年次有給休暇の出勤率の算定方法について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
年次有給休暇の取得は、労働者の権利です。しかしながら、就労するすべての労働者にその権利が与えられるかといえば、そうではありません。では、使用者は、何を基準に年次有給休暇の付与を行えば良いのでしょうか。
このページでは、労働者への年次有給休暇付与にあたり重要な基準となる【出勤率】の算定方法について説明します。なぜ【出勤率】を算定する必要があるのか、算定の際にどんなことに注意したら良いか等、順番にみていきましょう。
目次
年次有給休暇の出勤率の算定
雇入れ後6ヶ月間、次年度以降は前年度の1年間の出勤率が8割に満たない労働者には、年次有給休暇を与えなくても良いとされています。したがって、労働者が年次有給休暇付与の対象となるかどうかの判断には、この【出勤率】が大きくかかわってくることになります。使用者は、出勤率がどのような方法で算定されるのか、しっかり理解しておきましょう。
出勤率算定に関する就業規則の策定
年次有給休暇に係る事項は、就業規則への記載が必須となっています。その際、【出勤率】の算定方法についても記載しておくべきです。就業規則で算定方法の基準を明確にしておくことは、労働者の個別の年次有給休暇の状況を把握するうえで事務的な負担を軽減し、さらには労使間トラブルを防止するためにも非常に有用です。
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有給休暇が発生する要件
年次有給休暇は、6ヶ月以上継続勤務しており、そのうちの8割以上出勤している労働者に対して権利が発生します。
年次有給休暇の発生要件については以下のページで詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
有給休暇に係る継続勤務の考え方
継続勤務とは、労働契約の存続期間、つまり、労働者が会社に在籍する期間を指します。“継続勤務”といえるかどうかについては、労働者の勤務の実態に準じて判断される必要があります。なお、以下にあげるケースも継続期間に算入します。
- ・定年退職する者を嘱託等の扱いで再び雇用するケース(※退職金清算の場合を含める)
- ・①日々雇用の者、②2ヶ月以内の有期雇用の者、③4ヶ月以内の季節業務の者、④試用期間の者で、実態からして継続した使用が容認できるケース
- ・臨時工が一定のスパンで6ヶ月以上雇用契約を更新している場合に、実態からして継続した使用が容認できるケース
- ・在籍出向をしたケース
- ・休職の扱いとなっていた者が復職したケース
- ・臨時工、パート等を正社員にシフトするケース
- ・会社の解散によって労働者の権利義務関係が新しい会社に包括承継されたケース
- ・全員を解雇したうえで再び一部の者を採用したものの、実態は人員の縮小にすぎないようなケース
なお、定年退職時の扱いに関して、以下のページで詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
継続勤務が争点となった裁判例
【東京地方裁判所 平成9年12月1日判決、国際協力事業団(年休)事件】
- 事案の概要
- 国際事業団(以下、「Y」とします。)に勤めるXらは、雇用期間1年の契約を、それぞれ何年かにわたり繰り返し更新し、途中中断することなく引き続き雇用されていました。Xらは労働基準法に従い、勤続年数に応じて付与される日数に、前年度の未消化分の日数を加えたものを年次有給休暇の保有日数として、それぞれ年次有給休暇を取得しました。しかしYは、Xらと年度を超えて継続雇用しているわけではないし、未消化分の翌年度への繰り越しもあり得ないとして、保有日数を超過して取得していると主張する一部分につき欠勤の扱いとしたことから、Xらの実態が“継続勤務”にあたるかどうか等が争われた事案です。
- 裁判所の判断
- 裁判所は、Xらは、それぞれ途中中断することなく引き続きYに雇用されていたのであるから、継続勤務したものと解し、年度ごとに算出される日数の年次有給休暇が与えられなければならないとしました。また、未消化分の年次有給休暇についても、特段の定めが存在しないことから、翌年度以降への繰り越しを認めています。
有給休暇の出勤率の計算式
年次有給休暇の付与において重要な出勤率は、全労働日で出勤日数を割って計算します。計算式は以下のとおりです。
【出勤率(%)】= 出勤日数 / 全労働日
パートタイマー・アルバイトの出勤率について
週の所定労働時間が30時間未満で、所定労働日数が4日以下のパートタイマー・アルバイトは、出勤率にはよらず、所定労働日数に比例した日数の年次有給休暇が付与されます(=比例付与)。
パートタイマー・アルバイトの年次有給休暇の取扱いについては、以下のページをご覧ください。
出勤率算定における出勤日数・全労働日とは
さて、出勤率の算定においては、計算式の“出勤日数”“全労働日”がどういったものかを把握しておかなければなりません。
まず、分母となる“全労働日”とは、労働契約上で労働義務を課している日を指し、算定期間(雇入れ後6ヶ月間、次年度以降は前年度の1年間)の総暦日数から、就業規則等で定められた休日を除いた日数をいいます。
次に、分子となる“出勤日数”とは、算定期間の全労働日のうち、実際に出勤した日に、出勤日・全労働日に含まれる日に該当する日数等を加えた日数をいいます。
次項以降で、算出する出勤率に大きく影響してくる、これらに含まれる日、除外される日、自由に定めることができる日をあげていきます。
出勤日・全労働日に含まれる日
出勤率の算定において、以下の期間は、実態としては出勤していなくても、出勤したものとして“出勤日数”“全労働日”に含めます。
- ・業務上の負傷又は疾病等による療養のために休業した期間
- ・労働基準法65条による産前産後の休業期間(※出産が予定より遅れ、産前6週間を超える休業期間も含める)
- ・育児・介護休業法による育児休業又は介護休業期間
- ・年次有給休暇を取得した期間
なお、産前産後休業、育児休業、介護休業に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
出勤日・全労働日から除外される日
以下にあたる日は、“出勤日数”“全労働日”から除外して計算します。
- ・休日労働させた日
- ・使用者の責に帰すべき事由により休業した日
- ・正当なストライキ、その他正当な争議行為により労務の提供がなかった日
- ・公民権の行使のための休日
- ・不可抗力により休業した日
- ・休職期間(参照:休職期間がある場合の出勤率について)
労使間で自由に定めることができる日
以下の休暇日については、労使間の合意で“出勤日数”“全労働日”に含めるか、除外するかを自由に決めることができます。
- ・通勤災害による休暇日
- ・生理休暇日
- ・慶弔休暇等の特別休暇日
- ・介護休暇日
- ・子の看護休暇日
- ・その他会社が定める休暇日
なお、生理休暇、慶弔休暇、介護休暇、子の看護休暇に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
休職期間がある場合の出勤率について
休職期間は、労働者の労働義務を免除している期間であるため、出勤率の算定においては“出勤日数”“全労働日”から除外します。
また、休職制度がなく、付与した年次有給休暇をすべて消化してしまった労働者が休職した場合には、欠勤の扱いとなります。
なお、休職期間に関する詳しい内容は、以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
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遅刻・早退は出勤率に影響するか?
遅刻・早退した日は、労働時間の一部について就労していないことになりますが、出勤率の算定において、欠勤の扱いとすることはできません。その日一部の時間でも出勤し、就労している場合には、出勤日に含めることとされています。そのため、“遅刻・早退が一定回数あるいは一定時間数に達すると、1日分の欠勤扱いとする”といった規定や対応は、労働基準法違反となるリスクがあります。
フレックスタイム制を導入している場合
フレックスタイム制、つまり、労働者が自由に出退社時間を決められる制度を導入している会社では、コアタイム(必ず勤務しているべき時間帯)とフレキシブルタイム(いつ出退社しても良い時間)とを設けている場合があります。この場合に、労働者がコアタイムを欠勤し、フレキシブルタイムの一部の時間のみ就労したケースでも、出勤率の算定において、その日は出勤したものとして扱わなければなりません。なお、労働日と定めた日に出勤しなかった場合については、欠勤として扱うことができます。
フレックスタイムに関する詳しい内容は、以下のページで説明していますので、ぜひご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある