従業員がうつ病で休職したときの接し方

近年、過重労働・長時間労働がストレス要因となり、メンタル不調者の続出が多くみられることから、職場のメンタルヘルス不調者対策が深刻な問題となっています。
ここでは、メンタルヘルス不調の一つであるうつ病によって従業員が休職したときの接し方について説明します。

うつ病で休職した従業員への正しい接し方とは

従業員がうつ病を患った場合、まずは休職させるという対応が考えられます。では、企業側はどのようなことに注意して従業員に接していけば良いのでしょうか。

まずは、どのようなルールに則って休職の方法を検討すれば良いか、確認していきましょう。

メンタルヘルス不調による休職について

うつ病等、メンタルヘルス不調による休職は、本来、就業規則に定めて行うものです。

「いつまで休職できるか」「休職期間が満了しても復職できない場合どうするか」などについて、不明確なまま休職を実施するのではなく、まずは就業規則を見直し、正式に休職させることを考えましょう。

例えば、多くの企業では、業務に起因するものでない傷病を理由に、使用者が従業員に対して一時的に就労義務を免除し、又は就労を禁止するという内容の「私傷病休職制度」が採用されています。

なお、メンタルヘルス不調に対するケアの必要性等、メンタルヘルス問題について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

休職命令の根拠となる就業規則

後に争いとならないように、休業命令の根拠となる規定について就業規則に定め、ルール化しておくことが必要です。

労働基準法でも、全員に適用されるルールは就業規則に記載しておくことが義務付けられています(労基法89条10号)。

休職期間に対しては、通常、賃金を支払いませんが、支給の有無を明らかにするため、休職期間中は無給とすることを就業規則に定めておくことが望ましいといえます。

そのほかに就業規則に定めるべき詳しい内容については、こちらをご覧ください。

また、そもそも就業規則とはどのようなものか、その概要について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

うつ病で休職させる際の対応

うつ病の従業員の休職が決まったら、従業員が休職に入る前に、企業側は以下のような対応をすべきと考えられます。

休職制度について十分な説明が必要

従業員が療養に専念できるように、休職を開始する前に、休職するにあたって伝えておくべき事項を説明する必要があります。

従業員にとって一番関心があるのは経済的な問題ですから、傷病手当金等の給付が受けられるのか、どれくらいの額になるのか、どのような手続きが必要なのかなどの説明を行います。

また、社会保険料の負担や住民税の負担等、労働者が休職中に支払う保険料、税などの説明も必要です。

さらに、最も大切なのは、休職期間の限度と復職できないときの退職等についての説明です。

本人に歓迎されないことほど、早い段階で知らせておくことが、後々のトラブルを防ぐことになります。

休職者の業務引継ぎにおける注意点

休職者はうつ病により業務を行うことが困難となり、休職に至っているため、業務の引継ぎができないおそれがあります。

休職者の状態をみて、業務の引継ぎができるようであれば、緊急度が高く、かつ重要度が高いものから引継ぎをしてもらうなどの対応をとるべきと考えられます。

休職中の従業員との接し方

休職中において、企業と従業員とで何らかのやりとりが必要である場合については、その取扱いについても事前に取り決めておかなければなりません。以下の例をご覧ください。

休職中の病状報告義務について

休職中に、企業が休職者に対して定期的に診断書を提出させるなどの「病状報告義務」を課すことは可能です。

もっとも、無用なトラブルを避けるため、就業規則に診断書提出義務を記しておくのが明瞭であり、その場合、企業は随時に提出を求めることができる旨定めておくことが望ましいでしょう。

休職期間中の病状等の報告義務については、以下のページで詳しく解説しているため、ぜひご覧ください。

メンタルヘルス不調と職場復帰支援の有効活用

従業員は、主治医と相談のうえ、起床と就寝のリズムを整えるなど、復職前に本人ができる準備をしていることと考えられます。

企業としては、本人と主治医だけではできない部分を支援すると良いでしょう。

例えば、試し出勤やリハビリ出勤制度、復職後の軽減措置を提案することが考えられます。

ただし、このような支援は、場合によっては会社が主体的に実施すると問題となることもあり、慎重に対応すべきところです。

復職した従業員に接する際の注意点

休業していた従業員が復職した後についても、企業は従業員のメンタルヘルスケアを継続する必要がありますが、これにはいくつか注意点があります。

復職時の声かけが重要

うつ病等のメンタルヘルス疾患は、職場、家庭など、さまざまな原因がかかわっていて、一見良くなっているように思えても、その後完治することができるかどうか容易に判断できるものではありません。

そのため、復職後も引き続き経過を観察し、復帰者に対する声かけや配慮を行うことが重要です。

配慮し過ぎると逆効果になることも

うつ病で休職していた人が復職すると、普通の仕事を求められることへの焦りが生じるケースもあるとされています。

本人には、一般の従業員と同じような仕事を求められてもできるだろうかという焦りがあります。しかし企業は、すぐに通常どおりの仕事はできないだろうと考え、気配りから暇になるほど仕事を減らしてしまうことがあります。これに対して復職者は、何か役に立たなければとさらに焦ります。

このように、会社が配慮しすぎることによって、復職者に対して逆効果をもたらす結果となってしまうこともありますので、注意が必要です。

うつ病と休職に関する裁判例

ここで、うつ病における従業員の休職について、実際の事案ではどのような判断がなされるのか、裁判例を用いて説明していきます。

事件の概要

うつ病による休職期間満了時、企業が従業員に対し、健康状態の把握のための協力を要請したところ、従業員が拒否したこと等から、解雇が有効になった事件です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

【大阪地方裁判所 平成15年4月16日決定】

裁判所は、以下のような判断をしました。

  1. 使用者は、労働者に対し、医師の診断あるいは医師の意見を聴取することを指示することができるし、労働者としてもこれに応じる義務がある。
  2. そして、使用者が数回にわたって診断書提出期限を延期したにもかかわらず、労働者がとくに理由を説明することなく診断書を提出せず、通院先の病院の医師ではない医師の証明書なる書面を提出したのみで、医師への意見聴取をも拒否し続けており、使用者が休職期間満了後も直ちに労働者を休職満了扱いとせずに自宅待機の措置をとっていたとの事情や、労働者自身が未だ体調がすぐれない旨述べていることを合わせ考慮して、普通解雇が認められた。

ポイントと解説

主治医からの情報提供を求めることに合理的な理由がある場合には、企業が従業員に対してその同意を求めることは、就業規則上の定めの有無にかかわらず可能と考えられます。

そして、情報提供の要請に応じない者は、治癒の事実の有無について不利益な判断がなされたとしても、これを不当ということはできなくなります。

もっとも、情報提供義務について就業規則上の根拠を備えている方が、無用な紛争をさけるためには有用です。

うつ病による休職者への対応でお困りなら、一度弁護士に相談することをおすすめします

うつ病による休職者への対応は、休職者の心身状態を考慮するとともに、関連法令に抵触しないかといった点も考慮する必要があります。

また、いざうつ病による休職者が現れた場合に、社内制度が整っていないと、さまざまな問題が生じます。

就業規則の見直しやうつ病による休職者への対応については、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

執筆弁護士

弁護士 奈良 亜希乃
弁護士法人ALG&Associates 弁護士奈良 亜希乃

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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