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メンタルヘルス

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

厚生労働省による令和2年の労働安全衛生調査(実態調査)結果によれば、メンタルヘルス問題によって、「連続1ヶ月以上休業した労働者」がいた事業所の割合は7.8%、「退職した労働者」がいた事業所の割合は3.7%となっています。

このような状況において、企業にはメンタルヘルスケアの取り組みが求められていますが、規模の小さな事業所では、十分な取り組みが行われていない実態があります。

本記事では、メンタルヘルスケアとはどのようなものか、メンタルヘルスケアを行うことの重要性、メンタルヘルスケアの具体的な方法等について解説します。

メンタルヘルスケアとは

メンタルヘルスケアとは、すべての労働者が、心が健康な状態で働くことができるように支援することや、そのための仕組みを作って実践することです。これは、労働者がメンタルヘルス不調に陥らないために重要な取り組みです。

メンタルヘルス不調とは、ストレスや不安等、労働者の心身の健康や社会生活に影響を与える可能性のある精神的問題や行動上の問題を幅広く含む概念であり、精神障害や自殺を含みます。

職場でメンタルヘルス不調が発生する原因として、人間関係や長時間労働・過重労働、パワハラ等が挙げられています。

過重労働とメンタルヘルスの因果関係

過重労働は睡眠時間の短縮につながり、脳の疲労回復を妨げて機能を低下させるため、抑うつ状態を招く等、メンタルヘルス不調につながると考えられています。

過重労働とメンタルヘルス不調の因果関係については、労働基準局長が定めた基準が存在します。
この基準においては、例えば、発病日から起算した直前の2ヶ月間に、1ヶ月当たりおおむね120時間以上の時間外労働がある場合は、原則として業務起因性があると考えられています。また、発病前6ヶ月以内に行われた1ヶ月に80時間以上の時間外労働についても、業務起因性に影響がある出来事とされています。

企業におけるメンタルヘルスケアの重要性

企業には安全配慮義務があり、配慮するべき安全にはメンタルヘルスも含まれます。
なお、安全配慮義務とは、使用者が労働者の生命や身体の安全を守るために配慮をする義務をいいます。

メンタルヘルスケアは、それ自体が法令上の義務とされているだけでなく、以下で挙げるような効果が期待できるため、積極的に行うのが望ましいでしょう。

なお、安全配慮義務、労働安全衛生法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

労働安全衛生法

職場の生産性の低下の防止

メンタルヘルスケアにより、職場の生産性が低下することを予防する効果が期待できます。

メンタルヘルス不調に陥った労働者は、生産性が低下します。その影響によって労働時間が延びてしまうためにさらなる長時間労働を招き、ますます生産性が低下してしまいかねません。

メンタルヘルスケアにより、それらの事態を防ぐことができます。

従業員の生産性や活力の向上

メンタルヘルスケアにより、職場環境を改善して、従業員の生産性や活力を向上させることが可能です。
従業員が心身共に健康な状態で働くことができれば、従業員のモチベーションが上がり、生産性を向上させることも期待できます。

リスクマネジメント

メンタルヘルスケアにより、経営リスクを下げることが可能です。なぜなら、メンタルヘルス不調に陥った従業員は集中力が低下するため、事故が増加するリスクがあるからです。

また、職場環境が原因となってメンタルヘルス不調に陥った、あるいは悪化させたと認定されれば、賠償費用が生じるおそれがあります。万が一、職場環境が原因のメンタルヘルス不調により従業員が自殺をした場合は、極めて高額の損害賠償責任を課されるばかりでなく、大々的に報道をされ、企業のイメージダウンにもつながるリスクがあります。

メンタルヘルス不調を防ぐ3つの段階予防

メンタルヘルス不調を予防するため、あるいは再発を防ぐために、以下の3つの段階予防がスムーズに行われるようにする必要があるとされています。中でも、一次予防を充実させて、メンタルヘルス不調の従業員が発生しないようにすることが特に重要です。

  • 一次予防……メンタルヘルスの不調を未然に防止する。
  • 二次予防……メンタルヘルスの不調を早期に発見し適当な対処をする。
  • 三次予防……メンタルヘルスの不調に陥った労働者が職場復帰できるよう支援等をする。

厚生労働省が求める「4つのケア」とは

メンタルヘルスの4つのケア
①セルフケア 自分の心の状態や健康状態をよく理解しておくこと。
②ラインによるケア 従業員の体調不良が発生していないか、上司が一緒に働く従業員の日常状況を把握すること。
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア セルフケアやラインケアが円滑に行われているか、その管理者をさらに支援すること。
④事業場外資源によるケア 個人に対しての心のケア等、健康作りのために必要な機関によるサポートを行うこと。

メンタルヘルスに関するケアとして、「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。

「4つのケア」とは、上に挙げた①「セルフケア」②「ラインによるケア」③「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」④「事業場外資源によるケア」のことをいいます。

「4つのケア」によりケアが行われる範囲は、個人から職場、会社、そして会社外へと広がっていきます。最初に取り組みやすいのは①「セルフケア」や②「ラインによるケア」であると考えられるため、ストレスチェックや職場環境の整備等から始め、従業員の精神的負荷を低減するように努めるべきでしょう。

なお、使用者の配慮義務について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

使用者の配慮義務

メンタルヘルス対策の具体的な方法

企業が取り組むべきメンタルヘルス対策には、具体的にどのようなものがあるかについて、以下で解説します。

ストレスチェック制度の導入

ストレスチェック制度とは、労働者が受けているストレスを検査して、必要に応じた措置を行う制度をいいます。

労働安全衛生法が改正されて、労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から毎年1回、ストレスチェックをすべての労働者に対して実施することが義務づけられました。

検査の結果、高ストレスと診断された労働者の中で申し出を行った者には、産業医が面接指導を行います。面接指導の申し出を行う労働者は少ないため、積極的に面接指導を受けるように促す必要があるでしょう。

なお、ストレスチェック制度について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

ストレスチェック

産業医・産業保健スタッフとの連携

労働安全衛生法では、一定の条件を満たした事業場について、産業医の選任義務を課しています。産業医を選任しないと、罰則が適用されるおそれがあります。

なお、産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師です。また、産業保健スタッフとは、産業医や衛生管理者等、産業保健に係わるスタッフ全員の総称です。

産業医等には、職場でメンタルヘルス不調の従業員が発生する予兆を把握してもらい、改善に向けて相談し、必要な助言・指導を求めなければなりません。また、健康診断の結果、検診項目に異常が認められた労働者については、医師の意見を聴取して増悪防止措置を講じなくてはならないとされます。

なお、産業医の選任について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

産業医の選任|必要人数とペナルティ

従業員支援プログラム(EAP)の導入

従業員支援プログラム(EAP)とは、メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムのことです。発祥はアメリカであり、戦争による軍人の心の傷をケアするために導入されました。

近年は、日本でも導入されるようになってきており、メンタルヘルス不調によってパフォーマンスが落ちてしまっている従業員が、最大限に活躍できるようになることが期待されています。

なお、EAPの実施機関として社内に担当者を置くことは可能ですが、外部の人間の方が相談しやすいことが多いため、外注するケースは少なくないようです。

メンタルヘルス問題に対応した就業規則の整備

メンタルヘルスの不調時に生じやすい、長期の欠勤や断続的な欠勤等へ対応できるように、休職制度を設けることや、その後の復職に関する社内の制度を整備しておくことが必要です。また、復職できない従業員の解雇を可能にするための制度も必要になるでしょう。

これらの制度を設けるために、就業規則の休職・復職に関する規定を見直さなければなりません。例えば、断続的な欠勤の場合について規定がない就業規則、会社が指定する医師の診断を義務づける規定がない就業規則には問題がある可能性があります。

他にも、長時間労働を防止するために、労務管理の規則や運用についても徹底して見直すべきでしょう。

「休職」に関する規定

メンタルヘルス不調に陥った労働者は、休職を検討することが多いです。私傷病による休職には、法律上の規定が存在しないため、就業規則に休職の規定を設ける必要があります。

なお、就業規則に規定するべき事項として、以下のものが挙げられます。

  • 対象の社員の範囲
  • 休職期間の長さ
  • 休職期間の賃金
  • 病状の報告義務など

おおむね休職期間が満了しても治癒しない場合は、自然退職とする規定を就業規則に規定する会社が多いと思われます。しかし、このときには、治癒したのか、していないのか等、非常に難しい判断を迫られます。産業医の意見も聞きながら慎重に進めるべきであり、その前提として、産業医の診断を休職者に義務づける規定を就業規則に定めるべきでしょう。

なお、休職制度や休職規定について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

休職制度と休職規定

「解雇」に関する規定

メンタルヘルス不調による解雇が可能なケースはありますが、容易には有効な解雇であると認められないため、慎重な対応が必要となります。

就業規則には、「心身の故障のため業務ができないとき」といった趣旨の事由が解雇事由として掲げられていることが多いです。しかし、メンタルヘルス不調の労働者を突然解雇することは、解雇権の濫用になる可能性が高いため、一般的には休職をさせて、復職できないときだけ解雇できると考えるのが妥当です。

また、仕事が原因でメンタルヘルス不調に陥った従業員については、解雇が制限されています(労基法19条)。そのため、メンタルヘルス不調の原因が仕事であると疑われるときには、特に慎重に検討するべきでしょう。

なお、解雇事由の全般について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

正当な解雇事由とは

メンタルヘルス対応における注意点

メンタルヘルス不調の労働者への対応や、メンタルヘルス対策を行うときに注意するべき点について、以下で解説します。

安全配慮義務違反による損害賠償請求

使用者には安全配慮義務があるため、従業員がメンタルヘルス不調に陥れば安全配慮義務違反となり、労災認定されてしまうおそれがあります。また、仕事が原因でメンタルヘルス不調になったのであれば、従業員は使用者に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求することができます。

使用者である企業や当該企業の役員が、労働者に生じた損害に関して、高額な賠償義務を負うこともありますから注意が必要です。

なお、メンタルヘルスに関して生じるリスクである、損害賠償責任と労災認定について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

メンタルヘルス問題と使用者の損害賠償責任
メンタルヘルスと労災

プライバシーへの配慮

メンタルヘルスケアのために、プライバシーを保護することは極めて重要です。なぜなら、メンタルヘルスに関する情報は、個人情報の中でも、特に慎重に取り扱う必要のある情報に該当するからです。

メンタルヘルス不調であることをなるべく知られたくない労働者もいるため、情報を取得する際には、使用目的を通知したうえで同意を得ておく必要があります。また、情報の取り扱い範囲について事前に労働者から同意を得る必要があります。

よく問題となるのが、労働者から、主治医の診断書の提示があったものの、会社としてはより詳細な情報を主治医から聞きたいという場合です。主治医が会社に情報を提供するためにも当該労働者の同意が必要となりますが、すでに労働者との関係が悪化しているケースでは、同意してもらうことが困難です。そこで、このような場合に備え、最低限、就業規則にはこのような場合における従業員の協力義務を定めておくべきでしょう。

復職者のフォローアップ

メンタルヘルス不調により休業している労働者が、円滑に職場復帰するためには、職場復帰プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要です。

症状に関する配慮事項の把握はもちろん、復職に向けた手段として、試し出勤制度を整備することや、復職後の短時間勤務制度等、各事業所に合わせた制度の用意を進めましょう。

なお、試し出勤は、あくまで休職期間中のリハビリテーションの一環である(労務の提供ではない)ため、例えば労災の適用対象にならないといった問題があります。また、短時間勤務についても、労働者の同意を得ながら実施するべきである等の留意事項も多いため、制度の準備には専門家への相談も必要な場面が多いと言えるでしょう。

なお、復職を目指す労働者のための制度として、試し出勤を含むリハビリ出勤制度が存在します。これについては、以下の記事をご覧ください。

リハビリ出勤制度

メンタルヘルス対策を行った企業への助成金

メンタルヘルス対策を行った企業は、一定の要件を満たせば、独立行政法人労働者健康安全機構の「心の健康づくり計画助成金」制度を活用することが可能です。

助成金を受給するための要件や助成金額、令和3年度の助成金の申請期間については、以下をご確認ください。

要件

事業場の要件

  • ①労働者を雇用している法人・個人事業主で、当該事業場に雇用されている労働者がいること。
  • ②労働保険の適用事業場であること。
  • ③登記上の本店又は本社機能を有する事業場であること。

取組の要件

  • ① メンタルヘルス対策促進員の訪問を受け、メンタルヘルス対策促進員の助言・支援に基づき、令和2年度以降、新たに「心の健康づくり計画」を作成していること。
  • ② 作成した「心の健康づくり計画」を労働者に周知していること。
  • ③ 「心の健康づくり計画」に基づき具体的なメンタルヘルス対策を実施していること。
  • ④ メンタルヘルス対策促進員から、「心の健康づくり計画」に基づき具体的なメンタルヘルス対策が実施されたことの確認を受けていること。

助成金額

1法人又は1個人事業主当たり、一律10万円。
ただし、1法人又は1個人事業主当たり将来にわたり1回限り助成される。

申請期間

令和3年度については、令和3年5月18日~令和4年6月30日

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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