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トライアル雇用制度

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

トライアル雇用制度は、職業経験の不足などから就職が困難な求職者を原則3ヶ月間の試行雇用することにより、その適正や能力を見極め、常用雇用への移行のきっかけとする制度で、厚生労働省は助成金を用意してこれを推進しています。

このページでは、対象者の条件、国から支払われる助成金などを中心に、制度の導入・運用にあたって企業が把握しておくべきことを、メリット・デメリットとともに解説していきます。

まずは、もう少し詳しく制度の概要をみていきましょう。

トライアル雇用制度の概要

トライアル雇用制度とは、就業の経験・知識等が少なく、就職に不安がある求職者を試行的に雇用し、求職者の適正や能力を見極めたうえで採用する制度です。

トライアル雇用の期間の中で、企業は休職者を常用雇用(期間の定めのない雇用)とするかどうかの判断が、求職者は企業や就業への理解を深めることができます。

試用期間との違い

助成金の対象となるようなトライアル雇用を目指す場合、その期間は原則3ヶ月とされています(※新型コロナウイルスの影響によって対象期間に休業した場合には、一定条件を満たすことで雇用期間の変更が認められます)。

これに対し、助成金の対象となるか否かにこだわらない単なる試用期間は、あまりに長期間になることは、労働者の不利益の程度が大きいため無効となる可能性がありますが(長くとも1年以内とすべきでしょう)、企業が合意又は就業規則により設定することができます。なお、多くの企業では3~6ヶ月の期間とされるのが一般的です。

助成金の対象となるトライアル雇用を実施する場合、基本的には使用者と労働者が相互にトライアル雇用であることを承知したうえで、有期雇用契約として締結するため、企業が、トライアルの趣旨に則したうえで常用雇用としての適性がないと判断した場合には、契約期間の満了により契約を終了させることができることが多いでしょう。

これに対し、試用期間は、トライアル雇用と異なり見極める対象となる事項が必ずしも明確ではなく、本採用を前提とした雇用契約であるため、原則として、客観的かつ合理的な理由及び社会通念上の相当性がなければ解雇することはできませんし、解雇する場合には、通常の従業員の解雇と同様に、解雇予告などの手続を経る必要があります。

「試用期間」については、以下のページで詳しく解説しています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

試用期間

労働関係法の適用

トライアル雇用中の人にも労働基準法等の関係法規が適用されます。そのため、企業には、対象者に賃金を支給する義務が生じます。賃金額を設定する際には、最低賃金以下とすることはできませんし(最賃法4条)、時間外労働等が生じた際には割増賃金が発生するので注意しましょう。

「最低賃金」については、以下のページで詳しく解説しています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

最低賃金

トライアル雇用制度のメリット・デメリット

メリット

通常の採用選考では、履歴書や職務経歴書、面接等から得た限られた情報から採否を決定しなければなりません。そのため、企業側・求職者双方のニーズにミスマッチが生じることが少なくありません。

そこで、トライアル雇用制度の利用により求職者の適性を見極める期間を設けることで、ミスマッチを防ぐ効果が期待できます。

また、採用活動には人件費や広告費等、相当額のコストが生じますが、トライアル雇用を利用した企業には国から助成金が支給されるため、それらの採用コストを削減できる点もメリットといえるでしょう。

デメリット

トライアル雇用の対象者には、業種・職種未経験の人も多いため教育体制を整える必要があり、育成に時間がかかることが予想され、教育を担当する現場に負担がかかる可能性があります。

加えて、助成金は、ハローワークに実施計画書を提出し、また、トライアル雇用終了後に支給申請書を提出してようやく支給されることとなります。このように、助成金の手続に時間と労力を要する点もデメリットといえるでしょう。

トライアル雇用の種類

ライアル雇用は、いくつかの種類に分けられます。以下、①一般トライアルコース、②障害者トライアルコース、③若年・女性建設労働者トライアルコースについて説明します。

一般トライアルコース

職業経験や技能、知識不足等から安定的な就職が困難な求職者の、早期就職の実現・雇用機会の創出を図ることを目的としたコースです。ハローワーク等の紹介により対象者をトライアル雇用する企業には助成金が支払われます。

対象者

トライアル雇用を希望し、以下のいずれかの条件を満たしている者が、一般トライアルコースの対象となります。

  • ハローワーク等からの紹介日前、2年以内に、2回以上の離職あるいは転職を繰り返している者
  • 同紹介日の前に、離職期間が1年を超過している者
  • 妊娠や出産、あるいは育児を理由に離職し、紹介日の前に、安定した職業に就いていない期間が1年を超過している者
  • ニートやフリーター等で、55歳に満たない者
  • 就職支援にあたり特別な配慮を要する、次にあげる者
    • 生活保護受給者
    • 母子家庭の母等
    • 父子家庭の父
    • 日雇労働者
    • 季節労働者
    • 中国残留邦人等永住帰国者
    • ホームレス
    • 住居喪失不安定就労者
    • 生活困窮者

新しい情報は厚生労働省が公表していますので、併せてご確認ください。(厚生労働省:トライアル雇用に応募してみませんか?

事業主の要件

厚生労働省は、企業にトライアル雇用制度を積極的に活用してもらえるよう、対象となる企業の条件を幅広く設定しています。本ページでは、条件のうち、いくつかを紹介します。

これらの情報は厚生労働省のホームページで更新されることがありますので、最新の情報を確認することが重要です。(厚生労働省:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)のご案内

  • 対象者の雇用を約束していない企業
  • トライアル雇用を行う事業所の事業主あるいは取締役の、3親等以内の親族を雇用しない企業
  • 過去3年間に対象者を雇用したことがない企業
  • 過去3年間のトライアル雇用において、常用雇用に移行しなかった者、助成金支給申請書の提出がない者の総人数が一定数を超えておらず、かつその人数が常用雇用に移行した人数を超えていない企業
  • 基準期間に企業の都合で対象者を離職させた経歴がない企業
  • 雇用保険の適用対象となる企業

障害者トライアルコース

心身の障害により就職が困難な求職者の継続雇用を促進することを目的としたコースです。

ハローワーク等の紹介により対象者をトライアル雇用した企業には、対象者の障害の内容に応じた額の助成金が支払われます。こちらの情報も厚生労働省が新しい情報を更新していることがあります。(厚生労働省:障害者トライアル雇用のご案内

若年・女性建設労働者トライアルコース参考

建設業界における若年労働者や女性労働者の入職を促進するためのコースです。

①一般トライアルコースか、②障害者トライアルコースの対象者で、トライアル雇用の開始時点で35歳に満たない若年者あるいは女性であり、かつ主に建設工事現場での作業あるいは施工管理に従事する者を雇用した企業に対して助成金が支払われます。助成金の要件は厚生労働省のホームページで最新の状況を確認しましょう。(厚生労働省:若年・女性建設労働者トライアルコース

企業側に求められる条件としては、上記①か②の支給決定を受けていること、雇用保険の適用企業であること、雇用管理責任者の選任がなされていることがあげられます。

トライアル雇用助成金

トライアル雇用制度は、雇用保険法62条(雇用安定事業)等に基づき労働者の雇用機会の増大、雇用の安定等を図るための制度であり、制度を利用して対象者を雇用した企業には、国から助成金を受け取ることができます。では、具体的にはどれくらいの金額が支払われるのでしょうか。

助成金の受給額

基本的には、支給対象者1人あたり月額4万円(一般トライアルコースで、母子家庭の母等・父子家庭の父の場合は月額5万円)が支給されます。(厚生労働省:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

ただし、次項で説明するケースにあたる場合には、受給額が異なります。

減額となり得る事由

(ア) 次の2つのいずれかの事情により、トライアル雇用期間が1ヶ月未満の月があるケース

1.以下のいずれかの理由による、トライアル雇用期間中の支給対象者の離職

  • 対象者に責がある理由の解雇
  • 対象者都合による退職
  • 対象者の死亡
  • 天災等やむを得ない理由で事業の継続が不可能になったことによる解雇

2.トライアル雇用期間中の常用雇用への移行

(イ) 対象者都合による休暇、あるいは企業都合による休業があったケース

上記のケースには、実際に就労した日数を、就労を予定していた日数で除した額が受給額となります。(厚生労働省:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

トライアル雇用併用求人

トライアル雇用の求人は、一般の求人と同時に募集することが可能であり、同時に募集している求人のことは、“トライアル雇用併用求人”などと呼ばれています。

トライアル雇用併用求人とすることで、業種・職種未経験の者はトライアル雇用にて適正を見極めてから本採用とするかどうか判断し、経験者はトライアル雇用を経ずに正社員等(通常の試用期間を設定して採用する場合もあります。)として採用するといったことが可能です。

経験の有無を問わず多くの人材を確保できる可能性がありますが、未経験者の育成を目的とした求人なのか、即戦力となる者が求められているのかを採用時に明確にしておかなければ、トラブルの種を残してしまうかもしれませんので、採用時には、明確に労働条件としてトライアル雇用であるか否かを伝えたうえで、承諾を得るよう注意しましょう。

トライアル雇用・助成金受給の流れ

トライアル雇用は、ハローワークや民間の職業紹介事業者等に求人を申し込み、求職者を紹介してもらうところから始まります。

助成金受給のためには、トライアル雇用の開始から2週間以内に紹介元等へ「実施計画書」を、終了日の翌日から2ヶ月以内にハローワークあるいは労働局へ「支給申請書」を提出する必要があります。

トライアル雇用中の離職

自己都合退職

トライアル雇用期間中に労働者から契約解除(退職)の申出を受けたときには、通常の退職と同じ手続を踏まなければなりません。

通常は、退職希望日の2週間前までに伝えてもらうことになりますが、労使間で調整して合意できれば、短縮することも2週間以降の日を退職日とすることも可能です。

助成金の申請にあたっては、自己都合退職であるか解雇といった会社都合であるかの区別は明確にする必要がありますので、実態に即した内容を記録として残せるよう、退職届の提出や退職合意書を締結するなどの対応が望ましいでしょう。

解雇

有期雇用契約として締結したトライアル雇用期間の満了前に、やむをえない事由なく、労働者を解雇することは認められていません。

期間満了ではなく、期間中に解雇する場合には、解雇理由が客観的に合理的で、社会通念上相当といえるものでなければならず(労契法16条)、かつ解雇日の30日前までに、労働者に対して解雇の予告をする必要があります(労基法20条)。

従業員への解雇予告

上記のようにトライアル雇用期間中に離職する場合、助成金の「支給申請書」提出期限は労働者の離職日の翌日から2ヶ月となるため、遅れないよう注意が必要です。

トライアル雇用後の本採用

常用雇用とする場合

トライアル雇用期間の終了後、労働者を常用雇用とする場合には、改めて常用としての雇用契約(期間の定めのない雇用契約)を結ぶことが求められています。

常用雇用としない場合

トライアル雇用をしたものの、労働者に適性を見出せなかった場合等、常用雇用とする意思がない場合には、トライアル雇用が終了する30日以上前に、労働者に雇止めを示すために書面にて通知しておくべきです。なお、トライアル雇用終了までの期間が30日を切っているときには、解雇予告手当の支払いも必要になります。

社会保険の加入義務

トライアル雇用も、労働時間や労働日数、雇用期間等について、一定の条件を満たす労働者に対し、企業には、社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険等に加入させる義務があります。

トライアル雇用の悪用について

トライアル雇用を利用した企業は、対象者1人につき最大12万円(月額4万円×3ヶ月)の助成金がもらえます。例えば、トライアル雇用助成金では、期間終了後に対象者を常用雇用とすることが受給の要件ではなく、トライアル期間中が助成金の支給対象となっていますが、常用雇用をする意思がないのに(雇止めを前提に)助成金だけ得ようとするなど制度を悪用してはなりません。

制度利用の目的がトライアル雇用により採用を充実させることではなく、“助成金の受給”を主眼においてしまうと、「不正受給」につながるおそれがあります。不正受給と判断されてしまうと、助成金の受給額に延滞金、違約金を加算した額の返還、労働局による企業名の公表、悪質性によっては詐欺罪として刑事告訴等、企業にとってマイナスの要素しか生じません。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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