女性活躍推進法とは|2022年4月の改正内容について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
少子高齢化による労働力不足や、グローバル化・ダイバーシティが進む中、女性の社会進出がますます重視されています。
一方、仕事と育児の両立の難しさや、女性管理職の割合の低さなど、課題も多いのが日本の現状です。
そこで、女性が長く活躍できる社会を目指して作られた法律が、女性活躍推進法です。
女性活躍推進法は、企業に対して、自社の女性の活躍を図るための具体的な取組みを求めています。また、2022年4月の改正により、対象企業の範囲が拡大されました。
本記事で、法改正の内容や対象企業がすべき対応などについて、わかりやすく解説していきます。
目次
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法の概要をまとめると以下になります。
- 働くことを希望するすべての女性が、個性や能力を十分に発揮して働ける社会の実現を目指して、2016年に施行された法律
- 国や自治体、企業等に対し、女性の活躍に関する状況把握や課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などの取組みを求めている
なお、この法律には、以下の3つの基本方針が定められています。
- ①女性に対して、採用や昇進の機会を積極的に与えること
- ②女性が仕事と家庭を両立しやすい環境を整備すること
- ③仕事と家庭の両立について、女性本人の意思が尊重されること
女性活躍推進法の目的・背景
近年、働くことを希望する女性の個性や能力が十分発揮されることの重要性が増しています。
そこで、女性の職場における活躍を急ピッチで推進し、それによって、男女平等や豊かで活力ある社会の実現を図るために、女性活躍推進法が制定されました(同法1条)。
この背景には、将来の労働力不足、慢性的な長時間労働、女性管理職の割合の低さ、出産・育児を理由に仕事を辞める女性の多さなど、日本の様々な課題が挙げられます。
また、出産・育児を経て職場復帰した女性がキャリアアップを図りにくいというのも大きな課題です。女性活躍推進法は、これらの問題点を改善するために有効な法律といえます。
2022年4月の改正により対象事業主が拡大
女性活躍推進法は2022年4月に改正されました。主な改正点は以下のとおりです。
「一般事業主行動計画」の策定・公表・届出等の義務が、常時雇用の労働者数301人以上の企業から、101人以上の企業へと拡大
女性活躍推進法は、対象企業に「一般事業主行動計画」の策定・公表・届出等を義務付けています。
これまでの対象企業は、301人以上の企業でしたが、改正により、101人以上の企業へと拡大されました。
なお、常時雇用の労働者とは、正社員・アルバイト等を問わず、期間の定めなく雇用されるすべての労働者をいいます。また、契約社員でも、1年以上継続して雇用されている者又は1年以上継続して雇用されることが見込まれる者は対象となります。
ただし、労働者数100人以下の企業においては、行動計画の策定等は努力義務とされています。
女性活躍推進法の内容と事業主の義務

女性活躍推進法では、事業主に、以下4つの対応を義務付けています。義務の対象となるのは、基本的に常時雇用する労働者が101人以上の事業主です。
- ①自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
- ②一般事業主行動計画の策定、社内周知、公表
- ③一般事業主行動計画を策定した旨の届出
- ④行動計画に基づく取組みの実施、効果の測定
では、一般事業主行動計画とは、どのようなものなのでしょうか。
一般事業主行動計画とは、女性活躍推進法に基づき、自社の女性の活躍についての状況把握や課題分析を行い、その結果を踏まえて、行動計画の策定、目標を達成するための具体的な取組みをまとめたものをいいます。
以下で、各対応の詳細についてご説明します。
①自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
まず、自社の女性従業員の活躍状況について、以下の4つの基礎項目(必ず把握すべき項目)について数値を出し、状況を把握します。数値が低い項目については、どのようにすれば数値を上げられるのか、課題を分析します。
【基礎項目】
①採用者に占める女性比率
②平均勤続年数の男女比
③月別の平均残業時間数
④管理職に占める女性比率
なお、基礎項目に加えて、以下のような選択項目(必須項目ではない)を把握し、さらに深く課題の分析を行うという方法もあります。
- 男女別の採用における競争倍率
- 女性労働者の割合
- 労働者の男女別の継続雇用割合
- 労働者の毎月の平均残業時間
- 男女別の職種または雇用形態の転換の実績
- 男女の賃金の差異 など
一般事業主行動計画について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
②一般事業主行動計画の策定・社内周知・公表
次に、女性の活躍に関する状況把握、分析した結果をもとに、課題解決のための行動計画を策定します。行動計画には、以下の4つの内容を盛り込む必要があります。
①計画期間:2025年までの間に、2年~5年間程度の計画期間を設定
②数値目標
常時雇用の労働者数101人以上の企業⇒以下のA・B合わせて1項目以上選ぶ
常時雇用の労働者数301人以上の企業⇒A・Bそれぞれから1項目以上選ぶ
- A:女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供(採用者に占める女性比率を〇%以上とする、女性管理職の割合を〇%以上とする、すべての部署で⼥性の割合を〇%以上とするなど)
- B:職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備(男女の勤続年数の差を〇年以下とする、労働者全体の残業時間を⽉平均〇時間以内とする、男女ともに育児休業取得期間を〇%アップさせるなど)
数値目標についての詳細は、以下のPDFをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000614010.pdf#page=9③取組内容:数値目標を達成するための取組内容を決定
④取組みの実施期間:取組内容の実現性を考慮して決定
策定した行動計画は、以下の方法により、労働者に周知し、外部に公表を行います。
社内通知 | 事業所の見やすい場所への掲示、電子メールでの送付、イントラネットへの掲載、書面による交付など |
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外部公表 | 厚生労働省が運営するWebサイトへの掲載、自社のホームページなど |
以下の労働局や厚労省のホームページに行動計画の記載例が出ていますので、ご覧下さい。
東京労働局(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000968346.pdf)
厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000614010.pdf)
③行動計画を策定した旨の届出
一般事業主行動計画を策定したら、その旨を厚生労働省が公表している「一般事業主行動計画の策定・変更届出様式」に記入し、自社を管轄する都道府県労働局に届け出ます。
以下いずれかの方法で届出ができ、策定日から概ね3ヶ月以内に届け出る必要があります。
- 電子申請
- 郵送
- 持参
各様式については、以下の厚⽣労働省ホームページに掲載されていますので、ご活用ください。
一般事業主行動計画の策定・届出等について電子申請システムには、以下のURLからアクセスできます。
e-Gov電子申請④行動計画の取り組みの実施・効果の測定
一般事業主行動計画を実施し、定期的に数値目標の達成状況や、取組みの進捗状況を点検・評価し、効果の測定を行います。さらに、測定結果をその後の取組みや計画に反映させ、いわゆる、以下のPDCAサイクルを回していくことが重要となります。

自社の女性活躍に関する情報公表
対象企業は、自社における女性の活躍に関する情報として、下表の①と②から公表項目を選択し、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページなどで、定期的に公表しなければなりません(女性活躍推進法20条)。また、公表内容はおよそ年1回のペースで更新する必要があります。
情報公表が必要な項目は、以下のとおりです。
- 常時雇用の労働者数301人以上の企業:①の「男女の賃金の差異(必須)」+①と②からそれぞれ1項目選択
- 常時雇用の労働者数101人以上の企業:①と②合わせて16項目から1項目以上を選択
情報公表は就職活動中の学生や子育て中の女性の企業選択に役立ちます。また、女性の活躍推進における自社の取組みをアピールできるため、優秀な人材確保、企業イメージの向上につながることが期待されます。

常時雇用の労働者数301人以上の企業 | ①の「男女の賃金の差異(必須)」+①と②からそれぞれ1項目選択 |
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常時雇用の労働者数101人以上の企業 | ①と②合わせて16項目から1項目以上を選択 |
えるぼし・プラチナえるぼし認定制度
一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取組みの実施状況が優良である企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣から「えるぼし」認定を受けることができます(女性活躍推進法9条)。
えるぼし認定を受けた企業は、自社の商品や広告等に認定マークをつけることができ、女性の活躍推進企業であることをPRすることができます。また、えるぼし認定を受けると、公共調達や低利融資において優遇される等のメリットを受けられます。
えるぼし認定は3段階のグレードに分けられ、認定基準を満たす項目数に応じて、いずれかが認定されます。
また、2020年6月より、「プラチナえるぼし」認定もスタートしました。プラチナえるぼしは、えるぼし認定を受けた事業主のうち、特に優良な取組みを行った事業主に認定されるもので、女性の活躍推進を後押しするための有効な制度といえます。
えるぼしの認定基準については、下表をご覧ください。
認定の段階 | 認定の要件 |
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えるぼし(1段階目) | ・評価基準のうち1つ又は2つの項目を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 ・満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その実施状況を「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、その実績が2年以上連続して改善していること。 |
えるぼし(2段階目) | ・評価基準のうち3つ又は4つの項目を満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 ・満たさない基準については、事業主行動計画策定指針に定められた取組みの中から当該基準に関連するものを実施し、その実施状況を「女性の活躍推進企業データベース」に公表するとともに、その実績が2年以上連続して改善していること。 |
えるぼし(3段階目) | 評価基準の5項目をすべて満たし、その実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していること。 |
プラチナえるぼし | ・策定した一般事業主行動計画に基づく取組みを実施し、目標を達成したこと。 ・男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること。※ ・プラチナえるぼしの評価基準の5項目をすべて満たしていること。※ ・女性活躍推進法に基づく情報公表項目(社内制度の概要を除く。)のうち、8項目以上を公表していること。※ ※実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表していることが必要です。 |
えるぼし認定における5つの評価項目
えるぼし認定における5つの評価項目とそれぞれの認定基準を、下表にまとめましたので、ご確認ください。
評価項目 | 認定基準 |
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採用 | 男女別の採用における競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度であること |
継続就業 |
以下のうち、いずれかを満たすこと ・「女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数」が雇用管理区分ごとにそれぞれ0.7以上 ・「10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された女性労働者の継続雇用割合」÷「10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された男性労働者の継続雇用割合」が雇用管理区分ごとにそれぞれ0.8以上 |
労働時間等の働き方 | 時間外労働・休日労働の合計時間が、各月ごとに全て45時間以内であること |
管理職比率 | 以下のうち、いずれかを満たすこと ・管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上 ・直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある女性労働者のうち課長級に昇進した女性労働者の割合」÷直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある男性労働者のうち課長級に昇進した男性労働者の割合」が0.8以上 |
多様なキャリアコース | 直近の3事業年度に、以下のうち、大企業は2つ以上、中小企業は1つ以上の実績があること ・女性の非正社員から正社員への転換(派遣労働者の雇入れ含む) ・女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換 ・過去に在籍した女性の正社員としての再雇用 ・おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用 |
女性活躍推進法に取り組むにあたっての問題点
女性活躍推進法に取り組むにあたって、以下のような問題点が挙げられます。
【管理職を目指す女性が少ない】
キャリアアップを望んでいても、「管理職になると残業が増えて、家庭生活に支障が出る」など、ワークライフバランス的な理由から、やむなく管理職を目指すことを断念する女性が多いのが現状です。
【結婚や出産を機に辞めざるを得ない】
「育児と仕事を両立させるのは難しい」などの理由から、結婚や出産を機に仕事を辞めざるを得ない女性が多い傾向にあります。
【キャリア形成には長時間勤務が必要なケースが多い】
出産や育児を経て職場に復帰しても、ほとんどが時短勤務となり、業務内容が限定されます。管理職になるためには長時間勤務が必要な場合が多いため、復帰後にキャリアアップを図ることが難しい現状があります。
使用者はこれらの問題を踏まえて、育児と仕事の両立ができる体制の整備、限られた時間内で成果を上げられる環境づくりなどの対応を行う必要があるでしょう。
女性活躍推進法の実施義務を怠った場合の罰則
女性活躍推進法には罰則規定がないため、実施義務を怠っても、処罰を受けることはありません。
ただし、厚生労働大臣(都道府県労働局長)が必要とする場合は、対象企業に対して助言や指導、勧告が行われる場合があります。
また、えるぼし認定など女性の活躍が推進されている昨今において、女性の活躍推進に関する情報を公表しないと、働きにくい職場であるという印象を与え、企業イメージのダウンにつながる可能性があります。また、求職者に対するアピールもできないため、人材確保が難しくなるおそれもあります。
両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)の廃止について
2022年3月31日に、女性活躍加速化コースは廃止され、現在の両立支援等助成金については、
②介護離職防止支援コース
③育児休業等支援コース
④新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理設置による休暇取得支援コース
⑤不妊治療両立支援コース
の5つとなっています。
各助成金の詳細について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
両立支援等助成金のご案内|厚労省企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある