特別休暇の「慶弔休暇」とは|付与日数や就業規則の規定について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
使用者は、労働者の心身の健康等のために適切に休暇を与える場合がありますが、そのひとつに、労働者本人や近親者の結婚・出産・不幸等を理由とする慶弔休暇を与えることがあります。なお、「慶弔」の読み方は「けいちょう」です。
新入社員等の従業員が、慶弔休暇は当然に有給で与えられると認識していると、誤解が原因となって不満を抱かれてしまうおそれがあるので注意しましょう。
本記事では、慶弔休暇について、取得できる者の範囲や日数、給与支払の必要性の有無等、導入する際に必要な就業規則の整備等を踏まえて解説していきます。
目次
慶弔休暇とは
慶弔休暇とは、お祝い事である「慶事」や、お悔やみ事である「弔事」の際に取得できる特別な休暇です。「結婚休暇」や「忌引き休暇」だけを設けているケースもあります。
法律によって付与することが義務づけられている年次有給休暇等とは異なり、慶弔休暇を付与する法律上の義務はありません。しかし、社員を大切にしていると伝えることや、ワークライフバランスを整えること等を目的として、多くの企業で制度化されています。
なお、慶弔休暇の制度がない場合には、従業員は代わりに年次有給休暇等を使用することになります。
特別休暇の概要や法定休暇との違い等、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
慶弔休暇の対象となる事由
慶弔休暇を取得できる対象となる事由として、以下のようなことが挙げられます。
- 従業員本人が結婚した
- 従業員の子供が結婚した
- 従業員の配偶者が出産した
- 従業員の親や配偶者、兄弟姉妹等が亡くなった
就業規則には、それぞれのケースについて、慶弔休暇を取得できる日数を定めておく必要があります。
慶弔休暇の対象者
法律上、慶弔休暇に関する規定はないため、慶弔休暇制度の利用対象となる労働者についても定められていません。したがって、例えば「1年以上勤続している正社員のみ取得できる」とする等、雇用形態や勤続年数によって制度の利用対象者を限定することも可能です。
パートやアルバイト等の非正規雇用の従業員や、入社したばかりの従業員の取り扱いについて、以下で詳しく解説します。
パート・アルバイトへの適用
パート・アルバイトの従業員がいる場合に、慶弔休暇の適用対象から除外することは可能です。ただし、就業規則によって、パート・アルバイトの従業員には慶弔休暇が付与されないことを規定しておく必要があります。
なお、同一労働・同一賃金が重視されるようになってきたため、非正規の従業員であっても、正規の従業員と同様の権利を与えるのが望ましいとされています。そのため、正規の従業員と同様の条件で労働しているパート・アルバイトに対しては、慶弔休暇を付与するのが望ましいでしょう。
入社して間もない労働者への適用
入社して間もなく慶事や弔事があった労働者から、慶弔休暇の取得を請求された場合には、就業規則の規定によって与えるか否かを決めます。
就業規則に「入社後○ヶ月以内の労働者は慶弔休暇を取得できない」旨を規定していれば、使用者は慶弔休暇を付与する必要はありません。
一般的に、半年~1年程度継続勤務している労働者に対して、慶弔休暇を取得できる権利を付与する企業が多くみられます。
慶弔休暇中の給料(有給・無給)について
慶弔休暇中の給料を支払うかどうかは、使用者の判断に委ねられます。ただし、就業規則に慶弔休暇の賃金の規定を設ける際には、注意が必要です。
もしも、あらゆる従業員について慶弔休暇の取得を認め、特に適用範囲を限定せずに「慶弔休暇は有給とする」と定めた場合には、従業員の雇用体系にかかわらず、慶弔休暇を取得した日の給料を支払う必要が生じます。
また、一般的には慶弔休暇を有給とする企業が多いので、賃金の支払について明記せずにいると、従業員が“有給扱いされるもの”と誤認するおそれがあります。慶弔休暇を無給とするのであれば、就業規則にその旨を明記するようにしましょう。
慶弔見舞金の支給
「慶弔休暇」の他に、「慶弔見舞金」の制度を導入している企業もあります。慶弔見舞金とは、労働者やその近親者の慶事・弔事に対して、使用者が支給するお金をいいます。慶弔休暇と同じく、法定の制度ではありませんが、支給する場合は、見舞金の種類や金額に関して就業規則に定めておきましょう。
結婚祝金 | 従業員又は従業員の子が結婚したときに支給する(3~5万円) |
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出産祝金 | 従業員又は従業員の配偶者が出産したときに支給する(1万円) |
死亡弔慰金 | 従業員や従業員の近親者が亡くなったときに支給する(100~3000万円) ※死亡したのが業務中か業務外かによって、金額は大きく変動する |
傷病見舞金 | 従業員が病気や怪我等で入院する等、欠勤したときに支給する(10~50万円) |
災害見舞金 | 従業員が自然災害や人為的災害(火災・事故等)の被害に遭ったときに支給する(2~5万円) |
慶弔休暇の日数
慶弔休暇の日数は、企業が自由に定めることができます。一般的には、慶弔の事由や労働者との関係性に応じて、付与日数が定められます。
具体的に何日付与するかは、企業によって異なるため一概には言えませんが、以下の日数を付与するのが平均的なようです。
本人が結婚した場合 | 3~5日 |
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子が結婚した場合 | 1~2日 |
配偶者が出産した場合 | 1~3日 |
0親等(配偶者)が亡くなった場合 | 7~10日 |
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1親等(父母、子、配偶者の父母)が亡くなった場合 | 5~7日 |
2親等(祖父母、兄弟姉妹、孫)が亡くなった場合 | 2~3日 |
3親等以上の親族が亡くなった場合 | 1日 |
慶弔休暇の起算日
慶弔休暇の起算日は、就業規則に規定されたとおりとするのが原則です。
もっとも、例えば近親者が亡くなった日と葬儀まで期間が空く場合、慶弔休暇の起算日によっては、葬儀の当日よりも前に慶弔休暇が終わってしまい、取得した目的が果たされないおそれがあります。いつから慶弔休暇を取得できるかに関しては、臨機応変に対応できるような制度にするのが理想です。
そこで、就業規則に起算日を明記して取得時期に関する無用なトラブルを防ぐとともに、臨機応変な対応ができるよう、「会社の承認がある場合には、例外を認める」といった規定を加えておくと良いでしょう。
慶弔休暇の有効期限
慶弔休暇は、その性質上、取得できる事由が発生してからある程度の期間内に付与することが望ましいので、就業規則で有効期限等を設定することをお勧めします。
一般的には、以下のような有効期限を設定する場合が多いです。
- 弔事休暇:近親者が亡くなった日から1週間以内程度
- 慶事休暇:従業員が結婚・出産等してから半年~1年程度
なぜ慶事休暇の有効期限が長めに設定されているのかというと、事由の発生する日(結婚式や出産日)が大幅に変更となる可能性があったり、必ずしも入籍・結婚式・新婚旅行を連続して行ったりするとは限らないため、休暇の期日を定めにくいからです。
慶弔休暇の分割取得
慶弔休暇は、「連続取得を原則としたうえで、使用者が認めた場合には分割取得を可能とする」というような柔軟な規定を設けておくと良いでしょう。
休暇を付与するときには、基本的に、就業規則に明記したとおりに付与することになります。特に定めがない場合には、原則として、休暇の起算日から連続して付与するべきでしょう。
もっとも、最近では、分割付与を希望する労働者も出てきているようです。このようなとき、特に就業規則に規定がない場合には、労働者からの請求に応じて分割して付与する必要があると考えられます。
土日など休日の取り扱い
慶弔休暇中に土日や祝日といった休日が挟まる場合には、使用者の判断によって含めないことが可能であり、どちらにするのか(慶弔休暇を暦日単位で付与するのか、労働日単位で付与するのか)について、就業規則に明記する必要があります。
導入時に必要な就業規則の策定
慶弔休暇を制度として導入するためには、企業内のルールについてまとめた就業規則に、取得条件をはじめとした規程を設ける必要があります。
具体的には、以下のような事項についての規定を設けます。
- 慶弔休暇に該当する事由
- 対象となる近親者の範囲
- 付与する休暇の日数
- 休暇中の賃金の取扱い 等
なお、新たに慶弔休暇に関する規定を設けた場合、変更した就業規則は行政官庁に届け出る必要があります。
また、慶弔休暇の制度をより実用的なものにするためにも、朝礼の場や社内報等で、労働者に当該制度について周知することが大切です。
慶弔休暇の申請に関する定め
慶弔休暇は、法律で定められた休暇ではないため、事前の申請を義務づけることが可能です。また、申請方法も企業ごとに定められます。労働者がスムーズに申請手続きを行えるようにするためにも、申請書のフォーマットを用意しておくと良いでしょう。
申請書のフォーマットは、使用者側が次の事項等を把握できる内容であれば問題ありません。
- 申請者名
- 申請理由
- 希望日程
- 連絡先
なお、特に弔事の場合、虚偽の事由による取得の申請が行われる事例が見受けられます。そのような不正を防止するために、証明書(会葬礼状や死亡診断書・火葬許可証のコピー等)の提出を求めることができます。
ただし、弔事は突然発生するため、休暇を取得する連絡のみを取得前に行わせ、正式な申請に関しては事後に行うことを認めるという運用にするのが良いでしょう。仮に、一切の証明書類が提出されないときには、欠勤扱いとする旨を定めることも不正防止に有効です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある