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試用期間を設けるメリットと解雇や延長について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

新しい人材を採用する際、従業員としての適性があるかを見極めるために試用期間を設ける会社が多いです。会社は、この試用期間中に、労働者の能力やスキル、勤務態度等を確認し、本採用をしても良いかを判断します。

この試用期間中に、労働者の仕事への適性が欠けていることが分かった場合、使用者としては、試用期間の延長や試用期間中の解雇、本採用の拒否をせざるを得ないことがあります。しかし、これらを行うときには注意するべきことがあります。

本記事では、試用期間に焦点をあて、延長や解雇、本採用拒否が可能であるか、それらを行うときの注意点、さらに、試用期間中の従業員から退職の申し出があった場合の対応等を解説します。

試用期間とは

試用期間とは、採用した労働者を本採用する前に、その労働者が自社の業務を行えるだけの能力や適性を備えているかを確認するための期間です。試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に、試用期間を設けることを明記する必要があります。

企業は、労働者を採用するときに、履歴書や面接等により労働者の能力等を確認します。しかし、労働者の欠点は、履歴書や面接等だけでは見抜けないことが多いのが実際であり、多くの会社は3ヶ月~6ヶ月程度の試用期間を設けています。

試用期間を設ける目的・メリット

試用期間は、本採用に向けて能力・適性を見極めるために設定される期間です。
企業側は、採用活動の期間だけでは、自社の社員としての適性を見極めることが難しいため、採用後に試用期間を設けます。試用期間中に能力・適性を判断し、ミスマッチがあれば解消の余地が残されているという意味で(この点は後述します)、企業にとっては不可欠の期間といえます。

試用期間は、採用される労働者にメリットがないように思われますが、試用期間があるからこそ採用されやすくなるという側面があることや、社風が合わなかったときなどに退職を決断しやすくなること等が労働者側のメリットとして挙げられます。

試用期間と研修期間の違い

試用期間と似た期間として「研修期間」があります。どちらも入社したばかりの労働者を対象としていることは共通していますが、その目的は異なります。
それぞれの違いついて、下の表にまとめたのでご覧ください。

試用期間 企業が労働者を本採用するかどうか検討する期間
研修期間 採用するか否かに関係なく、業務を行うために必要なスキルや知識を身に付けるための教育期間

試用期間中の労働契約

試用期間中の労働者であっても、労働契約を締結して雇用することになります。ただし、この労働契約については通常の労働契約ではなく、「解約権留保付労働契約」を労働者と締結していると考えられています。

「解約権留保付労働契約」とは、簡単にいうと使用者に特別な解約権が与えられている労働契約をいいます。判例によれば、通常の労働契約よりも広く解雇(解約権の行使)の自由が認められる労働契約とされています。

試用期間中の解雇・本採用拒否

試用期間中の解雇は、通常の解雇に比べて広範囲で認められています。ただし、たとえ試用期間中の労働者であったとしても、正当な理由がなければ解雇が認められないことに変わりありません。

例えば、「陰気だから」「仕事を覚えるのが遅いから」「社風に合わないから」といった漠然とした理由では解雇をすることはできません。特に、試用期間の途中の時期については指導によって改善できる可能性があるため、解雇の有効性は厳しく判断されます。

試用期間満了時における本採用拒否も解雇にあたるため、漠然とした理由では認められません。しかし、試用期間中に十分な指導を行っていれば、試用期間の途中で解雇するよりも有効になる可能性が高まると考えられます。

本採用拒否については、以下の記事でも解説しているので併せてご覧ください。

試用期間中に本採用拒否したい場合の注意点

試用期間中の解雇・本採用拒否が認められる要件

試用期間中の解雇(解約権の行使)が認められる要件は、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、それが社会通念上相当と認められることです(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月1 日、労働契約法16条)。

これらの要件を満たす具体例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 重大な経歴詐称を行っていた
  • 正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す
  • 勤務態度が極めて悪く、何度も指導・教育したにもかかわらず改善されない
  • 社員の立場を利用した犯罪(業務上横領等)を行った
  • 私生活において、極めて重大な犯罪を行った

ただし、これらの言動について、必ず解雇が認められるわけではありません。

能力不足による解雇は可能か

次の理由から、一般に、試用期間中の労働者を、能力不足を理由として解雇するのは極めて難しいでしょう。

  • そもそも能力不足を客観的に証明することが難しい。
  • 使用者としては、能力不足は指導をすることで解消すべきであり期間満了までは根気強く指導等を行うべきだという発想が強い。

ただし、中途採用者であれば、新卒採用者よりも解雇しやすい傾向があると言えます。
例えば、募集するときに、求める職務経験、業務遂行能力を具体的に明示し、「即戦力」として、それに見合った高額な給料等の待遇、特定のポストを具体的に提示して募集した労働者が、極度に能力不足で改善する見込みのないケース等では解雇が有効になる可能性が高いでしょう。

解雇予告・解雇予告手当の必要性

使用者が労働者を解雇する際には、原則として30日前に解雇予告をするか、予告できなければ、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当について、使用者が労働者に対して支払わなければなりません(労基法20条)。

しかし、試用期間中の労働者についてはこの規定が適用されず、解雇するタイミングによって解雇予告手当の要否が異なります。

【試用開始から14日以内に解雇する場合】
解雇予告や解雇予告手当は不要となります(労基法21条本文、同条4号)。もっとも、たとえ試用期間中といえども、14日の期間で解雇相当となるのは、よほど重大な事情があるケース等に限られるでしょう。

【試用開始から14日を過ぎて解雇する場合】
解雇予告や解雇予告手当が必要です(労基法21条ただし書き、同条4号)。そのため、試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否を通知する場合は、通常の解雇と同じく、解雇予告手当の支払いが必要です。

なお、退職や解雇・解雇予告について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

従業員への解雇予告|通知と解雇手当について

試用期間中の解雇が不当とみなされた裁判例

【東京地方裁判所 平成27年1月28日判決、有限会社X設計事件】

この裁判例は、設計図面の作製等の業務に従事していた原告が、試用期間中に、能力不足や勤務態度の不良を理由に解雇されたため、解雇の効力等が争われた事案です。

裁判所は、原告が当初作成した図面に問題があったことは認めましたが、修正した図面に大きな問題はなかったため、「基本的な設計図面の作製能力がない」という被告の主張を認めませんでした。また、原告の行動が原因となって契約を打ち切られたという被告の主張についても、根拠が乏しいと指摘しました。

さらに、原告の勤務態度を問題だとする被告の主張についても、勤務態度が不良だったとまではいえないとして、留保解約権を行使する理由の存在を認めず、解雇を無効としました。

試用期間中に退職の申し出があった場合の対応

試用期間中の労働者から「今すぐ退職したい」といった申し出があっても、即日の退職を認める必要はありません。

法律上、退職は2週間前の申し出が必要とされているため、それまでに退職の意思を伝えなければなりません。試用期間中とはいえ雇用契約を締結しているため、この規定は適用されます。

ただし、それより長い期間を就業規則などで定めていても、法律上は無効なので注意しましょう。

なお、試用期間中に労働者側から退職を申し出た場合には、労働者の自己都合退職となります。

試用期間として設定する期間

試用期間の長さについて、法律上に特段の定めはありませんので、会社が独自に定めることができます。
しかし、試用期間は労働者にとっては不安定な雇用状況であることから、1年を超えるような期間を設けると「公の秩序又は善良の風俗に反する」として無効とされるおそれがあります(民法90条)。

通常では、試用期間を3ヶ月~6ヶ月にしている会社が多く、この範囲内にしておくことが望ましいでしょう。
これよりも試用期間が短いと、勤務態度等を見極めるための期間が足りず、試用期間が終わってから問題が発覚するおそれがあります。

反対に、3ヶ月~6ヶ月よりも試用期間を長くすると、前述したリスクに加え、労働者が不安定な立場に置かれる期間が長くなるため、求職者から敬遠されてしまうおそれもあるでしょう。

試用期間の延長は可能か

就業規則に、試用期間を延長できる旨の規定を設けていれば、延長することは可能です。
ただし、試用期間を延長するためには、延長するべきである客観的かつ合理的な理由が必要です。

具体的には、次のようなケースでは延長が認められると考えられます。

  • 無断欠勤などを繰り返している場合
  • 面接等において労働者が申告した能力が欠けている場合
  • 協調性に欠けており、他の労働者と対立を繰り返す場合
  • 経歴を詐称していた場合

長期の試用期間が認められなかった裁判例

長期の試用期間が認められなかった判例としては、【名古屋地方裁判所 昭和59年3月23日判決、ブラザー工業事件】があります。

この事件の企業では、見習い社員期間(6ヶ月から1年3ヶ月)終了後に、試用社員としての試用期間(6ヶ月から1年)を設けていました。

事件内容としては、ある労働者が中途採用の「見習」社員から登用試験を経て「試用」社員登用されました。そして、その後3回の「社員」登用試験に合格しなかったことから、就業規則に基づき解雇されたため、原告は当該解雇が無効であると主張しました。

裁判所は、業務適性は見習社員期間中に判断できるから、試用社員に登用した者に、更に試用期間を設ける合理的な必要性はないと判断し、公序良俗に反するものとして試用期間とは認めず、当該解雇を無効と認定しました。

試用期間中の労働条件に関する注意点

試用期間中の待遇や労働条件に関しては、基本的に本採用後と同じ権利を有するとされています。しかし、使用者と労働者との間で、給与や賞与等について本採用後とは異なる条件で合意すれば、そちらが適用される場合があります。

ただし、本採用後と異なる条件による合意をするときには、注意するべき点もあります。注意点について、以下で解説します。

給与

試用期間中は、本採用後より低い給与にすること自体は違法ではありません。ただし、給料が最低賃金を下回ると、そのための許可がなければ違法となります。

また、試用期間中の労働者であっても、残業させれば残業代が発生します。深夜に労働させたときの深夜手当や、法律で定められた休日に労働させたときの休日手当といった賃金も支払わなければなりません。

なお、試用期間中の労働条件が正社員と異なる場合には、求人票や労働条件通知書に、その旨を明確に記載しておく必要があります。

採用された労働者が、正社員と同様の条件で入社したのであれば、たとえ試用期間中であったとしても、基本的に労働条件を引き下げることはできません。引き下げるためには、使用者と労働者との間で合意する等の必要があります。

なお、最低賃金制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

企業が遵守すべき「最低賃金制度」について

社会保険

試用期間中であっても、雇用されている労働者として労務提供するため、使用者には社会保険に加入させる義務が生じます。
もしも労働者を社会保険に加入させていなければ、使用者には懲役刑又は罰金刑が課される可能性があります。

【健康保険・厚生年金保険】
健康保険・厚生年金保険は、原則として労働者を加入させる義務があります。

【雇用保険】
雇用保険は、1週間の労働時間が20時間以上で、かつ31日以上雇用の見込みがあれば加入させる必要があります。

【労災保険】
労災保険は、労働時間や労働日数にかかわらず全員加入させなければならないため、試用期間中の労働者も加入させる必要があります。

賞与

試用期間中の労働者については、賞与の支払い義務はありません。支払うとしても、本採用後の労働者より低額な賞与であっても問題ありません。

そもそも、賞与の支給は法律上の義務ではありません。しかし、労働契約や就業規則に支給する旨を明示していると、賞与を支給する義務が生じます。そのため、試用期間中の賞与について除外する規定を設けなければ、試用期間中の労働者に対しても賞与を支給する義務が生じてしまうおそれがあります。

試用期間中の労働者には賞与を支給しないようにする場合には、試用期間について賞与を支給しないことを労働契約又は就業規則に定めておきましょう。

また、在籍期間が延びると賞与が高額になる定めをしている場合についても、試用期間は賞与の査定の対象外にすること等が可能です。

賞与について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。

賞与

有給休暇

試用期間中であっても、有給休暇が付与されることがあります。
有給休暇は、雇い入れてから6ヶ月間が経過した労働者が8割以上出勤していた場合に付与されます。ここでいう雇い入れとは、試用期間を開始した時点を指しています。そのため、試用期間を含めて、雇い入れから6ヶ月が経過した労働者には年次有給休暇が付与されます。

なお、年次有給休暇に関することの全般について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

休暇・有給休暇

正社員以外の試用期間の適用

正社員でない労働者についても、試用期間を適用することは可能です。
例えば、契約社員やパート・アルバイトであっても試用期間の設定が可能です。ただし、契約期間の半分以上に及ぶような試用期間を設定すると、無効とされるおそれがあります。

また、派遣社員に対して派遣先の企業が試用期間を設けることは、実質的には派遣先が採用をしているものとして、いわゆる労働者派遣法に抵触するおそれがあります。

有期雇用契約と試用期間の関係

有期雇用契約であっても試用期間を設けることが可能です。しかし、労働者の適性などを確認し、雇用契約を解除しやすくしておきたい場合には、有効な方法ではないと考えられます。

なぜなら、有期雇用契約では「やむを得ない事由」がない限り労働者を解雇できないからです(労契法17条)。たとえ試用期間を設けても、「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否できないと考えられます。

労働者の適性などを確認したいのであれば、試用期間を設けず、最初の契約期間を3ヶ月~6ヶ月程度にすると良いでしょう。

試用目的の有期労働契約が問題となった裁判例

試用目的で有期労働契約が締結された事例としては、【最高裁 平成2年6月5日第3小法廷判決、神戸弘陵学園事件】の判決があります。

この事例は、私立高校の常勤講師として契約期間を1年として採用されたXが、契約期間満了により退職させられたため、地位確認を求めた訴訟です。

そして、Xと被告において、「一年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する」という明確な合意があったか等について、原審は審理を尽くしていなかったとして、原判決を破棄して差し戻しました。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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