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年俸制における残業代の支払い義務

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

“労働者の実績等に基づいて1年間の給与額が決まる”という「年俸制」の性質から、残業代の概念がない給与体系と思っている方もいるようです。しかし、決してそうではありません。

ここでは、「年俸制」の対象となる労働者の残業代にスポットを当てて詳しく解説していきます。

年俸制における残業代の支払い義務

給与体系にかかわらず、残業代が発生する可能性はあります。

労働基準法には、法定労働時間を超える労働法定休日深夜に労働した労働者には、割増賃金(残業代)を支払わなければならないという規定があります(労基法37条)。多くの会社では、労働者に残業してもらうために “36協定”を結んでいますが、これによって残業代の支給が免除されるわけではありません。

36協定とは

したがって、年俸制においても、法定労働時間を超える労働があった労働者には、会社は原則として残業代を支払う義務があります。

【割増賃金】の種類などに関する詳しい解説は、以下のページをご覧ください。

割増賃金

年俸制の法定労働時間

会社と雇用関係にある労働者に対しては、給与体系を問わず労働基準法の規制が及びます。したがって、年俸制の対象となる労働者にも、法定労働時間原則1日8時間、週40時間)のルールが適用され、法定労働時間を超える労働があれば、残業代を支払う必要があります。

“年俸制だから”というだけで、残業代を不支給にして良いことにはなりません。

そもそも「年俸制」とはどんな制度か、各種手当、賞与等の取扱いに影響はあるか等、先に「年俸制」の基礎知識のおさらいをしたい方は、以下のページをご覧ください。

年俸制

また、法定労働時間の解説など、【労働時間】に関する基礎知識を確認したい方は、以下のページをご覧ください。

労働時間

残業代が発生しない職種・勤務形態と留意点

他方で、年俸制の対象となる労働者でも、給与体系以外の理由によって、残業代を支払う必要がないケースもあります。

以下、順にみていきましょう。

管理監督者

労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、労働時間・休憩・休日等に関する労働基準法の制限を受けません。したがって、残業代を支払う必要はないとされています。

管理監督者とは、労働条件の決定やそのほかの労務管理について、経営者と一体的な立場にある 者のことをいいます。労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく、業務の内容や有する責任・権限、賃金の待遇などから実態に即した判断がなされるため、“管理職に就いている者=残業代不要”とはならないことに注意してください。

管理職と残業代請求

深夜労働における注意点

管理監督者は、時間外・休日労働を行ったことに対する割増賃金が基本的に不支給となる一方で、深夜労働(原則午後10時から翌朝午前5時までの時間帯の労働)を行ったことに対する割増賃金については支払う必要がありますので、賃金計算の際にはきちんと区別して計上するようにしましょう。

みなし残業制(固定残業制)

みなし残業制とは、例えば「年俸には、1ヶ月●時間、●万円分の残業代を含める」などのように、一定期間に要するであろうと見込んだ残業時間分の残業代(=みなし残業代)を、あらかじめ年俸に含める内容で契約する制度です。

契約等で定めている残業時間を超えないようであれば、追加で残業代を支払う必要はありませんが、定めた残業時間を超える労働がある場合には、追加の残業代を支払う必要があります。

以下のページでは、みなし残業時間の超過分に対する割増賃金の支払いのほか、みなし残業制の導入要件などについても解説しています。ぜひ併せてご覧ください。

みなし残業制(固定残業制)とは

裁量労働制

裁量労働制を適用する事業場の労働者には、残業代が発生しない可能性があります。

裁量労働制は、実労働時間にかかわらず、労使協定等で合意した“みなし労働時間”分の働きをしたものとみなす制度です。つまり、定めた“みなし労働時間”に応じた年俸額を支払うことで足りるため、基本的に残業代は発生しません。

ただし、労働者が、その“みなし労働時間”を超える労働をした場合には、残業代が発生します。

裁量労働制の厳格な適用要件や、制度導入のメリット・デメリットなど、「裁量労働制」の仕組みについて詳しく知りたい方は、以下のページでご確認いただけます。ぜひこちらも併せてご覧ください。

裁量労働制

個人事業主

個人事業主に対しては、残業代が発生しません。

個人事業主とは、個人で事業を営んでいる人(いわゆる自営業者)のことをいいます。労働基準法のルールは、会社と雇用契約関係にある労働者に対して適用されるものですから、個人事業主には適用されません。また、会社と業務委託契約を結んでいる場合の相手方も、労働基準法上の労働者ではなく個人事業主になりますから、この場合にも、会社は残業代の支払義務を負いません。

年俸に残業代を含める場合

年俸に残業代を含める方法で支給するためには、次の3つの条件を満たすことが求められます(平成12年3月8日基収78号)。

①年俸に残業代が含まれていることが、労働契約の内容からみて明らかである
②残業代に相当する部分と、基本給部分とが区別されている
③残業代に相当する額が、法律で定められた金額以上に支払われている

つまり、年俸に残業代が含まれていることと、年俸の内訳(「1ヶ月あたり●時間分の残業代●万円を含む」等、具体的に残業代として扱う額)を、就業規則や雇用契約書等に明記する必要があります。

実際の残業時間がこの定めの範囲に収まれば、残業代はすでに支払っていることになりますから、別途発生することはありません。他方で、実際の残業時間が定めを上回った場合には、追加で残業代を支払う必要があります。

年俸内訳の明確化

残業代、つまり【割増賃金】が発生する事由としては、法定労働時間外の労働のほか、割増率が異なる法定休日の労働深夜の労働があります。そのため、それらと残業代部分との区別も明確にしておかなければなりません。就業規則や雇用契約書の定めから残業代部分が特定できない場合には、年俸額に追加して残業代発生分を支給することになってしまいます。

残業代の計算方法

年俸制においても、残業代の計算をする方法は、一般的なものと大きく変わりません。基本的には、年俸額を12で割って1ヶ月あたりの賃金を算出し、それを1ヶ月の所定労働時間で割って1時間あたりの賃金を算出し、そこに割増率と残業時間を掛けることで、残業代を導くことができます。

計算式を2段階にすると、以下のようになります。

1時間あたりの賃金 = 年俸額 ÷ 12 ÷ 1ヶ月の所定労働時間
残業代 = 1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間

以下のページでは、法定労働時間外の労働、法定休日の労働、深夜の労働に対する残業代(割増賃金)を計算する際の割増率の考え方など、残業代の計算に関する詳しい解説をご覧いただけます。ぜひこちらも併せてご覧ください。

割増率の考え方(割増率相互の関係性)

賞与の取り扱い

残業代を計算するうえで、“臨時に支払われる賃金”と“1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金”、つまり、“賞与”に該当する部分は、基礎賃金に算入しないことになっています(労基則21条4号、5号)。そのため、年俸額に賞与が含まれるケースでは、賞与分を除外したうえで1時間あたりの賃金(前項の計算式参照)を求める必要があります。

そもそも賞与とは、支給額があらかじめ確定されていないものとされています(昭和22年9月13日発基17号)。

したがって、例えば「年俸額のうち、16分の1の額を月給として、16分の4を2分割した額を賞与として支給する」といった契約である場合、支給額があらかじめ確定しているため、賞与とはみなされませんから、残業代の計算の際には賞与分も基礎賃金に含めることになります。

“賞与”との名称であってもその性質は会社によって異なるため、注意が必要です。

 

以下のページでは、年俸制における賞与の支給方法の例について紹介していますので、こちらも併せてご覧ください。

年俸制における賞与の取り扱い

「業績連動型賞与」の検討

“年俸の16分の4を賞与とする”などの定めがあり、賞与額が確定している場合、これを減額することはできません。2020年以降、新型コロナウイルスの流行によって、経済の流れが不安定になっていることなどがわかりやすい例ですが、業績の変動による賞与の不当な減額、不支給が起こらないようにするためにも、「業績連動型賞与※1」を採用し、年俸とは別に賞与を支給する運用とするのが、ベターかもしれません。

※1:会社や部署門などの業績に応じて支給額を決定する賞与のことです。

なお、金額が確定している賞与を減額できない理由など、<賞与支給の取りやめ>に関する詳細は、以下のページで解説しています。併せてご覧ください。

賞与支給の取りやめ

年俸制の残業代における企業対応

残業代を含め、賃金に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項です。のちにトラブルになることを避けるため、年俸額の内訳や残業代の計算方法などについて、きちんと記載しておくべきです。

なお、会社には労働者の労働時間を把握することが義務付けられているため(労安衛法66条の8の3)、年俸制においても労働者の労働時間を適切に管理しなければなりません。36協定を結んだとしても残業代不支給の根拠にはならないことはすでに説明したとおりですが、時間外労働には上限(原則:月45時間、年360時間)がありますので、これを超える残業があった場合には、罰則として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。

 

賃金のほか、就業規則に記載しなければならない事項など、【就業規則】について、あるいは【時間外労働】の上限規制についてさらに詳細な内容を知りたい方は、それぞれ以下のページをご覧ください。

就業規則に必須の内容と業種ごとの注意点
時間外労働

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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