監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
昨今、飲食店やコンビニなどで外国人労働者が働いている姿を見ることも多くなり、会社が外国人を雇用することは当たり前になりつつあります。近年では、入国管理法の改正も行われ、国としても、外国人労働者の受入れを拡大しようとする動きが活発になっています。
各業界において、人手不足といわれる状況が続く中、外国人労働者を雇い入れたいと考える会社において、どのような点に注意して外国人労働者を雇用すればいいのでしょうか。以下で詳しく解説していきます。
目次
外国人を雇用する際には法律を遵守する必要がある
外国人を雇用する場合、雇用契約において日本法以外の法律を適用すると合意しても、日本における労働基準法などの法律の適用を免れることはできません。会社が日本人を雇用するときと同じように、外国人を雇用する場合でも、労働基準法などの法律を遵守しなければならないのです。
詳しくは以下のページをご覧ください。
法律に違反すると企業が罰則を受ける
会社が外国人を雇用する場合に、労働基準法などの法律の適用を受ける以上、法律に違反した場合には会社が罰則を受けてしまうこともあります。例えば、外国人労働者に対して、最低賃金に満たない賃金を支払っている場合には、50万円以下の罰金が科されることとなります(最低賃金法第4条第1項、第40条)。
外国人を雇用する際に守るべき法律とは?
外国人を雇用する際に、会社が遵守することを求められる法律としては、以下のようなものが挙げられます。
労働基準法
労働基準法は、会社に雇用される労働者の労働条件等の基準について定めた法律です。労働者の労働時間、賃金等について定められており、労働基準法の下、外国人労働者に法定労働時間(8時間)を超えて労働をさせた場合には、時間外手当の支払いが必要となります(労働基準法第37条)。
労働安全衛生
労働安全衛生法は、労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的とした法律です。
労働安全衛生法においては、危険物に対する規制や労働災害を防止するために会社がしなければいけない措置や管理体制の整備等に関する規定が定められています。
労働安全衛生法の適用の下、外国人労働者も労働者である以上、国籍に関係なく、労働災害に見舞われたときには、労災保険から治療費が支払われることとなります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
健康保険法
健康保険法は、労働者とその被扶養者の業務外の病気等に関して保険給付を行い、生活の安定などを図った法律です。健康保険に加入している会社に常時使用される労働者は、国籍に関係なく、被保険者となるため、外国人労働者も健康保険の被保険者となります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
最低賃金法
最低賃金法は、賃金の最低額を保障して、労働者の生活の安定を図った法律です。この法律は、労働者の最低賃金を保障するための法律であり、外国人労働者であっても適用を受けることとなります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
雇用対策法
雇用対策法は、外国人労働者を含めた労働市場の多様化を背景に、雇用政策の基本となる法律として定められた法律です。
外国人雇用状況の届出について
雇用対策法には、外国人の雇用管理の改善等について定められた規定が存在し、その中で会社は外国人労働者を雇用したとき又は離職したときには、国に届出を行わなければならないと定められています(雇用対策法第28条第1項)。
届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金が科せられることもあります(同法第40条)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
出入国管理及び難民認定法(入管法)
会社が外国人を雇用する前提として、そもそも雇い入れようとしている外国人が日本国内において就労することができるかという点についても確認が必要です。
入管法は、我が国に入国・在留する外国人の扱いについて定めた法律であり、外国人の在留資格(就労業種等)等について定められています。近年では、特定産業分野への外国人労働者受け入れを目的として、「特定技能」制度が新設されました。
技能実習生にもこれらの法律は適用されるのか?
外国人技能実習制度とは、日本の技術や知識を開発途上国に移転することで国際貢献を図った制度です。技能実習生は、日本の会社と雇用契約を結んで、技術等を学ぶこととなります。この技能実習生についても、上記の法律が適用されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人雇用で労働基準法違反とみなされた裁判例
外国人を雇い入れる場合には、様々な法律が絡み合う上、それらを確実に遵守することが会社には求められます。以下では、外国人を雇用したものの、十分に労務管理を行っていなかったがために労働基準法に違反したものとして、会社が責任を追及された事件をご紹介します。
事件の概要(平22(ワ)42153号・東京地方裁判所・平成23年12月6日判決・第一審)
本件(デーバー加工サービス事件)では、会社が日本人従業員に加えて、外国人の技能実習生を業務に従事させていました。
会社は、労働者に寮を提供していたところ、寮費(住宅費・水道光熱費)として一定額を給与から天引きしていました。
しかし、天引き額につき、日本人従業員と技能実習生の間で差異が設けられており、日本人従業員よりも多くの金額を寮費として天引きしていました。そこで、技能実習生側は、寮費の天引き額に違いを設けることは、労働基準法第3条に定める均等待遇に反すると主張し、差額分の返還等を求めました。
これに対し、会社側は、生活用品の無償提供等の事由を加味した上での合理的な根拠に基づいた区別であるとして争いました。
裁判所の判断
裁判所は、会社の主張を認めず、労基法第3条に違反する扱いであると判断しました。例え、外国人労働者に生活用品等を無償提供しているとしても、寮費について大きな格差を設ける理由にはならず、区別を説明する合理的な根拠にはなり得ないとしました。
ポイント・解説
本件のポイントは、国籍の異なる外国人労働者でも、労働基準法の定めに服することを前提として、基本的には日本人労働者と同一の平等な取り扱いがなされるべきことを示した点にあります。
合理的な根拠なく一方的に外国人労働者と日本人労働者の間に扱いの差異を設けることは、差別に該当するにとどまらず、労働法上の問題も生じ得る点を改めて示したものともいえます。
外国人雇用における法令遵守については専門家である弁護士にご相談下さい。
外国人を雇用する場合には、労働基準法に加え、出入国管理法といった外国人特有の法律の規制を考慮する必要があります。
様々な法規制が絡むことから、法律に注意しているつもりでも、意図せず法律に反した形で外国人労働者を雇用してしまっていたという事態も起こり得ます。
外国人雇用における法令遵守については、法律の専門家である弁護士に是非ご相談ください。
よくある質問
外国人労働者も労災保険の加入対象ですか?
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労災保険とは、仕事や通勤が原因で労働者が怪我や病気をしたり、亡くなったりした場合に、労働者やその家族を保護するために保険給付を行う制度です。
労災保険は、職業の種類や国籍にかかわらず、労働の対価としての賃金が支払われる労働者であれば被保険者となりますので、外国人労働者も労災保険の加入対象となります。詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者も雇用保険の被保険者となりますか?
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雇用保険は、労働者が失業した場合において、労働者の生活安定のために保険給付を行う制度です。労災保険と同様に雇用保険も外国人労働者に適用されます。
外国人労働者も団体交渉に参加する権利はありますか?
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団体交渉とは、労働者が会社と対等の立場で労働条件について話し合うことをいいます。
団体交渉に参加する権利は、憲法で認められた労働者側の権利であるところ、権利の性質上、外国人労働者にも団体交渉に参加する権利があるものとされています。詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人労働者にも福利厚生を提供する必要はありますか?
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外国人労働者の雇用に関して、厚生労働省が「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」を定めています。
指針の中で、福利厚生施設について、会社は、外国人労働者について適切な宿泊の施設を確保するように努めるとともに、給食、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等の施設の利用について、外国人労働者にも十分な機会が保障されるように努めるものとされています。
そのため、外国人労働者についても福利厚生を提供する必要があります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
外国人との雇用契約の締結で注意すべきことはありますか?
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外国人労働者との間で雇用契約を締結する際、日本人を雇用するのと同様に労働基準法等の関係法令を遵守した形での契約を取り交わすことが必要です。
他方で、外国人労働者と契約を結ぶ際、一般的に留意する点としては、契約内容を理解してもらうため、母国語に訳したり、できるだけ簡単な日本語で記すことといった点が挙げられます。
また、「特定技能」の在留資格を有する外国人を雇用する場合には、単なる雇用契約ではなく、法務省令が定める基準に則した内容が記された「特定技能雇用契約」を締結することが必要となります。
在留資格で認めている範囲外の仕事をすると違法ですか?
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入管法上、在留資格で認められている範囲内において就労が可能です。
在留資格で認められている範囲から外れた仕事をする場合は、資格外活動許可(入管法第19条第2項)という許可を取得する必要があります。もし、資格外活動許可を取得していない外国人に、在留資格で認められている範囲外の仕事をさせてしまうと、会社が、許可を取得していない事実を知らなかったとしても処罰を受けるおそれがあります(入管法第73条の2第1項、第2項第2号)。
日本語が十分でない外国人労働者への安全教育はどのように行えば良いですか?
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外国人労働者は、一般的に日本の労働慣習や日本語を熟知していないケースが往々にしてあります。
そこで、外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するにあたっては、母国語を用いて機械設備や安全装置の使用方法が確実に伝わるように留意する必要があります。また、労働災害を防止するために、最低限の日本語を習得させるように努めることも求められます。
外国人雇用状況の届出はどのタイミングで行う必要がありますか?
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会社は、新たに外国人労働者を雇い入れたタイミング又は雇用する外国人労働者が離職したタイミングで雇用状況の届出を行う必要があります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
在留期間が迫っていることを理由に雇い止めをしても良いですか?
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有期雇用で外国人労働者を雇用している場合であっても、雇止め法理(労働契約法第19条)が適用されますので、有期雇用契約が複数回更新され、契約更新の期待がある状態において、外国人労働者が更新を希望しているにもかかわらず、会社から一方的に雇止めを行うことは許されません。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある