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会社更生手続開始による従業員への影響

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社更生は、経営難に陥った株式会社を再建させるための手続です。時間や費用はかかりますが、その分徹底的な再建を目指せるのが特徴です。また、再建が前提なので、従業員の雇用も維持されるケースが多いです。

とはいえ、従業員は突然の倒産に大きな不安を抱くでしょう。「倒産後の給料はどうなるのか」「未払いの賃金がある」など様々な問題が浮上します。

そこで本記事では、会社更生における労務手続について説明します。従業員に支払うお金や手続の注意点などを具体的に解説しますので、ぜひお役立てください。

会社更生の概要

会社更生とは、窮境にある株式会社がその事業の維持厚生を図るための手続です。再建型の倒産手続のひとつで、詳しいルールは会社更生法に定められています。
簡単な流れは、債権者や株主の同意を得たうえで更生計画を策定し、裁判所の主導で再建を図るというものです。主な特徴として、以下の点があります。

  • 株式会社だけが利用できる
  • 経営陣は退任し、管財人に経営権が移る
  • 債権者は担保権を行使できない
  • 無担保債権だけでなく、担保付債権も減免の対象となる
  • 租税の返済も更生手続の中で行われる

会社更生では、すべての利害関係人を手続に取り込み、役員や株主構成の変更、組織変更までを含んだ抜本的な再建計画の策定が可能です。抜本的な“再建”や“組織再編”を目指す大企業に向いた手続といえるでしょう。

ただし、膨大な費用と時間がかかったり、更生計画の可決要件が厳しかったりするというデメリットもあります。
そのため、比較的小規模な事案では、同じ再建型でも民事再生の方が適しているかもしれません。

民事再生の詳細は、以下のページをご覧ください。

民事再生手続き開始による従業員への影響

そもそも再建の見込みがない場合、破産などの清算型の倒産手続をとり、会社を消滅させるのが一般的です。破産手続の詳細は、以下のページをご覧ください。

破産の際の手続き

会社更生手続開始決定による従業員への影響

未払い賃金債権などの「労働債権」がある場合、更生手続の中で弁済することになります。しかし、倒産前は経営が悪化していることもあり、すべての債権を弁済できるとは限りません。

そこで、以下の優先順位に従うのが基本です。

【共益債権】
主としてすべての利害関係人の共同の利益のために要した費用を内容とする請求権(更生債権、更生担保権及び開始後債権を除いたもの)をいいます(会社更生法127条)。例えば、手続申立費用や管財人の報酬、一部の労働債権(会社更生法130条)などです。

共益債権は最も優先度が高く、更生計画の定めるところによらないで、その履行期に応じて、共益債権者からの請求により随時弁済をすることができます(会社更生法132条1項及び2項)。

【更生担保権】
更生債権又は更生手続開始前の原因に基づいて生じた会社以外の者に対する財産上の請求権であって、更生手続開始当時、会社財産の上に存する特別の先取特権、質権、抵当権等で担保された範囲のものをいいます (会社更生法2条10項)。担保権そのものではなく、特定の会社財産によって担保された債権をいいます。

【更生債権】
更生会社に対する更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権又は会社更生法2条8項各号に掲げる権利で、更生担保権又は共益債権に該当しないものをいいます(会社更生法2条8項)。
更生債権にも優先順位があります。

①優先的更生債権
一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権であり、一般の更生債権より優先的な取扱いがされています。一部の労働債権(共益債権として支払われない部分)が該当します。

②一般更生債権
売掛金や無担保の貸付債権など、優先権のない更生債権をいいます。優先度が低いため、会社の資産状況によっては回収できない可能性もあります。

具体的な内訳は、会社更生法で定められています、以下でみていきましょう。

給料

更生手続が開始しても、給料の支払い義務がなくなることはありません。
また、給料は従業員の生活に直結するため、以下のように優先的に支払われます。

  • 更生手続開始前6ヶ月間の未払い給料および更生手続開始後の給料
    ・・・「共益債権」となり、手続外で随時弁済を受けられます(会社更生法130条1項、127条2号)。
  • それ以外の給料
    ・・・「優先的更生債権」となり、手続内で優先的に支払われます(会社更生法168条2号、民法306条2項、308条)。

退職金

会社に退職金規定があれば、退職金も請求できます。また、一般に退職金には給料の後払い的性格が認められといえるため、以下のように優先的に弁済されます(なお、以下は、更生手続開始前に雇用された従業員についての説明となります)。

  • 更生手続開始後更生計画認可決定前に退職した場合
    ・・・退職前6ヶ月間の給与の総額に相当する部分と退職金の額の3分の1に相当する額のうち、いずれか多い額が「共益債権」となります(会社更生法130条2項)。また、それを超える部分は「優先的更生債権」となります。ただし、会社都合退職のときは、退職金全額が「共益債権」となると解されています(会社更生法127条2号、130条4項)。
  • 更生計画認可後に退職した場合
    ・・・退職金全額が「優先的共益債権」(会社更生法2条8号)となると解されています。
   

従業員が立て替えていた交通費等

従業員が立て替えた費用も、更生手続の中で弁済されます。
ここで、交通費や通勤費は「一般更生債権」なのか、「優先的更生債権」なのかが争われます。

この点、通勤は“労働”ではないので、通勤費は労働の対価といえず、賃金にあたらないと考えられています。

ただし、就業規則で支払基準が明確化されている場合や、規定がなくても当然に支給されていた場合通勤費も賃金に含むのが一般的です。
この場合、民法上の労使間の「雇用関係」(民法306条2項、308条)に基づく債権にあたり、「優先的更生債権」として処理されます。

社内預金

社内預金も弁済の対象ですが、すべてが優先的に支払われるわけではありません。これは、社内預金は従業員が“任意で”会社に貸したお金とされているためです。
具体的には、以下のように区別されます。

  • 更生手続開始前6ヶ月の給料の総額に相当する額と社内預金額の3分の1に相当する額のうち、いずれか高い方
    ・・・「共益債権」として保護されます(会社更生法130条5号)。
  • それ以外の預金
    ・・・「一般更生債権」となり、手続内で弁済されます。

会社更生において人件費の削減を検討する場合

事業再建のため、人件費の削減を検討されることもあるでしょう。
いくらコストカットを図っても、経費の大部分を占めるのは人件費です。無事に再建しても十分な資産が残るとは限らないため、給料減額解雇がやむを得ないケースもあります。

しかし、これらは会社が一方的に行えるものではなく、法律上の規定に従って進めることが必要です。
詳しい手順を解説していきます。

労働条件の変更

労働条件の不利益変更は、法律上の手順に沿って実施します。
不利益変更とは、労働条件を従業員に不利な内容に変えることをいい、以下のようなものが挙げられます。

  • 給料の引下げ
  • 賞与カット
  • 退職金制度の廃止
  • 福利厚生や手当の廃止
  • 定期昇給の停止

不利益変更を行うには、基本的に従業員1人1人から同意を得なければなりません。労働組合がある場合、労働協約の締結によって対応することも可能です。
また、場合によっては就業規則の変更により、同意を得ることなく不利益変更が認められる可能性もあります。

詳しい手順は、以下のページをご覧ください。

労働条件の不利益変更

解雇

従業員を解雇するには、解雇に相当する事情が必要です。正当な理由がないと解雇権の濫用にあたり、違法となるためご注意ください(労働契約法16条)。
解雇の正当性は、以下4つの要素を踏まえて判断されます。

  • 人員整理の必要性
  • 解雇を回避する努力
  • 解雇対象者の選定基準
  • 解雇手続の妥当性

単に「会社を立て直すため」「経営が苦しいから」という理由だけでは、解雇の正当性は認められません。

重要なのは、解雇に踏み切る前の行動です。例えば、早期退職者の募集関連会社への転籍、役員報酬のカット、従業員説明会など様々な対応が求められるでしょう。

解雇におけるポイントは、以下のページでさらに詳しく解説しています。

整理解雇を行う際にポイントとなる「整理解雇の4要件」

従業員や労働組合への対応

更生手続中でも、労働組合からの団体交渉には応じる義務があります。倒産を理由に団体交渉の申入れを拒否すると、不当労働行為にあたり損害賠償責任などを負う可能性があります(労働組合法7条)。

「倒産手続で大変だから交渉は避けたい」と思われるでしょうが、“会社更生”と“労働問題”は別問題です。そのため、労働組合の主張には常に誠実に向き合うことが求められます。

また、会社更生において従業員の協力は欠かせません。従業員は再生計画案の決定に関わりますし、取引先との交渉も任せることができます。
そのため、従業員から説明を求められた際は真摯に対応し、理解を得るよう努めましょう。

会社更生手続に労働組合が関与する機会

会社更生手続は、労働組合の意見を踏まえたうえで決定・進行します。具体的には、以下のルールがあります。

  • 会社更生手続開始決定における意見聴取(会社更生法22条1項)
    更生手続の申立てがなされると、労働組合は裁判所に意見書を提出し、従業員の意向を伝えます。
    また、裁判所は、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴取したうえで、申立ての認否を判断します。
  • 財産状況報告集会における意見陳述(会社更生法85条3項)
    会社の財産状況を報告する関係者集会において、労働組合は手続の方針について意見を述べることができます。具体的には、管財人の選任財産の管理について意見陳述が認められています。
    なお、関係者集会を行わない場合、裁判所は労働組合に対し、管財人の選任について意見陳述できる旨を通知する必要があります。
  • 更生計画案に対する意見聴取(会社更生法188条)
    裁判所は、更生計画案について労働組合の意見を聴取しなければなりません。その後、利害関係者ごとに決議をとり、裁判所が許可すると確定します。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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