未払い割増賃金に付される遅延損害金・付加金について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働基準法では、法定時間外、法定休日、深夜に労働者を働かせた場合、使用者は割増賃金を支払わなければならないと定められています。
この割増賃金の支払いを怠ると、遅延損害金や付加金の支払いを命じられるおそれがあります。
このページでは、割増賃金にかかる遅延損害金・付加金について詳しく解説します。
目次
未払い割増賃金請求における遅延損害金と付加金
割増賃金を含む賃金全般(賞与、退職金等も含む)が未払いの場合、支払いが遅延しているあいだの利息に相当する、「遅延損害金」が発生します。
また、割増賃金や休業手当、有給休暇に対する賃金、解雇予告手当が未払いの場合、裁判で悪質だとされれば、制裁措置として割増賃金分と同額の「付加金」の支払いが命じられることもあります。
割増賃金の概要に関しては、以下のページで解説していますので、ぜひご一読ください。
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遅延損害金について
割増賃金が未払いである場合、本来支払わなければならない日の翌日から計算して、支払いが遅延している期間の利息に相当するものとして、使用者は遅延損害金を支払わなければならない義務を負います。賃金は債権の一種ですので、決められた期日に支払わなければ、債務不履行として遅延損害金が発生します。
利率に関しては、商法514条で『商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年6%とする』と定められていましたが、商法514条は2020年4月の民法改正に伴い削除されており、現在は民法上の法定利率と同じ3%となっています。
遅延損害金の計算方法
割増賃金にかかる遅延損害金の計算方法は、未払いである割増賃金の額に、利率と、遅延している日数を掛け、日割りにして算出します。
例えば、6月25日に支払われるはずだった未払いの時間外労働分の割増賃金(残業代)5万円を、在職中の7月31日に請求するとします(退職後の場合は利率が変わります)。
計算式は、
5万円(割増賃金)×0.03(利率)×36日(遅延日数分)÷365日=148円(小数点以下切り上げとする場合)
となり、割増賃金にかかる遅延損害金は148円となります(小数点以下の扱いについては、労働基準法に明確な定めはありません。切り上げか、四捨五入が一般的です)。
なお、割増賃金自体の計算方法については以下のページで詳細に解説していますので、ぜひご参照ください。
遅延損害金の請求期限
遅延損害金の請求期限は、割増賃金と同じく、現時点では3年となります。
なお、割増賃金請求の消滅時効は、かつては2年とされていましたが、2020年4月の民法改正により、当面のあいだ3年とされました(今後、時期未定で5年となることが予定されています)。
遅延損害金を請求された場合
労働者から遅延損害金を請求された場合は、割増賃金を請求されたときとほぼ同じ手順で対応します。
以下のページで、割増賃金を請求された場合の対処法を詳細に解説していますので、ぜひご参照ください。
退職後の遅延利息
遅延損害金の利率は3%ですが、退職後の未払い期間の利率は、年14.6%と非常に高額になるおそれがあります。これは民法419条1項、賃金の支払の確保等に関する法律(以下、賃金支払確保法、賃確法)6条1項、同施行令1条、それぞれによるものです。
ただし、賃金支払確保法6条2項では、未払いがやむを得ない事由による場合は適用しないと定めており、これに該当する可能性があれば、当該利率の遅延損害金が適用されない場合もあります。
遅延利息の規定が適用されない場合
賃金支払確保法6条2項では、退職後の未払い割増賃金の遅延損害金利率は年14.6%という規定に関して、『賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合』という条件を満たす場合、その事由が存在する期間は適用しないとの定めがあります。
この「厚生労働省令」にあたる「賃金の支払の確保等に関する法律施行規則」では、具体例として、天災地変、使用者が民事再生・会社更生等の倒産手続を行っている場合、法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難な状況にあること、支払が遅滞している賃金の全部または一部の存否に係る事項について、合理的な理由により裁判所または労働委員会にて争い中であること等が挙げられています。
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付加金について
労働基準法
第114条(付加金の支払)
裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から五年以内にしなければならない。
付加金に関しては、労働基準法114条で上記のように定められています。20条は解雇予告手当、26条は休業手当、37条は割増賃金、39条は有給休暇に対する対価に関する規定となっており、これらが未払いの場合、労働者は裁判において、使用者に付加金の支払いを求めることができます。
ただし、裁判において付加金の請求は必ず認められるわけではなく、裁判所が、使用者による労働基準法違反の程度や態様、さらに労働者が受けた不利益の内容や性質等の諸般の事情を考慮して、支払い義務を認めるか認めないか、さらに義務がある場合の金額も判断することとなります。
付加金が認められる場合
付加金が認められる場合に関しては、労働基準法に明確な規定がないため、裁判所が裁判において判断し、判決で命じることができるという形態となっています。未払い賃金があれば必ず付加金の支払いが命じられるというわけではなく、どのような場合に命じられるのかも規定はありませんが、使用者の賃金未払いが悪質であると判断された場合に、制裁の意味合いで科されることが多いといえます。
付加金の請求が認められた事案として、原告3人が会社側に対し、時間外労働に対する割増賃金、付加金を請求した事案において、<大阪地方裁判所 令和元年11月1日判決>は、被告会社は給与明細に「固定時間外手当含む」と記載していたと主張したものの、毎月記載されていたという確証がないこと、通常の労働時間の賃金と割増賃金との「判別」を可能とするに足りるものではないこと、また、被告会社は賃金に時間外労働分が含まれていたことを原告は了承していたと主張するもののその裏付けはないこと等を指摘しました。
そのうえで、被告会社が時間外労働に対する対価を支払っていなかった事実、その根拠として挙げた主張内容及び性質、原告らが被った不利益としての賃金不払があった金額及びその期間、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、被告会社に対し、訴え提起日において支払日から2年以内の未払割増賃金額等と同一額の付加金の支払を命ずることが相当であると判断し、未払い割増賃金と同一額の付加金の支払いを被告会社に命じました。
付加金の額
付加金について定めた労働基準法114条では、『未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる』とされていますが、実際の裁判では、未払金と同額ではなく、その一部の金額のみ支払いを命じた裁判例もあります。
付加金の請求期限
労働基準法114条では、付加金の請求期限について『この請求は、違反のあつた時から五年以内にしなければならない』と定めています。
割増賃金の消滅時効は現状3年(2020年8月時点)ですが、労働審判や訴訟を提起することによって時効は中断します。しかし、114条但書に定められているのは付加金の消滅時効ではなく除斥期間ですので、付加金に時効の中断というものはありません。違反から5年が経てば、請求権は消滅します。
なお、割増賃金の消滅時効に関しては以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
労働者からの付加金請求について
任意交渉の場での付加金請求
付加金は、「裁判所」が「支払いを命じることができる」という性質のものです。ですから、未払い割増賃金があったとしても、裁判の判決において支払いを命じられない限り、支払い義務は発生しません。
例えば、任意交渉の場で労働者側の弁護士から付加金を請求されたとしても、支払いに応じる義務があるわけではありません。
労働審判での請求
労働審判とは、労働審判委員のあっせんによって労使間の紛争を図る制度です。労働審判は「裁判」ではないので、この場合も付加金の支払いが命じられることはなく、義務が発生することもないと考えられています。
ただし、訴訟に移行することを見越して、5年の除斥期間を守るために、労働審判手続申立書には付加金を請求する旨が記されていることが一般的です。
訴訟の場合
付加金は、未払いの割増賃金等に伴って支払う必要性が発生します。よって、訴訟において、原審で付加金を支払うよう命じられても、控訴審で口頭弁論終了時までに未払い賃金の精算を完了させることで、付加金の支払い義務の消滅が可能になります。
例えば、原審で企業側が、割増賃金に加え付加金も支払うよう命じられたとします。企業側が控訴すれば、原審の判決は仮執行宣言がなされているものを除き効力がなくなります。控訴審の判決前に原審で認められた分の割増賃金を支払ってしまえば、控訴審では、まだ支払われていない割増賃金が残っているという状況から脱しているため、付加金を支払う必要もなくなることになります。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある