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裁量労働制

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

裁量労働制は、一律の労働時間管理に馴染まない業務を行う労働者に関して、当該労働者に対応した多様な働き方を実現するための仕組みです。本人の裁量によって1日の労働時間を管理することが生産性の向上のためにも有用であるということから、働き方改革でも注目されています。

有効に活用すれば使用者・労働者共にメリットの大きいものですが、注意しなければならない点やデメリットもあります。このページでは、裁量労働制の概要について詳しく解説していきます。

裁量労働制とは

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ一定の時間を定め、実際に労働した時間にかかわらず、定められた時間分を労働したとみなす制度です。適用できるのは、業務の進め方や労働時間管理に、自身の裁量が大きく及ぶ業務に就いている労働者のみです。

裁量労働制は、専門業務型と企画業務型の2つに分けられます。以下、それぞれの対象となる業務を説明します。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制の対象となる業務には、弁護士、公認会計士、建築士などのいわゆる士業だけでなく、テレビや映画のプロデューサー、編集者・記者、コピーライター、アパレルや工業製品のデザイナー、プログラマーなどの業務も含まれています。

ただし、単にこれらの業務に従事していることや肩書が与えられていることだけでなく、対象業務の遂行の手段、及び時間配分等の決定に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないことが裁量労働制の対象となるための条件になっています。例えば、プログラマーの職に就いている労働者であっても、業務の進め方や時間配分の決定について実質的には本人に裁量権がない場合、裁量労働制の対象となる業務であるとは認められないこともあります。また、導入に関しては労使協定の締結が必要になります。

対象業務

専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、法令で19業務が指定されています(労働基準法施行規則24条の2の2及び平成9年労働省告示第7号)。

  • (1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • (2) 情報処理システムの分析又は設計の業務
  • (3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組若しくは有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送の放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
  • (4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • (5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • (6) コピーライターの業務
  • (7) システムコンサルタントの業務
  • (8) インテリアコーディネーターの業務
  • (9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • (10) 証券アナリストの業務
  • (11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • (12) 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  • (13) 公認会計士の業務
  • (14) 弁護士の業務
  • (15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  • (16) 不動産鑑定士の業務
  • (17) 弁理士の業務
  • (18) 税理士の業務
  • (19) 中小企業診断士の業務

企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制に当てはまらない業務に就く労働者でも、企画業務型裁量労働制の対象であれば、裁量労働制を採ることができます(労基法38条の4)。

企画業務型裁量労働制は、企業で働く労働者のなかで『事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務(前出同法同条、及び平成11年12月27日労働省告示第149号)』に従事している者を対象としていますが、専門業務型裁量労働制よりも、適用対象として導入するための要件はより厳しく設定されています。また、導入にあたっては、労使委員会の設置と決議が必要な点に注意しなければなりません。

対象業務

企画業務型裁量労働制の適用対象は、業務内容、事業場の性格、労働者の資質の3点から判断されます。

また、対象となる業務は労働基準法で以下のように定められています。

労働基準法

第38条の4第1項1号

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務

具体的には、企業において、経営企画、人事・労務、財務、広報、営業、生産管理といった事業の運営に大きく影響する部署で、企画・立案・調査及び分析の業務を担当している労働者が対象となります。

専門業務型裁量労働制の場合と同様、単にこれらの業務を担当しているだけでなく、『対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと』が裁量労働制の対象となるための条件として定められています。

これに伴って、企画業務型裁量労働制の導入の対象となる事業場も、本社などの重要拠点や、独自の裁量で経営上の大きな決定が可能な支社や支店に限定されています。

さらに、従業員の資質についても『対象業務を適切に遂行するための知識、経験などを有する労働者』という限定もあります。『適切に遂行するための知識、経験』としては、3年ないし5年程度の職務経験を目安とすることが指針とされています(平成11年12月27日労働省告示第149号)。

他の制度との違い

みなし労働時間制

事業場外のみなし労働時間制は、労働基準法38条の2に定められており、専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制とは異なる制度です。

「みなし」という点では共通していますが、みなし労働時間制は、事業場外の業務が多い営業職や、出張が多い労働者等、「実労働時間を算出するのが難しい」労働者を対象として労働時間算定の便宜を図るための制度であり、適用対象が異なります。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、1日単位ではなく、最長3ヶ月以内の一定期間における総労働時間を定め、労働者はその時間内で日々の始業・就業時刻を自由に定めて働く制度です。

時間配分が自由であることなどには共通点がありますが、裁量労働制は実態と関係なく、労使協定又は労使委員会の決議で決定した時間分を働いたと「みなす」制度です。一方、フレックスタイム制は、定められた総労働時間のなかで始業・終業時刻が自由となる制度であり、労働時間の「みなし」などはしないこととなっています。

なお、フレックスタイム制については以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

フレックスタイム制の仕組み

裁量労働制における時間外労働の取扱い

裁量労働制は、実態と関係なく、1日の労働時間を労使協定又は労使委員会の決議で決定した時間分を働いたと「みなす」制度なので、時間外労働を気にする必要はないと思われるかもしれません。しかし、注意しなければならない点が2つあります。

ひとつは、労働契約においてみなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超えた場合、その時間分は時間外労働とみなされることです。例えば、みなし労働時間を9時間としていた場合、1時間分は時間外労働として扱われます。

もうひとつは、裁量労働制においても深夜労働や法定休日労働に対する割増賃金規定が適用される点です。例えば、裁量労働制の適用対象者が深夜に業務を行った場合、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

使用者の責務

裁量労働制の導入にあたって、使用者は健康及び福祉を確保するための措置や、苦情の処理のための措置も、労使協定や労使委員会の決議で定めた通り具体的に実施する必要があります。

以下で、裁量労働制を導入した使用者が果たさなければならない責務について説明します。

医師の面談指導を義務づけ

健康及び福祉を確保するための措置として、産業医・産業保健制度を活用することが重要となります。

裁量労働制が適用される労働者が、実労働時間で月80時間を超える時間外労働・法定休日労働をしている場合、その旨を通知して、労働者が申し出た場合には医師による面接指導を実施することが義務づけられています。

苦情処理措置

使用者は、裁量労働制の適用対象者のために苦情処理の措置を行わなければなりません。

具体的には、総務などの部署に苦情処理の窓口を設置し、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を明らかにすることが重要です。また、窓口の設置に際しては、利用しやすいよう人事担当者以外のスタッフを配置するなどの配慮をすることが望ましいでしょう。

労働時間の把握

2019年4月の労働安全衛生法の改正により、専門業務型・企画業務型裁量労働制の適用対象者に対しても、一般の労働者と同じく、使用者は労働時間を把握することが義務づけられました。<医師の面談指導を義務づけ>においても説明しましたが、実労働時間が月80時間を超えている労働者に対して、使用者はその旨を伝え、申し出があれば産業医との面談を実施する必要があります。

裁量労働制導入の流れ

裁量労働制の導入にあたっては、労使協定の締結や労使委員会の設置、労働基準監督署長への届出などの手続が必要になります。

裁量労働制のメリット

成果を期待できる

裁量労働制を導入することのメリットのひとつは、労働者に業務の遂行の方法や時間配分に関する裁量を与えることによって、業務への責任感やモチベーションが向上し、従来の働き方では実現できなかった大きな成果が期待できることにあります。

裁量労働制は、労働に時間的な量ではなく、質ないし成果を期待して報酬を支払うことを可能にするために整備されたものですので、有効に活用すれば、使用者、労働者の双方に大きなメリットがあります。

人件費が予測しやすい

裁量労働制では、一般的な働き方で生じる時間外労働に対する割増賃金(残業代)など、変動しやすい要因を考慮に入れる必要がほとんどありません。使用者にとって、月々にかかる人件費が予測しやすくなることは、裁量労働制を導入する大きなメリットとなり得ます。

ただし、裁量労働制を採っても、深夜労働や法定休日労働に関する割増賃金規定は除外されないことにご注意ください。<参考:裁量労働制における時間外労働の取扱い>

裁量労働制のデメリット

導入の手続が複雑

裁量労働制は、専門業務型にしろ、企画業務型にしろ、導入のためには労使協定の締結や、労使委員会の設置など、一定の手続を行うことが要件となっています。手続に不備があれば、裁量労働制が無効となるおそれもあります。また、実施後も就業規則の改定や、苦情処理窓口の設置、労働基準監督署への報告なども行わなければなりません。これら多くの手続を行わなければならないこと、またその煩雑さは、裁量労働制を導入するうえでのデメリットといえるでしょう。

過重労働となるおそれ

裁量労働制のもとで働く労働者は、多くの場合、その専門性や職務経験から成果を出すことが期待されていますが、このような環境下で働く労働者は、過重労働となってしまう傾向にあります。

過重労働による健康被害が起こらないようにするためにも、実労働時間の把握や、定期的な健康診断、ストレスチェック、医師の面談指導などを確実に実施することが必要です。

組織づくりが進まないおそれ

裁量労働制のもとでは、労働者が労働時間の配分を自身の裁量で行えるメリットがあります。しかし、裏を返せば労働者同士がコミュニケーションをとる機会が少なくなることを意味しています。使用者として意図する組織づくりが進まなくなることは、デメリットになり得ます。

裁量労働制を導入した後も、労働者同士が組織のなかで良好なコミュニケーションを維持できるような仕組みづくりが必要になります。

違反した場合の罰則

裁量労働制においても、休憩や休暇についての規定は適用されます。また、裁量労働制に労働者が同意しない場合に、当該労働者を解雇したり、降格したりするなどの不利益取扱いをすることも許されません。

導入にあたって必要な手続に瑕疵がある場合や、裁量労働制の適用対象者に、実際には業務の進め方や時間配分などの裁量が与えられていない場合、裁量労働制が無効になるケースもあります。

これらの場合、さかのぼって割増賃金の支払いが命じられたり、労働基準監督署から行政指導を受けたりするおそれがあります。

働き方改革では適用範囲拡大が見送り

2019年4月から順次施行されている働き方改革関連法では、当初、裁量労働制の適用範囲拡大も視野に入れた法案の提出が見込まれていました。労働生産性の向上などを目的としたものでしたが、実質的には人件費の抑制にしかならないといった批判を受け、安倍政権下の働き方改革では見送られることとなりました。

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