人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

労働協約の規範的効力 労働条件の不利益変更と労働協約

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働協約とは、多くの場合、労働組合と使用者との意見の合致をいい、規範的部分(労働条件基準を定めた協約条項で、規範的効力を持つ部分)と債務的部分(規範的効力を持たない部分)から構成されます。

ここでは、労働協約の「軌範的効力」に焦点をあてていますが、そもそも規範的効力には、労働協約の規範的部分に反する労働契約を無効とする「強行的効力」と規定のない労働条件を補填する「直律的効力」といった特殊な効力が含まれています。以降、具体例を交えながら詳しく解説していきます。

労働条件の不利益変更と労働協約

労働条件の不利益変更とは、文字どおり、“使用者が”“労働条件を”“労働者に不利益な方向で変更すること”をいいます。労働協約は、労使間の合意に基づくものですので、その内容については、協約当事者が自由に合意で定めるという「協約自治の原則」が妥当するといわれています。

一方で、労働協約によって、個別の労働者の労働条件を不利益変更することがどこまで認められるのか、労働協約による労働条件の不利益変更の可否や限界が問題となる場合があります。

協約自治の原則について

協約自治とは、労働協約で何を定めるかに関しては、原則として、協約当事者の自由に委ねられていることを意味しており、「労働協約制度の基本」といわれています。

そのため、協約当事者は、いかなる内容の条項であっても労働協約に定めることができ、それが労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に係るものであれば、原則として、規範的効力が及び労働条件に影響するとされています。

協約自治の限界

協約自治も無制限に認められるわけではなく、協約自治には「外在的な限界」と「内在的な限界」と呼ばれる2つの限界があると考えられており、労働者の利益を不当に制限したり、他の利益との調整を必要としたりする場合には、協約に定めた条項が無効と判断されたり、適用を制限されたりする場合があります。

外在的限界

協約自治の外在的限界としては、協約条項の内容が、強行法規や公序良俗等に違反するため、無効になる場合が挙げられます。

例えば、労基法が定める労働条件は最低基準としての意義があることから強行法規とされており、明文で許容している場合を除き、労基法の定める基準に達しない労働条件を定める労働協約は無効とされます。そのほか、労基法が労働者に保障する権利(年次有給休暇等)の行使を事実上著しく制限する規定が無効にされたり、民法90条の公序良俗に反するものや基本的人権を制約する内容は無効になったりします。

内在的限界

協約自治の内在的限界としては、手続に関するものと内容に関するものとがあります。

まず、協約締結に向けられた集団的な意思が個別意思を適切に反映したものであること、すなわち集団的な意思が民主的な手続に基づいて形成されること(労働組合自体が民主的な正当性を有していること)が必要とされます。

次に、労働組合の本来の目的である労働条件の改善と関連性がない範囲外の事項や最終的な決定を個々の組合員に委ねざるを得ない事項については、協約に定めることがなじまないため、規範的効力が認められないとされています。

実務上の問題点

規範的部分は、協約で定めた労働条件基準を下回る労働契約を否定し、協約所定の条件によって補填する効力を有しますが、協約水準を上回る労働契約を否定して、協約所定の条件に引き下げる効力まで認めるかが争われる場合があります。

「規範的部分は労働者に有利な方向にのみ拘束力を発揮する」という立場は「有利原則」と呼ばれますが、日本の判例及び多数説は有利原則を否定しています。

基本的な考え

労働協約は、労働組合と使用者とが相互に主張を譲歩した結果、締結されるものであり、双方の意思の合致に基づくものである以上、労働者にとって有利にも不利にも機能するものとして許容されるといえるでしょう。また、協約で規定された事項が、労働契約等に規定された労働条件より有利か、不利かという点は、状況に応じて変動する余地があり、常に一律に決まるものではありません。そのため、基本的には、労働協約については、その有利不利を問わず、労働者に対して効力が生じると考え、有利原則が否定されています。

労働組合の授権の範囲による限界について

労働協約においていかなる内容の合意がなされるかは、原則として協約当事者の自由に委ねられています(協約自治の原則)が、それは労働条件決定に労働者の実質的な関与が認められること、すなわち各労働者の労働組合への授権の範囲内であることが根拠とされています。つまり、協約自治の限界は、労働者から労働組合への授権の範囲に左右されるといえます。

具体例

労働協約で労働者全体の賃金引下措置を行う場合

まず、賃金は、労働条件その他労働者の待遇に関する基準であり、規範的部分にあたります。

これを踏まえると、労働者全体の労働条件を一律に変更するものであり、労働協約による集団的・定型的な処理が適切な場面といえるでしょう。

さらに、労働組合の規約では、当該労働協約を締結するに先立ち、特別な手続(組合員大会等における特別決議等)が必要とされるのが一般的であるとされていることから、労働協約の締結は、労働者の意思が反映された結果といえます。

したがって、当該協約を締結することは授権の範囲内にあるのが一般的であり、効力が認められると考えられます。

特定の組合員の雇用契約の終了を伴う場合

まず、人事に関する事項は、労働条件その他労働者の待遇に関する基準であり、規範的部分にあたります。

しかし、人事に関する事項は、労働者ごとに個別に決定されるべきで、個々の意思も様々なものと考えられ、組合員が、労働組合に判断を委ねるのは一般的ではありません。

したがって、個別の労働者の人事に関する事項について協約を締結することは、原則として効力が認められないと考えられます。

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます