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メンタルヘルス

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

企業に求められるメンタルヘルスケア対策と規定整備について、以下説明します。

企業におけるメンタルヘルスケアの必要性

労働者が精神疾患に罹患すると生産性が低下しますし、過労死等の話題もたびたびニュースとなります。こうした出来事は、メンタルヘルスケアや安全配慮義務の対応が不十分であったことから生じることが多いといえるでしょう。労働者に生じたメンタルヘルスの問題について、使用者に安全配慮義務違反があると認定されると多額の損害賠償責任を負う可能性もあるほか、取締役等の役員個人に対する責任追及にまで広がることがあるため、メンタルヘルスケアは企業や役員にとって重要な課題です。

安全衛生委員会の審議項目に挙げられるメンタルヘルス問題

安全衛生委員会は、次の事項を調査審議し、事業者に対して意見を述べなければなりません(労働安全衛生法17条1項、18条1項)。

  1. 労働者の危険を防止し、健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
  2. 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
  3. 労働災害の原因及び再発防止対策で、安全衛生に係るものに関すること。
  4. 前3号に掲げるもののほか、労働者の危険の防止、健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項。

これらのうち④の主たる内容としては、安全衛生に関する規程の作成や、安全衛生教育や健康の保持増進を図るための実施計画の作成、長時間労働による健康障害の防止を図るための対策の樹立などが定められています(労働安全衛生規則21条、22条)。

安全衛生

メンタルヘルス問題への対策

厚生労働省が求める段階予防と4つのケア

厚生労働省独立行政法人労働者健康安全機構「職場におけるこころの健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」によれば、メンタルヘルスの不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルスの不調を早期に発見し適当な対処をする「二次予防」及びメンタルヘルスの不調に陥った労働者が職場復帰できるよう支援等をする「三次予防」がスムーズに行われるようにする必要があるとされます。また、メンタルヘルスに対するケアは、「セルフケア」・「ラインによるケア」(所属の事業所や管理職によりケアを意味しています。)・「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」・「事業場外資源によるケア」という「4 つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされます。

使用者の配慮義務

ストレスチェック制度の導入

労働安全衛生法が改正されて、労働者が50人以上いる事業所では、2015 年12 月から、毎年1回、ストレスチェックを全ての労働者に対して実施することが義務付けられました。厚生労働省が公表している平成30年の調査によれば、実施対象事業所のうち62.9%が実施しており、事業所規模(労働者数)が大きな事業所ほど実施率が高くなる傾向があります。

ストレスチェック

対策における助成金の活用

独立行政法人労働者健康安全機構の「心の健康づくり計画助成金」制度がありますので、活用することも考えられます。

助成金受給に向けた基本的な流れは、事業主の方が、それぞれの都道府県にある産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員のアドバイスやサポートを受け、これに基づいてストレスチェックを行うこと等も含めた「心の健康づくり計画」を作成し、この計画を踏まえたメンタルヘルス対策を行った場合に助成を受けることができるという形になっています。

企業のメンタルヘルスにおける産業医・産業保健スタッフの役割

労働安全衛生法では、健康診断の結果、検診項目に異常が認められた労働者について、医師の意見を聴取して(労安衛法66条の4)、必要があると認められるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの増悪防止措置を講じなくてはならないとされます(労安衛法66条の5)。会社が医師の意見を聴取しなかったり、意見を聴取しても増悪防止措置を講じなかったりした場合、安全配慮義務違反を問われ、損害賠償責任の原因となる可能性もあります。

メンタルヘルス問題に対応した規則の整備

メンタルヘルス問題に対応した規則の整備のひとつとして、メンタルヘルスケアに関連して、個人情報の中でも健康情報に関する取扱いに関する規則の見直し等を行っておくことが望ましいでしょう。

また、メンタルヘルスの不調時に生じやすい長期や断続的な欠勤等へ対応できるように、休職制度やその後の復職に関しても社内の制度を整備しておくことが必要ですので、就業規則の休職に関する規定も見直し対象に入ります。

そのほか、労働安全衛生規則等に則った長時間労働防止等に関する規則や運用も徹底しておくべきでしょう。

メンタルヘルス不調による休職

メンタルヘルスに罹患した労働者が、長期又は断続的な欠勤を続ける等、就業の継続が困難であるときは、たとえ欠勤が継続しているとしても、突然解雇すると解雇権の濫用と判断される可能性が高いでしょう。

まずは、解雇猶予措置として、休職を検討することが多いです。おおむね休職期間が満了しても治癒しない場合は、退職とする流れとすることが多いと思われますが、治癒したのか、していないのか等、非常に難しい判断を迫られます。産業医の意見も聞きながら慎重に進めるべきでしょう。

メンタルヘルス不調による解雇

就業規則には、「心身の故障のため業務ができないとき」といった趣旨の事由が解雇事由として掲げられていることが多いです。しかし、メンタルヘルス疾患に罹患した労働者を突然解雇することは、解雇権の濫用になる可能性が高く、一般的には、解雇猶予として休職をさせてから行う方が得策と考えられています。また、そもそも、業務起因性がある場合は、解雇が制限されています(労基19条)。

退職及び解雇 解雇事由

過重労働と精神障害の因果関係

一般的に行政における労災認定基準が参照されることが多いです。

平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」によれば、「心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては、対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え、当該対象疾病の発病の前おおむね6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷が認められることを掲げている。」とされています。

この認定基準においては、長時間労働の評価として、発病日から起算した直前の2ヶ月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働がある場合は、原則として業務起因性を肯定すると考えられているほか、発病前6ヶ月以内に行われた1ヶ月に80時間以上の時間外労働についても、業務起因性に影響がある出来事として掲げられています。

メンタルヘルス問題と労災認定について

労災の認定基準として、行政内部の通達である平成23年12月26日基発1226第1号があり、この「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、労災に該当するかが判断されます。労災認定に関しては、労働者が、使用者の協力を求めたうえで申請し、労働基準監督署がその判断を行います。

メンタルヘルスと労災

メンタルヘルス対応での注意点

安全配慮義務違反による損害賠償請求

労災が認められるかどうかとは関係なく、労働者は、使用者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることができます。使用者である企業や当該企業の役員が、労働者が労災により喪失した損害に関して、高額な賠償義務を負うこともありますから注意が必要です。

使用者の配慮義務

プライバシーへの配慮

メンタルヘルスに関する情報は、個人情報の中でも特に慎重に取り扱う必要のある、いわゆるセンシティブ情報に該当すると考えられます。労働者から情報を取得する際には、使用目的を通知して「同意」を得ておくべきですし、第三者に開示する場合にも本人の同意を得るべきです。メンタルヘルス不調であること自体を必要以上に知られたくない労働者もいるため、事後的に同意を取得するといった方法は適切ではありません。メンタルヘルス不調者との話し合いの中で、情報の取り扱い範囲についても同意を得るように気を付けましょう。

労働者から、従業員の主治医の診断書の提示があり、より詳細な情報を主治医から知りたいような場合、主治医が会社に情報を提供するのにも、当該労働者の同意が必要となります。

復職者のフォローアップ

心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場復帰するためには、職場復帰プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要です。厚生労働省中央労働災害防止協会の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています。第1ステップは、病気休業開始及び休業中のケア、第2ステップは、主治医による職場復帰可能の判断、第3ステップは、職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成、第4ステップは、最終的な職場復帰の決定、第5ステップは、職場復帰後のフォローアップです。

症状に関する配慮事項の把握はもちろん、復職に向けた手段として、試し出勤制度を整備することや、復職後の短時間勤務制度等、各事業所に合わせた制度の用意を進めましょう。なお、試し出勤制度は、労務の提供を受けるわけではないという整理をすることも多く、通勤災害の対象にならないといった課題があるほか、短時間勤務についても労働者の同意を得ながら実施すること等、留意事項も多いため、制度の準備には専門家への相談も必要な場面は多いといえるでしょう。

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