人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

「就業規則の記載内容」について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

就業規則を作成するうえで、まず検討しなければならないのは、記載事項です。就業規則には、法律で記載が義務づけられている項目もあります。一方、記載するもしないも自由とされている項目もあり、具体的には3種類の記載事項に分けられます。

今回は、この3種類の記載事項について解説するとともに、就業規則の作成上の注意点を業種別にご紹介します。

就業規則の記載内容

就業規則の記載事項は、記載が強制される順に、「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意的記載事項」の3種類に分けられます。

なお、就業規則は、「法令」または当該事業場に適用される「労働協約」に違反する規定を設けることはできない(労基法92条1項)ので、記載事項の内容も、これらが定める労働条件に満たない定めにならないように注意する必要があります。

次項より、記載事項の種類別に解説していきます。

絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項」とは、労使間で共通の認識を持っておくべき最低限の事項で、法律上就業規則に記載しなければならないと定められている項目をいいます。就業規則にひとつでも絶対的必要記載事項が記載されていない場合、30万円以下の罰金が科されます(労基法120条1項)が、他の要件を備えている限り、就業規則としては有効です。

絶対的必要記載事項には次の3項目があり、労働基準法89条1~3号に列挙されています。

  • 〇労働時間に関すること
  • 〇賃金に関すること
  • 〇退職に関すること

労働時間に関すること

労働基準法89条1号で掲げられている、「労働時間に関すること」とは次のとおりです。

  • ・始業および就業の時刻
  • ・休憩時間(休憩時刻、長さ、与え方等)
  • ・休日(日数、与え方、振替え、代休等)
  • ・休暇(年次有給休暇、産前産後休暇、生理休暇、その他特別休暇等)
  • ・シフト制を採用している場合は、就業時転換に関する事項(交代期日、交代時刻、交代順序等)

より詳細に説明しているので、下記の記事も併せてご覧ください。

労働時間について

賃金に関すること

労働基準法89条2号で掲げられている、「賃金に関すること」とは次のとおりです。なお、対象となるのは定期的に支払う賃金であって、臨時に支払われる賃金等は含まれません。

  • ・賃金の決定(賃金の決定要素と賃金体系等)
  • ・計算方法
  • ・支払方法(直接支給か銀行振込みか等)
  • ・締切日・支払日
  • ・昇給に関する事項(昇給の時期、条件等)

退職に関すること

労働基準法89条3号で掲げられている、「退職に関すること」とは次のとおりです。なお、退職手当に関する事項は相対的必要記載事項となります。

  • ・退職、解雇、定年の事由
  • ・退職、解雇、定年をする際の手続き

より詳細に説明しているので、下記の記事も併せてご覧ください。

退職及び解雇

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項」とは、就業規則に必ず記載しなければならない項目ではありませんが、一定の制度を導入する場合には記載が必要となる項目をいいます。また、既に社内で慣行として当該制度が運用されている場合にも、就業規則に明記する必要があります。

相対的必要記載事項となる項目は、労働基準法89条3号の2~10号にかけて、次のとおりに列挙されています。

  • 〇退職手当に関すること(対象となる労働者の範囲、計算要素、計算方法、支給方法、支給時期)
  • 〇退職手当以外の一時金、臨時の手当、最低賃金額に関すること
  • 〇労働者の費用負担に関すること(食費、作業用品等)
  • 〇安全および衛生に関すること
  • 〇職業訓練に関すること(訓練の種類、時期、対象者、訓練中の処遇)
  • 〇業務上および通勤途上の災害補償、業務外の傷病に関すること
  • 〇表彰や制裁に関すること(表彰・制裁の種類、事由、手続き)
  • 〇当該事業場の労働者すべてに適用される定めに関すること(休職、出向、出張旅費等)

任意的記載事項

任意的記載事項」とは、就業規則への記載が任意である項目をいいます。一般的には、就業規則を制定した趣旨や目的、根本精神の宣言、企業理念、用語の定義をはじめとする就業規則の解釈や、適用に関する規定等を設ける例が多くみられます。法律では記載が義務づけられていない項目ですが、就業規則をより自社に適したものにし、有効性を高めるためにも、記載を充実させることが大切だといえます。

なお、任意的記載事項は、法律および労働協約に反しない範囲であれば、自由に記載することができます。

パワハラ防止措置に関する記載

2020年6月1日から改正後の労働施策総合推進法が施行され、事業主にパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)を防止するための措置を講じることが義務づけられました。パワハラを防止するための措置のひとつとしては、就業規則等、職場における服務規律を定めた書面に、パワハラの定義やパワハラを防止する旨の方針を記載し、労働者に周知することが挙げられます。

マタハラ防止措置に関する記載

改正後の雇用機会均等法および育児・介護休業法が2017年に施行されたことに伴い、事業主にはマタニティハラスメント(以下、「マタハラ」)を防止する措置を講じる義務が課せられました。この義務の一環として、事業主は、就業規則等にマタハラをはじめとするハラスメントが懲戒の対象となることを明記し、労働者に周知してマタハラ等を防止する意識を啓発する必要があります。

詳しくは下記の記事で説明しています。

企業が講じなければならないマタハラ等の防止措置

制裁規定の制限

就業規則等に、対象となる行為とそれに対応する制裁(懲罰)の詳細が明記されていない場合、懲罰を行うことはできません。なお、相対的必要記載事項である「制裁(懲罰)」に関する項目は、労働者に対する不利益措置に当たるため、労働者保護の観点から、就業規則に盛り込むにあたっては制限が課されます。

例えば、「1回の減給処分の額が平均賃金1日分の半額を超え、総額が一定の賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えることはできない」という規定等があります(労基法91条)。

詳しくは下記の記事をご覧ください。

労働基準法第91条における制裁規定の制限

業種ごとの注意点

就業規則は、業種によって重視すべきポイントが異なります。そこで、IT業、小売業、飲食業、運送業、建設業、美容業に大別し、それぞれの業種で踏まえるべき注意点を見ながら、どのような内容を就業規則に記載すべきか、解説していきます。

IT業

IT業は、職種の分類が難しく、また、ひとつの事業場で様々な雇用形態の労働者が働いていたり、他の企業へ出向することがあったりと、他の業種とは異なる点が多くあります。IT業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

勤務管理(労働時間、休暇等)
営業職や事務職、プログラマー職といった、それぞれの職種や業務内容に適した労働時間管理制度を確立することが必要です。特に、在宅ワークやフレックス勤務等、柔軟な勤務形態を認めている場合には、勤務管理の方法を具体的に定めることが重要です。

また、IT業では長時間労働や不規則な労働時間が問題とされている企業も多いため、就業規則で適正な勤務管理制度を設計し、こうした問題を解決する必要があります。

情報管理
パソコンを使用したり、企業秘密に触れたりする機会が多い業種であるため、勤務中のセキュリティに対する規定を設けることも重要です。また、在職中・退職後の情報漏洩のリスクを考慮し、セキュリティ管理制度を設計する必要もあるでしょう。

賃金制度(残業手当)
長時間労働が問題視されているIT業では、就業規則で残業対策をすることは必須です。残業手当の割増率をあらかじめ定めておくことはもちろん、そもそも残業を減らすための対策を就業規則で定めておくことをお勧めします。

健康管理
長時間労働等により労働者に健康問題が発生しないよう、万全の対策を考え、就業規則に規定しておく必要があります。

小売業

小売業は、定休日のない商業施設に入っている、24時間営業を行っている等、特に労働時間や休日、残業時間のルールに気をつけるべき業種です。

また、一店舗当たりの労働者数が10人未満である場合も少なくなく、就業規則を作成する義務がない店舗もあるでしょう。しかし、就業規則の作成は、人数の多寡にかかわらず、企業に大きなメリットをもたらすものですから、ぜひこの機会に作成することをご検討ください。

小売業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

賃金制度(時間外手当)
特に24時間営業を行っている店舗等では、深夜手当や残業手当等、時間外手当の支払いが発生することがあるでしょう。小売業では、店長とは呼ばれていても名ばかりの管理職であることも少なくありませんが、このような労働者の残業手当について、「管理職」であるとして支払わずに済ませようとするケースが多々あります。こうした問題のある企業は、多大な損失が生じるリスクを抱えているといえます。

就業規則で残業を削減する方針やその方法を明記するとともに、時間外手当の規定を工夫することで、労使ともに満足のいく就業環境の整備に努めるべきでしょう。

勤務管理(休日)
商業施設等に入っており、定休日がない店舗も多いと思われますが、このような場合は、就業規則に振替休日を規定する等、シフト制をうまく利用することで、残業手当の削減に繋げることができます。

服務規程(接客や身だしなみ)
接客業であることを考えると、接客に関する身だしなみ規定を具体的に設けるべきであるといえます。場合によっては、懲罰規定を設けることを検討しても良いでしょう。

飲食業

飲食業は、人の出入りが激しい接客業なので、客とのトラブルも多いため、特に労務管理に力を入れるべき業種といえます。しかし、出店ペースが早い企業では、労務管理が飲食店の規模に追いつかず、きちんと就業規則が作成されていないケースも多くみられます。飲食業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

賃金制度(時間外手当)
小売業と同様、飲食業でも、店長とは呼ばれていても名ばかりの管理職である場合も少なくありません。しかし、「管理職」であるとして残業手当を支払わずに済ませていると、後々提訴されるような事態に陥るおそれもあります。そこで、残業を削減する方針やその方法を就業規則に明記する等、就業環境の整備に努めることが重要です。

衛生管理
食品を扱う業種であるため、衛生管理について明記しましょう。食品の取扱いだけでなく、制服やエプロンのクリーニングの方法、その費用負担等、詳細に取り決めることが必要です。

情報管理
労働者の入れ替わりが多く、独立志向も強い業種であるため、レシピ等の企業秘密を管理することが非常に重要です。そこで、就業規則でレシピ等の持ち出しを禁止するとともに懲罰規定を設ける等、情報管理について明記しましょう。

内部不正への対応
飲食業でよくみられる問題として、残った食材の持ち帰り等があります。放っておくと後々大きな問題となりかねないため、就業規則に懲罰規定を設けて禁止する等、早い段階で対処しておくべきといえます。

運送業

運送業を営む事業主に対しては、労働基準法とは別に「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(以下、「改正基準告示」とします)」が定められており、この告示の基準内で就業規則を作成する必要があります。

運送業の場合、賃金は、車両や配送ルート、得意先によって決められることが多いですが、労働者の不満を生む場合もあるため、能力を反映して賃金を決定するような合理的な賃金規定を整備することが求められます。

運送業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

勤務管理(労働時間)
改正基準告示が定める基準の範囲内で、独自の労働時間の基準を規定しなければなりません。その際には、拘束時間や休憩時間、運転時間の上限についても盛り込む必要があります。

国土交通省の監査
国土交通省やトラック協会の適正化事業の監査に対応できるよう、運行管理や車両管理の規定を設けた就業規則を作成する必要があります。また、それに伴い、労働時間の整備や社会保険への加入等も必要になります。さらに、就業規則ではありませんが、三六協定についても運送業独自の書式で届け出なければなりません。

懲罰規定
車両を運転するという業種上、就業時に労働者による飲酒運転や道路交通法違反が行われるリスクがあるため、このような事態に備えて、懲罰規定を整備しておく必要があります。

建設業

建設業では、労災事故防止のための安全管理が重要です。また、職務内容上、天候に左右される要素が大きいことや、繁忙期とそれ以外の時期の賃金体系の確立等、考慮すべき点が多くあります。建設業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

安全管理・健康管理
労災事故が起こるリスクが高いため、就業規則に労働者の安全管理や健康管理について、必ず規定を設けましょう。また、「健康診断の受診を拒否する」「ヘルメット等安全装置を着用しない」といった安全管理の意識に欠ける労働者に対して、指導・勧告できるように、就業規則に懲罰規定を設ける等、制度を整えることが重要です。

労働時間
建設業は、一定期間内に作業を完了しなければならないこと等を理由に、三六協定さえ提出していれば、法的な労働時間の制限がかかることはないとされています。しかし、無制限の長時間労働は、残業手当の支払いを増加させ、労災事故の発生リスクを高めるとともに生産効率を低下させることにも繋がるため、就業規則で労働時間について具体的に規定することが必要となります。また、現場への移動時間についても、労働時間に当たるケースを就業規則に明記しておくことで、労働時間に関する争いを予防できます。

賃金体系
悪天候で現場作業ができない時間等について、賃金が発生するのかしないのか、就業規則であらかじめ定めておくことで、無用なトラブルを防ぐことができます。また、繁忙期と閑散期のある業種なので、就業規則に規定を設ける際には、これらをうまく使った賃金体系を確立することを念頭に作成すると良いでしょう。

美容業

美容業は、業界の慣習と労働基準法の考え方とに大きな隔たりがある業種です。そのため、就業規則を作成するうえで、この隔たりをどのように埋めるかが問題となります。美容業を営む企業の就業規則を作成するうえで注意するべき点は、次のとおりです。

労働時間
美容業は、一般的に労働時間が長い傾向にあるという問題に加えて、労働者の技術向上のための練習時間をどのように考えるのかといった問題もあります。この点、就業規則に労働時間の始業や就業、休憩時間等について明記することで、一定程度、労働時間についての争いを予防することができます。

賃金(賃金体系、残業手当)
業種上、顧客がいない時間帯が発生せざるを得ないことから、その時間の賃金の支払いについて規定を設ける必要があります。また、業績をどのように賃金に反映するのかといった、賃金体系についてもきちんと定めなければなりませんし、残業手当の支払いについても明記しなければなりません。

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます