人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

秘密保持義務

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

秘密保持契約を締結すると、情報の受領者は秘密保持義務を負います。しかし、在職中の労働者に関しては、個別に秘密保持契約を締結しなくとも、信義則上、労働契約に付随して秘密保持義務を負うことになります。

今回は、在職中の労働者が負う、秘密保持義務の概要について、ポイントを押さえながら解説します。就業規則の整備状況や情報の管理体制等を見直される際に、ぜひお役立てください。

秘密保持義務の根拠

労働者は、在職中、使用者と締結した労働契約に付随して、信義則上、使用者の営業上の秘密(企業秘密)を第三者に漏洩することや、目的外使用をしてはならないという義務を負います(労契法3条4項)。これは、「秘密保持義務」と呼ばれ、労働者が、労働契約の締結に伴い使用者に対して負うことになる誠実義務のひとつとされます。

労働契約法

(労働契約の原則)第3条
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

就業規則上の記載や個別の合意がなくとも、在職中の労働者は秘密保持義務を負うと解されます(東京地方裁判所 平成15年9月17日判決)。しかし実際のところ、秘密保持義務は、情報漏洩を防ぎ企業の競争力が損なわれることがないようにするために極めて重要であるため、多くの企業が就業規則で改めて定めています。このように労働契約の一内容にすることで、秘密保持義務に違反した労働者に対する損害賠償請求が認められやすくなるとともに、罰則規定を設けることで、懲戒処分の有効性が問題となるケースを減らすことができます。

企業における秘密とは

秘密保持義務にいう「秘密情報」は、一般的には、「企業外に漏洩することにより企業の正当な利益(顧客からの信用を含む)を侵害する情報」であると考えられますが、明確には定義されておらず、個別の事情に応じて判断されます。なお、営業秘密の要件(①秘密管理性、②有用性、③非公知性)と類似の基準で、「秘密情報」に当たるか判断した裁判例(東京地方裁判所 平成29年10月25日判決)もあります。

営業秘密と秘密情報

営業秘密と秘密情報は混同されることも多いですが、定義が異なるため注意が必要です。

まず、営業秘密とは、不正競争防止法によって保護される企業の秘密情報をいい、法律上の概念であるため、その範囲も法律によって定められます。これに対して、秘密情報とは、一般的な概念であり、秘密保持契約等の内容によって範囲が定められます。

守秘義務と秘密保持義務の違い

守秘義務と秘密保持義務についても、混同している例がよくみられます。

守秘義務とは、一定の職業に就いている、または就いていた人に課せられる、職務上知り得た秘密を漏洩してはならない、法定の義務をいいます。一定の職業とは、医師や弁護士、看護師、税理士、公務員等、秘密や個人情報を保護する必要性が高いものを指します。

一方、秘密保持義務は、職務上知り得た秘密を漏洩してはならない点は同じですが、当事者の職業に関係なく、契約によって発生する義務であるところが異なります。

秘密保持義務の対象者

秘密保持義務は、労働契約に付随する義務であるため、労働契約が継続している間(在職中)は、労働者は当然に負うものです。しかし、退職者に関しては、労働契約の終了とともに、秘密保持義務も終了すると考えられます。

退職者に秘密保持義務を負わせるためには、必要性や合理性の認められる、何らかの明示の約定(個別の秘密保持契約や就業規則上の規定等)が必要です。ただし、不正競争防止法2条1項7号は、不正の利益を得る目的や加害目的で、営業秘密を使用・開示することを禁止しているため、退職者も、このような場合には不正競争防止法を根拠に秘密保持義務を負うと解されます。

また、派遣先の使用者と直接の労働契約関係にない派遣労働者(派遣先が変更された場合も含む)に関しても、業務上知り得た秘密を漏洩することを禁止しています(労働者派遣法24条の4)。

なお、労働契約法3条4項(労働者の使用者に対する誠実義務を定めた規定)は、使用者と労働契約を結ぶ全労働者に適用されるので、非正規労働者である、パートタイマーやアルバイトとして働く労働者も、秘密保持義務を負うことになります。

秘密保持について就業規則で定める意義

労働契約上、労働者は付随的に秘密保持義務を負いますが、やはり就業規則に秘密保持義務について明記しておくことをお勧めします。なぜなら、労働契約上の秘密保持義務が示す「秘密情報」の範囲は不明確であり、また、この「秘密情報」が法的保護に値するかどうかは、個別の事案ごとに判断されることになるからです。

そこで、ある程度具体的に「秘密情報」を特定して就業規則に規定したり、個別の秘密保持契約を結んだりする等、あらかじめ秘密保持義務を具体的な契約内容としておき、後のトラブルに備えることが大切です。

秘密保持義務違反に対する罰則

労働契約に付随する秘密保持義務を根拠に、当該義務に違反した労働者に対して懲戒処分を行うこともできなくはありませんが、有効性が争われるケースが多くみられます。そこで、こうした問題の発生をできる限り防ぐためにも、あらかじめ就業規則に罰則規定を設けておく、または個別の秘密保持契約を結ぶ等して、秘密保持義務を労働契約の一内容にしておくことをお勧めします。

なお、戒告や減給、解雇等、懲戒処分の詳細に関しては、下記の各記事をご覧ください。

懲戒処分について
退職及び解雇

弁護士への情報提供について

弁護士は、守秘義務を負う職業のひとつです。したがって、労働者が、弁護士相談の過程で自社の秘密情報を開示しても、弁護士は当該情報を第三者に漏洩させない義務を負います(弁護士法23条)。また、弁護士相談で秘密情報を開示する目的は、労働者本人の権利を救済するという、不当とはいえないものです。

こうした弁護士法23条の規定および労働者の権利救済の必要性を考慮すると、弁護士に秘密情報を開示しても秘密保持義務違反に該当しない、または該当するとしても違法性は認められないと解されます(東京地方裁判所 平成15年9月17日判決)。

弁護士法

(秘密保持の権利及び義務)第23条
弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

秘密保持契約書について

秘密保持契約書とは、「機密保持契約書」や「NDA」とも呼ばれる、秘密保持契約について記した契約書のことです。秘密保持契約を締結することによって、当事者の一方である秘密情報の受領者は、開示者に対して、秘密保持義務を負うことになります。

転職者に関する秘密保持義務

転職者は、これまで培ってきたキャリアや技術を今まで以上に発揮するために、同業他社に転職することも多いでしょう。しかし、転職者が元会社の秘密情報(営業秘密等)を使用・開示して業務を行ってしまうと、転職者が損害賠償請求等を受けるだけでなく、元会社や転職先の会社も損害を被ってしまいます。

転職者を受け入れる、または自社から転職者を送り出す場合に気をつけるべき点について、次項以下にまとめました。

転職してきた労働者

転職者の持ち込んだ情報が他社の営業秘密であると知らなかったとしても、知らなかったことに「重大な過失」がある場合には、不正競争防止法に基づき、損害賠償請求や差止請求がなされるおそれがあります。

そこで、転職者の受入れに当たっては、秘密保持義務や競業避止義務の有無といった、転職者と元会社の契約関係を確認することが大切になります。また、転職者を採用する際に、「元会社での秘密情報を自社内に持ち込まない」と確約する誓約書を取得しておくことも、重大な過失がないことを主張する根拠として有効です。さらに、転職者の秘密保持義務等の内容を踏まえたうえで、転職者の業務内容を定期的に確認する等、採用後の管理も重要になります。

転職する労働者

転職する労働者に自社の秘密情報を使用・開示させないための方法として、退職後も秘密保持義務と競業避止義務を負わせ、在職中に知り得た情報を使用・開示することや競合他社への転職を牽制することが挙げられます。そこで、就業規則や入社時に結ぶ雇用契約書に、退職後の秘密保持義務や競業避止義務について定めておくことが重要です。もっとも、これらの義務を退職後も負わせる契約の有効性が問題となるケースも多いので、注意が必要でしょう。

不正競争防止法との関係

不正競争防止法とは、商売をするうえでの不正な行為を禁止する法律で、「営業秘密」を有する企業から当該秘密を示された者が、図利加害目的でそれを使用・開示することも禁止しています(不正競争法2条1項7号)。業務をするうえで、企業から営業秘密を開示された労働者もこの規制を受けるので、不正競争防止法の規定によっても、労働者は営業秘密に関する秘密保持義務を負うことになります。

企業の秘密保持義務に関する判例

最後に、秘密保持義務違反等を理由になされた解雇処分について、解雇権の濫用には当たらず有効であると判断した裁判例をご紹介します。

【大阪地方裁判所 平成8年9月11日判決、東栄精機事件】

事案の概要

運搬機やディーゼルエンジン、工作機械部品の製作、一般機械の修理販売等を業とし、訴外会社からの発注が業務の95%を占める下請会社であるY(被告会社)で雇用されていたX(原告)が、①Yのヴァンデータ(元請会社が下請会社等に製品の発注、検収、未納品等に関する指示を行うシステムのデータ)を無断で自身のフロッピーディスクに複製して整理し、Yに送り付けたり、②NC旋盤の数値制御装置に読み込まれていた加工用プログラムを消去しただけでなく、加工用プログラムが組み込まれているテープ14本を無断で持ち出したうえで13本を破棄して業務を妨害したり、③Yに暴言を吐いたりしたことが就業規則の解雇事由に該当するとして、通常解雇された事案です。これに対して、Xは当該解雇が不当労働行為または解雇権の濫用に当たり無効であると主張し、労働契約上の地位を有することの確認を求めました。

(なお、今回は①の行為に焦点を当てて解説します。)

裁判所の判断

裁判所は、まず、Yが元請会社との間で締結した資材売買取引基本契約には、「相互に相手方の業務上の秘密事項について第三者に漏洩しない」旨の秘密保持義務が定められており、元請会社はヴァンシステムを導入してYに指示を行っていた事実を認定しました。

そのうえで、「元請業者の下請業者に対する発注等の指示は、企業の活動状況を如実に示す資料であり、その内容から当該企業の業績等を推測することが容易に可能なもの」であるので、ヴァンデータの内容が、「資材売買取引基本契約に規定された業務上の秘密事項として扱われることには十分な理由がある」として、ヴァンデータが検収後1ヶ月~1ヶ月半程度で業務用コンピュータから消去されたり、Yの労働者が業務用コンピュータの使用を明示的に禁止されていなかったりしたとしても、ヴァンデータが秘密情報として保護されるべき性質を有することに変わりはないと判断しました。さらに、Xはヴァンデータが秘密情報に当たることを十分に認識しながら、無断でフロッピーディスクに複製し、内容証明を元請会社に送るといった発言をしていることから、①の行為は、Yの就業規則(製品および書類等を丁寧に取り扱い厳密に保管すること、許可なく職務以外の目的でYの設備等を使用しないこと、会社の秘密を洩らそうとしたとき)で禁止する行為に該当すると考えました。

また、②および③の行為も同様に、就業規則で禁止する行為に該当すると認定したうえで、Xの主張を退け、本件解雇が有効であると結論づけました。

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます