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採用基準

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

「仕事をする」ということは、人にとって生活の糧を得るためというだけでなく、仕事を通じて社会活動に参加することで生きがいを感じられる、いわば人生を左右する重大な活動です。それだけに、企業で採用基準を設ける際には、応募者の基本的人権を侵害しないようにする等、気を付けるべき点が多々あります。

本記事では、企業における採用基準に関して解説していきます。

採用基準についての考え方

我が国では、基本的人権の一つとして、全ての人に「職業選択の自由」が保障されています。これは、誰もが自由に、自分の適性・能力に応じて職業を選べるということを意味しますが、一方で採用する企業側には、応募者に広く門戸を開いたうえで、適性・能力以外の事柄を採用条件にしないことが求められます。そのため、応募者に提出してもらう提出書類にも適正や能力に関係ないことを記入させない配慮が必要です。

企業で採用基準を定める場合

事業を成長させるためには、自社に最適な人材の採用が欠かせません。応募者の中から自社に適した人物を採用するための比較・判断に用いる一定の要件として、採用基準を定めることが一般的に行われています。採用基準に用いられる要素として、応募者の“仕事に対する価値観”、“コンピテンシー”、“スキルや経験”等が挙げられますが、柔軟な採用ができるように具体的な採用基準を就業規則等に明示しないことが多いようです。

採用基準を設けるメリット

具体的な採用基準が明示されていない状態で選考を進めると、面接官によって結果に個人差が生じ、活躍が期待できる人材を不採用としてしまったり、応募者との間でミスマッチが起こり、採用後の早期退職につながったりと、様々な問題を引き起こす原因となります。少なくとも、企業内においては、採用すべき人材の方向性に統一感を持たせるためにも、採用基準を準備しておくことで、複数の面接官が公正に評価できる指標となり、応募者とのミスマッチを防ぐことにもつながります。つまり、採用基準を準備しておくことは、採用活動の質の向上と人事の工数や時間的コスト削減を考えるうえでメリットがあるのです。

採用基準を定めるうえで注意すべきこと

企業が、どのような人をどのような条件で採用するかは、基本的に「採用の自由」として尊重されるものですが、しかし、憲法が定める基本的人権と法の下の平等の理念に反することまでも認められているわけではありません。つまり、採用基準は応募者の基本的人権と法の下の平等の理念を不当に侵さない範囲に留める必要があります。

均等な機会と待遇の確保

労働者の均等な雇用の機会と待遇の確保という観点から、次のように、一定の理由で応募者を募集・採用から排除することが法律に違反する差別として禁止されています。

  • ・募集または採用にあたって、「男性歓迎」「女性向きの職種」等の表示を行うこと。 (男女雇用機会均等法5条)
  • ・募集または採用にあたって、原則として年齢に制限を設けること。 (雇用対策法10条)
  • ・障害があることを理由に不採用とすること。 (障害者雇用促進法第34条)

就職差別にあたる項目

4-1のほか、次の14項目については「個人の自由であるべき」あるいは「本人に責任のない」事柄であり、本人の能力・適性に影響がないことから、就職差別につながるおそれがあるとして、厚生労働省職業安定局長による注意喚起がされています(個人情報保護法、労組法7条1号、障害者雇用促進法34条等)。

  1. 本籍・出生地に関すること
  2. 家族に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産等)
  3. 住宅状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設等)
  4. 生活環境・家庭環境等に関すること
  5. 宗教に関すること
  6. 支持政党に関すること
  7. 人生観・生活信条等に関すること
  8. 尊敬する人物に関すること
  9. 思想に関すること
  10. 労働組合(加入状況や活動歴等)、学生運動等の社会運動に関すること
  11. 購読新聞・雑誌・愛読書等に関すること
  12. 身元調査等の実施
  13. 全国高等学校統一応募用紙・JIS規格の履歴書(様式例)に基づかない事項を含んだ応募書類(社用紙)の使用
  14. 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

採用基準の開示義務はあるのか

実際に採用活動をしていく中で、不採用となった応募者から「不採用の理由を教えてほしい」と問い合わせを受けることがあります。このとき、募集企業が応募者本人の要望に応じて開示することに問題はありませんが、法的な説明義務はありませんので、採用基準を外部に徒に明らかにしない目的がある等募集企業が回答することを望まない場合には理由を明示することなく不採用の通知を行うことで足ります。もっとも、採用・不採用の効力を巡って裁判で争われる事例も存在しないわけではなく、トラブルを予防し採用活動を継続するためにも、明確な採用基準のもとに、不採用の理由を記録しておくことは必要でしょう。

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