健康診断の種類と会社の費用負担について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
健康診断は、自分では分からないような、症状のない病気等を早期に発見するためにも大切な診断です。受診することで、自身の身体について向き合うことができます。
会社としても、労働者が安全で、健康に働けるように健康診断を受診させる義務があり、これは法律上で定められている大切な義務でもあります。
本記事では、使用者が気を付けるべき、労働安全衛生法上での健康診断の実施について説明していきます。
目次
労働安全衛生法による健康診断の実施義務
使用者は、労働者の健康を確保する義務があります(安全配慮義務)。そのため、常時勤務している労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません(労働安全衛生法(労安衛法)66条)。また、健康診断の実施義務に違反した場合には、50万円以下の罰金に処せられることが法律上で定められています(労安衛法120条)。
労働安全衛生法
(健康診断)第66条
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
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健康診断の対象となる労働者
健康診断の対象となるのは、「常時使用する労働者」です。正社員雇用の場合は、雇用期間の定めがないため、健康診断の対象に該当すると判断しやすいかと思います。しかし、雇用期間の定めがある、いわゆる契約社員への健康診断実施について疑問に思う方も多いのではないでしょうか。契約社員の場合は、契約更新により1年以上使用が予定されている者、及びすでに契約更新により1年以上使用されている者については、健康診断の対象に該当するといえるでしょう。
続いて、パートタイムやアルバイトの場合と役員の場合について、健康診断の対象となるか否か、説明していきます。
パートタイム・アルバイトの場合
正社員以外においても、一定の要件を満たすと健康診断を受診させる義務が生じます。
具体的には、パートタイムやアルバイトなどの労働者が、正社員の所定労働時間の4分の3以上勤務している場合、健康診断の実施が必要となります。したがって、雇用形態だけではなく、労働時間による判断をする必要があります。
役員の場合
会社の役員も労働者として考えられますが、健康診断の受診対象に該当する役員と該当しない役員がいます。
常務取締役兼任工場長のような労働者性のある役員は、健康診断を受診してもらう対象となりますが、代表取締役社長等の事業主は対象外となります。ただし、対象外といっても健康管理義務がないわけではありませんので、法律上での義務がなくても健康診断を受診してもらうことで、実務上のリスクを下げることができるでしょう。
健康診断の種類と実施時期
一般健康診断
一般健康診断は、細かく分けることができます。以下で、それぞれについて説明します。
〈雇入れ時の健康診断(労働安全衛生規則(労安衛則)43条)〉 | |
---|---|
対象者 | 常時使用する労働者 |
実施期間 | 雇入れ時 |
健康診断の項目 |
|
〈定期健康診断(労安衛則44条)〉 | |
---|---|
対象者 | 常時使用する労働者(特定業務従事者除く) |
実施期間 | 1年以内ごとに1回 |
健康診断の項目 |
|
〈特定業務従事者の健康診断(労安衛則45条)〉 | |
---|---|
対象者 | 労安衛則13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 |
実施期間 | 上記業務への配置換え時、6ヶ月以内ごとに1回 |
健康診断の項目 | 定期健康診断と同一 |
〈海外派遣労働者の健康診断(労安衛則45条の2)〉 | |
---|---|
対象者 | 海外に6ヶ月以上派遣する労働者 |
実施期間 | 海外に6ヶ月以上派遣する前、及び帰国後国内業務に就労するとき |
健康診断の項目 | 定期健康診断と同一及び厚生労働大臣が定める項目のうち医師が必要と認めるもの |
〈給食従業員の検便(労安衛則47条)〉 | |
---|---|
対象者 | 事業に附属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者 |
実施期間 | 雇入れ時、上記業務への配置換え時 |
特殊健康診断
有害な業務に従事する労働者に対しては、特殊健康診断の実施を義務付けています。この健康診断の対象者に該当する者には、医師による特別な項目について健康診断を行います。
特殊健康診断を行わなければならないとされている業務については、以下のとおりです。
- (1)高気圧業務
- (2)放射線業務
- (3)特定化学物質業務
- (4)石綿業務
- (5)鉛業務
- (6)四アルキル鉛業務
- (7)有機溶剤業務
このうち、(3)(4)の業務については、その業務に従事しなくなった場合でも、特殊健康診断を実施する必要があります。また、特殊健康診断を実施すべき時期としては、雇入れ時、上記業務への配置替え時、6ヶ月以内ごとに1回となります。
じん肺健康診断
使用者は、粉じん作業に従事している労働者に対して、じん肺健康診断を受診させる必要があります(じん肺法3条、7~10条)。じん肺健康診断の結果により、じん肺管理区分が決定されます。実際の実施時期に関しては、まず就業の際に必要となり、その後の定期健康診断は、じん肺の所見がない場合は3年に1回、じん肺の所見がある場合は1年に1回の頻度で行います。
歯科医師による健康診断
歯又はその支持組織に有害な物質を取り扱う業務に従事する労働者や、有害な作業環境下で業務にあたる労働者に対しては、歯科医師による健康診断を受診させる必要があります。取扱い物質の多少にかかわらず、歯科医師による健康診断が義務付けられています。
労働安全衛生法
(健康診断)第66条第3項
事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行わなければならない。
労働安全衛生法施行令
(健康診断を行うべき有害な業務)第22条第3項
法第66条第3項の政令で定める有害な業務は、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務とする。
労働安全衛生規則
(歯科医師による健康診断)第48条
事業者は、令第22条第3項の業務に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び当該業務についた後6月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断を行わなければならない。
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健康診断の費用負担
健康診断の実施は、労安衛法によって事業者に義務付けられている以上、当然に健康診断にかかる費用は会社で負担すべきものとされています。
健康診断の受診時間
健康診断の受診時間は、労働時間に含まれるのでしょうか?労働者の業種によって、健康診断の種類が変わるため、それぞれに分けて説明します。
一般健康診断の受診は、労働者の業種とは直接的には関係ないため、当然に使用者が負担すべきものではなく、労使双方にとっての責務であるため、労働時間外に受診させても良いとすることはできるでしょう。もっとも、労働者と事業者との間でどのようにするか協議しておくことは重要といえます。
一方、特殊健康診断の受診については、特殊な業務で必要な健康診断であるため、原則として労働時間内に受診させます。
健康診断を受診している間の給与
では、健康診断に要した時間についての賃金はどのようになるのでしょうか?
一般健康診断は、業務との直接関連性がないため、給与の支払い義務はありません。ただし、会社には健康診断実施義務があるため、労働者にきちんと受診してもらうために、労働時間内に実施し給与も支払うとしたほうがスムーズに受診してもらえるでしょう。
対して、特殊健康診断は業務との関連性があり、必要な健康診断であるため給与の支払い義務があります。したがって、労働時間外に受診した場合には、割増賃金を支払う必要があります。
健康診断実施後に会社が講ずべき措置
労働者が健康診断を受診後、会社としてはどのような措置をとるべきか、ポイントとして6つに分けられますので、説明します。
- (1)健康診断結果の記録(労安衛法66条の3)
健康診断結果は、健康診断個人票として記載し5年間保存しなければなりません。 - (2)健康診断の結果について医師等からの意見聴取(労安衛法66条の4)
健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聴く必要があります。 - (3)健康診断実施後の措置(労安衛法66条の5)
上記(2)による医師や歯科医師の意見を勘案し、その必要がある場合は就業場所の変更、労働時間の短縮等の措置をしなければなりません。 - (4)健康診断の結果の労働者への通知(労安衛法66条の6)
健康診断結果は、労働者に通知しなければなりません。 - (5)健康診断の結果に基づく保健指導(労安衛法66条の7)
健康診断結果によって、健康の保持に努める必要がある労働者に対して、医師や保健師による保健指導を行うように努めなければなりません。 - (6)健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
使用者は健康診断結果を遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
二次健康診断等給付について
健康診断受診後、上記以外に会社がすべき措置としては、二次健康診断等給付があります。
二次健康診断等給付とは、定期健康診断の結果から、脳・心臓疾患を発症する危険性が高いと判断された労働者が、状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の予防を図るために医師等による特定保健指導を1年度内に1回、無料で受診することができる制度になります。
二次健康診断等給付の対象となる要件は、➀健康診断の結果に、異常な所見が認められること、➁脳・心臓疾患の症状を有していないこと、③労災保険の特別加入者でないこと、が挙げられます。
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労働者の健康診断受診義務
会社には、労働者が安全・健康に働けるように配慮する安全配慮義務があるため、労働者は原則として使用者が行う健康診断を受診する義務を要します(労安衛法66条第5項)。受診義務はあるものの、労働者が健康診断受診を拒否したのを会社が放置し、その労働者に健康障害が生じた場合は、会社が安全配慮義務を怠ったとして、損害賠償を請求される可能性があります。
しかし、労働者に対しても、安全で健康に勤務できるよう、自己の健康状態を注意し、管理する自己保健義務があります。労働者の安全や健康は会社のみの努力では難しいものであるため、労働者に対して協力を求める必要があるでしょう。
より詳しい自己保健義務については、下記のページをご覧ください。
受診拒否をする労働者への対応
健康診断の受診は会社の指定医師以外でも可能です。他の医療機関で受診した場合は、健康診断の結果の提出をしてもらうようにしましょう。
会社が何度も受診するよう業務命令等をしたにもかかわらず、労働者が受診を拒否した場合には、当該労働者に対して懲戒処分の対象とすることが可能となります。就業規則に健康診断の受診拒否が懲戒処分の対象となる等、健康診断について正しく定め、周知しておくことが良いでしょう。
指定医検診についての詳細は、下記のページをご覧ください。
健康診断の受診拒否に関する判例
実際に労働者が健康診断を拒否し、争われた判例をご紹介します。
【最高裁 平成13年4月26日第一小法廷判決】
- 事件の概要
- 市立中学校の教諭である原告が、定期健康診断の胸部X線検査を拒否し、校長の発した受診命令に従いませんでした。そこで、教育委員会である被告は、懲戒事由に該当すると判断し、原告に対して減給処分を下しました。それに対し、原告が減給処分の取り下げを求めた事例です。
- 裁判所の判断
- 裁判所は、市町村立中学校の教諭その他の職員は、その職務を遂行するに当たって労働安全衛生法第66条に従うべきであり、当該校長の受診命令に従わなかったことは、地方公務員法第29条に該当するとしました。したがって、原告が受診命令に従わなかったことは、懲戒事由に該当すると判断しました。
妊産婦に対する健康診断の実施
労働者の中に妊産婦がいた場合にも、会社は健康診断を受診させる必要があります。ただし、妊娠中あるいは妊娠中の可能性がある場合は、胎児への影響のおそれがあるレントゲン検査やバリウム検査等は受けさせないよう注意が必要です。
女性労働者の健康管理についての詳細は、下記のページをご覧ください。
個人情報の取扱いに関する注意点
使用者は、健康診断で得た労働者の健康状態や心身の状態等の情報を適切に保管し、その他の秘密を漏らしてはいけません(労安衛法104条、105条)。労働者の個人情報を漏洩した場合、個人情報保護法違反として、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則を科される可能性もあります。したがって、健康情報等の個人情報の適切な取扱いと管理方法等の内容も、就業規則に定めておくことをおすすめします。
労働安全衛生法
(心身の状態に関する情報の取扱い)第104条
事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
(健康診断等に関する秘密の保持)第105条
第65条の2第1項及び第66条第1項から第4項までの規定による健康診断、第66条の8第1項、第66条の8の2第1項及び第66条の8の4第1項の規定による面接指導、第66条の10第1項の規定による検査又は同条第3項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある