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みなし残業制(固定残業制)

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「みなし残業制」のもとでは、普段からあまり残業が起こらない職場だと、労働者にとっては実際の残業時間よりも残業代を多くもらえる可能性があり、会社にとっては残業代を一律に計算できて労務管理の負担を減らすことができるなど、双方にとって良い関係を築くことができます。

しかし、普段から残業が頻繁に起こる職場で、労力やコストの削減と安易に考え、理解が浅いまま制度を導入すると、実は法律に違反しているといったおそれがあります。

そこで、このページでは、「みなし残業制」とはどんな制度か、導入にあたって、会社はどんなことに気を付けなければならないのかを中心に解説していきます。

みなし残業制(固定残業制)の概要

「みなし残業制」とは、あらかじめ決められた時間分の残業代(割増賃金)を、基本給に含めて、あるいは手当として支払う制度のことです。

例えば、基本給に30時間分の残業代を含めて支払う労働条件となっている場合、残業時間が30時間を超えるまでは、基本給と別に残業代が支払われることはありません。

これは、「みなし労働時間(=実際に働いた時間ではなく、決められた時間分を働いたものとみなす)制」に基づいた考えの制度であり、実際に何時間残業したかはともかく、決められた時間分は残業したものとみなして、その分のお金を毎月定額で支払うことから、「固定残業制」、「定額残業制」と呼ぶ会社もあります。

なお、「みなし労働時間制度」について詳しく知りたい方は、以下のページでご覧いただけます。

みなし労働時間制度

割増賃金を支払うべき場合のうち、みなし残業代の支払いで済ませてもよいケースとしては、次の3つが代表的です。

  • ・法定時間外(週40時間を超過した分)の労働に対する割増賃金
  • ・法定休日(週1日以上or4週4日以上の休日)の労働に対する割増賃金
  • ・深夜(夜10時から翌朝5時)の労働に対する割増賃金

通常の賃金計算では、それぞれどのくらいの割合で賃金が増額するのかなど、「割増賃金」について詳しく知りたい方は、以下のページでご覧いただけます。

割増賃金

みなし残業時間制導入要件

法律上に“みなし残業”という言葉や、明確なルールは記載されていませんが、過去の「みなし残業制」を巡る裁判例から、次の2つが制度導入に必要な条件と考えられています。順にみていきましょう。

就業規則や雇用契約書で規定

「みなし残業制」の導入は、労働者にとって大切な“賃金”に関する労働条件を変更することになりますので、口頭で説明するだけでは足りません。会社は、「みなし残業制」を適用して残業代を支払うことについて就業規則に明記して、適用対象の労働者全員にきちんと知らせるか、雇用契約書に記載して、労働者に個別に合意してもらう必要があります。

通常の賃金と固定残業代を明確に区別

基本給にあたる部分の金額と、みなし残業代にあたる部分の金額が明確に区別できるように、また、みなし残業代が何時間分の残業代にあたるのかわかるように、就業規則等に記載する必要があります。次項で、具体的な記載例を紹介します。

就業規則の記載例

《例》月給22万円(30時間分のみなし残業代4万円を含む)

第●条(定額残業手当)

  • 1.基本給のうち、4万円を、所定労働時間外の労働、法定休日労働、及び深夜労働30時間分の定額残業手当として支給する。
  • 2.前項の手当は、従業員が実際に所定労働時間を超えて勤務したかに関わらず支給する。
  • 3.みなし残業代が、実際の労働時間に基づき本規定に則って計算した金額を下回る場合には、その差額分(下回る部分)について、会社から別途残業代として支給する。

※法定休日労働、深夜労働をみなし残業代に含めない場合には、その旨について記載する必要があります。

みなし残業時間の超過分に対する割増賃金支払

労働者が一定のみなし残業時間を超えて働いた場合、その超えた時間分について、会社はみなし残業代とは別に、割増賃金を支払わなければなりません。

「みなし残業制」を導入すれば、どんなに残業させても残業代は発生しないと会社が誤解しているケースや、みなし残業時間をオーバーするような残業はほとんど発生しないだろうとずさんな労務管理がされているケースもあるようです。しかし、実際には別途割増賃金が発生する可能性があるため、運用を正しく理解し、労働時間を適切に管理して、未払いの賃金請求といった労働者とのトラブルを起こさないように注意しましょう。

休日労働・深夜業の場合の割増賃金

法定休日労働や深夜労働に対する割増賃金も、就業規則等に記載することで、みなし残業代に含めることができます。その場合、みなし残業時間を超える労働時間があれば、その時間分の割増賃金を別途支払います。

一方で、そもそも法定休日労働や深夜労働に対する割増賃金を、みなし残業代には含めないという場合には、発生した法定休日労働時間、深夜労働時間の総数に応じて、休日労働手当、深夜労働手当として割増賃金を支払います。

実労働時間がみなし残業時間を下回った場合

実際の残業時間がみなし残業時間よりも少ないからといって、みなし残業代として定めた金額から、みなし残業時間に足りない時間分の金額を差し引いて支払うことはできません。この場合も、固定残業代として定められた金額は全額支払う必要があります。

みなし残業制を導入する際の留意点

みなし残業時間の上限

1ヶ月のみなし残業時間を、45時間を超える時間で設定している場合には、法律に違反しているおそれがあります。

法律には、“みなし残業”についてのルールは特別設けられていませんが、会社が労働者に残業をさせる場合に結ぶ「36協定」の、1ヶ月の残業時間の上限は45時間となっています。45時間を上回る残業をさせる必要がある場合には、「36協定」に特別条項を設定することで、1年のうち6回まで、100時間を上限に残業をさせることが可能ではありますが、繁忙期など、あくまでも臨時的な事情がある場合に限られますし、いつもMAXの100時間で設定していいというわけではありません。1ヶ月の残業時間が100時間でも、2~6ヶ月の平均残業時間が80時間を超えていると、“過労死ライン”を超えて労働者を働かせることになるからです。

このような場合、みなし残業制が正しく導入されていないものとみなされるとともに、会社は、安全配慮義務違反や公序良俗違反を問われ、罰則の対象となるおそれがあります。

36協定とは

最低賃金を下回らない

基本給にみなし残業代を含めて支払う場合、純粋に基本給にあたる部分が「最低賃金」を下回らないことが条件となります。

では、<就業規則の記載例>で使用した例の基本給が、きちんと最低賃金を上回る設定となっているかどうか確認してみましょう。なお、計算のためにいくつか設定を追加しています。

《例》月給22万円(30時間分のみなし残業代4万円を含む)
・会社所在地:東京(令和元年の最低賃金は1013円)
・1日の所定労働時間:8時間
・1ヶ月の稼働日数:22日

[計算]
・基本給部分:22万円-4万円=18万円
・1時間あたりの賃金:18万円÷(8時間×22日=176時間)=1022円

➡ 1022円 > 1013円となるため、条件をクリアしている一方で、もう少し基本給部分の設定が低額だと、最低賃金を下回るということがわかります。

企業が遵守すべき「最低賃金制度」について

不利益変更の禁止

「みなし残業制」の導入によって、これまでの労働条件を下回る場合には注意が必要です。

例えば、月給額をそのままに、そのうちのいくらかをみなし残業代として支払う内容で労働条件を変更した場合、基本給部分が減ってしまうことになります。このように、労働者の労働条件を切り下げる変更は法律上制限されています(労契法9条、10条)。労働者と合意ができた場合、合意できないとしても内容が合理的な場合にのみ、変更が許されます。

求人を行う際の留意点

平成29年に行われた職業安定法の改正によって、会社が求人広告等を出すときには、賃金などの労働条件を適切に明示する義務を負うこととなりました。「みなし残業制」を導入する会社では、以下の3点を記載する必要があります。

  • ・みなし残業代を除く基本給の額
  • ・みなし残業時間と、それに基づくみなし残業代の計算方法
  • ・みなし残業時間を超えて働いた場合の、追加残業代の支払い

もし、求人広告に、みなし残業代込みであることを明記せずに“月給25万円”と書いたら、求職者がそれを丸々基本給分だと思っても無理はありません。しかし、蓋を開けたら実は基本給は、そのうちの20万円分のみだった、また、25万円+αで残業代が出ないことがわかったら、求人者と求職者の間でトラブルが起こることはイメージしやすいでしょう。

こういったトラブルの防止のために法律が見直されているため、違反が発覚すれば、罰則や行政指導の対象となるおそれがあるため、注意しましょう。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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