障害者の差別について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
障害者の差別は法律で明確に禁止されています。そのため、障害者を雇用する際は、“差別にあたる措置”や“罰則”を理解し、適切な対応をとる必要があります。しかし、会社の規則は多岐にわたるため、どの点で差別に配慮すべきか悩む方も多いでしょう。
本記事では、障害者の差別にあたる具体的なケースや、事業主が押さえておくべきポイントを解説していきます。参考のうえ、ぜひ実践してみてください。
目次
障害者の差別禁止について
障害者の差別禁止については、主に「障害者差別解消法」で定められています。
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
第一章 総則(目的)
……障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。
上記規定にあるように、障害者に対する「不当な差別的取扱い」の禁止と「合理的配慮」の提供という2つの柱によって、すべての国民が尊重し合い共生できる社会の実現を目指しています。そして、障害を理由とする差別の解消のために、事業者等に対し、社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」といいます)を行う義務を課しています。
不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害があることを理由にサービスの提供を制限することや介護者の付添を強制すること等が挙げられます(合理的配慮については次項で触れています)。
また、“雇用や労働”における障害を理由とした差別禁止については、「障害者雇用促進法」で別途定めるとしています(障害者差別解消法13条)。
障害者雇用促進法では、事業主に対して障害者の雇用を義務付ける等して、障害者の職業安定を図っています。詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
合理的配慮の必要性
障害者差別解消法や障害者雇用促進法は、障害者の差別禁止とともに障害者への“合理的配慮の提供”も求めています。合理的配慮とは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組みであり、その実施に伴う負担が過重でないものをいいます。
事業主は、サービスの提供や雇用・労働などさまざまな場面において、この合理的配慮を提供することが義務付けられています。
合理的配慮の具体例や措置を怠った場合の罰則などは、以下のページをご覧ください。
障害者差別禁止指針
厚生労働省は、障害者雇用促進法に基づき、事業主が障害者の差別禁止に適切に対処するための「障害者差別禁止指針」を定めています。指針の基本的な考え方としては、
・事業主や同じ職場で働く者が、障害の特性に関する正しい知識や理解を深めることが重要であること
また指針では、募集や採用・賃金・配置・昇進・降格・教育訓練といった場面における13の差別禁止項目を定めています。具体的には、これらの場面で、障害があることを理由に障害者を対象から外したり、障害者にのみ不利な条件としたりすることを禁止しています。
対象となる障害者
では、差別禁止の対象である「障害者」には、どのような人を含むのでしょうか。
障害者差別禁止指針では、障害者について以下のように定義しています。
障害者差別禁止指針
第2 基本的な考え方
……身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者……
障害の具体的な内容や程度については以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
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障害者差別禁止の違反とならない場合
障害者差別禁止指針で定める13の差別禁止項目に抵触しても、以下のような事情があれば、違反にあたらないとされています。障害者における社会的障壁を除去するための合理的配慮がなされているといえるからです。
- 積極的差別是正措置※として、障害者でない者と比較して障害者を有利に取り扱うこと。
※社会的に差別されている者に特別の機会を与え、機会均等を図る措置のこと。 - 合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価したうえで、障害者でない者と異なる取扱いをすること。
- 合理的配慮に係る措置をとること。また、その結果として、障害者でない者と異なる取扱いをすること。
- 障害者専用の求人の採用選考又は採用後において、仕事をするうえでの能力及び適性の判断や合理的配慮の提供のため、雇用管理上必要な範囲で、かつプライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認すること。
障害者の募集及び採用における差別
障害者の募集・採用における差別としては、以下のようなものがあります。
- 障害者であることを理由に、募集又は採用の対象から外すこと。
- 募集又は採用にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 採用の基準を満たす者の中から、障害者でない者を優先して採用すること。
なお、採用の条件に“一定の能力があること”を含む場合、その能力が業務遂行上必要と認められれば差別にはあたらないとされています。
一方、障害の影響で事業主が求める能力を満たしておらず結果不採用とした場合、基本的に差別にはあたりませんが、合理的配慮によって能力を満たすと考えられる場合、事業主は応募者に合理的配慮を提供する必要があるとされています。また、事業主は、障害者から求人内容の問い合わせがあった場合、きちんと説明に応じることが重要です。
以下のページでは、障害者の採用についてより詳しく解説しています。ご覧いただくと、より理解が深まるでしょう。
労働条件や労働契約における差別
賃金
労働条件のひとつである「賃金」も、差別が禁止されています。なお、賃金とは、給料・手当・賞与等、労働の対価として支払われるすべての費目をいいます。
賃金の差別にあたる可能性があるのは、以下のような場合です。
- 障害者であることを理由に、一定の手当等の賃金を支払わないこと。
- 一定の手当等の賃金の支払いにあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 昇給にあたり、障害者にのみ試験を課すこと。
最低賃金より低い賃金を設定することは差別にあたるか
障害により労働能力が著しく低い者の賃金については、最低賃金を下回っても差別にあたらない場合があります。これは「減額特例制度」といわれるもので、最低賃金法7条によって定められています。
ただし、減額特例制度を利用するには、使用者が都道府県労働局に申請し、許可を得る必要があります。また、必ず利用できるわけではなく、労働者の障害が業務に支障をきたしていると明らかである場合や、障害に関する客観的な資料がある場合にのみ許可されるのが基本です。
また、減額特例制度による減額率は、決められた計算方法に従って算出します。詳しくは以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
雇用形態の変更
労働契約における差別として、「雇用形態の変更」があります。雇用形態とは、正社員・パートタイマー・契約社員等、労働契約期間の定めの有無や労働時間の長短によって区別されるものをいいます。
雇用形態の変更における差別にあたる可能性があるのは、以下のような場合です。
- 障害者であることを理由に、障害者のみを雇用形態変更の対象とすること、又は障害者のみを雇用形態変更の対象から外すこと。
- 雇用形態の変更にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 雇用形態変更の基準を満たす者の中から、障害者又は障害者でない者のいずれかを優先して変更の対象とすること。
- 障害者であることを理由に、フルタイムからパートタイムに変更させること。
労働契約の更新
労働契約における差別として、「労働契約の更新」も挙げられます。
具体的には、労働契約の期間満了に際し、それまでの契約と同一内容の労働契約を締結する際の対応についてです。
以下のような場合、労働契約の更新における差別にあたる可能性があります。
- 障害者であることを理由に、労働契約の更新を拒否すること。
- 労働契約の更新にあたり、障害者に対してのみ不利な条件(一定の成果を上げている等)を付けること。
- 労働契約の更新の基準を満たす者の中から、障害者でない者を優先して更新の対象とすること。
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障害者の人事における差別
配置
障害者の人事についても、差別にあたる場合があります。
まず、障害者の「配置」についてです。配置に際しては、業務の内容や就業場所に気を配る必要があります。また、配置には業務の割り当てや権限の付与も含まれる点に注意が必要です。
以下のような場合、配置における差別にあたる可能性があります。
- 一定の職務への配置にあたり、障害者であることを理由に、その対象を障害者のみとすること、又はその対象から障害者を外すこと。
- 一定の職務への配置にあたり、障害者に対してのみ不利な条件(資格の取得を必須とする等)を付けること。
- 一定の職務への配置の条件を満たす者の中から、障害者又は障害者でない者を優先して配置すること。
- 障害者であることを理由に、特定の仕事を割り当てること。
昇進
人事異動のひとつとして、「昇進」も考えられます。
なお、「昇進」には、下方から上方の“職階(役職)”に移動することだけでなく、職能が評価され“等級”が上がる、いわゆる“昇格”も含まれます。
昇進における差別になり得るのは、以下のような場合です。
- 障害者であることを理由に、一定の役職への昇進の対象から外すこと。
- 一定の役職への昇進にあたり、障害者に対してのみ不利な条件(上司の推薦を必須とする等)を付けること。
- 一定の役職への昇進基準を満たす者の中から、障害者でない者を優先して昇進させること。
降格
「降格」についても、障害者の差別がないよう注意する必要があります。
降格には、上方から下方の職階(役職)に移動することや等級が下がることが含まれ、昇進と反対の意味を持ちます。
降格について差別になり得るのは、以下のような場合です。
- 障害者であることを理由に、降格の対象とすること。
- 降格にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 降格の対象になる労働者として、障害者を優先して選ぶこと。
- 降格の対象者を選ぶ際、障害者と障害者でない者で処遇を変えること(障害者でない者は成績が“最低”だった者のみを対象とするが、障害者は成績が“平均以下”だった者を対象とする等)。
退職・解雇における差別
退職の勧奨
退職の勧奨とは、労働者に「会社を辞めてほしい」等と伝え、退職を促すことをいいます。一方的に労働契約書を終了させる解雇とは違って“勧奨”に過ぎないため、法律による規制がなく、また、勧奨のルールについて就業規則で定める必要もありません。したがって、会社は比較的自由に退職の勧奨を行うことが可能です。
ただし、以下のような行為は、障害者の差別にあたり、障害者差別解消法等の特別法に違反する可能性があるため注意が必要です。
- 障害者であることだけを理由に、退職の勧奨の対象とすること。
- 退職の勧奨にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 障害者を優先して、退職の勧奨の対象にすること。
- 退職の勧奨の対象者を選ぶ際、障害者と障害者でない者で処遇を変えること。
解雇
解雇とは、労働契約を解消する旨を、事業主から労働者へ一方的に通告することをいいます。労働者と使用者が合意したうえで行う合意退職は含みません。
解雇する際、客観的に合理的な理由又は社会的相当性を欠いているものは解雇権濫用として無効になるのですが、それに加えて障害者を差別することがないよう別途留意しましょう。
以下のような場合、解雇における差別にあたる可能性があります。
- 障害者であることだけを理由に、解雇の対象とすること。
- 解雇の対象が“一定の条件に該当する者”であるにもかかわらず、障害者に対してのみ不利な条件を加えること。
- 解雇の基準を満たす者の中で、障害者を優先して解雇の対象とすること。
- 解雇の対象者を選ぶ際、障害者と障害者でない者で処遇を変えること。
なお、以下のページでは、解雇が禁止される具体的な状況や、反対に解雇が認められるケース等を紹介しています。併せてご覧ください。
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その他障害者雇用における差別
教育訓練
事業主が労働者に対して行う「教育訓練」も、差別となる場合があります。
教育訓練には、実際の業務に取り組みながら指導・教育する“オン・ザ・ジョブ・トレーニング”や、職場の外で行う研修・座学等の“オフ・ザ・ジョブ・トレーニング”が含まれます。
教育訓練における差別にあたる可能性があるのは、以下のような場合です。
- 障害者であることを理由に、教育訓練を受けさせないこと。
- 教育訓練の受講条件として、障害者に対してのみ不利な条件(長期の勤続年数を要する等)を付けること。
- 教育訓練の対象者を選ぶ際、障害者でない者を優先して選ぶこと。
福利厚生
福利厚生とは、給与や賞与等の労働対価に加えて支給される報酬のことをいいます。例えば、社会保険・住宅の貸与・業務に必要な機材の貸与・社外の施設利用等が挙げられます。
福利厚生は、労働者が働きやすい環境を作ったり、その家族が安心して生活したりするために重要な制度です。そのため、以下のような差別的取扱いをしないよう注意する必要があります。
- 障害者であることを理由に、福利厚生の措置を講じないこと。
- 福利厚生の実施にあたり、障害者に対してのみ不利な条件(社員寮の利用料を高くする等)を付けること。
- 障害者と障害者でない者が等しく条件を満たしているにもかかわらず、障害者でない者に優先して福利厚生の措置を講じること。
職種の変更
職種とは、職務や職責によって区別されるものをいいます。例えば、営業職や技術職、総合職や一般職といった分類が挙げられます。
以下のような対応は、障害者の職種の変更における差別となる可能性があります。
- 障害者であることを理由に、職種の変更の対象を障害者のみとすること又は職種の変更の対象から障害者を外すこと。
- 職種の変更にあたり、障害者に対してのみ不利な条件を付けること。
- 職種の変更の基準を満たす者の中から、障害者又は障害者でない者を優先して変更の対象とすること。
- 障害者であることを理由に職種の変更を命じること。
定年
定年とは、労働者が一定の年齢に達した時点で、雇用関係を終了する制度のことです。定年を設ける際は、障害者と障害者でない者に差別が生じないよう注意する必要があります。
例えば以下のような場合、定年における差別にあたる可能性があります。
- 障害者に対してのみ、定年の制度を適用すること。
- 障害者の定年について、障害者でない者の定年より低い年齢とすること。
違反時の罰則
障害者の差別禁止に罰則規定はなく、違反しても罰金等を科されることはありません。ただし、厚生労働大臣や都道府県労働局から、差別や合理的配慮に関する助言・指導又は勧告等の“行政指導”を受ける可能性があります(障害者雇用促進法36条の6)。
これは、差別禁止の本来の目的は「障害者が継続して勤務できること」である点から、罰則ではなく行政指導により、雇用管理の改善を促す方が有効だと考えられているためです。
一方、障害者差別解消法に違反した場合、措置が異なってきます。この場合も直ちに罰則が科されるわけではありませんが、障害者差別を繰り返し行った場合や、会社による自主的な改善が見込めない場合、大臣から報告を求められたり、助言・指導又は勧告を受けたりする可能性があります(障害者差別解消法12条)。さらに、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合、20万円以下の過料に処されます(同法26条)。
このように、障害を理由とする差別は事業主に行政上の不利益をもたらすものです。しかし、事業主にとって最もクリティカルなのは事業主の信用失墜を招くところにあります。多様性が重んじられている今の時代において障害を理由とする差別を行ってしまうことは、自社が時代遅れの企業であると自ら語っていることに他なりません。
相談体制の整備・苦情処理、紛争解決の援助
事業主は、障害のある労働者から相談・苦情を受けた際の適切な対応も押さえておく必要があります。具体的にとるべき措置や注意点、対応を怠った場合の罰則等は以下のページで解説していますので、併せてご確認ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある