賞与の法律上の定義や種類、決め方、就業規則の定め方

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
賞与の支給は法的な義務ではないため、企業が独自に支給額などを決めることができます。ただし、状況によっては支給する義務が生じるおそれがあるため注意が必要です。
この記事では、賞与の概要や支給する対象者、査定方法、計算方法、社会保険料・税金への影響などについて解説します。
目次
賞与の定義
賞与とは、「ボーナス」などとも呼ばれる、固定給とは別に支給する給与のことです。
具体的には、次の要件に該当するものとされています(労働基準法 昭和22年9月13日発基17号)。
- 定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるもの
- 支給額があらかじめ確定されていないもの
一般的には、夏と冬の年2回、賞与を支給している会社が多いようですが、支払時期や回数などについて法的な定めはありません。そのため、ボーナスを支給していない企業もあります。
賞与の支給義務
法律上、企業は賞与を支給する義務がありません。そのため、賞与を支給しないことは基本的に違法とされておらず、「賞与は支給しない」という就業規則などの定めも有効となります。
賞与を支給する制度がある場合には、就業規則に記載しなければならない「相対的必要記載事項」とされています。賞与の支給についてのルールとして、査定期間や支給する時期、算定基準などを記載することが一般的です。
賞与は、就業規則などに定めたルールに従って支払わなければなりません。そのため、「賞与を年2回支給する」と定めると、賞与を年2回支給する義務を負うことになります。また、賞与の計算方法を明記すれば、その計算方法に従った支給をしなければなりません。
就業規則などに、「業績や勤務成績によっては賞与を支給しない」といった記載をしておくことで、賞与の支給を強制されるリスクを下げることができます。
賞与の法的性格
賞与には、多様な法的性格が混在しているのが一般的です。賞与が備えている主な法的性格として、主に下の表のものが挙げられます。
功労報償的性格 | 労働者の企業への貢献に報いるためのもの |
---|---|
生活補填的性格 | 月給を補い、お盆や年末年始の出費を援助するためのもの |
勤労奨励的性格 | 将来の労働に励んでもらうためのもの |
収益分配的性格 | 業績が向上したために、利益を分け与えるためのもの |
賞与の種類
賞与は、主に次の3種類に分けることができます。
- 基本給連動型賞与
- 業績連動型賞与
- 決算賞与
それぞれについて、以下で解説します。
基本給連動型賞与
基本給連動型賞与とは、「基本給の◯ヶ月分」といった計算式によって支給されている賞与です。一般的には、毎年の夏と冬に支給されています。
年功序列型の賞与体系であり、より長く勤めた者の賞与が高額になりやすいです。また、支給について期待されやすく、業績不振などにより減額したときの反発が強くなると考えられます。
業績連動型賞与
業績連動型賞与とは、主に部門や企業の業績に連動して支給額が変動する賞与です。業績が向上しなければ賞与が増額されにくいため、成果主義型の賞与体系と言えるでしょう。
従業員にとっては、より良い業績を目指すモチベーションにつながりやすいと考えられます。ただし、業績が落ち込んだときには、その事実が社員に伝わって社内が動揺してしまうことがあるため、ケアすることを心がけましょう。
決算賞与
決算賞与というのは、会社の事業年度の業績に応じて、決算月の前後に支給をする賞与のことです。
決算とは、年間の収入と支出を計算し、業績を明らかにすることです。業績が好調な時期には、労働者への利益を還元するという形で臨時に決算賞与を支給します。
賞与の査定期間・支給時期
賞与をいつ支給するかは、企業が自由に決めることができます。一般的には、6月か7月に夏の賞与を支給して、12月に冬の賞与を支給することが多いです。
査定期間は、一般的には夏の賞与が前年の10月~3月、冬の賞与が4月~9月であることが多いです。しかし、この期間は企業によって異なるため、夏と冬の賞与の査定期間が一部は被っているケース等もあります。
なお、査定期間の直後に賞与を支給しないケースが多いのは、金額の計算などに時間がかかること等が理由だと考えられます。
企業によっては、賞与を年に3回支給していることもあります。また、年度末にまとめて1回支給する企業や、決算時期に支給する企業もあります。
賞与の対象者
賞与の対象とする労働者の範囲は、企業が自由に定めることができます。そのため、パートやアルバイトなどの非正規雇用を対象外とすることは可能です。
ただし、非正規雇用の労働者が正規雇用の労働者と同じ責任を負い、同じ業務を行っている場合等には、賞与などの待遇で差を設けると違法になってしまうおそれがあるため注意しましょう。
中途採用者や退職予定者については、支給日に在籍している労働者だけに賞与を支給する旨を定めることが可能です。
「同一労働同一賃金」との関係
同一労働同一賃金とは、同じ仕事をしている従業員の待遇を、雇用形態にかかわらず同じにするという考え方です。
この考え方により、たとえ契約社員や派遣社員、パート・アルバイトといった非正規雇用の従業員であっても、仕事の責任や職務内容が正社員と同じであれば、賞与も同じように支給しなければなりません。
一方で、仕事の責任や職務内容といったものが正社員と明確に異なる非正規雇用の従業員については、賞与を減額する、又は支給しない等の区別を行っても問題ありません。
また、会社の業績等への貢献に応じた、いわゆる業績連動型の賞与を支給する場合、非正規雇用の労働者に対しては、正規雇用の労働者と同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた賞与額を支給することになるものと考えられます。
中途採用者の賞与支給
中途採用者に対する賞与支給の有無や支給額は、賞与規程の内容と入社時期によって変わります。
賞与が支給される場合、支給額の計算方法には、主に次の2パターンが考えられます。
- 賞与の査定期間のうち、在籍期間によって日割り又は月割りで支給する方法
- 在籍期間にかかわらず、一律一定額を支給する方法
例えば、支給対象について「査定期間の●割以上の在籍」や「入社から●ヶ月以上」等の定めがある場合、要件を満たさなければ賞与の支給はありません。このとき、「寸志」として一定額(数万円程度)を支給するケースもあります。
退職者の賞与支給
賞与の査定期間には在籍していたものの、賞与の支給日に到達する前に退職した労働者に対して賞与を支給するかどうかについては、度々問題となります。この場合、就業規則等の賞与規程に“支給日在籍要件”を明記していれば、不支給としても原則として適法となります。
“支給日在籍要件”に関する詳しい解説は、以下のページに譲ります。
賞与の査定方法
賞与の査定は、あらかじめ賞与の支給対象者、査定対象期間等を定めたうえで、主に以下の3つの観点から対象者を評価し、支給額を決定する運用が一般的です。
- 業績評価
- 能力評価
- 行動評価
また、対象者の上司のみならず、同僚や部下からの評価も査定の対象とする 「360度評価」を採用する会社も増えています。
査定方法に関する詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
賞与の計算方法
賞与の計算方法は、就業規則や給与規程の定めによります。一般的な基本給連動型賞与の場合には、基本給を基準として、勤続年数などによって定める「支給月数」と、会社への貢献度を数値化した「評価係数」を乗じて計算します。
これを計算式にすると、次のようになります。
賞与の金額=基本給×支給月数×評価係数
また、業績連動型賞与の場合には、賞与として支払うことのできる「賞与の総額」を算出することがあります。
「賞与の総額」は、「営業利益又は経常利益の〇%」あるいは「売上高の〇%」といった割合で決めることが多いです。
そして、「賞与の総額」を個人の評価に従って分配し、賞与として支給します。
社会保険料・税金の控除
賞与からは社会保険料と所得税が控除されて、控除後の金額が手取り額となります。なお、賞与から控除される社会保険料は健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満のみ)です。
賞与の手取り額は、下記の計算式で求めます。
賞与の手取り額=賞与の総額-(社会保険料+所得税)
社会保険料の計算方法
社会保険料は、それぞれ次の式によって計算します。
健康保険料 | 標準賞与額×健康保険料率(都道府県別などで定められている)×1/2 |
---|---|
厚生年金保険料 | 標準賞与額×厚生年金保険料率(18.3%)×1/2 |
雇用保険料 | 賞与支給額×雇用保険料率(一般的な企業では0.5%) |
介護保険料 | 標準賞与額×介護保険料率(1.64%)×1/2 |
健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料を計算するときに用いる「標準賞与額」とは、賞与総額から千円未満を切り捨てた金額です。ただし、上限は健康保険では年間573万円、厚生年金保険では月間150万円とされています。
なお、雇用保険以外は労働者と企業で折半するため、企業も同額を支払うことになります。雇用保険については、企業の雇用保険料率は0.85%とされています。
所得税の計算方法
所得税の金額は、次の式によって計算します。
所得税額=課税対象額×税率(5%~45%)
課税対象額は、賞与の金額から社会保険料額を差し引いた金額です。
また、税率は、国税庁が発表する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から確認することができます。
賞与の不支給・減額
業績が悪化した場合などに、賞与の支給を取りやめることや減額することができるか否かは、就業規則等に定めた賞与規定が、どのような記載になっているかで異なります。
賞与の支給額や計算方法が明確に記載されている場合には、基本的には規定のとおり支給すべきです。不支給や減額は、労働条件の不利益変更とされて問題となるおそれがあります。
他方で、「業績によって支給しない場合もある」等の記載がある場合や、賞与支給の有無や支給額が業績等によって変動する旨の規定となっている場合などでは、賞与を不支給・減額とすることも可能です。
また、懲戒処分によって賞与を減給の対象にすることも可能です。さらに、支給額等が決まっていない場合、懲戒処分によって評価が下がった労働者の賞与が結果として減額されても問題ないものと考えられます。
ただし、使用者の好みを理由とするなど、正当な理由なく賞与を不支給とすることや減額することはできません。
賞与の減額については、さらに詳細に説明しているページがありますので、ぜひこちらもご覧ください。
賞与の請求権について
労働契約や就業規則などに、賞与の支給額や支給時期が明確に定められている場合には、労働者はその賞与について請求権を有すると考えられます。また、これらに明確な定めがなくとも、「労使慣行」が成立する場合には、賞与の請求権が認められるケースがあります。
労使慣行とは、会社で長期間にわたって継続・反復して行われてきた行為が、労使双方の異議なく受け入れられ、事実上の制度となったものです。
つまり、同じ金額の賞与を何年も定期的に支給している場合などでは労使慣行が成立して、労働者に一定額の請求権が生じ得ます。そうなれば、企業の業績が悪くなっても賞与の支給を取りやめることができなくなってしまうため、経営が悪化したときに負担となります。
労使慣行が成立しないように、業績が悪化したときには賞与の減額があることを周知しておくのが望ましいでしょう。
賞与の支給に伴う労務手続き
賞与を支給するときには、支給後に次の手続きを行う必要があります。
- 賞与明細書の発行
- 賞与支払届等の提出
これらの手続きについて、以下で解説します。
賞与明細書の発行
会社は、賞与支給で発生した社会保険料や所得税の控除額を、労働者へ通知する義務があります。
そのため、給与明細書と同様に、賞与明細書を発行しなければなりません。賞与明細書は、賞与を支給する前に発行するのが一般的です。
賞与支払届等の提出
労働者に賞与を支給したときには、被保険者賞与支払届などを支給してから5日以内に管轄の年金事務所等に提出しなければなりません。
また、賞与を支給しなかった場合にも、『賞与不支給報告書』を提出する必要があるため、手続きに漏れがないよう注意しましょう。
提出が必要な書類や行うべき手続きについて、下の表にまとめたのでご覧ください。
申告・届出の種類 | 内容 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|---|
被保険者賞与支払届 | 被保険者へ賞与を支給した際に支給額を記して提出する書類 | 日本年金機構又は加入している健康保険組合 | 賞与を支給してから5日以内 |
70歳以上被用者賞与支払届等 | 70歳以上の被用者へ賞与を支給した際に支給額を記して提出する書類 | 日本年金機構又は加入している健康保険組合 | 賞与を支給してから5日以内 |
労働保険の年度更新 | 年に一度見込み給与を基に雇用保険料と労災保険料を算定し、会社が前払いする制度 | 銀行や郵便局等の金融機関、都道府県労働局、労働基準監督署 | 6月1日から7月10日までの間 |
賞与不支給報告書 | 日本年金機構に登録している賞与支払予定月に、被保険者や70歳以上の被用者に賞与を支給しなかったときに提出する書類 | 日本年金機構又は加入している健康保険組合 | 翌年の1月31日まで |
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある