年次有給休暇の時間単位・半日単位付与の取り扱い

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
通常、労働者が年次有給休暇を取得する場合には、丸1日仕事を休むことになります。周囲への業務負担等の懸念から、休暇の取得を遠慮してしまう労働者も少なくありません。
そこで、このページでは、労働者の年次有給休暇取得率の向上、ひいてはライフワークバランスの実現を図るための制度として用いられる、【時間単位年休】(時間単位の年次有給休暇)、【半日単位年休】(半日単位の年次有給休暇)について解説していきます。制度の導入検討の一助になれば幸いです。
では早速、【時間単位年休】の概要からみていきましょう。
目次
時間単位の年次有給休暇
時間単位の年次有給休暇(以下、「時間単位年休」とします。)制度とは、本来1日単位での付与が原則である年次有給休暇について、労使協定を結ぶことにより、1年に5日の範囲内で、1時間単位での付与を認める制度のことです(労基法39条4項)。「分」単位等1時間未満での付与は認められません。
ただし、本制度の導入によって労働者に時間単位年休の取得を義務付けるものではありません。
時間単位年休のメリット・デメリット
時間単位年休制度の導入によって、労働者は、丸1日休むほどではない用事、例えば“病院へ行くために数時間だけお休みしたい”といった場合でも、休暇を取得しやすくなります。休暇を有効活用し、ライフワークバランスの実現が図れることは、労働者にとってのメリットですが、それだけではありません。その取組を対外的にアピールできることは、会社にとって社会的な評価を上げることにつながる大きなメリットといえます。
他方で、個々の労働者の年次有給休暇の管理や、給与計算が煩雑になる、時季変更権が認められにくいこと等がデメリットとしてあげられます。具体的に、時間単位年休の時季指定に対する時季変更権の行使が無効とされた裁判例を、次項で確認してみましょう。
時間単位年休に関する裁判例
【東京地方裁判所 平成5年12月8日判決、東京国際郵便局事件
東京国際郵便局の外国郵便課に勤務する職員である原告らが、所属する組合が計画した庶務会計課への要請行動に参加する目的で、年次有給休暇の1時間の時季指定をしました。しかし、原告らの上司は、原告らの時季指定どおりに年次有給休暇を与えることは、庶務会計課の“事業の正常な運営が妨げられる場合”に該当するものであるとして時季変更権を行使しました。本件は、その時季変更権の行使が無効かどうか争われた事案です。
裁判所は、時季変更権が行使できるかどうかは、当該労働者の所属する事業場を基準に判断すべきところであり、原告らがした1時間の年次有給休暇の時季指定によって、原告らが勤務する課において代替勤務者を確保したり、時間外勤務を命じたりしなければならない事態が予想されたわけではないため、時季変更権を行使した時点では業務支障の蓋然性があったと認めることはできないとしました。
また、時季変更権が行使できるかどうかは、労働者の年次有給休暇の取得目的によって決めるのではなく、当該労働者が年休を取得して労務の提供をしないこと自体によって“事業の正常な運営を妨げるかどうか”によって決すべきものであるとしました。そして、本件はその要件を欠いているとし、時季変更権の行使を無効と判断しました。
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時間単位年休を導入する際の手続き
時間単位年休制度の導入にあたっては、以下にあげる手続きが必要になります。踏むべき手続き、取り決めが必要な事項等、制度の導入の際に気を付けるべきことを順番にみていきましょう。
労使協定の締結
まず、使用者は、事業場の過半数で組織する労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、書面による労使協定を締結する必要があります。労使協定に定める内容としては、主に、①時間単位年休の対象労働者の範囲、②時間単位年休の日数、③時間単位年休1日の時間数、④1時間以外の時間を単位とする場合のその時間数といったものがあげられます。
なお、時間単位年休に関する労使協定は、労働基準監督署への届出が不要となっています。
就業規則への規程
次に、時間単位年休について労使協定に定めた内容や、時間単位年休制度を利用した場合の賃金額について、就業規則に記載する必要があります(労基法89条1項)。
なお、就業規則の変更の際には、[就業規則変更届]と、就業規則の変更に対する労働者代表の[意見書]を添付し、管轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません(労基法90条)。また、労働者へ周知させなければなりません(労基法106条1項)。
対象労働者の範囲
時間単位年休の対象とする労働者の範囲は、労使協定で定めます。一部の労働者を対象外とする場合は、その範囲についても定める必要があります。例えば、ライン作業に従事する労働者等、時間単位の年休の付与が“事業の正常な運営の妨げになる”と考えられる場合には、対象から除外することができます。
他方で、年次有給休暇の取得目的は労働者の自由であるため、例えば、育児を行う労働者等、取得目的を限定して対象労働者の範囲を定めることはできません。
時間単位年休の日数
年次有給休暇は、労働者にまとまった日数の休暇を取得させるものであるため、時間単位年休は、年間5日に相当する時間数を上限とした範囲内で与えることとし、労使協定に定めます。
なお、年次有給休暇の比例付与の対象となるパートタイム労働者等、付与日数が5日未満である場合には、その日数の範囲内で定めることとなります。
次年度への繰越しについて
未消化分の年次有給休暇は、次年度に繰り越されます。この場合でも、時間単位年休を取得させることができる時間数は、繰越分を含め5日が上限となるので注意しなければなりません。
なお、時間単位年休の取得によって、1日未満の端数が生じた場合について、端数を翌年に繰り越すのか、1日単位に切り上げて1日として当年度に与えるのか、その方法をあらかじめ定めておく必要があります。
時間単位年休1日の時間数
年次有給休暇1日分が、時間単位年休の何時間分に相当するかを労使協定で定める必要があります。
通常、①1日の所定労働時間に端数がない(例:7時間)ケースでは、所定労働時間数を基に考えることになりますが、②所定労働時間に1時間未満の端数が生じる(例:7時間30分)ケースでは、切り上げて計算します。
つまり、①のケースの例では7時間、②のケースの例では8時間が、それぞれ時間単位年休1日分の時間数となります。また、時間単位年休の日数を5日に定めたとき、①7時間×5日=35時間、②8時間×5日=40時間が時間単位年休の上限になります。
所定労働時間に関する詳しい説明は、以下のページをご参照ください。
所定労働時間数が日によって異なる場合
日によって所定労働時間数が異なる場合、1年間の1日平均所定労働時間を基準にします。他方で、1年間の総所定労働時間数が決まっておらず、この方法で計算が困難であるときには、予定労働時間が決められている期間の1日平均所定労働時間を基準にします。
なお、各労働者の所定労働時間数が異なり、所定労働時間の指定によって対象の労働者が特定される場合は、労働時間ごとにグループ分けして基準とすることもできます。
1年の途中で所定労働時間が変更になった場合
例えば、時間単位年休1日の時間数(所定労働時間)が8時間、時間単位年休の日数が5日の定めとなっており、そのうちの2日と2時間を消化したとします。時間単位年休として消化できるのは残り2日と6時間となりますが、ここで所定労働時間を6時間に変更した場合はどうなるでしょう。
この場合、以下の例ように、時間単位年休1日の時間数が6時間となるのに比例して、時間数も変動します。
《変更前》2日(1日の時間数8時間)+ 6時間
《変更後》2日(1日の時間数6時間)+ 5時間(6/8×6時間※端数は切り上げ)
1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
1時間以外の時間を取得単位とする場合は、その時間数を労使協定で定める必要があります。例えば、2時間や3時間といった単位が考えられますが、1日の所定労働時間と同じ時間数、あるいはそれを上回る時間数を取得単位とすることはできません(労基則24条の4第2号)。また、30分等、1時間に満たない時間数も同様に認められません。
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時間単位年休が取得できない事業場への異動
労働者を時間単位年休の対象とされている事業場から、対象外の事業場へ異動させる場合の取扱いについては、あらかじめ労使間で取り決めておく必要があります。その取り決めの際は、“1日に満たない端数の取扱いについては1日単位に切り上げることとする”等のように、労働者の権利の阻害とならないようにする必要があります。
時季変更権との関係
時間単位年休のデメリットとして、時季変更権が認められにくいことをあげましたが、使用者が時季変更権を行使すること自体は可能です。時季変更権について、詳しくは以下のページに説明を譲ります。
半日単位の年次有給休暇
半日単位の年次有給休暇(以下、「半日単位年休」とします。)に関する定めは法律にはありません。そのため、使用者には労働者に対して半日単位年休を付与する義務はなく、翻って労働者に対してその取得を強制することもできません。
ただし、労働者が希望し、使用者が同意した場合、かつ、1日単位での取得の阻害とならない範囲の場合は、労使協定が締結されていなくても、半日単位年休の付与が可能です。
なお、半日単位年休制度を導入する際には、その旨就業規則に明記しておく必要があります。加えて、半日単位年休を与える日の始業、終業時刻も、就業規則に明示しておく必要があります(労基法89条1項)。
半日単位年休の上限日数
半日単位年休の取得日数について、法律上の制限はありません。しかしながら、労務管理も煩雑になり、まとまった労務提供を受けることに支障が生じます。そこで、例えば5回や10回までというように、会社が独自に上限を設け、就業規則に定めて運用することは何ら問題ありません。
半日単位年休に関する裁判例
【東京地方裁判所 平成7年6月19日判決、学校法人高宮学園事件】
原告らは、当日午後の半日単位年休について、「私事都合」として午前中の勤務終了間際に請求、取得し、所属する組合活動を行う等したところ、被告は後日になって、本来の有給休暇の目的趣旨に反する休暇であるとして原告らを半日欠勤の扱いとした事案です。本件では、主に原告らの半日単位年休の有効性が争われました。
半日単位年休について、裁判所は、“使用者が進んで半日単位年休を付与する取扱いを妨げるものではない”、したがって、労働基準法上、半日単位年休が禁止されているわけではないという判断をし、“被告では、半日単位年休を認める旨の明文規定を置いていないが、労働者にとって便宜であるとの理由から既に確立した労働慣行となっていることが認められ、労使間の労働契約において、半日単位年休の要件や効果は、1日単位での年休と同様のものとする旨約定された”、つまり、被告には半日単位年休の制度が存在していたと判断しています。
また、本件時季指定権の行使は時季指定権の濫用、又は就業規則の定めに違反するか否かという点について、裁判所は、“被告は請求を受けた日の午後までに時季変更権を行使しておらず、本件半日単位年休は有効に成立したものと認めるのが相当である”と判断し、“休暇の取得目的や利用結果を理由として後日これを取り消すことはできない”と判断しています。
「半日単位」の定義
(ア) 午前と午後とで区切る(例:午前3時間、午後5時間)
(イ) 所定労働時間を2等分する
半日をどのように区切るかについては、上記のような区分方法が考えられます。実務上は(ア)の方法で、昼休憩を挟んで午前休、午後休とすることが一般的ですが、この場合、午前休と午後休とで時間に不公平感が生ずるケースもあります。しかしながら、これは制度上免れ得ないものとされており、(ア)(イ)のどちらを採用する場合であっても、0.5日分の消化とカウントすることになっています。
時間・半日単位年休の賃金
時間単位年休、半日単位年休のいずれの場合も、1日単位の取得時と同様の方法で賃金額を算出します。具体的には、①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、②平均賃金(労基法12条)、③標準報酬日額(健保法40条。要労使協定)の3つの方法が考えられます。また、3つのうちどの方法で賃金額を算出するか、就業規則に明記されている必要があります。
年次有給休暇の賃金に関する詳しい内容は、以下のページをご覧ください。
残業による割増賃金
“実労働時間主義”を採用する労働基準法に照らせば、1日の実労働時間が法定労働時間(8時間)を超えたとき、2割5分の割増賃金が発生することになります。
時間単位年休、半日単位年休を取得した場合、残業をしたとしても実労働時間が8時間を超過しない可能性があります。その場合、基本的に割増賃金の支払いは必要なく、通常の時間単位の賃金を支払うことで対応します。
法定労働時間や割増賃金に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページをご覧ください。
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遅刻・早退時の取扱いについて
年次有給休暇は、原則として労働者からの申出を受けたうえで与えるものですから、労働者の遅刻・早退について、会社の一存で時間単位年休又は半日単位年休として扱うことはできません。労働者が遅刻・早退について時間単位年休又は半日単位年休とすることを希望し、会社が同意する場合にのみ、例外的にそのような扱いが認められます。
時間単位年休や半日単位年休の時季指定・計画的付与
時間単位年休や半日単位年休は、労働者が請求した時季に与えるものであるため、使用者による時季指定の対象とはならず、また、計画的付与の対象とすることもできません。
年次有給休暇の時季指定、計画的付与に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページをご覧ください。
時間単位年休制度と半日単位年休制度の並存
時間単位年休と半日単位年休の制度は、並存させることが可能です。
また、労働基準法に則り、労使協定を結んだうえで運用する時間単位年休と、法規定がなく、労使協定を結ばずとも付与が可能な半日単位年休では、それぞれ扱いが異なります。したがって、例えば労働者に半日単位年休を与えたとして、当該労働者の時間単位年休の残時間数に影響を及ぼすことはありません。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある