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労働基準法における平均賃金の算定方法

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

有給取得時、休業時等において、会社は労働者に対して賃金を支払わなければなりません。その場合の算定基準となるのが、平均賃金です。しかし、労働者の雇用形態は、1つとは限りません。また、各労働者における状況等もさまざまです。それに伴って、平均賃金の算定方法もまた異なってきます。

本記事では、労働基準法に則った「平均賃金の算定方法」について解説していきます。

平均賃金の概要

平均賃金とは、賃金の相場といった意味ではなく、労働基準法等で定められている手当や補償等を算定するときの基準となる金額を指します。

原則、平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間に対して支払われた賃金の総額を、その期間の日数で割った金額が平均賃金であるとされています(労基法12条)。

平均賃金の意義

解雇予告手当や休業手当を支給する際、平均賃金を用いますが、その計算方法が明確でなければ、会社側の恣意的な支払いや、労働者側の過大な請求を許してしまうことになります。そういった事態を防ぐためにも、平均賃金の計算方法が明確に定められていますが、複雑な点もありますので、以下でご紹介していきます。

平均賃金の計算

平均賃金の計算方法は、以下のとおりです。

【平均賃金=3ヶ月間に支払われた賃金総額÷3ヶ月間の総日数】

平均賃金は、労働者の生活を保障するものであるため、通常の生活賃金をそのまま算定することを基本としています。

平均賃金を用いるケースとその起算日

平均賃金の計算は以下のような場合に用いられます。

(1)解雇予告手当
労働者を解雇する場合の予告に代わる手当。平均賃金の30日分以上を支給する(労基法20条)

(2)休業手当
使用者の都合によって休業させる場合に支給する手当。1日につき平均賃金の6割以上を支給する(労基法26条)

(3)年次有給休暇の賃金
労働者が年次有給休暇を取得した日について、平均賃金で支給する場合(労基法39条)

(4)労災補償等
労働者が業務中に負傷したり、疾病にかかったり、あるいは死亡した場合の補償(労基法76条から82条)

(5)減給制裁
1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割までとする(労基法91条)

(6)転換手当
じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う場合。平均賃金の30日分または60日分(じん肺法22条)

上記が用いられるとする起算日は、それぞれ平均賃金の算定事由が発生した日としています。

  • (1)…労働者に解雇の通告をした日
  • (2)(3)…休業日・年休日(2日以上の場合は、最初の日)
  • (4)…事故が発生した日または、診断によって疾病が確定した日
  • (5)…制裁の意思表示が相手方に到達した日

詳細については、下記の各該当ページをご覧ください。

解雇予告について
会社都合の休業による休業手当の支給義務
労働基準法における年次有給休暇の賃金支払いについて
減給について

「以前3ヶ月間」とは

労働基準法12条に定められている平均賃金に関する条文中の「以前3ヶ月」とは、算定事由の発生した日は含まず、その前日から遡った3ヶ月となります。この3ヶ月間とは、休日や欠勤日も含まれます。

賃金締切日がある場合

賃金の締切日がある場合、直前の賃金締切日が起算日とされています(労基法12条2項)。なお、締切日に算定事由が生じた際は、直前の締切日に遡って算定します。また、賃金ごとに賃金締切日が異なる場合は、各賃金の締切日から算定することになります。

算定期間から控除される日数と賃金

算定期間に以下の期間が該当する場合は、その日数とその期間中の賃金が平均賃金の算定期間から控除されます(労基法12条3項)。

  • (1)業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
  • (2)産前産後の女性が休業した期間
  • (3)使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
  • (4)育児休業または介護休業をした期間
  • (5)試用期間

これらの期間中は、賃金が発生しなかったり、低賃金であったりとするため、上記の期間中の賃金も含めて算出してしまうと、平均賃金が低くなってしまうおそれがあるため、控除期間を設けています。

(1)から(5)の詳細は、下記の各ページからご覧いただけます。

産前産後休業について
育児休業について
会社都合の休業による休業手当の支給義務
試用期間について

賃金の総額について

賃金の総額とは、算定期間中に支払われる賃金、手当、賞与、その他使用者が労働者に対して支払うすべてのものをいいます(労基法11条)。具体的には、基本給、歩合給、家族手当、通勤手当、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、割増賃金、昼食量補助等も総額に含まれます。

また、未払い賃金がある場合は、未払い分も含めて計算します。 

下記の各ページでは、より詳しい解説をしていますので、ぜひご覧ください。

賃金を構成する要素
会社が支給する給与の諸手当について
労働基準法で定められる年次有給休暇の基礎知識

賃金の総額から除外されるもの

賃金の総額から控除されるものとしては、以下の3点が挙げられます。

  • (1)臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
  • (2)3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(半期ごとの賞与等。賞与であっても、3ヶ月ごとに支払われる場合は除く)
  • (3)労働協約で定められていない現物給与

端数処理の考え方

平均賃金を算定する際には、銭の単位まで求め、銭未満の端数は切り捨てることなります。平均賃金をもとに、各手当等を計算する際は、円未満の端数は四捨五入して計算するということになっています。

平均賃金の最低保障額

平均賃金は、①賃金を日給、時間給、出来高払制で支給するケースや、➁私傷病で欠勤しているケース等は賃金が低額になるおそれがあるため、これらの事情を考慮するために最低保障額が定められています。上記のようなケースでは、労働日当たりの賃金の6割を最低保障額としています(労基法12条1項但書)。

具体的な最低保障金額の計算式は、以下のとおりです。

【最低賃金保障額=(3ヶ月間の賃金総額÷3ヶ月間の実労働日数)×60%】

出来高払制についての詳細は、下記のページをご覧ください。

出来高制の給与保障に関する法律の定め

賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合

賃金を月給制等と日給制等を併用して算定している場合、平均賃金の最低保障額も別々で算定し た後、合算します。

【最低保障額=(その部分の総額÷その期間中の総日数)※1+日給制等の最低保障額※2

※1…月給制等の部分
※2…日給制等の部分

原則の方法で計算できない場合の例外規定

これまで説明してきた通常の方法で算定ができない場合は、例外規定が適用されます。次項にて、例外規定が適用されるケースごとに解説していきます。

日雇労働者の場合

日雇労働者の場合は、稼働にむらがあり、加えて日によって勤務先が変わることがあり、賃金が変動することが多いです。したがって、一般の労働者とは区別して算定する必要があるため、厚生労働大臣が別に定める金額を平均賃金としています(労基法12条7項)。算定方法は、以下のとおりです。

【平均賃金=(1ヶ月間に支払われた賃金総額÷1ヶ月間の総労働日数)×73%】

雇入れから3ヶ月に満たない場合

雇入れから3ヶ月に満たない労働者の場合は、平均賃金の算定期間を、雇入後の期間として算定します(労基法12条6項)。

また、雇入れから3ヶ月未満であっても、賃金締切日があるため、その場合には、賃金締切日から起算することとなります。

さらに、2週間に満たない労働者の場合、すべての日数を稼働していれば、その労働者に支払った賃金の総額の6/7をもって平均賃金とします(昭和45年5月14日基発第375号)。

試用期間中の場合

試用期間中に平均賃金を算定すべき事由が発生した場合、その期間中の日数及び賃金を賃金総額に算入し、算定します(労基法施行規則3条)。

試用期間についての詳細は、下記のページをご覧ください。

試用期間について

一昼夜交替勤務者の場合

一昼夜交代勤務者の労働時間が2暦日にわたるような場合は、原則、暦日単位で取り扱うことになります。また、1勤務が2日の労働とみなされる場合は、2日間の労働として計算します。

しかしながら、2日分の勤務と認められても、2暦日目に平均賃金算定理由が生じた際は、2日間のうち1日目に算定事由が発生したものとして取り扱われることになるため、総日数の計算も、その日は含まれないとしています。

労働時間についての詳細は、下記のページをご覧ください。

労働時間について

平均賃金が争点となった裁判例

ここでは、平均賃金が争点となった裁判例をご紹介します。

【大津地方裁判所 昭和38年8月5日判決】

事件の概要

長距離貨物運送に従事する自動車運転手である原告が、労働者災害補償保険法による休業補償費算定の根拠となる平均賃金額の決定の変更を、被告である大津労働基準監督署長へ求めた事例です。

裁判所の判断

原告が勤務していたA工業所では、原告ら自動車運転手が長距離の貨物運送に従事するときは、その距離の長短に応じて賃金のほかに現金を交付していました。この現金はガソリン代や食費、パンク修理費用にあてるための実費として支給されていましたが、運転手がこれらの出費を要しなかった場合でも返還を要しないものだったため、支給された現金は手当と呼ばれていました。しかし、A工業所はこれを手当として支給していたのではなく、一般経費として処理していたことが認められました。したがって、本件現金の支給は労働の対価として労働者に支払うものとはいえないため、労働基準法にいう賃金ではないとして、平均賃金に加算されるべきではないとしました。

また、ある期間の原告の賃金が被告の査定した平均賃金を超え、原告が主張する金額であることを認める証拠はなく、その他の証拠を総合すれば、被告のした平均賃金の決定は正当であることがうかがわれるため、原告の訴えを棄却しました。

【東京高等裁判所 昭和60年12月26日判決】

事件の概要

A会社に勤めていた被告人は、業務中に負傷をし、労働者災害補償保険法に基づき、被控訴人である労働基準監督署長から休業補償給付及び障害補償給付の支給決定を受けました。しかし、控訴人は当時、B会社とも雇用関係にあり、別個の賃金支払いを受けていましたが、被控訴人の支給決定は、給付基礎日額(平均賃金)につき、A会社から支払われた賃金にのみ基づいて平均賃金を算定したものでした。これに対して、控訴人がB会社からの賃金を含めた賃金総額を基礎として平均賃金を算定すべきであるとして争った事例です。

裁判所の判断

裁判所は、労働災害補償保険法上の休業補償給付及び障害補償給付の算定の基礎となる給付基礎日額(平均賃金)は、各給付の支給事由の発生した事業場の使用者から被災労働者に支払われた賃金に基づいて算出されれば足りると解されるところ、控訴人の本件業務上の負傷はA会社の就労中に生じたもので、災害補償責任を負うべきはA会社であり、B会社は関係しないとしました。そのため、控訴人に対する休業補償給付及び障害補償給付はA会社からの賃金を基礎として平均賃金を算定し、これを給付基礎日額として支給すれば足りる、として、控訴人の請求を棄却しました。

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