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企業における採用内定の基礎知識

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

昨今、厳しい雇用情勢の中での採用活動を強いられる会社も少なくないでしょう。そのような中で、会社・求職者双方の意向がようやく合致し、いよいよ【採用内定】という段階で、ちょっとした不備から大きなトラブルに転じてしまった…といった事態は避けたいところです。

このページでは、会社の採用業務を担当されている方等に向けて、【採用内定】の法的性質や手続等について解説していきます。まずは、【採用内定】の定義からみていきましょう。

採用内定の定義

まず、単に「採用」という場合には、会社側に、採用試験に合格した応募者を雇用する意思があることを指します。採用を決めた応募者に入社してもらうには、応募者の入社意思を確認しなければならない状態です。

そこで、企業が応募者に雇用する意思を伝え、応募者も入社する意思を示し、双方が合意した状態を「内定」といいます。内定により労使間に労働契約が成立することとなるため、両者に法的拘束力が生じます。

なお、以下のページでは、「採用」にまつわる基本的な事項について広く解説しています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

採用と労働契約

「内定」と「内々定」

主に新卒採用の際には、「内定」のほかに「内々定」という用語が出てきます。この二つの決定的な違いは、端的に言えば、【労働契約の成否】です。

政府は、新卒採用における正式な内定日を“卒業・修了年度の10月1日以降”とするよう経済団体等に要請しています※1。そのため、それ以前の段階で応募者に「内定」を通知できません。

そこで、会社が「採用」を決めた応募者に対して、当該応募者の卒業・修了年度の10月1日以前に“「内定」を出しますよ”という約束である内々定」を通知します。正式に「内定」の通知を出すまでは労働契約は成立していない状態と解され、両者に法的拘束力が生じることは基本的にはありません。ただし、内々定の取消しを行った場合には、仮に労働契約による法的拘束力がなくとも、事案によって会社側に損害賠償責任が生じるおそれがあるため、注意が必要です。

※1:内閣官房,「2021年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」,
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/2021nendosotu/index.html,(2020.11.28)

採用内定の法的性質

採用内定の法的性質について、裁判例では、会社からの募集に対して求職者が応募することは“労働契約の申込み”にあたり、その申込みに対して会社から採用内定を通知した時点で“労働契約の承諾”があったものとして、会社と求職者である労働者との間には【始期付解約権留保付労働契約】が成立するものとの判断が確立されています。

したがって、会社は、採用内定により基本的には本採用と変わらない法的制約を受けることになります。

始期付解約権留保付労働契約

【始期付解約権留保付労働契約】は、いつから労働契約が開始されるのか、その時期は決まっているものの(=始期付)、それまでの期間に内定を取消すべき事情等が発生した場合には、会社は労働契約を解約する権利がありますよ(=解約権留保付)という労働契約です。

採用内定は、労働契約が成立しているものと解される一方で、会社が解約権を保持した状態である点が、本採用との大きな違いであることがわかります。

青少年の採用内定に関する規定

就労意欲のある新卒者等、若い世代の雇用情勢は、昨今、大変シビアな状況です。そのため、厚生労働省は、青少年が均等な雇用機会を得られるよう、事業者が適切に対処するための指針を定めています。ここでは、青少年の採用内定にあたって事業者が講ずべき措置としてあげられているものを特筆します。

  • ・採用内定の判断は、確実な採用の見通しに基づいて行うこと
  • ・採用・不採用の結果を明確に伝えること
  • ・採用内定者には、採用の時期、採用条件、内定の取消し事由等を文書により明示すること
  • ・“学校等の卒業”を採用の条件としている場合も、内定時にその旨を明示するよう留意すること
  • ・採用内定者との労働契約成立が認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効とされることを十分留意すること
  • ・採用内定の取消し防止のため、最大限の経営努力を行う等、あらゆる手段を講ずること
  • ・やむを得ない事情により採用内定取消しの対象となった学校等の、新卒予定者の就職先の確保について最大限の努力を行うこと
  • ・採用内定を取り消した者から補償等の要求があるときには、誠意を持って対応すること

採用内定の流れ

それでは、応募者の「採用」を決めてから、雇用契約を締結するまでの具体的な手続の流れを追っていきましょう。

内定者への連絡

採用試験の結果から「採用」の意向が固まったら、できるだけ早くその旨を電話やメールにて内定者に連絡します。連絡の際には、入社の意向はどうか、今後の就職活動のスケジュールはどうかといったことを確認します。内定者は自社以外にも複数社並行して応募している可能性があり、優秀な人材であるほど獲得は難しく、会社としては採用活動を継続するかどうかの判断もしなければならないからです。

また、多くの求職者は不安を抱えながら就職活動を行っていると考えられるため、内定者のためにも連絡は早めにすべきでしょう。

内定通知書による通知

電話やメールでの連絡の後、改めて内定通知書と、内定者に返送してもらう入社承諾書といった同封すべき書類を郵送します。返送期限を設定する都合上、速やかに必要書類を作成し、トラブル防止のために発着の記録が残る方法(例:簡易書留等)で送付するのが良いでしょう。

なお、基本的には会社から採用内定を通知した時点で始期付解約権留保付労働契約が成立しますが、労働契約の成立に際しては労働条件を書面にて明示する必要があります(労基法15条1項)。そのため、法的には、労働条件通知書も一緒に送付する必要があるといえます。

“労働条件明示”に関する詳しい解説は、以下のページに譲ります。

労働条件の明示義務

内定者からの返答

書類一式を送付した後は、内定者からのレスポンスを待ちます。内定者から労働条件等の合意が得られれば、署名捺印がされた入社承諾書が返送されます。

しかし残念ながら、辞退との返答をいただくことも少なくありません。また、内定者の志望度等によっては、内定保留の申出があるかもしれません。この点、会社がどの程度の保留期間を認めるかは、内定者が保留を希望する理由や会社側の事情を考慮して決定することになるかと思いますが、長くとも一週間程度が妥当でしょう。

雇用契約の締結

内定者から承諾を得たら、改めて雇用契約を締結します。雇用契約書を取り交わすのが一般的ですが、会社の運用によっては、入社承諾書の返送をもって契約成立とするケースもあります。

労働契約の概要、労働契約と雇用契約の関係等について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

労働契約

なお、内定者の入社にあたっては、雇用契約書に署名捺印をしてもらうだけでなく、年金や保険加入のための書類(例:年金手帳、雇用保険被保険者証)等の提出を求める必要があります。

採用内定の通知方法

“採用内定の通知”は、会社と内定者間に法的拘束力が生じる重要な行為です。その通知方法について法的な定めはありませんので、会社の判断で書面ではなく口頭による通知を選択することも可能ではあります。しかし、口頭では通知したことの証拠が残らないため、労使間に認識の齟齬があった場合等にトラブルに発展しかねません。したがって、書面による通知方法がベストといえます。

ここで、一見すると区別がしにくい「内定通知書」と「採用通知書」の違いを確認しておきましょう。

内定通知書

内定通知書は、労働者からの労働契約の申込みに対する会社の承諾意思を、証拠として示す書類です。発行の義務はありませんが、発行すれば法的な効力を持つ書類となります。

内定通知書の内容も会社によって異なりますが、一般的には採用内定の通知のほか、応募へのお礼、入社日、返送が必要な同封書類の返送期限、採用担当者の連絡先、そして内定取消事由等を記載します。

採用通知書

採用通知書は、応募者を「採用」する意思決定を、応募者に対して“一方的に”知らせる書類です。

法的な定義がないことから、会社によっては内定通知書と同義の扱い・運用としているケースもありますが、そういったケースを除けば、基本的に、採用通知書には応募者の入社意思を問う意図がありません。あくまでも会社からの一方的な通知に留まるため、送付によって応募者が法的に拘束されることはありません。

就業規則の適用可否について

合理的な労働条件が就業規則に定められていて、会社がその内容を“労働者”に周知させていた場合には、労働契約の内容は就業規則の定めに沿うものとなります(労契法7条)。

採用内定により、始期付解約権留保付労働契約は成立しているものと解されるため、就労を前提としない就業規則(例:会社の信用保持義務等)は内定者にも適用可能と考えられます。

その一方で、採用内定の時点では、内定者は学業や前職に従事しているケースが多く、就労を前提とする就業規則(例:労働時間、賃金規定等)を適用して業務命令を行うことは不合理です。また、内定者はまだ就労しておらず、賃金も得ていないため、労働基準法の適用を受ける“労働者”の要件(労基法9条)を満たしていないとの見方もあります。これらのことから、就労を前提とする就業規則は、実際の入社日以降の適用となるでしょう。

以下のページでは、就業規則の適用範囲について詳しく解説しています。気になる方はぜひこちらもご覧ください。

就業規則の適用範囲

内定辞退への対応

会社が内定通知書を送付し、内定者が入社承諾書を返送していても、内定者には内定辞退(=労働契約の解約)を申し入れる権利があります。会社にとっては大きな損失ではありますが、労働者には職業選択の自由がありますので、入社日の2週間前までの申し入れであれば、基本的には理由を問わず内定辞退を認めることとなります(民法627条1項)。

ただし、内定者が2週間の予告期間もなく、入社日ギリギリのところで内定辞退を申し入れてきた場合等、会社からの信頼を裏切る不誠実な態様で内定辞退がなされた場合には、非常に稀ではあるものの、内定者に対して損害賠償責任を問うこともあります。

民法
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)第627条
1当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

採用内定の取消し

基本的に、一度通知した採用内定を、会社側が一方的に取り消すことはできません。ただし、内定を取消すべきと判断できる事情が認められる場合に限り、採用内定の取消しが認められるケースがあります。

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