賃金や旅費が支払われていたり、参加が義務付けられていたりした場合に限る)
- 赴任先へ移動していた(ただし、赴任の日時や方法について事業主から命じられていたり、旅費の支給があったりした場合に限る)
- 負傷した同僚の付添として、病院に同行した
業務起因性
業務やそれに付随する作業中に災害が発生した場合、特段の事情がない限り業務起因性が認められます。例えば、以下のようなケースです。
- タクシーを運転中、酒に酔った客に殴られて負傷した
- 警備員が、強盗犯を取り押さえようとして負傷した
- 業務中に地震が発生し、避難中に負傷した
一方、業務中以外でも、業務と災害に相当因果関係があれば業務起因性が認められる可能性があります。例えば、以下のケースが挙げられます。
- 業務が原因で同僚から恨まれ、一方的に暴力を振るわれた
- 出張中にウイルスに感染した
- 事業主が提供した食事により、食中毒にり患した
- 業務命令として予防接種を受け、健康被害が生じた
- 長時間労働による過労によって、うつ病や死亡に至った
ただし、過労死が労災と認定されるには、いくつかの認定基準を満たす必要があります。詳しくは以下のページをご覧ください。
業務災害が認められない行為
一方、以下のようなケースでは、基本的に業務災害は認められません。
- 業務中の私的行為や、業務を逸脱する恣意的行為によって事故が発生した場合
例えば、顔見知りの社員の手助けをした場合や、社用車で実家に帰省していた場合、作業中に飲酒して転倒した場合等です。
また、休憩時間中の外出や運動も、私的行為にあたります。 - 地震や台風といった自然災害により事故が発生した場合
ただし、事業場の立地・作業内容・作業環境等により、自然災害に際して被害を受けやすい事情があった場合、業務災害が認定される可能性があります。 - 個人的な恨みや自招行為(挑発など)により、他人から暴行を受けた場合
- 労働者が故意に事故を起こした場合
労働者の犯罪行為による災害
労働者の犯罪行為や重大な過失により、負傷・疾病・障害又は死亡という災害が発生した場合、労災保険の給付を制限できるとされています(労災保険法12条の2の2第2項)。
なお、“重大な過失”とは、法令上、危害防止に関する規定で定められた罰則に違反するような行為をいいます。例えば、どの職種でも関連するものとしては車の運転がありますが、
・飲酒運転
・無免許運転
・速度超過
・信号無視
・前方不注視(携帯電話を使用しながらの運転等)
等が挙げられます。
また、危険な場所にあえて立ち入り事故に遭った場合も、重大な過失とみなされ労災保険の給付が制限される可能性があります。
業務上疾病について
業務上疾病とは、「業務との間に強い因果関係がある疾病」をいい、労災補償の対象になります。例えば、業務によるストレスや過労を原因とするうつ病や、過労自殺などが挙げられます。
ただし、業務上疾病が認定されるにはいくつかの基準を満たす必要があるため、事業主はしっかり把握しておくべきでしょう。詳しくは以下のページで解説していますので、ご一読ください。
また、過労死や過労自殺は独自の認定基準が設けられているため、それらについても知っておく必要があります。詳しくは以下のページでご確認ください。
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業務災害の労災保険給付
業務災害が認定された場合、労働者には以下のような補償がなされます。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 傷病補償年金
- 遺族補償給付
- 介護補償給付
- 障害補償給付
- 葬祭料
ただし、どの項目が支給されるかは労働者の被害の程度等によって異なります。各項目の詳細や支給される要件は以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
待機期間中の休業補償
労災保険による「休業補償」は、休業4日目からしか支給されません。休業初日からの3日間は“待機期間”として労災補償の対象にならず、事業主が補償する義務を負うため注意が必要です。
具体的には、「事業主は、労働者の療養中、平均賃金の60%を休業補償として支払わなければならない」と定められています(労基法76条)。
平均賃金の算定方法について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
ただし、業務災害ではなく「通勤災害」の場合、事業主は法律上休業補償を支払う義務を負いません。通勤災害については以下のページで詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
業務災害発生時の対応
業務災害が発生した場合、事業主は遅滞なく労働基準監督署に届け出る必要があります。報告しなかったり虚偽の報告をしたりすれば刑事責任に問われます。
また、業務災害が発生した原因の究明や、再発防止策を策定・実施することも求められます。
具体的にとるべき対応や流れについては、以下のページで詳しく解説しています。
業務災害に伴う損害賠償請求
業務災害が発生すると、事業主は、様々な責任を問われます。民事であれば、不法行為責任や安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任、刑事であれば、刑法上の業務上過失致死傷罪等です。
詳しくは以下のページでご確認ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある