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企業で起こるパワハラ問題について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

パワーハラスメント(パワハラ)は、上司部下等、優越的な関係が多くみられる職場で発生するおそれが大きいハラスメントです。日々の生活のなかでも、多くの時間を過ごすことになる職場でパワハラが発生すれば、被害者はもちろん周囲の人のモチベーションが低下し、全体の生産性も下がってしまうおそれがあります。

したがって、百害あって一利なしのパワハラの発生を防止することは、企業の重要な課題といえます。本記事では、そもそもの前提となるパワハラの定義から、防止する方法や万が一パワハラが発生した場合の対処法等について解説します。

パワーハラスメント(パワハラ)の定義について

職場におけるパワハラとは、次の3つの要素をすべて満たすものであると定義されます。

職場において行われる、

  • 優越的な関係を背景とした言動であって、
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • 労働者の就業環境が害されるもの

「職場」とは、当該労働者が業務を遂行する場所(出張先や取引先の接待の場を含むケースもあります)をいい、「労働者」とは、事業主が雇用する全労働者をいいます。

「優越的な関係を背景とした言動」とは、例えば上司による言動や、業務の円滑な遂行のためには欠かせない立場にいる同僚または部下による言動同僚または部下からなる集団による言動等をいいます。

また、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」の具体例としては、業務上明らかに必要のない言動業務の目的から大きく離れた言動業務遂行の手段として不適当な言動社会通念に照らして許容されない態様や手段の言動等が挙げられます。

そして、「労働者の就業環境が害される」とは、社会一般の労働者が就業するうえで見過ごせないほどの支障が生じたと感じるような状況が生じることをいいます。

パワハラ防止法の概要

いわゆるパワハラ防止法とは、労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)のことをいいます。これは、従来の「雇用対策法」に「働き方改革」の理念を取り込み、改めて2019年4月1日に施行された法律です。雇用するうえでの対策について、特にセクハラやパワハラの防止に重点を置いて定められました。

しかし、現行の労働施策総合推進法には、企業(事業主)に対してパワハラ対策を義務づける規定はなく、十分にパワハラを防げるものとはいえませんでした。そこで、2019年6月5日に労働施策総合推進法が改正され、2020年6月1日に施行(中小企業については2022年3月末までは努力義務)されることになりました。

改正された労働施策総合推進法では、パワハラを定義するとともに、事業主に対して、当該定義に該当する行為を防止する措置を講じることを義務づけました(労働施策総合推進法30条の2第1項)。また、パワハラ被害者を不利益に取り扱うことを禁止する、被害者を保護する規定も設けられました(同法30条の2第3項)。なお、事業主が講じるべき措置の指針に関しては、厚生労働大臣が、労働政策審議会の意見を聴いたうえで公表する旨を定めているとおり、令和2年1月15日に厚生労働省告示第5号として公表されました(同法30条の2第3項、4項、5項)。

労働施策総合推進法
(雇用管理上の措置等)第30条の2

1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

4 厚生労働大臣は、指針を定めるに当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。

5 厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。

6 前二項の規定は、指針の変更について準用する。

法律上の罰則規定

改正された労働施策総合推進法には、事業主がパワハラ防止措置を講じる義務(労働施策総合推進法33条の2第1項)に違反した場合の罰則規定はありません。

しかし、厚生労働大臣には、労働施策総合推進法の施行について必要がある場合に、事業主に対して「助言、指導又は勧告」することができる権限が認められています(同法33条)。

また、勧告に違反した場合には、公表措置をとることができるとも定められていますので(同法33条第2項)、勧告等を受けることのないよう、しっかりとパワハラ防止措置を講じましょう。

パワハラの類型

パワハラの累計

パワハラにならない適切な指導とは

職場におけるパワハラの定義からわかるとおり、客観的に、「業務上必要かつ相当な範囲で行われていると判断できる適正な業務指示や指導」は、職場におけるパワハラとはみなされません。

パワハラと指導では、目的や業務上の必要性、行為者の態度、それをすることによって誰に利益が生じるか等、様々な点に違いが出てきます。人事院作成の「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」では、下図のようにパワハラと指導を区別しています。

パワハラの累計

もっとも、パワハラには様々な態様のものがあるので、個別の事例ごとに、事情を総合的に考慮して判断する必要があります。

パワハラ問題での企業の民事責任

企業内でパワハラが発生すると、事業主には使用者責任や債務不履行責任等の損害賠償に関する民事上の責任が発生するおそれがあります。

企業が行うべき事前対策

発生してから事後的に対策するのでは、パワハラによる悪影響を防ぐことはできません。事前対策を十分にしておけば、万が一パワハラが発生したときにも、再発防止措置を講じやすいので、できる限りしっかりとした事前対策をしておきましょう。
(なお、派遣労働者に関しては、派遣元事業主と派遣先事業主の双方が、パワハラ防止措置を講じる義務を負うので注意が必要です。)

次項より具体的な方法を説明していきます。

企業内への周知、啓発

まず、事業主が、「企業内でのパワハラ行為を許さない」という姿勢を明確に示して企業内に周知し、パワハラをしてはならないという労働者の意識を啓発しましょう。社内全体に対してトップメッセージを発する方法や、朝礼等で周知する方法をとっても構いませんし、別に周知するための機会を設けても構いません。労働者の意識を啓発することは、パワハラが発生しにくい環境を作ることに繋がります。

社内調査

管理職やその他の労働者に向けた社内アンケート調査を実施することも、パワハラの防止に有効です。アンケートには、「パワハラ被害を受けた経験の有無」、「パワハラを目撃した経験の有無」、「パワハラの内容」、「解決したか否か、解決した場合はどのような手段を講じたのか」といった項目を設け、匿名で回答を募ります。また、できれば定期的に実施することをお勧めします。

なぜなら、定期的に現状を把握することで、随時適切な対策を講じることができますし、パワハラはしてはならないものだという労働者の意識も強まると考えられるからです。

相談窓口の設置

企業内には、パワハラをはじめ、ハラスメントについて相談できる「相談窓口」を設置し、労働者にその存在を広く知らせることが適切です。

相談窓口の担当者には、定期的に研修や講座等を受ける機会を与え、適切な相談対応の方法を学ばせるとともに、将来的にパワハラが発生しそうなケースやパワハラに当たるか微妙なケース等の相談についても、幅広く受け付ける必要があるということを周知しましょう。

なお、弁護士やハラスメント対策に強いコンサルティング会社等を窓口とした「外部相談窓口」を設置することも、パワハラ防止に有効です。ただし、プライバシーに関しては守られる一方、迅速に社内の状況を把握してもらいにくいというデメリットがあります。そこで、企業内の相談窓口を設置する際に、必要に応じて、産業医や保健師といった外部の専門機関とも連携できる体制を整えておくことをお勧めします。

社内研修の実施

パワハラを防止する措置のなかで最も一般的かつ効果的だと考えられるのが、社内研修を実施することです。研修の効果をより高めるためにも、管理監督者とその他の労働者とを分けた階層別の研修を、定期的に、できる限り全労働者を参加させるように実施すると良いでしょう。

また、研修内容に、「パワハラを禁止する」という事業主の強いメッセージを含めるとともに、パワハラを防止するための企業内のルールや取組みの内容について、具体例を挙げて盛り込むとさらに効果的です。

就業規則による規律の充実

パワハラを防止するためにも、就業規則(労働条件や働くうえでのルールについて定めたもの)にパワハラを禁止する規定を設けることが重要です。例えば、懲戒処分の根拠となる規定を設け、パワハラがその対象となることを定めておくことで、パワハラ加害者に適切な処分を下すことができるようになるため、パワハラ防止の実効性が生まれます。

また、被害者が安心して相談や申告ができるように、不利益取扱いの禁止についても規定したうえで、周知および啓発をすることで、早期発見にも役立つと考えられます。

パワハラが発生したときの対応

パワハラが発生してしまった場合、企業には迅速かつ適切に対応することが求められます。では、具体的にどのような対応をすれば良いのでしょうか。次項より説明します。

事実確認

パワハラについて相談を受けた相談窓口の担当者は、まず、パワハラが実際に行われたのかどうか、迅速かつ正確に事実を確認します。このとき、被害者からの聴取においては、被害者の心身の状況等に配慮しながら、丁寧かつ慎重に事実確認を行うことが求められます。

なお、自企業では事実確認が難しい場合は、各都道府県労働局による調停等、の他の中立な第三者機関に紛争処理を委ねさせることも選択肢に入れましょう。

加害者への処分

パワハラが行われた事実が確認できた後は、加害者に処分を下すことになります。具体的には、就業規則等に基づいた懲戒処分等を行うことに加えて、被害者の意向に沿った措置(配置転換や関係改善に向けた援助等)をすることが求められます。

なお、懲戒処分に関する詳しい説明については、下記の記事をご覧ください。

懲戒処分

プライバシーの保護

事実確認やハラスメントの再発防止を啓発する際に、被害者や加害者、目撃者等の第三者が特定されることがないよう、関係者のプライバシーに配慮しなければなりません。なぜなら、相談内容や調査内容に関する情報が漏れて噂が流れるような事態になった場合、2次被害や3次被害が発生してしまうおそれがあるからです。

パワハラがもたらす影響

パワハラは、被害者の心の健康を害し、休職や退職といった事態を引き起こすおそれがある行為です。また、それだけでなく、職場環境を悪化させて生産性を低下させるとともに、退職者を増加させる等、人材の損失を招くリスクがあります。さらに、企業イメージの悪化によって社会的信用が損なわれたり、ケースによっては損害賠償による経済的損失が発生したりすることがあります。

なお、この問題について扱ったコラムもあるので、併せてご覧いただければと思います。

ハラスメントが企業経営に及ぼす悪影響

パワハラに関する判例

職場で発生したパワハラについて、企業(事業主)に法的な責任を認めた裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成22年1月29日判決】

事件の概要

Y1(被告会社)の契約社員であったX(原告)が、配属された部の所属長であったY2からはパワハラを、直接の上司であったY3からはセクハラおよびパワハラを受けたとして、それぞれに対して不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うとともに、Y1に対しても、Y2、Y3の不法行為についての使用者責任と、雇用契約に付随する義務違反による不法行為責任または債務不履行責任を追及し、損害賠償を請求した事案です。

裁判所の判断

1 Y2の不法行為の成否について

Y2は、業務上パソコンの使用が必須である部に、パソコンに対する能力が不足したまま配属されたXが、派遣スタッフらとの人間関係がうまくいかず、満足な指導を受けられていないことを知り得る状況にあったにもかかわらず、会議の席上で、厳しくXの仕事ぶりを揶揄し、金員を要求するような言動をしたり、退職を勧めるような言動をしたりしました。この言動について、裁判所は、Y2の立場や言動がなされた時のXの状況を考慮すれば、あまりに不適切であり、たとえY2がXを鼓舞する意図であったとしても、不法行為を構成するという判断を左右しないと考えました。そこで、当該言動は社会的相当性を欠き、不法行為を構成するとして、Y2に損害賠償責任を認めました

もっとも、Xが主張するY2のその他のパワハラ的言動については、Xが供述するのみで証拠がないため、存在を認めませんでした。

2 Y3の不法行為の成否について

Xは、Y3からセクハラやパワハラを受けたと主張しましたが、Xの供述は抽象的もしくは証拠がない、またはそもそも業務として社会的相当性を逸脱するとはいえないため、不法行為であるとは認定しませんでした。そのため、XのY3に対する損害賠償請求は退けられました。

3 Y1の不法行為責任または債務不履行責任の成否について

①使用者責任について

Y2の不法行為は、勤務時間中に職場で、Y2の職務行為として行われたものであるため、使用者であるY1は、当該不法行為によってXが被った損害について賠償する責任を負うと判断しました

②労働契約に付随する義務について

雇用主であるY1には、労働契約上の付随義務として、業務について十分な指導を受けたうえで就労できるよう職場環境を保つ義務があるため、同僚との人間関係をうまく形成できず、十分な指導を受けることができない状況にあったXに対しても、当該義務を果たす必要がありました。しかし、Y2は叱咤激励や行き過ぎた叱責をするばかりで、Y3にしても習熟度が低いと評価するだけであったため、Y1が当該義務を尽くしていたとは認められず、その結果Xは損害を被ったとして、Y1には損害賠償責任があると認めました

4 損害について

不和の状況やY2の不法行為の態様、不法行為が行われた期間および原告に現れた症状等を総合考慮し、慰謝料として50万円を認めました。

【富山地方裁判所 平成17年2月23日判決、トナミ運輸事件】

事件の概要

Y(被告会社)の労働者であるX(原告)が、Yがヤミカルテルを締結していることを内部告発したところ、不当な異動や昇格の停止等の不利益な取扱いを受けたとして、雇用契約上の義務違反を理由に、債務不履行責任または不法行為責任を追及した事案です。

訴訟では、内部告発の正当性や不利益取扱いの有無、Yの責任の有無、損害との因果関係が争われました。

裁判所の判断

1 内部告発の正当性について

告発した事実が真実あるいは真実であると信じるに足りる合理的な理由があり、告発の内容にも公益性が認められ、告発自体も公益を実現する目的で、不当とまでは言えない方法でなされていることを総合考慮した結果、法的保護に値する正当な行為であると判断しました。

2 内部告発を理由とする不利益取扱いについて

事実認定の結果、Yは、Xの内部告発に対する報復として、①退職強要行為をしたこと、および②Xを異動させたうえで③業務上の必要もないのに他の労働者と隔絶された個室に席を置き、④それまで営業の一線で働いていたXを極めて補助的で特に名目もない雑務に従事させ、⑤約17年にわたって昇格させないという不利益な取扱いをした事実を認定しました。

ただし、Xに対する処遇を見直す動きがうかがわれる機運のあった時期に、主として休日が変更になることを理由にXが異動を拒否したこと、Yが提案した移動先を一蹴し、希望する移動先を聞かれても現実的でない希望を述べたこと等、不利益に評価されてもやむを得ない事情もありました。したがって、その時期以後の不利益な取扱いについては、基本的に内部告発を理由とするものではあるものの、Xに対する正当な評価に基づく部分も含まれていると認められるので、因果関係や損害額の算定の際に考慮するべきだと考えました。

3 Yの責任について

人事権は、その性質上、相当程度使用者の裁量に委ねられるものの、合理的な目的の範囲内かつ法令や公序良俗に反しない限度で行使されるべきだと考えられます。また、人事権が公正に行使されることを期待する労働者の利益は、法的保護に値するものであると解されます。

この点、Xがした内部告発は法的保護に値する正当な行為なので、人事権を行使する際に、内部告発したことを理由に不利益な取扱いをしてはならず、また、Xが有する、正当な内部告発によっては差別的な処遇を受けることがないという期待的利益も守られるべきだといえます。

しかし、Yは上述のとおり、①~⑤等の不利益な取扱いをし、Xの期待的利益を侵害したので、不法行為に基づく損害を賠償する責任を負うと判断しました。

また、使用者は、信義則上、雇用契約の付随的義務として、人事権を公正に行使する義務を負っているというべきだと解されます。しかし、YはXの正当な内部告発を理由に差別的な処遇①~⑤をしたので、裁判所は、債務不履行に基づく損害賠償責任も認めました。(不法行為責任と債務不履行責任の両方が認められる場合、どちらを理由に損害賠償請求をするかは選択することができます。)

4 損害について

1~3の事情を総合考慮し、次のように判示しました。

・精神的損害に対する慰謝料:200万円
・財産的損害に対する賠償金:1046万7182円

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