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企業が実施すべき安全衛生教育の重要性について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働者が安全かつ健康に働ける環境を作り上げていくのも、使用者としての役割です。人間関係等の環境作りもそうですが、なにより事業場での労働災害はあってはならないことです。いくら使用者が注意していたとしても、労働者一人ひとりが注意・意識していなければ、労働災害が起きてしまうおそれがあります。そうならないために、使用者は、労働者に対して安全衛生についての教育を実施して、意識をもってもらう必要があります。

本記事では、会社が実施すべき安全衛生教育の重要性について説明していきます。

安全衛生教育を実施する必要性

安全衛生教育の目的は、実際に「労働災害を起こさないこと」です。労働災害を防止するためには、労働者を指揮・監督する者や、労働者本人たちが、業務を遂行するにあたって、自社が特に注意すべき安全衛生に関して理解してもらっておく必要があります。まずは、指揮・監督する者が理解したうえで、労働者全体への教育や研修を実施していくことで、一人ひとりが安全への意識を持つようになる良い機会を与えることにつながるでしょう。

雇入れ時・作業内容変更時の教育

使用者は、労働者の雇入れ時と、労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、その従事する業務に関する安全衛生教育を実施しなければなりません(労安衛法59条、労安衛則35条)。

新しい環境で業務をするにあたり、安心・安全な職場生活を送るためには、安全衛生教育は重要になります。また、労働者の作業内容変更時についても、簡易的な変更ではなく、以前と異なる作業に転換した場合や作業の設備や方法等に大幅な変更があった場合には、注意すべき事項等も変更を伴うことが通常であることから、改めて安全衛生教育を行わなければなりません。

対象者

労働者が当該業務に従事する職場に入社した際に、安全衛生教育を受けさせなければなりません。また、パートタイマーやアルバイト等の正社員以外の労働者も受講の対象となります。

教育の内容

基本的な安全衛生教育の内容は、以下のとおりになります(労安衛則35条)。

  • (1)機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること
  • (2)安全措置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること
  • (3)作業手順に関すること
  • (4)作業開始時の点検に関すること
  • (5)当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること
  • (6)整理、整頓及び清潔の保持に関すること
  • (7)事故時等における応急措置及び退避に関すること
  • (8)前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

また、現業系の業務や一部の小売業を除いた労働者に関しては(1)から(4)の内容を省略することが可能です(労安衛則35条、労安衛法施行令2条3号)。

特別教育

労働者を、厚生労働省令(労安衛則)で定められている危険・有害業務に就かせる場合、使用者はその業務に関する安全と衛生のための特別な教育を実施しなければなりません(労安衛法59条第3項)。ただし、例えば、同様の業務の経験者である場合等、特別教育をすでに受講している者や、十分な知識や技能を有している者については、特別教育を省略することが可能です(労安衛則37条)。

また、現在の技術は日々進歩しており、新たな機械設備や新たな化学物質の増加等による、労働災害問題も生じかねない環境にあります。そのため、使用者は安全衛生の水準の向上を図るため、危険・有害業務に該当する業務に従事する労働者に対しては、厚生労働大臣が公表する指針等を踏まえて、安全衛生に関する教育を行うよう、努める必要があります(労安衛法60条の2)。

特別教育を必要とする危険有害業務

特別教育を必要とする業務については、以下のようなものが挙げられます。

  • ・研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務
  • ・動力により駆動されるプレス機械の金型、シャーの刃部又はプレス機械もしくはシャーの安全装置もしくは安全囲いの取付け、取外し又は調整の業務
  • ・アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務
  • ・対地電圧が50ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自転車の整備の業務
  • ・最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転の業務
  • ・制限荷重5トン未満の揚貨装置の運転の業務
  • ・機械集材装置の運転の業務 等

労働安全衛生規則36条には、危険又は有害業務としておよそ50種類以上の業務が挙げられており、本項で挙げた危険有害業務はごくわずかにすぎません。
詳しくは、労働安全衛生規則36条(https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-1-1h4-0.htm)をご覧ください。

記録の作成・保存

使用者は、特別教育を行った際、受講者や教育の科目等の記録を作成し、3年間保存しておかなければなりません(労安衛則38条)。ただし、3年間は最低限の保存期間であって、その期間以上に保管している会社が多いのが実情です。前述のとおり、既に受講した労働者には特別教育の省略等が可能であるため、それに備えておく必要もあります。

特別教育以外の教育記録に関しては、法的には保管する義務は課せられてはいませんが、残しておくことが望ましいでしょう。教育記録を残しておけば、労働災害が起きた際に、会社がこれまで安全衛生教育を尽くして、どれだけの安全配慮義務を果たしていたのか判断がしやすくなり、トラブル回避に役立つこともあるでしょう。

職長等に対する教育

事業場での労働災害防止対策を推進するうえで、上司となる職長の安全衛生に対する意識は職場全体の意識づくりにも影響することから、その果たす役割は大きいといえます。そのため、使用者は、その事業場の業種が政令で定められているものであるときは、新たに就く職長や、労働者を直接指導・監督する者に対して安全衛生教育を実施しなければなりません(労安衛法60条)。

また、おおむね5年ごと、または、機械設備等に変更があったときは、職長と安全衛生責任者に再教育を受けさせることが望ましいとされています(平成3年1月21日基発第39号)。

職長等教育を必要とする業種

労働安全衛生法60条に基づき職長等の教育を受けるべき業種として、政令で指定されている業種は以下のとおりになります(労安衛施行令19条)。

  • ・建設業
  • ・製造業(食料品製造業、繊維工業等を除く)
  • ・電気業
  • ・ガス業
  • ・自動車整備業
  • ・機械修理業

教育の内容

職長教育では、およそ2日間にわたって、様々な講習を受講することとされています。

職長は安全衛生責任者と兼任する場合が多いため、それぞれの内容をまとめた形で教育が実施されています。教育内容と実施時間はそれぞれ定められており、それに則り行われます(労安衛法60条、労安衛則40条)。以下がその教育内容と時間になります。

作業方法の決定及び労働者の配置に関すること 2時間
労働者に対する指導又は監督の方法に関すること  2.5時間
危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置等に関すること 4時間
異常時、災害発生時における措置に関すること 1.5時間
その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること 2時間
安全衛生責任者の職務等(安全衛生責任者と兼任する場合) 1時間

安全衛生管理者等に対する能力向上教育

使用者は、安全衛生業務担当者に対する能力向上を図るための教育・講習等を行うとともに、これを受ける機会を与えるように努めなければならないとされています(労安衛法19条の2)。また、この法律に基づき、教育に関する方針(平成元年5月22日付け公示第1号)が示されています。そこで、本項において詳細を解説していきます。

労働安全衛生法

(安全管理者等に対する教育等)第19条の2

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の教育、講習等の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導等を行うことができる。

対象者

能力向上教育を受ける対象者は、以下のとおりです。以下に挙げる対象者が初めて当該業務に就く際に、実施が必要となります(「能力向上教育指針」平成元年5月22日付け公示第1号)。

  • ・安全管理者
  • ・衛生管理者
  • ・安全衛生推進者
  • ・衛生推進者
  • ・作業主任者
  • ・元方安全衛生管理者
  • ・店社安全衛生管理者
  • ・その他の安全衛生業務従事者

講師

能力向上教育をするにあたり、担当する講師が必要となります。しかし、誰しもが講師になれるわけではなく、当該業務に関する最新の知識と、教育技法に関する知識及び経験を有する者と定められています。

能力向上教育の実施については、該当する講師がいるのであれば使用者自身が行うこともできますが、多くの場合は該当者がいないことから、安全衛生団体等に委託して行うことも可能とされています。どちらの方法で実施した場合にも、実施責任者を定め、実施計画を作成することが必要です。

教育の種類

能力向上教育における教育は、3種類に分けられています。

  • (1)初任時教育…初めて当該業務に従事することになったときに実施する教育
  • (2)定期教育…当該業務に従事することになった後、一定期間ごとに実施する教育
  • (3)随時教育…事業場において機械設備等に大幅な変更があったときに実施する教育

教育の内容・時間

上項で説明したそれぞれの教育の内容については、以下のとおりです。

  • (1)初任時教育…当該業務に関する全般的な事項についての教育
  • (2)・(3)定期教育及び随時教育…労働災害の動向、社会経済情勢、事業場における職場の変化等に対応した事項についての教育

能力向上教育は、原則として1日程度とされています。なお、能力向上教育の内容・時間は、教育の対象者及び種類ごとの安全衛生業務従事者に対する能力向上教育カリキュラムに定められており、従事する業務の種類ごとに用意されています。

労働者に対する健康教育

近年、仕事によってストレスを感じていたり、強い不安を抱いていたりする労働者が増加しています。そうした状況のなか、使用者は労働者に対して、健康教育や健康保持増進を図る措置をとるよう努めなければなりません(労安衛法69条)。健康教育とは、健康の保持・増進を目的とし、健康について学ぶだけではなく、一人ひとりが健康について意識し、自ら健康を獲得できるようにしていく取り組みです。

また、使用者だけに限らず事業場における産業医にも、健康教育や健康の保持増進を図るための措置を行うことが職務として定められているため、産業医による労働者への研修等を実施することも可能です。

健康保持増進措置(THP)とは

THPとはTotal Health promotion Planの略称で、厚生労度省が働く人の「心とからだの健康づくり」をスローガンに進めている健康保持増進措置のことを示しています。

健康保持増進措置内容としては、以下のような措置が想定されています。

  • (1)健康測定…産業医が中心となり、健康測定を行い、その結果を評価し、指導票を作成します。健康測定の一部に定期健康診断結果を活用することも可能です。
  • (2)運動指導…運動指導担当者が、運動指導プログラムを作成し、運動指導担当者及び運動実践担当者が労働者に対し、運動実践の指導援助を行います。
  • (3)メンタルヘルスケア…心理相談担当者が産業医の指示のもと、ストレスに対する気付きへの援助やリラクセーションの指導等を行います。
  • (4)栄養指導…産業栄養指導担当者が、労働者個人の食生活や食習慣の評価と改善の指導を行います。
  • (5)保健指導…産業保健指導担当者が、睡眠や喫煙、飲酒等の指導及び教育を行います。

安全衛生教育時の給与について

使用者は、労働者が当該業務に従事する場合、労働災害等の防止をするために、安全衛生教育を実施する必要があります(労安衛法60条)。この安全衛生教育は、使用者の責任において実施しなければならないため、原則、所定労働時間内に行わなければなりません。したがって安全衛生教育の時間は、労働時間と解されるため、もし労働時間外に行った場合は割増賃金を支払う必要があります

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