障害者の在宅就業

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
働き方改革の柱のひとつといえる“ダイバーシティ”の推進。平たく言えば、個人の“多様性”を認め、さまざまな属性の人が公平な雇用機会を得て、公平な待遇のもと働くことができる環境を整備し、さらにはそれを企業の生産性の向上につなげようという取り組みです。メディアでは、女性の雇用問題などが取り上げられがちですが、障害者雇用も例に漏れず取り組みを強化していかなければならないテーマです。
このページでは、障害者の雇用機会拡大に取り組む事業主の皆様に向けて、障害がある方の、働き方の間口を広げる「在宅就業」にスポットをあてて解説していきます。
目次
障害者の在宅就業
「在宅就業」とは、企業等と雇用契約を結ばずに、“請負契約”によって自宅などで仕事をする働き方のことです。雇用契約を結ばないという点がポイントです。
雇用ではないので、会社が決めた労働日や就業時間等に縛られることなく、働き手の心身のコンディションが良い日・時間を選んで、無理なく仕事に取り組むことができます。例えば、障害があることで、日々の体調・気分の波が大きいという方や、長時間の就労が難しいという方にとっては、自分のコンディションと相談しながら働ける在宅就業は、仕事をするチャンスや選択肢が広がる働き方になります。
また、仕事の発注を行った企業としても、雇用ではないので、社会保険料や通勤費、残業代などのコストをかけることなく、必要なときに必要な量の業務を発注することができるといったメリットがあります。
在宅勤務(在宅雇用)との違い
「在宅勤務」の場合、企業との“雇用契約”のもと従業員の一人として働いてもらうことになります。
“在宅”という点は同じですが、1日や1週の所定労働時間、始業・終業時間は企業が定めたルールに則ることになりますし、一定の時間を超過して働いた場合は残業代が発生する可能性があるなど、扱いは全く異なります。
障害者のための「在宅勤務」の導入・雇用管理の方法や、障害者の「在宅勤務」制度を活用する企業への助成金などについては以下のページで解説していますので、「在宅就業」との違いをさらに詳しく知りたい方は、こちらも併せてご覧ください。
在宅就業障害者の定義
“在宅就業障害者”とは、企業との雇用関係がない者で、以下の①~③の条件を満たす者のことをいいます。
- ①対象となる障害を抱えている
- ②自宅など、対象となる勤務場所で働いている
- ③対象となる業務を行っている
では、①~③の、対象となる障害・勤務場所・業務とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。これを紐解くには、「在宅就業障害者支援制度」の仕組みについて知る必要があります。
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在宅就業障害者支援制度
制度の仕組み
「在宅就業障害者支援制度」は、自宅などで働く障害者の就業機会拡大を目的とした制度です。
具体的には、前年度に“在宅就業障害者”に直接、あるいは在宅就業支援団体を通して仕事を発注し、その報酬を支払った企業に対して、障害者雇用納付金制度から助成金を支給する制度です。
この「住宅就業障害者支援制度」の支援対象となる“在宅就業障害者”こそが、前項の“①~③の条件を満たす者”になります。
在宅就業障害者支援制度の趣旨
障害者が職業人として、社会的・経済的な自立を目指すためにも、人材・働き方の多様化による就業機会拡大を図ることは大切です。そのための施策の一つとして講じられたのが「在宅就業障害者支援制度」です。
現状は、在宅就業障害者への発注額、在宅就業支援団体の数ともに伸び悩んでいますが、在宅であっても仕事の内容によっては完遂までに必要な作業・コミュニケーションが可能となるほどIT技術が発展したこと、また、新型コロナウイルスの流行によって社会的な認知度が上がった“テレワーク”制度を活用する企業が増えてきたことなどを踏まえると、今後「在宅就業障害者支援制度」の認知度が高まっていけば、活用企業・支援団体の増加、さらなる就業機会拡大の実現が期待されます。
対象となる障害者
基本的には、障害者雇用率の算定対象となる“障害者”と同じく身体障害者・知的障害者・精神障害者に該当する者が対象となります。ただし、在宅就業者支援制度における精神障害者は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者に限られていることに注意が必要です(障害者雇用促進法37条2項)。
以下のページでは、上記にあげた3つの障害の内容について詳しく解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
対象となる勤務場所
「在宅就業障害者支援制度」の「在宅」の趣旨は、自宅に限られているわけではありません。自宅のほか、次にあげる場所も対象になります。
- 対象障害者が仕事をするために必要な施設・設備が備わっている場所
- 仕事に就くために必要な知識や能力を磨くために必要な訓練などが実施される場所※1
- 障害の種類や程度に合わせて必要な職業準備訓練が実施される場所
- そのほか、上記に類似する場所
※1:障害者総合支援法に基づく「就労移行支援事業」が実施される施設
対象業務と例
「物品の製造、役務の提供その他これらに類する業務(障害者雇用促進法74条の2第3項1号)」が対象業務とされていますが、この記載から、特段業務は限定されていないと考えられます。例えば、ホームページの制作やウェブデザイン、データ入力作業、パソコン等の解体、部品の組み立て、書類の作成・発送、など、多岐にわたります。
在宅就業支援団体
在宅就業支援団体とは、次項にあげる“実施業務”を行っている、厚生労働大臣の登録を受けた組織のことで、在宅就業障害者と、仕事の発注元となる企業との橋渡し的な役割を担います。“在宅就業支援団体”として登録されるためには、次の厳しい要件を満たしていなければなりません。
- 法人である
- 常時10人以上の在宅就業障害者へ継続的支援をしている
- 障害者の「在宅就業」に関する知識や経験がある者が3人以上(そのうち1人は専任の管理者とする)いる
- 「在宅就業」を支援するために必要な施設・設備を備えている
在宅就業支援団体の実施業務
主な実施業務は、以下のとおりです(障害者雇用促進法74条の3第1号)。- 在宅就業障害者の希望に合わせた就業機会の確保を組織的に提供
- 在宅就業障害者が業務を適切に遂行するために必要な知識・技能を身に着けるための職業講習や情報提供
- 在宅就業障害者が業務を適切に遂行するために必要な助言・援助
- 企業等に雇用される就労形態を望む在宅就業障害者に必要な助言・援助
なお、扱っている業務の内容(例:データ入力・DTP等)はさまざまで、各団体によって異なります。
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在宅就業障害者支援制度の助成金
助成金は、前年度に在宅就業障害者に直接、あるいは在宅就業支援団体を通して仕事を発注し、その報酬を支払った企業に対して支給されますが、この助成金には「特例調整金」と「特定報奨金」の2つがあります。以降、それぞれの概要と算定方法を説明していきます。
特例調整金
「障害者雇用納付金」の申告が必要な、あるいは「障害者雇用調整金」の申請をする事業主が対象となる助成金であるため、「特例調整金」は、常時100人以上の従業員を雇用している事業主に対する助成金であることがわかります。
また、在宅就業障害者及び在宅就業支援団体に、年間35万円以上の仕事の発注をしていることも、「特例調整金」の支給条件となります。
なお、「特例調整金」の支給対象で、法定雇用率に達していない場合には、「特例調整金」の金額によって「障害者雇用納付金」が相殺される仕組みとなっています。
特例調整金の算定式
【式】
(事業主が在宅就業障害者に対して支払った金額(年度単位)の合計÷評価額35万円) × 調整額2万1000円
例えば、常時300人を雇用する事業主が、前年度に3人の在宅就業障害者に仕事を発注し、合計350万円(2人には100万円ずつ、1人には150万円)の報酬を支払っている場合の「特例調整金」はいくらになるのか、上記の式にあてはめて計算してみましょう。
{(100万円+100万円+150万円)÷評価額35万円}× 調整額2万1000円 = 21万円
特例報奨金
「特例報奨金」は、障害者雇用納付金制度の「報奨金」の申請をする事業主が対象の助成金であるため、常時雇用する従業員が100人以下の事業主であること、また、「特例調整金」と同様、年間35万円以上の仕事の発注をしていることも条件となります。特例報奨金の算定式
【式】
(事業主が在宅就業障害者に対して支払った金額(年度単位)の合計÷評価額35万円)× 報奨額1万7000円
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある