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年俸制を導入するにあたって注意すべきこと

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

成果主義である年俸制を導入する場合、評価の基準や、評価した結果が年俸額に反映されるまでのルールを明確にしておかなければ、労働者に“不公平”な賃金体系である印象を与えかねません。

制度の導入後、労働者に不利益となる結果をもたらさないよう、また、会社側にとっても有益な制度の導入となるよう、会社が注意すべきことをこのページで確認していきましょう。

年俸制の導入

新たに年俸制を導入する会社では、これまでの賃金制度を変更することになりますから、就業規則等の変更が必要です。

また、年俸制の導入により、労働者の労働条件は変更されることになるので、適用するためには年俸制の対象となる労働者個人の同意が必要とされています。

以降、「年俸制」導入のメリット・デメリットについて説明していきますので、先に「年俸制」の概要について確認しておきたいという方は、以下のページをご覧ください。

年俸制について

年俸制のメリット・デメリット

年俸制導入による、会社側のメリット・デメリットをいくつか紹介します。自社へ導入することが適切かつ有益な制度かどうかを検討する参考材料のひとつとして確認してみてください。

メリット

  • 年間の人件費の見通しがたつため、経営計画が立てやすい
  • 成果・能力に伴って支給額が決められるため、労働者のモチベーションアップにつながる
  • 目標管理制度と合わせることで、労働者の会社内での役割・適性を明確にすることができる

デメリット

  • 年俸額決定時に見込んだ成果が得られなくても、年度中に減額・変更することができない
  • 会社の業績より個人の成果に比重が置かれ、かつ短期的な視点で業務が行われるおそれがある
  • 成果主義では、明確な評価基準を設けていないと、労働者に不信感・不満を抱かせてしまう

年俸制導入の過程

会社は、主に以下のプロセスをたどって年俸制導入の準備を進めるとともに、これらを就業規則の賃金規程等に、明確に記載します。

  • 適用対象者の選定(例:「上級管理職」、「裁量労働制の対象となる専門職」等)
  • 年俸制の構成要素(例:「基本給部分」+「賞与部分」等)
  • 人事評価制度の整備(詳細➡項目6
  • 目標管理制度の確立(詳細➡項目7
  • 年俸額の決定方法(詳細➡項目8

就業規則の変更

賃金の決定方法は、就業規則に絶対に定めなければならない事項(労基法89条)とされています。そのため、新たに年俸制を導入するためには、就業規則の賃金規程を変更し、かつ労働基準監督署に届け出る必要があります。

ほかにどんなルールが“絶対に定めなければならない事項”にあたるのか、詳しくは以下のページをご覧ください。

就業規則に必須の内容と業種ごとの注意点

もっとも、就業規則の変更手続は会社側の一存でできるものではありません。変更について労働者の過半数代表の意見を聴くこと(労基法90条)、そして変更後の就業規則は労働者に周知すること(同法106条)が、会社の義務となっています。

“労働者の過半数代表”が指すものや、労働者への具体的な周知方法についての詳しい解説は、それぞれ以下のページをご覧ください。

労働者の意見聴取
就業規則の周知義務と周知方法

労働条件の不利益変更

年俸制の導入の際には、“労働条件の不利益変更”が問題となります。

年功序列制度等から、成果主義の年俸制に賃金体系が移行する場合、支給額の決定における評価基準も変わるため、労働者にとって大切な労働条件である賃金が減額してしまうことも考えられます。このように、労働者に不利益となる労働条件の変更について、労働者本人の同意を得ることなく行うことはできないのが原則です(労契法9条)。

ただし、次にあげるいくつかの要素を考慮した結果、労働条件の変更が“合理的”といえる場合には有効な変更と判断される可能性があります(同法10条)。

  • 労働条件を変更する必要性
  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 就業規則変更後の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • そのほか、就業規則の変更に関連する事情

年俸制の導入あたって、賃金が大幅に減ってしまう労働者に対しては、完全に移行するまでの猶予期間を設けては調整手当を支給するなど、相応の経過措置を講じることで、労働条件の変更が“合理的”であると判断されやすくなる場合があります。

以下のページでは、“合理性”の5つの判断要素について、それぞれ詳しく解説しています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

合理性の判断要素

就業規則に定める事項

・年俸額の変更に関する事項
年俸の改定時期や、年俸の対象期間の途中に昇進や解任・降格により年俸の決定要素である職能・役職に変化が生じた場合、必要に応じて年俸額を改定できる裁量権等を規定します。

・年俸の決定に関する事項
基本年俸、業績年俸、諸手当等について定めます。年俸制度は、業績に応じて賃金を変化させるために導入されることがありますが、基本年俸を定めることで、一定の安定した金額を従業員に支給することができます。

・年俸の支払いに関する事項
支払日や支払い方法について定めます。また、賃金は、法律上毎月1回以上支払わなければならないため、年俸を12等分して毎月支給することが一般的です。こうした配分についても就業規則で定めます。

・その他の事項
割増賃金、賞与、欠勤控除、退職・休職時の取扱い、休暇中の賃金、休業中の賃金等について定めます。

労働条件の明示

賃金の決定等に関する事項は、絶対的明示事項とされており(労規則5条1項3号)、使用者が労働者と労働契約を結ぶ際(採用時)には、書面によって明示する必要があります(労基法15条)。

労働者の給与体系を年俸制に移行する場合、絶対的明示事項にあたる賃金の決定等に関する事項が変わることになるため、この場合にも、変更後の内容をなるべく書面にて明示することが望ましいでしょう(労契法4条2項)。

ほかにどんな事項が“絶対的明示事項”にあたるのかなど、「労働条件の明示」義務について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

労働条件の明示義務

人事評価制度の整備

年俸制のような、個人の業績を重視して賃金額が決定する成果主義的な賃金制度の導入にあたっては、労働者の納得が得られるような、透明性のある評価基準を開示し、明確なルールのもと、公正かつ客観的な人事評価を行うことが求められます。手続や評価基準などが不透明なまま人事評価を行うと、人事評価について裁量権を濫用している、あるいは公正評価義務に反しているなどと認定されかねません。

よって、評価について労働者から苦情があった場合のルールなども含めて、人事評価制度をきちんと整備しておく必要があります。

公正評価義務について

人事評価によって支給額が決定される年俸制などにおいて、会社は、公正な人事評価を行う義務(=公正評価義務)を負います。

目標管理制度の確立

年俸制は、「目標管理制度」をうまく運用できているかどうかがカギとなります。

「目標管理制度」とは、年度始めに、労働者本人が、所属部門の目標を踏まえて個人目標を設定し、年度末に、労働者本人と上司との面談によって達成度評価を行う一連の流れのことです。

この達成度評価をもとに次年度の年俸額を決定することになりますので、具体的かつ適正な目標の設定が重要であり、また、透明性のある評価基準のもと公正な評価が行われるための運用ルールを明確に賃金規程等に記載しておくべきでしょう。

年俸額の決定方法

年俸制に移行した最初の年度は、どのように年俸額を決定したら良いのでしょうか。

これは、年俸の構成要素にもよりますが、例えば、「基本給部分」+「賞与部分」=「年俸額」とした場合、年俸制の対象となる労働者の役職・職務等級・職能資格及び前年の賃金額を考慮して「基本給部分」を、また、前年までの賞与支給額を検討して「賞与部分」を決定し、合算した額を年俸とするといった方法が考えられます。

労使合意に至らない場合

労働者と会社の間で合意が成立しない場合には、以下の要件を満たせば会社側の裁量で年俸額を決定できるとされています(東京高等裁判所 平成20年4月9日判決、日本システム開発研究所事件)。

①年俸額決定のための過程が、制度化されて就業規則等に明示されること

②年俸額決定のための制度としては、成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が存在することにより、制度として合理的かつ公正なものであること

運用上の注意点

年俸制の対象者も労働基準法の規定が適用されます。年俸制の場合、1年間の支給額が決まっていますが、賃金には“毎月1回以上払いの原則”があるため、年俸額を12分割するなどして支払うことになります。また、管理監督者、裁量労働制の対象者、高度プロフェッショナル労働制の対象者等を除き、時間外労働等が発生したときは、割増賃金を支払う必要があります。

詳しくは、「年俸制」の基礎知識についてまとめたページ及び「年俸制」の残業代(割増賃金)にスポットを当てて解説したページをご覧ください。

年俸制について
年俸制における残業代の支払い義務

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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