定年65歳に引き上げ義務化について詳しく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2025年4月から、全ての企業で65歳までの雇用確保が義務化されます。
また、さらなる年金受給年齢の引き上げにあたり、2021年4月には「70歳までの就業機会の確保」の努力義務が課されました。
そこで、この記事では、高年齢者雇用安定法改正による「定年の引き上げ」について、企業が最大限のメリットを得られるよう、とるべき対応や見直すべき制度のポイント等を解説していきます。
目次
65歳までの定年引き上げについて
改正により、定年年齢を65歳未満にしている事業主に対して、雇用継続を希望する60歳以上65歳未満の労働者全員を雇用することが義務づけられました。今までは、中小企業等の一部の企業には経過措置が適用されていました。しかし、2025年4月からは全ての企業に義務づけられることになったため、体制整備等の対応が必要となります。
これにより、具体的な措置として、定年年齢が65歳未満の企業については、以下のいずれかを講じなければなりません。
- ①65歳までの定年の引き上げ
- ②65歳までの継続雇用制度の導入
- ③定年制度の廃止
これら3つの措置を、「高年齢者雇用確保措置」といいます。
なお、定年年齢については、基本的に60歳以上としなければならず注意が必要です。
高年齢者雇用安定法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
定年について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
70歳まで定年延長について
2021年4月より、労働者に70歳までの「就業機会確保」の努力義務が定められました。これにより、多くの企業について、以下の義務及び努力義務が課せられます。
- 定年を60歳以上とする義務(定年制度の廃止も可能)
- 65歳までの雇用確保義務(定年引き上げまたは定年制度の廃止、あるいは継続雇用制度の導入)
- 70歳まで就業機会を確保する努力義務
70歳まで就業機会を確保するために、企業は以下の方法を選択できます。
- ①70歳までの定年の引き上げ
- ②70歳までの継続雇用制度の導入
- ③定年制度の廃止
- ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ⑤70歳まで継続的に事業主が実施等している社会貢献事業に従事できる制度の導入
海外の定年制度
日本では当たり前のように考えられている定年制度ですが、世界では年齢による差別に該当するとして禁止されている国があります。
また、定年制度のある国であっても、各国で定められている年齢は異なります。しかし、高齢化や人手不足等の影響により、日本と同様に定年年齢の引き上げが議論されている国が多いようです。
定年制度が禁止されている | アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア等 |
---|---|
65歳~67歳程度 | ドイツ、フランス等 |
60歳~64歳程度 | タイ、マレーシア、シンガポール等 |
定年引き上げのメリットとデメリット
社会からの要請に応えるだけでなく、定年の引き上げは、企業にとって人材を確保できる等のメリットがあります。しかし、人件費がかかる等のデメリットもあります。 定年の年齢を引き上げることのメリットとデメリットについて、以下で解説します。
メリット
企業が定年を引き上げることによって得られるメリットとして、以下のものが挙げられます。
- 戦力となる人材を長く雇っていることができる
- 働くことができる年数が延びるため、労働者のモチベーションが上がる
- 採用にかかるコストを抑えることができる
- 新たな組織を作る等せずに就業機会を確保できるため、業務遂行への影響が少ない
デメリット
企業が定年を引き上げることのデメリットとして、以下のものが挙げられます。
- 企業内の高齢化が進み、若年層へうまく世代交代ができないおそれがある
- 年功序列制を採用する企業では、高齢の労働者ほど賃金が高い傾向にあるため、人件費が高くなる
- 高齢の労働者は、若年の労働者に比べて体力がないことに加えて、健康面の不安も生じる
- 雇用を継続したくない労働者も、引き続き雇用しなければならない
定年の引き上げに関して検討すべき事項
定年を引き上げるにあたっては、以下の項目について検討しましょう。
- ①定年年齢の引き上げ方
- ②対象者・仕事内容・役職
- ③労働時間・配置・異動
- ④成果への評価
- ⑤賃金・退職金
なお、定年に関する変更事項は、必ず就業規則に記載しなければなりません。定年という退職に関する項目は、下記条文のとおり、就業規則に記載すべき「絶対的必要記載事項」だからです。
労働基準法
(作成及び届出の義務)第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
定年年齢の引き上げ方
定年を引き上げる際にまず問題となるのは、引き上げ後の定年年齢です。
また、一度に定年を引き上げるのか、それとも段階的に引き上げていくのかによって、企業のとるべき対応は異なってきます。
一度定年年齢を引き上げると、その定年年齢を引き下げることは不利益変更にあたるため、容易にはできません。そのため、自社に適した定年年齢の上げ幅・上げ方を慎重に検討する必要があります。
対象者・仕事内容・役職
変更後の定年制度は、従前と同様、全労働者に適用されます。
そのため、定年引き上げ後、企業全体をみて、従前の定年年齢を迎えた高齢の労働者の仕事内容や役職等を変更する必要が出てくる場合があるでしょう。
そのような場合は、高齢労働者だけでなく、他の労働者からも不満が出ないよう、どのような仕事や役職を担当してもらうのかを慎重に検討して決定しましょう。
労働時間・配置・異動
定年年齢を引き上げる場合は、労働時間や勤務日数、配置等を変更するようなときのみ、雇用契約を結び直し、雇用契約書や労働条件通知書を作成し直しましょう。
なぜなら、定年年齢を引き上げる場合には、労働条件等はリセットされず、従前の労働契約が続くことになるからです。
定年年齢を引き上げた後の労働条件を変更するのであれば、新たに労働条件を結び直し、労働時間や勤務日数、配置等を変更するようにしましょう。
成果への評価
定年年齢の引き上げを行ったとしても、労働条件が変更されるわけではありません。また、労働者である以上、公平かつ公正に評価されるべきであることには変わりません。そこで、定年年齢引き上げの対象となったことを前提とした人事制度を構築する必要が出てくると考えられます。
賃金・退職金
定年年齢の引き上げについて、賃金に関する規制を受けることはありません。また、退職金が支払われる時期は、定年を迎えた後であることに変わりはありません。
定年年齢の引き上げにより、従前に比べて人件費がかかるため、継続雇用制度を導入するよりも慎重にコストを検討しなければならないでしょう。
そこで、定年延長の機会には、賃金や退職金について、能力・職務等の要素を重視する制度に向けた見直しを行いましょう。ただし、高年齢者の生活の安定にも配慮して、計画的かつ段階的に制度を修正する必要があります。
定年の引き上げを実施した企業への助成金
65歳以上への定年の引き上げや、高齢者の無期雇用契約への転換等により、政府からの助成金を受け取ることができます。
人件費の負担を緩和するために、利用を検討することをお勧めします。
65歳超継続雇用促進コース
- 就業規則等により、以下のいずれかに該当する新しい制度を実施し、労働基準監督署に届け出たこと
- 65歳以上への定年年齢の引上げ
- 定年廃止
- 66歳以上の継続雇用制度の導入
- 他社による継続雇用制度の導入
- 定年を引き上げるために、専門家やコンサルタントに経費を支出したこと
- 「高年齢者雇用管理に関する措置」を1つ以上実施していること
※教育訓練の実施等
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
- 雇用管理整備計画の認定を受けること
- 高年齢者雇用管理整備措置を実施し、それに伴う書類を整備していること
- 同一の事由により国等から補助金等を受けていないこと
高年齢者無期雇用転換コース
- 無期雇用転換計画の認定を受けること
- 無期雇用転換計画の期間内に、雇用する50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること
- 同一の事由により国等から補助金等を受けていないこと
定年の引き上げと再雇用制度の違い
再雇用制度とは、一旦退職した労働者と新たな労働契約を結ぶ制度です。定年を迎えた労働者に、退職金を払う等して労働契約を終了させ、新たな契約で雇うことになります。
一方、定年の引上げでは、従来の労働契約を引き上げた定年まで継続することになります。
定年の引き上げ | 定年年齢を引き上げ、従前の年齢に達しても退職させずに労働関係を継続すること |
---|---|
再雇用制度 | 定年年齢に達した労働者に一度退職という形をとらせ、定年後に再び雇用契約を結ぶという制度 |
継続雇用制度について、より詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
公務員の定年延長について
国家公務員も地方公務員も、現在では基本的に60歳が定年とされます。しかし、公務員の定年年齢に関しても、一般企業と同様に65歳まで引き上げられることになりました。
具体的には、以下のように、2年につき1歳ずつ、段階的に引き上げられます。
2023年4月 | 61歳 |
---|---|
2025年4月 | 62歳 |
2027年4月 | 63歳 |
2029年4月 | 64歳 |
2031年4月 | 65歳 |
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある