平均賃金の算定方法

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者に補償を行うとき、平均賃金がポイントとなります。平均賃金は、休業手当や有給休暇取得時の賃金の算定基礎になるため、正しく計算することが重要です。
ただし、平均賃金の算定方法は、労働者の雇用形態や勤務状況によって異なります。また、“最低保障額”も定められているため、著しく低い金額は認められません。
本記事では、平均賃金の計算方法や注意点を解説していきます。具体例を交えて解説しますので、ぜひご覧ください。
目次
平均賃金の概要
平均賃金とは、労働基準法等で定められている“手当”や“補償”などを算定するときに基準となる金額のことです。賃金の相場という意味ではありません。
平均賃金は、以下の計算式で求めるのが基本です(労働基準法12条)。
【事由の発生日前3ヶ月間の賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数】
平均賃金を用いるケースとその起算日
平均賃金の計算は以下のような場合に用いられます。
用いるケース | 起算日 | 解説 |
---|---|---|
解雇予告手当 | 労働者に解雇の通告をした日 | 解雇予告期間を空けなかった場合に支払う手当。30日に満たない日数分の平均賃金を支給する(労基法20条) |
休業手当 | 休業日・年休日(2日以上の場合は、最初の日) | 使用者の都合によって休業させる場合に支給する手当。1日につき平均賃金の6割以上を支給する(労基法26条) |
年次有給休暇の賃金 | 休業日・年休日(2日以上の場合は、最初の日) | 労働者が年次有給休暇を取得した日について、平均賃金で支給する場合(労基法39条) |
労災補償等 | 事故が発生した日または、診断によって疾病が確定した日 | 労働者が業務中に負傷したり、疾病にかかったり、あるいは死亡した場合の補償(労基法76条から82条) |
減給制裁 | 制裁の意思表示が相手方に到達した日 | 1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割までとする(労基法91条) |
転換手当 | じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う場合。平均賃金の30日分または60日分(じん肺法22条) |
詳細については、下記の各該当ページをご覧ください。
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平均賃金の計算
平均賃金は、以下の計算式で求めるのが基本です。
【事由の発生日前3ヶ月間の賃金総額 ÷ 3ヶ月の暦日数】
“3ヶ月間”については、基本的に事由の発生日の前日から起算します。
ただし、毎月賃金の締め日がある場合、直前の賃金締め日を起算日とします(労働基準法12条2項)。また、給与・手当・残業代などによって締め日が異なる場合、それぞれの締め日から遡ることになります。
例えば、賃金締め日が3/10で、事由発生日が4/1の場合、3/10から遡った3ヶ月間の賃金総額が用いられます。
なお、平均賃金が半端な金額になった場合、銭未満(小数第三位以下)は切り捨てます。
また、各手当については、円未満(少数第一位以下)を四捨五入して計算します。
それぞれ算出方法が異なるためご注意ください。
算定期間から控除される期間
算定期間に以下の期間が含まれる場合、その日数とその期間中の賃金を差し引きます(労基法12条3項)。
- (1)業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
- (2)産前産後の女性が休業した期間
- (3)使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
- (4)育児休業または介護休業をした期間
- (5)試用期間
これは、上記期間は賃金が発生しなかったり、通常よりも賃金額が低かったりすることがあるためです。
上記期間の賃金も含めて計算すると、平均賃金が著しく低くなるおそれがあるため、控除期間が設けられています。
(1)から(5)の詳細は、下記の各ページからご覧いただけます。
賃金の総額について
“賃金の総額”とは、算定期間中に支払われる賃金、手当、賞与、その他労働の対償として使用者が労働者に対して支払うすべてのものをいいます(労基法11条)。具体的には、以下が含まれます。
- 基本給
- 歩合給
- 家族手当
- 通勤手当
- 精皆勤手当
- 年次有給休暇の賃金
- 割増賃金
- 昼食代補助 等
また、未払い賃金がある場合は、未払い分も含めて計算します。
下記の各ページでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
賃金の総額から除外されるもの
以下の3つは、“賃金の総額”から除外されます。
- (1)臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金など)
- (2)3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(半期ごとの賞与など。賞与であっても、3ヶ月ごとに支払われる場合は除く)
- (3)労働協約で定められていない現物給与
退職金や賞与の詳細は、下記のページをご覧ください。
平均賃金の計算例
以下のケースで、実際に平均賃金を算出してみましょう。
・事由発生日:4/1、賃金締め日:毎月10日
・1月分給与:26万円、暦日数31日
・2月分給与:24万円、暦日数28日
・3月分給与:26万円、暦日数31日
【平均賃金:(26万円+24万円+26万円)÷(31日+28日+31日)=8,444.444・・・円】
銭未満は切り捨てるので、8,444円44銭が平均賃金となります。
また、本例で休業損害も計算してみます。
・会社都合で1日休業した
・平均賃の6割を支給する
【休業損害:8,444円44銭×0.6×1日=5,066.664円】
円未満を四捨五入して計算するので、5067円が休業損害となります。
平均賃金の最低保障額
賃金が日給、時間給、出来高払制などの場合、労働日数が少ないと平均賃金が低額になる可能性があります。また、病気や怪我で欠勤した場合も、給与が減り平均賃金が低くなるでしょう。
このような事情を考慮し、最低保障が定められています。
【最低保障額:(3ヶ月間の賃金総額÷3ヶ月間の実労働日数)×60%】
最低保障額が通常の平均賃金を上回る場合、最低保障額が平均賃金となります。以下のケースで比較してみましょう。
・事由発生日:4/1、賃金締め日:毎月10日
・1月分給与:暦日数31日、実労働日数15日、給与16万円
・2月分給与:暦日数28日、実労働日数13日、給与14万円
・3月分給与:暦日数31日、実労働日数15日、給与16万円
①通常の平均賃金
(16万円+14万円+16万円)÷(31日+28日+31日)=5,111.11円
②最低保障
(16万円+14万円+16万円)÷(15日+13日+15日)×0.6=6,418.60円
①<②なので、平均賃金は最低保障が適用され、6,418.60円となります。
出来高払制の詳細は、以下のページをご覧ください。
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原則の方法で計算できない場合の例外規定
通常の方法で平均賃金を算定ができない場合、例外規定が適用されます。 例外規定が適用されるケースを具体的にみてみましょう。日雇労働者の場合
日雇労働者の場合、稼働にむらがあり、日によって勤務先が変わることもあるため、賃金が変動しやすいです。そのため、一般労働者とは区別して算定する必要があります。
具体的には、厚生労働大臣が定める以下の金額が平均賃金となります(労基法12条7項)。
【平均賃金=(1ヶ月間に支払われた賃金総額÷1ヶ月間の総労働日数)×73%】
雇入れから3ヶ月に満たない場合
雇入れから間もないと、労働期間が3ヶ月に満たないこともあるかと思います。
そのようなケースでは、平均賃金の算定期間は、雇入後の期間を用いることになります(労基法12条6項)。
また、雇入れから3ヶ月未満の場合であっても、賃金締切日があれば賃金締切日から起算します。
さらに、雇入れから2週間に満たない労働者の場合、すべての日数を稼働していれば、その労働者に支払った賃金の総額に6/7を乗じた金額を平均賃金とします(昭和45年5月14日基発第375号)。
試用期間中の場合
試用期間については、平均賃金の算定期間から除外するのが基本です。
ただし、試用期間中に“平均賃金を算定すべき事由”が発生した場合は例外です。この場合、試用期間を除外すると、算定期間がゼロになってしまうからです。
そこで、試用期間の日数及び賃金を、通常の平均賃金の計算式にあてはめて計算することとされています(労基法施行規則3条)。
一昼夜交替勤務者の場合
一昼夜交代勤務者の労働時間が2暦日にわたるような場合、暦日単位で取り扱うのが基本です。
ただし、1勤務が2日の労働とみなされる場合は、2日間の労働として計算します。
なお、2暦日目に平均賃金算定事由が生じた場合、2日間のうち1日目に算定事由が発生したものとして扱われます。また、総日数も“1日”とカウントされることになります。
労働時間についての詳細は、下記のページをご覧ください。
平均賃金が争点となった裁判例
【大津地方裁判所 昭和38年8月5日判決】
- 事件の概要
長距離貨物運送を行う労働者(原告)が、平均賃金額の算定方法について異議を申し立てた事案です。
原告の会社(被告)では、あらかじめガソリン代・食費・バンク修理代などが支給されており、出費の有無に関わらず返還は不要とされていました。そのため、原告は、これらの支給額も“賃金”に含むべきだと主張しました。- 裁判所の判断
しかし、裁判所は、被告がこれらの支給額を“手当”ではなく“一般経費”として処理していた事実を認め、賃金にはあたらないと判断しました。
その結果、原告の訴えは棄却され、被告が算出した従来の平均賃金が正当であると認められました。
【東京地方裁判所 昭和60年12月26日判決】
- 事件の概要
A会社で業務中に負傷した原告が、労災補償における平均賃金の算定方法について訴えた事案です。
原告はA会社の他にB会社でも勤務していましたが、労働基準監督署(被告)は、A会社から支払われた賃金のみによって平均賃金を算定していました。そこで原告は、B会社から支払われた賃金も含めて平均賃金を算定するよう求めました。- 裁判所の判断
しかし、裁判所は、労災補償における平均賃金は、支給事由の発生した事業場の賃金に基づいて算出すれば足りるとし、B会社は無関係であると判断しました。
その結果、原告に対する労災補償は、A会社からの賃金を基礎として算出した平均賃金を用いれば良いとして、原告の訴えを棄却しました。※2020年9月の法改正により、複数の会社に勤務する労働者については、各就業先で支払われた賃金の合計額が算定額の基礎として用いられることとなりました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある