不当解雇、正当解雇の違い

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社が、言うことを聞かない従業員を解雇したところ、従業員から「不当解雇だ。訴えてやる。」と言われ泥沼の紛争になったという話を聞いたことはありませんか?こうした話を聞くたびに、不当解雇の線引きについて悩まれたりしたことがある人も多いかもしれません。
そこで、今回は不当解雇と正当解雇の違いについて解説していきたいと思います。

「不当解雇」と「正当解雇」の違い

不当解雇とは、端的にいうと「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法、以下、「労契法」とします、16条)による解雇のことをいいます。

より分かりやすい表現をすると、不当解雇とは、曖昧な理由や第三者から見ても納得できないような理由に基づいたもので、かつ正しい手続きを踏まない解雇のことをいいます。

この裏返しとして、正当解雇とは、だれが見ても明らかで、かつ納得のできる理由に基づき、正しい手続きを踏んだうえでなされる解雇のことをいいます。

不当解雇と判断されるケースとは?

不当解雇と判断されるケースとは、客観的に合理的な理由があるとは認められない場合又は社会通念上相当と認められない場合のことをいいます。

例えば、役員と折り合いが悪いことを理由に解雇する場合や、表面上経営不振によるリストラを謳いながら追加の人員を補充する場合などは、解雇につき客観的に合理的な理由があるとは認められず、社会通念上相当とも認められないため、不当解雇と判断される可能性が高いです。

不当解雇とみなされる解雇事由についてより詳しく知りたい方は、リンクページをご参照ください。

法律上で制限されている解雇にはどのようなものがあるか

法律上で解雇が制限されている代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

  • ① 国籍、信条又は社会的身分を理由とした解雇(労基法3条)
  • ② 公民権(選挙権等)行使を理由とする解雇(労基法7条)
  • ③ 業務上の負傷又は疾病にかかる療養のための休業期間中、又は産前産後休業期間中における解雇(労基法19条1項本文)
  • ④ 労基署をはじめとする監督機関に対し労基法違反を申告したことを理由とする解雇(労基法104条1項及び2項)
  • ⑤ 不当労働行為としての解雇(労組法7条)
  • ⑥ 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条柱書)

このような事由に基づき解雇する場合には、不当解雇として、解雇が無効になります。

どのような場合に正当な解雇と判断されるのか?

解雇の正当性を判断する基準とは?

正当な解雇と認められるためには、前述したように、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当と認められる必要があります。では、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当と認められる場合とはどのようなケースをいうのでしょうか。

以下のリンクページも知識を深めるためにぜひお役立てください。

整理解雇(リストラ)は正当な解雇となるか?

整理解雇に際し、どのようなときに客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当と認められるかについては、東洋酸素事件(東京高等裁判所 昭和54年10月29日判決)以降、以下に挙げる4つの要件が必要とされるようになってきました。

  • ① 人員削減の必要性があること
  • ② 使用者が解雇回避努力をしたこと
  • ③ 被解雇者の選定に合理性があること
  • ④ 解雇手続きが妥当であることというものです。

整理解雇については、以下のリンクページで詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

制裁としての懲戒解雇の場合は?

懲戒解雇は、普通解雇や整理解雇とは異なり、懲戒権の行使とみなされています。そのため、普通解雇や整理解雇の場合と有効要件が異なります。懲戒解雇が有効とみなされるためには、以下の3つの要件を充足する必要があります。

  • ① 就業規則に懲戒解雇についての定めがあること
  • ② 懲戒処分時に処分権者が認識している事情に基づき処分したものであること
  • ③ 懲戒権の行使につき、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当なものと認められること

以下のリンクページでは、懲戒解雇や論旨解雇について解説していますので、参考になさってください。

会社が不当解雇を行うとどうなるのか?

会社が労働者を不当解雇した場合、解雇は無効と判断されるため、会社と労働者との間の雇用契約は継続したままと認定されます。この場合、会社側としては、大きく分けて以下の2つが問題となります。

  • ① 労働者が労務提供できなかった期間に対応する賃金(バックペイ)の支払い
  • ② 労働者の職場復帰

もっとも、労働者の職場復帰に関しては、料理人が調理場を離れ続けると自らの腕前を落とすような場合など、業務の性質上、労務提供について特別の合理的利益が認められるような例外的な場合を除き、労働者側に就労請求権は原則としては認められていません(読売新聞社事件:東京高等裁判所 昭和33年8月2日判決、レストラン・スイス事件:名古屋地方裁判所 昭和45年9月7日決定)。そのため、会社側として大きく問題となるのは、バックペイの支払いとなります。

会社に対する罰則はあるか?

会社が一定の事由に該当する不当解雇を行った場合、罰則があります。その具体例として以下のものがあります。

  • ① 解雇予告・解雇手当を支払わない解雇(労基法20条)
  • ② 解雇禁止期間中の解雇(労基法19条)
  • ③ 労基署に対する労基法違反を申告したことを理由とする解雇(労基法104条2項)

これらの事由に該当する解雇を行った場合、使用者には、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される可能性があります。

損害賠償を請求される可能性について

不当解雇であると認められる場合には、労働者側から使用者側に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)として慰謝料請求がなされる可能性があります。こうした慰謝料請求は、バックペイの支払いによっても回復できない程度の精神的損害が発生していたと認められる場合に、バックペイの支払請求とは別個に請求されることが予期されます。

解雇が正当であると認められるためには

客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当といえれば、解雇が正当であると認められ得ます。そして、当該要件を充足するためには、主として以下の2点を経ることが必要となってきます。

  • ① 解雇事由を就業規則に定めておくこと
  • ② 解雇に向けて適正な手続き

解雇事由を就業規則に定める必要性

解雇事由は就業規則に記載することが義務付けられています(労基法89条3号)。そして、解雇の有効性を判断するうえでは客観的に合理的な理由が認められるかが争点になるところ、実際の訴訟において、客観的に合理的な理由の是非は、就業規則に規定された解雇事由に該当するかが中心になって判断されることになります。

また、就業規則に記載される解雇事由は限定列挙の意味合いを持つとされていることから、「その他前各号に準じる」などの包括規定を設けていなければ、解雇が制限されていくことにも繋がりかねません。このように解雇の有効性を労働者側から後日争われないようにするうえでも、就業規則に記載する解雇事由に関しては、入念に練られたものを取り入れる必要があるでしょう。

この点、以下のリンクページでも詳しく解説していますので、併せてご一読ください。

解雇予告・解雇予告手当などの適正な手続きを行う

仮に、解雇につき客観的に合理的な理由が認められたとしても、適正な手続きを経なければ、社会通念上相当とは見なされず、不当解雇と判断される危険性があります。具体的には、解雇をする場合、30日前までの解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があるところ、これらの手続きを経ないで解雇したときには、適正手続を欠き社会通念上相当性が認められないものとして、解雇の効力が否定される可能性があります。

また、同様に、適正な手続きを経たものと認定されるためには、使用者側が労働者側に対して改善の機会や弁明の機会を付与する必要があります。

解雇予告に関しては、以下のリンクページもぜひご参照ください。

解雇の正当性について争われた裁判例

解雇の正当性について争われた代表的な裁判例をご紹介します。

【東京地方裁判所 平成13年8月10日決定、エース損害保険事件】

事件の概要

保険会社の営業マンが、成績不良を理由に部署の配置換えを受けたところ、配置先の部署においても、十分な成績を上げることができなかったことを理由に解雇された事例です。

裁判所の判断

当該裁判例は、労働者を解雇するための配置換えという会社側の裏の目的がありました。また、労働者側も配置換え先の部署においても過度なパワハラによって追い詰められた結果、十分な能力を発揮できなかったとして、能力不足による解雇は形式的なものでしかないとしています。

また、当該裁判例は、労働者を能力不足で解雇するためには、それが単なる成績不良では足りないとし、会社から追い出さない限り、会社に著しい悪影響を与えるなどの事情が認められ、かつ、労働者に改善の機会を与えても、一向に改善の傾向が見受けられないときに限り、社会通念上相当と言えると判断しています。

ポイントと解説

当該裁判例は、能力不足という解雇事由に該当するか否かを形式面だけでなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じさせるおそれがあるかなど、客観的事情を組み込んだうえで実質的に判断しました。

また、社会通念上相当と言えるか否かを判断するうえでは、改善の機会を付与したか、配転や降格などをすることにより解雇を回避することができなかったのかという適正手続の面にも重きを置いている裁判例ということができるでしょう。

実際、能力不足を理由とする解雇が訴訟の場で有効と判断されることは相当稀です。

解雇の正当性で判断に迷ったら、企業法務の専門家である弁護士に相談してみましょう

労働者の権利意識が高まっている昨今においては、昔のように「明日からお前は来なくてもいい」という一方的な解雇は、労働者からの法的措置を招きかねず、時代に合わなくなりました。もっとも、いついかなる時代においても問題社員という存在はなくなりません。こうした問題社員の処遇に関して、お困りのようでしたら、気兼ねなく弁護士にご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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