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試用期間

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

企業が新しい人材を採用する際、正規雇用の従業員として働けるかの適正があるか見極めるための期間を、試用期間といいます。主にチェックするポイントとしては能力、スキル、勤務態度等です。試用期間の長さについては明確に定められてはおらず企業の裁量によりますが、入社後3ヶ月~半年が一般的で、最長でも1年程度が限度と考えられています。

試用期間を設けるためには、企業は就業規則や労働契約書に、試用期間について明記する必要があります。

本記事では、就業規則における試用期間の取り決めについて、意義や注意するべきことを解説します。

試用期間を設ける意義

昨今では、人材不足により、早ければ面接1回で内定という企業もあります。企業側は面接という短い時間で自社の社員としての適性を見極めることが難しいため、採用後に試用期間を設けます。本採用に向けて「適性を見極める期間」として設定しているという位置づけになります。

試用期間は、試用期間中の者との労働契約が「解約権留保付労働契約」と考えられています。つまり、期待していた能力・スキルが発揮されない、勤務態度が悪い等、面接時に把握できなかったことが発覚した場合に、正社員の解雇より広い範囲で解約権の行使が認められています。しかし、留保解約権の行使は、試用期間を設けた趣旨・目的に照らしたうえで、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として認められる場合にのみ許されています。

試用期間の延長と留意点

試用期間を消化しつつある状況において、もう少し本人の勤務態度や能力を見たい、または長期病欠等で、試用期間だけでは適性について十分判断できないこともあるでしょう。そのような場合に、試用期間を延長することができるのでしょうか。

労働契約法第12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と定めています。試用期間という状況は不安定な雇用状況であることから、これを延長するには、就業規則の定めに反して行うことはできません。したがって、就業規則に試用期間の延長に関する規定を設けておく必要があります。

また、延長にあたっては、労働者の立場を不当に不利な状況としないように、試用期間中のみでは判断が困難であった理由が必要と考えられています。

試用期間の制限について

試用期間の長さは会社が独自に定めることができます。しかしながら、試用期間が不安定な雇用状況であることを踏まえて、必要性や合理的な理由もなく、民法90条が定める「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」という規定が適用されて、1年を超えるような試用期間を設けることは不適切であるという考え方もあります。

長期の試用期間が認められなかった裁判例

長期の試用期間が認められなかった判例としては、【昭和59年3月23日判決 ブラザー工業事件】があります。この事件の企業では、見習い社員期間(6か月から1年3ヵ月)終了後に、試用社員としての試用期間(6ヵ月から1年)を設けていました。事件内容としては、 ある労働者が中途採用の「見習」社員から登用試験を経て「試用」社員登用されました。そして、その後3回の「社員」登用試験に合格しなかったことから、就業規則に基づき解雇され、原告は当該解雇が無効であると申請しました。名古屋地裁は、業務適性は見習社員期間中に判断できるから、試用社員に登用した者に更に試用期間を設ける合理的な必要性はないとして、公序良俗に反するものとして試用期間とは認めず、当該解雇を無効と判断しました。

試用期間と有期雇用契約の相違点

試用期間と有期雇用契約の違いは何でしょうか。

試用期間の場合は、試用期間満了後には本採用となるか否か判断しなければならず、契約を終了する場合には、本採用の基準などに照らして、不採用となる理由が求められることになります。

有期雇用契約の場合は、正社員としての雇用が前提とされているわけではないため、期間満了時の判断も、有期雇用契約を更新するか否かの基準で判断されることになり、本採用をされるか否かの基準とは異なります。有期雇用契約の期間満了時には、更新基準に適合して更新することにならない限り、雇用契約を終了することとなります。

しかし、「有期雇用契約は期間満了で終了する」と安易に考えて、有期雇用契約を何度も繰り返すことについては、注意が必要です。労働契約法19条に基づき、更新が反復継続されることや更新が期待されることに合理的な理由がある状況になると、契約期間の満了のみを理由として、有期雇用契約を終了させることはできません。

なお、最高裁の判例においては、形式的には有期雇用契約の体裁であっても、「試用期間としての実態がある場合には、試用期間と同様の扱いをする」と判断したものもあります。

試用目的で有期労働契約が締結された判例

試用目的で有期労働契約が締結された事例としては、【最高裁 平成2年6月5日判決 第三小法廷 神戸弘陵学園事件】の判決があります。

事件の概要は、開校2年目の私立高校の常勤講師として採用されたXが、契約期間は1年であったとして期間満了により雇用契約が終了したとされたことから、地位確認を求めたものです。Xは採用面接の際、理事長から1年間の勤務態度を見て、再雇用するかどうかの判定をすることを説明されました。

最高裁は、入社当初に結んだ労働契約に期間を設けた場合、「その期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであり、この期間満了により労働契約が当然に終了する旨を双方が合意しているなど特段の事情がない」ときには、この期間は、解約権が留保された試用期間と解釈されると判断しました。

試用期間中の待遇

試用期間中の待遇や労働条件に関しては、基本的には本採用後と同じ権利を有するとされています。しかし、使用者と労働者との間で、別段の合意があれば差異が生じる場合があります。尚、試用期間中のよくあるトラブルは、次にご紹介する社会保険未加入と給与についてです。

社会保険の加入義務

試用期間中であっても、本採用後と同じ労働条件で労務提供する以上、社会保険の加入義務が発生します。例外は、健康保険・厚生年金保険については、臨時に使用される者であって「2ヵ月以内の有期契約である場合(ただし、引き続き使用されるに至った場合を除く)」と「労働時間・日数が一般社員の4分の3未満しか労働していない場合」です。しかし、試用期間は期間以後も採用されることが前提となっている点から臨時に使用される者とはいえませんし、引き続き使用される場合にも適用除外とはなりません。よって、試用期間が2か月以内であっても社会保険に加入する必要があります。

また、労働保険には労災保険と雇用保険が含まれていますが、これらのうち雇用保険は1週間の労働時間が20時間以上で、かつ31日以上雇用の見込みがあれば、加入しなければいけません。さらに、労災保険は労働時間・日数に関わらず全員加入しなければなりません。

なお、これらの加入義務違反に対しては罰則が定められていますので、慎重に見極める必要があります。

試用期間中の給与

試用期間中は、業務に必要な訓練や研修が行われることが一般的です。本採用の社員に対する給与と同じ給与を支払うことは不公平だと感じる企業もあるかもしれません。入社時点の労働条件の設定は企業が自由に定めることができますので、社内での不公平感を醸成しないことを目的として、試用期間中は本採用後より低い給与にすること自体は違法ではありません。ただし、最低賃金を下回ることは違法となりますので、注意する必要があります。

しかし、期間中の労働条件が正社員と異なる場合には、求人票などに明確に記載しておく必要があり、労働条件通知書も交付する義務があります。求人票に記載することもなく、一度、正社員と同様の条件で入社したのであれば、たとえ試用期間中であったとしても、使用者と労働者との間で合意しなければ、労働条件を引き下げることはできません。

試用期間中の解雇について

使用者が労働者を解雇する際には、原則として、労働基準法第20条により30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を使用者は労働者に支払わなければなりません。しかし、労働基準法第21条は、解雇予告、解雇予告手当に関しては試みの期間の労働者には適用しないと定められています。ここでいう、試みの期間の労働者とは、かなり限定されたものとされており、14日を超えて引き続き使用(雇用)されるに至った場合においては、解雇予告が必要とされているため、現実的には適用除外となるケースはほとんどないでしょう。というのも、たとえ試用期間中といえども、よほど重大な懲戒事由がない限りは、14日の期間で解雇相当となるような出来事は起きないからです。

したがって、14日を超えて雇用している場合には、解雇予告の適用除外とならないため、試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否を通知する場合は、通常の解雇と同じく、解雇予告手当の支払いが必要です。

採用後の解雇予告については、こちらをご覧ください。

退職及び解雇 解雇予告

本採用の決定

試用期間の終了後は、正社員として採用されることになり、正社員と同じく就業規則が適用されることになりますが、当初の雇用契約と労働条件に変更がないのであれば、本採用決定時に新たな手続きは特段必要ありません。しかし、正社員として採用したことを明確にする趣旨で本採用通知書を交付する方が一般的であり、労働者に安心感を与えることができるでしょう。

本採用拒否について

本採用拒否とは、定めた試用期間満了後に企業が本採用をしないことです。本採用の拒否は、留保された解約権を行使し、労働契約を解除したことを意味します。そのため、解約の意思表示を明確にしなくてはなりませんし、30日前の予告または解雇予告手当も必要となります。

試用期間満了までに、客観的に明確となる方法で解約の意思表示を行っていない場合には、解雇の意思表示が行われていないことになりかねず、本採用したものと評価されるおそれがあります。本採用拒否については、こちらをご覧ください。

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