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年5日の有給取得が義務化|罰則や取得させるための方法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

年次有給休暇制度は、労働者の心身のリフレッシュを図り、健康を確保するとともに生産性を向上させること等を目的として設計された制度です。そのため、労働者が年次有給休暇(以下、「有休」といいます。)をいつ取得するかは労働者の自由ですが、なかなかその取得率が上がらないのが現状です。

そこで、働き方改革の実施に伴い、有休について、「使用者による時季指定」を認める労働基準法の改正(以下、「本件改正」といいます。)が行われました。

本件改正により、使用者は有休についてどのようなことができるようになったのか、本件改正の背景等を踏まえながら、具体的な内容について説明します。

働き方改革による有休取得義務化の要点

働き方改革に伴う労働基準法の改正前は、使用者に対して、労働者の有休の取得に関して何らの義務も課されていませんでした。しかし、本件改正により、2019年4月から、使用者は「法定の有休日数が10日以上の労働者」に対して、“年5日“は有休を取得させることが義務づけられることになりました(労基法39条7項本文)。

具体的には、「使用者が、年間の有休取得日数が5日未満の労働者に対して、有休の取得時季を指定し、有休を付与した日(基準日)から1年以内に、既に取得した分と合わせて“5日分”の有休を取得させる」必要があります。これを「使用者による有休の時季指定」といいます。

ただし、後述するとおり、既に年5日以上の有休を請求・取得している労働者に対しては、使用者は有休の時季指定をすることができません。

有休取得義務化の目的・背景

年次有給休暇制度は、労働者の健康確保や生産性の向上等を目的とする制度であるため、労働者が有休を取得したいときに付与することが原則です。しかし、厚生労働省の発表によると、日本国内における2018年度の有休の取得率は52.4%と、世界主要国中最下位に留まっています。

これは、有休の取得を阻む上司の無言の圧力や、同僚への気兼ね等から、有休の請求及び取得を躊躇ってしまうことが原因であると考えられます。ワーク・ライフ・バランスの実現を目的のひとつとする働き方改革においても、有休の取得促進は大きな課題となっています。

制度として有休が設けられていても、実際に取得されなければ意味がありません。そこで、有休取得率の向上を目指すために、使用者に有休の時季指定をする義務を課す法改正が行われました。

なお、政府は2020年までに、有休の取得率を70%以上にすることを目標としています。

義務化される対象者と付与日数

労働基準法上、次の2つの要件を満たした労働者に対して、有休が付与されます。

【有休の付与要件】
①雇入れ日から6ヶ月継続して雇われている
②全労働日の8割以上出勤している

※上記の2つの要件を満たしているのであれば、管理監督者や有期雇用労働者等に対しても有休を付与する必要があります。

要件を満たした労働者に付与される法定の有休日数は、原則として下表のとおりです。表からわかるように、20日を上限として、継続して勤務する年数が長くなるほど付与される有休の日数が増加します。

有給休暇の付与要件

使用者による有休の時季指定の対象となる労働者は「法定の有休日数が10日以上の労働者」なので、フルタイムで6ヶ月以上継続勤務した労働者は、基本的に対象に含まれます。

所定労働日数が少ない労働者

パートタイマー等、所定の労働日数が少ない労働者に対しては、下表のとおり、所定労働日数に比例した日数の有休が付与されます。

なお、“所定の労働日数が少ない”とは、所定労働時間が週30時間未満、かつ週の所定労働日数が4日以下又は年間の所定労働日数が216日以下である場合を指します。

所定労働日数が少ない労働者の有給休暇の付与要件

「法定の有休日数が10日以上の労働者」が使用者による有休の時季指定の対象となるので、表中赤太枠で囲った部分に該当する労働者は、使用者による有休の時季指定の対象者となります。

付与や取得に関するルール

有休が付与される要件や取得方法については、下記の記事でも解説しているので、併せてご覧ください。

年次有給休暇

時季指定の方法

使用者は、年間の有休取得日数が5日未満の労働者に対して、各々の有休取得時季を指定したうえで、有休の付与日(基準日)から1年以内に5日分の有休を取得させる義務があります(使用者による有休の時季指定)。

なお、時季指定を行うにあたっては、使用者は労働者の意見を聴く必要があります。その際の意見を聴取する方法としては、面談による方法や年次有給休暇取得計画表・メール・社内のコミュニケーションツールを利用する方法等があり、聴取方法は何でも良いとされています。また、可能な限り労働者の希望に叶う時季に取得させることができるよう、聴き取った労働者の意見を尊重するよう努める必要があるといえます。

既に年5日以上の有休を取得している労働者

使用者による時季指定の対象となるのは、年間の有休取得日数が5日未満の労働者です。そのため、既に年5日以上有休を請求又は取得している労働者は、時季指定の対象にはならず、また対象にすることもできません。

つまり、使用者は「使用者による時季指定」「労働者自身による請求」「計画年休(労使協定で計画的に取得日を定めた有休)」のいずれかの方法、あるいはこれらを組み合わせることによって、労働者に年5日以上の有休を取得させれば良いのです。労働者に取得させた有休の合計日数が5日に達した時点で、使用者は時季指定をする義務がなくなるとともに、することもできなくなります。

有休の全部・一部を前倒しで付与している場合

入社と同時に有休を付与するケース等、法定の基準日より前に有休を10日以上付与した場合、使用者は、原則として有休を付与した日から1年以内に5日の有休を取得させる義務を負います。

法定の基準日より前倒しで、有休の全部又は一部を付与するケースとしてはいくつかのパターンが考えられますが、それぞれどのように取り扱えば良いのでしょうか?次項より、こうしたケースについて解説していきます。

基準日より前に10日以上の有休を付与する場合

法定の基準日より前、つまり雇入れの日から6ヶ月経過するより前に、10日以上の有休を付与した場合、使用者は、実際に有休を付与した日から1年以内に、5日の有休を取得させなければなりません。

例えば、入社日(2019年4月1日)に10日以上の有休を付与したケースでは、その日から1年以内、つまり2019年4月1日~2020年3月31日までの間に、労働者に5日間の有休を取得させなければなりません。

このように、通常であれば入社から半年後の2019年10月1日~2020年9月30日までの1年間に有休を5日取得させれば良いところ、有休の付与日が前倒しされることで、取得させるべき期間も前倒しされることになります。

有休の指定義務の対象となる「1年間」が重複する場合

入社した年と翌年で有休の付与日が異なる等の理由から、有休の指定義務の対象となる「1年間」が重複することになる場合には、使用者は、1年目の基準日から2年目の終期までを合計した期間の長さに応じた日数(比例按分した日数)の有休を、当該期間内に労働者に取得させるという方法に変更することが認められます。

例えば、入社日(2019年4月1日)から半年後(同年10月1日)に10日以上の有休を付与し、2年目以降は会社全体で有休の起算日を合わせるために、入社2年目以降の社員への付与日を4月1日に統一するケースを想定します。このケースでは、2019年10月1日~2020年9月30日2020年4月1日~2021年3月31日がそれぞれ1年目と2年目の有休の指定義務の対象期間となるので、重複期間が発生することになります。この場合、それぞれの期間で労働者に年5日の有休を取得する必要がありますが、取得状況の管理が複雑です。

そこで、1年目の始期(2019年10月1日)から2年目の終期(2021年3月31日)までの期間を合算(18ヶ月)し、当該期間内に、当該期間の長さに比例按分した日数(18ヶ月÷12ヶ月×5日=7.5日)の有休を取得させる方法に替えることが認められています。

一部を基準日より前倒しで付与する場合

法定付与日数10日の有休の内、一部を法定の基準日より前倒しで付与する場合には、有休の付与日数の合計が10日に達した日から1年以内に、5日分の有休を労働者に取得させなければなりません。ただし、付与日数の合計が10日に達した日以前に、労働者自身で請求及び取得していた有休の取得日数分、及び計画年休の日数分については差し引いて考える必要があります。

例えば、入社日(2019年4月1日)に5日の有休を付与し、2019年8月1日にさらに5日の有休を付与したケースでは、使用者は、付与された有休の合計が10日に達した2019年8月1日を基準日として、2020年7月31日までに5日分の有休を取得させる必要があります。

なお、2019年4月1日~2019年7月31日に労働者が有休を2日分請求・取得しており、さらに1日分の計画年休が含まれていた場合には、使用者が時季指定をすることができる日数は2日に減ります。

就業規則への規定

有休は法定の休暇に当たり、休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労基法89条1号)です。そのため、使用者による有休の時季指定制度を導入するためには、当該制度を導入する旨に加えて、対象となる労働者の範囲や時季指定の方法等、運用方法等を就業規則に規定する必要があります。

規定の文言等は、厚生労働省がホームページで公開している、モデル就業規則を参考にすることができます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

年次有給休暇管理簿の作成・保存義務

使用者は、各労働者の「年次有給休暇管理簿」を作り、その休暇を与えた期間中、さらにこの期間の終了後3年間保存する必要があります。年次有給休暇管理簿とは、労働者が有休を取得した(させた)時季、日数、基準となる日を明確化した書類を指します。

年次有給休暇管理簿は、労働者名簿若しくは賃金台帳と併せての調整も可能であり、必要に応じて印刷できるよう出力可能な仕組みを構築できるのであれば、その内容をシステム上で管理しても問題ないとされます。

違反した場合の罰則

使用者が年5日の有休の時季指定を怠った場合や、時季指定制度を導入したにもかかわらず就業規則にその旨の規定を設けなかった場合、労働者の請求する時季に所定の有休を取得させなかった場合には、下表のような罰則が科されることになります。

なお、こうした労働基準法の違反行為は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。

労働基準法を違反した場合の罰則

年5日確実に取得させるための方法

有休の時季指定義務の対象となる労働者に確実に年5日の有休を取得させるために、使用者は、次項に記載した対応をとることをおすすめします。

基準日に取得計画表を作成

まず、「年次有給休暇取得計画表」を作成し、それを各労働者の休暇取得予定として職場内に明示することで、労働者が職場内で取得時季を調整することが容易になるため、有休を取得しやすくなります。ただし、年度別の有休取得の予定を明示するだけでは予定の変更や業務都合に対応しきれないことがあるので、四半期別や月別の計画表を併せて作成し、細かな調整に対応できるようにするべきでしょう。

また、年次有給休暇取得計画表の作成及び明示は、労働者が1年を通じて計画的に有休を取得できるようにするためにも、有休の付与日である“基準日”に合わせたタイミングで行うようにしましょう。

さらに、こうした計画表の作成に加えて、有休を取得することを前提に業務体制を整備する等、有休を取得しやすい職場環境を整えることが重要です。

計画的付与

年次有給休暇を付与する日を計画的に定める「計画年休」という制度を利用することでも、労働者による確実な有休取得の実現が可能です。というのも、この年次有給休暇の計画的付与制度で取得させた有休日数も、取得義務日数(年間5日分)に含まれるためです。

計画年休を導入するための手続等に関しては、下記の記事で説明しています。

有給休暇の計画的付与

使用者からの時季指定を行う

最後に、ここまで説明してきた「使用者による有休の時季指定」によって、対象者に有休を確実に取得させる方法を紹介します。この方法を用いる場合には、以下のようにケース別に対応することで、労働者からの有休請求を妨げることなく、かつ効率的に有休取得日数を管理することが可能になります。

(1)基準日から一定期間(例えば、半年程度)が経過したタイミングで、労働者の有休の請求及び取得日数が5日未満となっているケース
⇒労働者に自身の有休取得状況を知らせ、使用者が、取得希望時季等について労働者の意見を聴取したうえで、その時季指定を行う

(2)過去の取得状況から、有休の取得日数が著しく少ない傾向にある労働者のケース
⇒1年を通じて労働者が計画的に有休を取得できるよう、労働者から聴取しておいた意見を踏まえて、あらかじめ基準日に、使用者が有休の時季指定を行っておく

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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