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使用者の配慮義務

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しています。そして、「生命、身体等の安全を確保」とは、心身の健康(メンタルヘルス)についても配慮すべきものと考えられています。

しかしながら、近年、労働者のメンタル不調による自殺等がニュースでも取り上げられ、企業としては職場のメンタルヘルス対策をとることが求められるようになってきました。そこで、企業としてどのようなメンタルヘルス対策を行うべきなのかについて、以下、具体的に解説していきます。

使用者が負う安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、冒頭の条文(労契法5条)でも紹介したとおり、使用者が労働契約にともなって、労働者に対し、その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務をいいます。現在は明文化されていますが、これまでの裁判例においては、「使用者は、労働者に対し、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務のみならず、労働契約上に特段の根拠規定がなくても、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負う」と判断されてきた経緯があります。

なお、企業が労働者に対してするべき配慮とは、一律に定まるものではなく、労働者の職種、労働内容、労務提供場所等の具体的な状況によって異なってくる点には注意が必要です。

作業環境の整備

企業が負うべき安全配慮義務の一つとして、作業環境の整備があります。具体的には、労働者に仕事を安全に行ってもらうために、企業として、仕事に必要な機械や機器について管理・点検すべきことになります。また、機械や機器について、労働者に対して負担を強いる仕様になっていないか、新たな設備を導入すべきではないかといった点についても確認するべきです。

近年では、デスクワークも多くなっているため、事務所において行われるVDT作業(ディスプレイ、キーボード等により構成される VDT(Visual Display Terminals)機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の 作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業)を対象としたガイドライン等も策定されています。

労働者の健康管理

企業としては、労働者の日常的な健康管理についても配慮すべきであると考えられています。具体的には、仕事や作業をする場所について快適であるかどうか、健康に悪影響を及ぼすような状況になっていないかという点に配慮しておきましょう。

一例としては、定期健康診断に加えてオプションの健康診断も付与したり、労働者の休憩場所について整備すること等も有用です。

安全配慮義務に含まれる心の健康

企業としては、労働者の生命、身体等の安全を確保する義務があります。近年では、精神的負荷による労働災害の認定基準が定められていることにも象徴されているとおり、身体等の安全にはメンタルヘルスを良好に維持することも含まれています。そのため、メンタルヘルスを悪化させないように安全対策を取るべきであると考えらえており、近年は、長時間労働やハラスメントによる労働者の精神的な不調が問題となることが多いため、企業の対策を取る対象は様々な側面に及ぶことになります。

厚生労働省の推進する予防策の導入

厚生労働省による段階予防の考え方

1次予防
1次予防として、企業は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、労働者のストレスマネジメントの向上及び職場環境等の把握と改善を行います。ストレスチェックの実施は、典型的な一次予防のための措置として位置付けられます。
2次予防
2次予防として、企業は、労働者のメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行うこととなります。具体的な不調者への対応が問題となる状況であり、個別の原因や状況に応じた対応が求められます。
3次予防
3次予防として、企業は、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行います。メンタルヘルスの不調後の復職は、精神的な負荷への配慮を重視しつつ行うことが重要です。

4つのケアの実践

セルフケア
セルフケアとは、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防・軽減すること、又はこれに対処することです。セルフケアにおいては、普段の自分と違うことに気づくことが重要であり、そのために企業としては労働者に対し、情報提供や教育研修を行っていくことが重要となります。
ラインによるケア
ラインによるケアとは、労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談を行うことです。企業としては、管理監督者に対してメンタルヘルス研修を行う等、管理監督者の資質を向上させることが重要です。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、さらに、労働者及び管理監督者を支援することです。企業としては、産業医や衛生管理者、保健師等の専門スタッフを適切に配置することが重要です。

ストレスチェック制度の導入

ストレスチェック制度とは、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知することです。

労働者自身に自らのストレスの状況について把握してもらうことで、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析して、職場環境の改善につなげることが可能となります。結果として、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することが期待できます。

メンタルヘルス ストレスチェック

メンタルヘルス問題において安全配慮義務違反となる条件

企業が安全配慮義務を怠ったと認められる条件としては、①使用者の具体的な認識にかかわらず、労働者に発生した損害の発生が予見可能であったこと、②使用者が損害の結果回避義務を果たしていないこと(安全配慮義務違反に対する故意または過失があったこと)、③義務違反と損害との間に因果関係があることという3点が考えられます。

安全配慮義務違反が認められる場合として、損害の予見可能、使用者の結果回避義務違反という事実の有無が要件となっており、企業としてどこまでの安全配慮義務を尽くしていたかが争点になるものと考えます。

労働者の精神障害に安全配慮義務違反が判断された場合

安全配慮義務違反が認められた場合に企業が負う賠償責任としては、労働者に対する逸失利益や慰謝料等が考えられます。この他にも、労災認定による治療費相当額についても賠償責任が認められる可能性があります。メンタルヘルス不調を原因とした自殺や後遺障害が残る事態が生じた場合等には、高額の賠償責任が発生する可能性もありますので、注意が必要です。

安全配慮義務違反が認められた判例

労働者の過労死自殺について、最高裁が安全配慮義務違反を初めて認定した事件として、電通過労自殺事件(最高裁 平成12年3月24日第2小法廷判決)があります。

これは、大手広告代理店に勤務する労働者Aが、一年余りにわたって長時間の残業を継続したためにうつ病に罹患し、自殺してしまった事件です。

当時、Aは、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする、一般的かつ包括的な指揮又は命令の下で業務を行っており、長時間の残業を継続せざるを得ない状態になっていました。また、Aの上司は、Aが徹夜までをも余儀なくされる状態にあることを認識し、その健康状態が悪化していることに気づいていましたが、業務を所定の期限内に遂行することを前提として時間配分について指導をしただけで、業務量等を適切に調整する措置を採りませんでした。そして、Aは心身共に疲労困ぱいしてしまった結果うつ病に罹患し、うつ状態が深まって衝動的、突発的に自殺するに至ったといった事情を判示し、使用者は、民法715条に基づき、Aの死亡による損害を賠償する責任を負うと判断しました。なお、本事件は、最終的に企業が遺族に対して約1億6800万円の賠償責任を負担する内容で和解しました。

人事労務の連携による労働者のメンタルヘルスへの配慮

労働時間の管理

長時間労働によるメンタルヘルスへの影響が問題視されることも多くなり、労働基準法36条2項によって、「厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の規定で定める労働時間の延長の限度その他必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる」との規定がなされました。これに基づいて、「労働基準法第36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」が策定されています。

そこで、企業としては、厚生労働大臣の定める上限時間を遵守するように労働時間を管理することが必要となります。

ハラスメント等の防止

メンタルヘルス不調の原因として、パワハラを中心としたハラスメントが挙げられる場合が多々あります。特に、業務上の必要性が認められないような人格的な非難を行うことや、必要以上に執拗な指導等を繰り返すことにより相当性を欠くようなことがないように注意する必要があります。

企業としては、管理職を対象として、メンタルヘルスとハラスメントとの関連について研修を行う等、ハラスメントにならない部下への指導やコミュニケーションについて対策を取ることが重要です。

適切な配転措置

メンタルヘルスの対策として、企業は、対象となる労働者を他の部署に配置転換することを検討することも必要です。この点、労働者の意向も重視して、元の職場への復帰も選択肢の一つとすることも重要です。なぜなら、労働者にとって、より好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応には、ある程度の時間と心理的負担を要し、そこで生じた負担が疾患の再発に結びつく可能性も否定できないからです。

異動

精神疾患の疑いがある労働者への受診命令

受診命令の有効性の判断については、就業規則が労働者に対して一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めている場合、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて、当該労働契約の具体的な内容をなしているものとして受診命令は有効であると判断した裁判例があります。そこで、企業としては、事前にメンタルヘルス問題を予防する観点から、就業規則に労働者への受診命令に関する規定を設けておくことも必要です。

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