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成立要件

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

使用者と労働組合とのあいだで、労働条件について団体交渉を行い、その結果、労使間で合意された内容を書面にしたものを労働協約と呼びます。労働協約を定めることによって、その協定を締結した労働組合に所属する組合員には、その労働協約よりも不利な労働条件を定めている就業規則の規定は適用されず、労働協約の方が優先して適用されることになります。

本記事では、労働協約の成立要件等について、詳しく解説していきます。

労働協約3つの成立要件

労働協約が成立するためには、(1)当事者として、労働組合と使用者またはその団体であること、(2)内容として、個別的労働条件や労働組合と使用者間の団体的労使関係に関するルールを定めること、(3)要式として、書面性並びに労働組合と使用者のそれぞれの署名もしくは記名押印がされていることの3つの要件が必要となります。

労働協約についての詳細は以下のページで解説していますので、ご参照ください。

労働協約

要式行為である

労働組合法上、労働協約が有効に成立するためには、労使間の団体交渉で合意に達した事項を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印しなければなりません(労組法14条)。したがって、口頭で合意したものや署名もしくは記名押印がないものは、労働協約の要式性を満たさず、効力が認められません。

留意点

交渉で合意が成立したにもかかわらず、理由なく書面にすることや署名又は記名押印を拒むといったことは、不当労働行為になる可能性があります。一方で、最終的な合意としてではないにもかかわらず、労働組合が提示した条件を記した書面に使用者が漫然と署名もしくは記名押印することは、後々、当該書面は労働協約であると主張されることがありますので留意が必要です。

当事者性

労働協約の締結当事者となるためには、労働協約の締結能力を持っていることが必要です。使用者側は、使用者は当然ですが、使用者団体(いわゆる親子会社など)も当事者となることができます。労働組合側は、個々の労働組合と、個々の労働組合を構成員としている連合団体にも締結能力が認められます。

労働組合に関しては、以下のページで詳しく解説しています。

労働組合

労働組合

労働組合は『労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体(労組法2条)』と定義されています。つまり使用者から独立し、かつ自主的な組織であることが必須となります。

問題となる類型

上部単体・支部

個々の労働組合を構成員とする連合団体も労働協約の締結当事者となることができます。また、個々の労働組合の支部や分会であっても、それ自体が一つの労働組合としての組織を備えていれば、独自の団体交渉権があると認められますので、労働協約を締結することができます。しかし、組織性を整えないままに団体交渉をし、締結したものについては、当該団体自体が労働組合と認められないため、労働協約とは認められません。

職場組合

労働協約の締結当事者である労働組合というには、(1)労働者が主体となって組織し、(2)労働者の自主的な団体であり、(3)主な目的として労働条件の維持改善であることが要件となります。(1)の組織性について、組織化するには、組合規約の作成や意思決定期間の組成等の手続を履践する必要があります。したがって、職場組合のような単なる労働者の集まりといった場合には、労働組合ではない可能性があります。

自主性不備組合

労働組合というには労働者の自主的な団体であることが要件となりますので、使用者から独立した組合であることが必要です。この「自主性」はかなり緩やかに解釈されていますが、使用者が参加していたり、使用者から経費支弁を受けていたりする場合には、使用者の主導で組織され、組合の独立性や自主性を失っていると評価される可能性があり、このような組合には、労働協約の締結能力が認められない場合があると考えられます。

使用者またはその団体

使用者が労働協約の締結能力を有することは当然ですが、使用者団体も労働協約の締結能力を有します。労働協約の締結能力を有する使用者団体とは、労働組合と団体交渉を行い、労働協約を締結することを主な目的として組織されている団体を指します。

問題となる類型

使用者団体

上述したように、労働協約の締結能力を有する使用者団体とは、労働組合と団体交渉を行い、労働協約を締結することを主な目的(定款や規約に明記)として組織されている団体のことですので、親睦を主な目的とした使用者団体は、締結能力を有しません。

親会社・子会社

子会社の労働組合から親会社に団体交渉を求められたケースでは、親会社の使用者は、それに応じなければいけないのでしょうか。子会社の従業員と、親会社の使用者とのあいだに直接の雇用関係がなくとも、親会社の使用者が、雇用主と同一視できる程度に労働条件を決定する権利がある場合には、団体交渉に応じなければなりません。

協定内容

労働協約に協定内容として定められるのは、労働条件、労使関係全般に関することです。内容を大きく分別すると、(1)労働条件その他待遇に関すること(賃金、労働時間、出張、休日、育児休業等について)、(2)使用者と労働組合の関係に関すること(団体交渉、争議に関すること等)に分けられます。

労働条件その他待遇に関する事項

労働条件その他待遇に関する事項としては、始業、終業時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金、退職、退職金その他の手当に関する事項、災害補償、表彰、制裁、昇任、降任、人事異動、休職、福利厚生に関する事項等が挙げられます。

経営生産に関する事項

基本的な考え

労働組合法では、労働組合からの団体交渉に対して、使用者に交渉が義務付けられる事項(労働条件その他の待遇など)が定められています。経営者の専権事項については当然に交渉事項に含まれるものとは限りませんが、それが労働条件に影響するものについては、交渉が義務付けられる場合があります。

労働条件の待遇に関連する場合

労働協約を締結した後、組織再編があった場合に労働協約の効力がどうなるのかについて、例えば、合併の場合には、すべての権利義務が包括的に承継されるため、労働条件を定めた労働協約もそのまま承継されます。したがって、合併前に締結した労働協約は合併後もその効力は存続します。労働協約の内容を変更する場合は労働協約の改定が必要となります。

個別的人事・個別的な権利主張事項

労働協約は、原則として、当該労働協約を締結した労働組合の組合員に適用されますので、人事等に関する事項について、労働協約の中で細部にわたって規定することは現実的ではありません。したがって、主な事項について労働協約において規定し、個別具体的な運用を労働組合がチェックするということがあります。

団体労使関係の運営に関する事項

労働協約の内容として、使用者と労働組合の間で団体的労使関係の運営についてのルールを定めることがあります。具体的には、組合員の範囲、団体交渉の手続や労使間における苦情処理手続等があります。

労働協約により解決済み(規定)の事項

基本的な考え

労働協約ですでに解決済みで、既定の事項に関しては、一定期間争議行為を行わないこととする平和義務を定めることがあります。平和義務を明示しなかったとしても、既に解決済みとした以上は争議行為の対象とすることはできないと考えられています。そのため、労働協約成立後は、一定期間については労働協約で定めた労働条件が安定することになります。

留意点

平和義務の対象とした事項についても、その解釈や運用にあたっては、労使間協議の対象となります。また、労働協約成立直後はともかく、有効期間経過後や状況の変化に応じて、あらたに団体交渉の対象として提示して、新たな労働協約の事項とすることまでも否定されるわけではありません。

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