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高年齢者雇用安定法改正による「定年の引き上げ」について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

2018年10月1日時点で、日本の総人口1憶2644万人に占める65歳以上の割合(高齢化率)は28.1%となっており、以降も増加傾向にあります。少子化によって生産年齢人口が減少しつつあるなか、労働力を確保して中長期的な企業の発展を図るためには、これまで多くのノウハウを蓄積してきた高齢者を積極的に雇用することが重要といえます。

また、さらなる年金受給年齢の引き上げにあたり、政府は、「70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務」とする、高年齢者雇用安定法等の改正案を閣議決定しました。国会で決定すれば、2021年4月に適用されることになると考えられます。

そこで、今回は、高年齢者雇用安定法改正による「定年の引き上げ」について、企業が最大限のメリットを得られるよう、とるべき対応や見直すべき制度のポイント等を解説していきます。

65歳までの定年引き上げについて

定年の引き上げは、生涯現役社会(健康で意欲と能力がある限り、年齢に関係なく働き続けることができる社会)の実現に繋がります。そして、このような高齢者の能力を有効に活用することができる社会の実現へ向けた努力は、国が推進する「全員参加型社会」を形作るための重要な要素といえます。そのため、政府主導で、高齢者雇用に関する法律である「高年齢者雇用安定法」の改正がなされ、定年の引き上げ等、高齢者の雇用を促進する措置が推奨されるようになってきました。

定年について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

定年について

高年齢者雇用安定法の改正

これまで、高年齢者雇用安定法の改正とともに段階的に定年が引き上げられてきた結果、現在は定年年齢を60歳以上とするように定められるようになりました(高年齢者雇用安定法8条)。さらに、近年の改正では、定年年齢を65歳未満にしている事業主に対して、以下の「高年齢者雇用確保措置」のいずれかを講じ、雇用継続を希望する60歳以上65歳未満の労働者全員を雇用することが義務づけられました(高年法9条)

  • ①65歳までの定年の引き上げ
  • ②65歳までの継続雇用制度の導入
  • ③定年制度の廃止

高年齢者雇用安定法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

高齢者雇用について

定年の引き上げと再雇用制度の違い

再雇用制度とは、高年齢者雇用確保措置のひとつである、継続雇用制度(定年後も引き続き雇用する制度)の一内容で、各企業で定年年齢に達した労働者に一度退職という形をとらせ、定年後に再び雇用契約を結ぶという制度です。2010年の人事院の調査報告によると、定年制を定めている企業(全体の99.4%)のうち、継続雇用制度を設けている企業は97%、その中で再雇用制度を採用している企業は95.3%です。

これに対して、定年の引き上げは、定年年齢を引き上げ、従前の年齢に達しても退職させずに労働関係を継続する点で、まったく異なる制度です。

継続雇用制度について、より詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

高年齢者雇用安定法における継続雇用制度

定年引き上げのメリットとデメリット

メリット

企業が定年を引き上げることによって得られる最大のメリットは、長年の勤続によって培わかれた専門知識を持ち、企業内の仕組みもよく理解している、戦力となる人材を長く手元に置けるということでしょう。また、従前の労働条件のまま働くことができる年数が延びることで、高齢の労働者自身のモチベーションが上がるため、さらなる活躍を期待することができます。さらに、組織を維持したままで対応できるため、業務遂行への影響が少ないこともメリットとして挙げられます。

デメリット

定年を引き上げることで受けるデメリットとしては、まず、企業内の高齢化が進み、若年層へうまく世代交代ができないおそれが挙げられます。また、年功序列制を採用する企業が多く、高齢の労働者ほど賃金が高い傾向にあるため、人件費がかさみます。さらに、高齢の労働者は、若年の労働者に比べて体力がないことに加え、健康面での不安をぬぐえません。加えて、企業としては雇用を継続したくない労働者も、引き続き雇用しなければならないことになります。

定年の引き上げに関して検討すべき事項

定年を引き上げるにあたっては、以下の項目についてよく検討しましょう。なお、定年にかかわるルールを変更した場合は、必ず就業規則を変更しなければなりません。なぜなら、定年という退職に関する項目は、就業規則に必ず記載するべき、絶対的必要記載事項(労働基準法89条3号)だからです。

定年年齢の引き上げ方

定年を引き上げる際にまず問題となるのは、引き上げ後の定年年齢です。また、一度に定年を引き上げるのか、それとも段階的に引き上げていくのかによって、企業のとるべき対応は異なってきます。一度定年年齢を引き上げると、その定年年齢を引き下げることは不利益変更にあたるため、容易にはできません。そのため、自社に適した定年年齢の上げ幅・上げ方を慎重に検討する必要があります。

対象者・仕事内容・役職

変更後の定年制度は、従前と同様、全労働者に適用されます。そのため、定年引き上げ後、企業全体をみて、従前の定年年齢を迎えた高齢の労働者の仕事内容や役職等を変更する必要が出てくる場合があるでしょう。そのような場合は、高齢労働者だけでなく、他の労働者からも不満が出ないよう、どのような仕事や役職を担当してもらうのかを慎重に検討して決定しましょう。

労働時間・配置・異動

定年を引き上げる場合は、再雇用制度とは異なり、労働条件等はリセットされることなく、従前の労働契約が続くことになります。そのため、定年年齢を引き上げた場合、引き上げ後の労働条件を変更することを予定するのであれば、新たに労働条件を結び直し、労働時間や勤務日数、配置等を変更する必要があります。

したがって、労働時間や勤務日数、配置等を変更するようなときのみ、雇用契約を結び直し、雇用契約書や労働条件通知書を作成し直しましょう。

成果への評価

定年年齢の引き上げを行ったとしても、労働条件が変更されるわけではありません。また、労働者である以上、公平かつ公正に評価されるべきであることには変わりません。そこで、定年年齢引き上げの対象となったことを前提とした人事制度を構築する必要が出てくると考えられます。

賃金・退職金

定年の引き上げにより、従前に比べて人件費がかかることになるため、企業としてはこの点を無視することはできません。

なお、定年年齢の引き上げに際して、賃金に関する規制を受けることはありません。もっとも、能力・職務等の要素を重視する制度に向けた見直しに努めること、そして、その制度が雇用する高年齢者の雇用と生活の安定にも配慮した計画的かつ段階的なものとなるよう留意することは求められています。

また、退職金が支払われる時期は、定年を迎えた後であることに変わりはありません。

選択定年制の導入について

選択定年制とは、定年年齢を迎える前に、自分の意思(自己都合)で早期退職を選べる制度をいいます。様々な運用がなされていますが、一般的に、区切りの良い年齢を設定し、その年齢を迎えた時点で退職するか否かを選ばせるという運用が多くみられます。選択定年制の利用を促すためには、当該制度を利用して退職する場合には退職金を増額する等、メリットを用意することが重要です。

高齢の労働者を対象とした運用の例としては、退職年齢を60~65歳の間で選べるようにして、65歳を上限とする1年更新の有期労働契約に変更し、最大65歳まで働き続けられるとしたものがあります。

公務員の定年引き上げの動向

国家公務員は、原則として60歳で定年とされます(国家公務員法81条の2第2項)。また、地方公務員に関しても、当該規定に準じて60歳とされます。

しかし、一般企業が60歳以降の人材も雇用・再雇用するようになりつつある流れを受け、公務員の定年年齢に関しても、65歳まで引き上げることが検討されるようになりました。

定年の引き上げを実施した企業への助成金

65歳以上への定年の引き上げや、高齢の労働者の雇用管理制度の整備等を行う事業主は、「65歳超雇用推進助成金」という、政府からの助成金を受け取ることができます。詳しくは下記の記事をご覧ください。

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