育児休業取得を理由とした不利益な取扱い|賞与の不支給や昇給なしは違法?

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の中には、子供の出産を理由として育児休業を取得する方が多くおり、近年では、男性の育児休業の取得も珍しいものではなくなってきています。
そのような近年の状況の中、育児・介護休業法では、次のような規定が定められています。

「労働者が育児休業の申し出などをしたことを理由として、事業主は不利益な取扱いをしてはならない」

しかし、具体的にどのような行為が不利益な取扱いに該当するかについては、法律には規定がないため、行政通達や指針などを踏まえて判断する必要があります。
そこで、以下では、育児・介護休業法が定める「不利益取扱いの禁止」について解説していきます。

育児休業の取得を理由とした不利益な取扱いは禁止

育児・介護休業法10 条では次のとおり、育児休業の取得を理由とした不利益な取扱いを禁止しています。

事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

同条にいう「解雇その他不利益取扱い」については、法律において具体的な規定はありません。
しかし、厚生労働省の公表している指針において、「解雇その他不利益取扱い」とは、「労働者が育児休業等の申出等をしたこととの間に因果関係がある行為であること」とされており、具体例として、以下のようなものが挙げられています。

  • 解雇すること
  • 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
  • あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
  • 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
  • 就業環境を害すること
  • 自宅待機を命ずること
  • 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること
  • 降格させること
  • 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
  • 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
  • 不利益な配置の変更を行うこと
  • 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

育児休業取得を理由に賞与を不支給とするのは違法か?

育児休業を取得したことだけを理由に賞与を全額不支給とすることは、不利益取扱いにあたり原則違法となります。例えば、賞与の評価期間中に出勤実績があるにもかかわらず、その勤務分を無視して「育休を取ったから賞与ゼロ」とする対応は認められません。

賞与の決め方などについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

賞与の減額なら認められるのか?

賞与を減額できるかどうかは、計算にあたって実際の勤務実績が反映されているかがポイントになります。育児休業や短時間勤務によって働いていない時間分を、日割りで賞与の算定期間から除外することは、ノーワーク・ノーペイの原則に沿うため、不利益取扱いには当たらないと考えられます。

一方で、実際の休業日数や短縮勤務による不就労時間を超えて「働いていない」と扱い、必要以上に賞与を減額する対応は問題です。勤務実態を正しく反映していないため、不利益取扱いと評価される可能性が高いです。

賞与の減額の違法性について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

育児休業と賞与に関する裁判例

事件の概要

平13(受)1066号・平成15年12月 4日・最高裁判所・判決
Yの従業員であるXは、産後8週間休業した後に、引き続き子が1歳になるまでの間、1日につき1時間15分の勤務時間短縮措置を受けました。

ところが、出勤率が90%以上であることを必要とする旨を定めた就業規則所定の賞与支給要件(以下、「本件90%条項」といいます。)を満たさないとして、2回分の賞与(以下「本件各賞与」という。)が支給されませんでした。

そこでXはこのような取扱いの根拠となった就業規則の定めについて、以下のように主張して、Yに対し、本件各賞与並びに債務不履行による損害賠償として慰謝料及び弁護士費用の支払を請求するとともに、選択的に、不法行為による損害賠償として上記と同額の支払を請求した事案です。

  • 労働基準法65条、67条、育児・介護休業法10条の趣旨に反し、公序に反する
  • 就業規則を不利益に変更するものでXに対して効力を生じない

裁判所の判断

①本件90%条項は、賞与を計算する際に、産前産後休業や時短勤務によって働かなかった分を減額するだけにとどまらない。これらの休業期間を欠勤として扱い、その結果出勤率が90%を下回った場合には、賞与を全く支給しない仕組みになっている。

② Yにおいては、従業員の年間総収入額に占める賞与の比重は相当大きく、賞与が支給されない場合の経済的不利益は大きい。

③90%という出勤率の数値からみて、従業員が産前産後休業を取得すると、それだけで本件90%条項に該当し、賞与の支給を受けられなくなる可能性が高い。そのため、本件90%条項の制度のもとでは、従業員が勤務を続けながら出産したり、時短勤務を請求したりすることをためらう状況が生まれかねない。

最高裁は以上①~③により、次のように判示しました。

本件90%条項では、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入している。一方で、出勤した日数には産前産後休業の日数や時短勤務による短縮時間分を含めないとしている。このような仕組みは、産前産後休業や時短勤務といった権利の行使を抑制し、労働基準法などがこれらの権利を保障した趣旨を失わせるため、公序に反し無効である。

なお、差戻控訴審においては、以下のとおり判示して、結果として、賞与の支給計算基準の定めに従って、欠勤日数に相当する期間に応じて減額した賞与及び遅延損害金の支払いを認めました。

Yの給与規定(産前産後休業等の日数及び勤務時間短縮措置により短縮した時間を欠勤日数に加算することを定めた規定)に定められた、賞与の支給計算基準を適用するに当たっては、産前産後休業の日数と時短勤務による短縮時間分は、給与規定に従って欠勤として減額の対象となるというべきである。そして、本件の賞与の支給計算基準は、賞与の額を一定の範囲内でその欠勤日数に応じて減額するにとどまるものである。

さらに、産前産後休業を取得した労働者、または育児のために時短勤務を行った労働者は、法律上、これらの不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、Yの就業規則と育児休職規程においてもこれらの不就労期間は無給とされている。そのため、本件の賞与の支給計算基準が、産前産後休業や時短勤務といった権利の行使を抑制し、労働基準法などが権利を保障した趣旨を失わせるとまでは認められず、公序に反し無効と判断することはできない。

ポイント・解説

本件は、就業規則における、産前産後休業期間等を欠勤日数に含めて算定した出勤率が90%を下回る場合には、一切賞与が支給されないとの条項が問題となった事例です。

裁判所は賞与が全額支給されないことによる従業員の不利益は大きく、本条項の存在により育児休業の取得が抑止されてしまうと判断しました。そのため、本条項は育児・介護休業法10条の趣旨に反し、公序良俗に違反すると結論付けています。

一方、差戻し控訴審では、欠勤日数に相当する期間に応じて減額した賞与と遅延損害金の支払いを認めました。つまり、賞与の算定において実際の勤務日数を考慮し、休業や短縮された労働時間分を日割りで算定期間から除外する方法は、不利益取扱いには当たらないと判断されたと考えられます。

育児休業取得を理由に昇給しないことは違法か?

育児休業を取得したことのみを理由に昇給を見送ることは、不利益取扱いに当たり、原則として違法となります。企業側が許されるのは、あくまで実際の勤務期間中の業績や勤務態度などをもとに、公正な評価を行った結果として昇給しない場合に限られます。

定期昇給について詳しく知りたい方は、こちらのページをご覧ください。

育児休業と昇給に関する裁判例

事件の概要

平25(ネ)3095号・平成26年7月18日・大阪高等裁判所・判決
Y病院で働いていた看護師Xは、平成22年9月4日から12月3日まで育児休業を取得しました。

育休から復帰後、病院側は「3ヶ月以上の育児休業をした職員は、翌年度の職能給を昇給させない」という就業規則の定めがあるとして、Xの平成23年度の職能給をすえ置きとしました。

これに対しXは、こうした扱いは育児・介護休業法10条が禁止する不利益取扱いに当たり、公序良俗に反すると主張し、昇給していれば得られたはずの給与・賞与・退職金との差額と、慰謝料の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

大阪高裁は、以下のように判示しました。

①Yの不昇給規定は、3ヶ月以上育児休業を取得すると、残りの期間の勤務状況にかかわらず、翌年度の職能給を昇給させない内容となっている。一方、遅刻・早退や有給休暇、労災休業などは不就労期間に含まれておらず、育児休業だけが不利に扱われている。

②Yの不昇給規定の目的が、Y病院の主張するように「3ヶ月以上の不就労があると、昇給に必要な経験が不足する」ことにあるならば、育児休業であれ、他の理由であれ、状況は同じはずである。よって、育児休業だけ不利益に扱う正当な理由は認めがたい。

③Yの不昇給規定は、1年のうち3ヶ月の育児休業を取得しただけで、残り9ヶ月の勤務実績を評価せず昇給させないものであり、本来評価されるべき期間まで昇給審査から除外し、育児休業者に過度な不利益を与えている。育児休業のみを不利に扱う正当な理由もないことから、育児休業の取得を抑止する不利益取扱いに当たる。

ポイント・解説

本判決においては、以下①.②の点を考慮して、

前年度の育児休暇を理由に職能給の昇給を見送る規定は、
・育児休業を取得する者に無視できない経済的不利益を与えるものである
・育児休業の取得を抑制する働きをするものである

として、育児・介護休業法10条に禁止する不利益取扱いに当たると判示しています。

① 同じ不就労でも、遅刻、早退、年次有給休暇、労働災害による休業・通院等については昇給の審査の対象外とはされておらず、育児休暇取得による不就労だけを特別に不利益に取り扱っている点

② 1年のうち4分の1にすぎない3ヶ月の育児休業により、他の9ヶ月の就労状況いかんにかかわらず、職能給を昇給させないというものであり、休業期間を超える期間を職能給昇給の審査対象から除外し、休業期間中の不就労の限度を超えて育児休業者に不利益を課すものである点

育児休業の取得を「理由として」いるかの判断について

育児休業を取得したことを「理由として」いるかの判断について、厚生労働省の解釈通達において、育児休業の取得と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指すとされています。

  • 育児休業を取得したことを「契機として」不利益取扱いを行った場合
    原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解される
  • 妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合
    原則として、育児休業を取得したことを「契機として」いると判断されると考えられる

※育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について

例外的に不利益な取扱いが有効となるケース

育児休業を理由とした不利益取扱いは原則として違法となります。ただし、厚生労働省の解釈通達においては、以下の場合に、例外的に不利益取扱いが有効と判断されるとしています。

業務上の必要性がある場合

強い業務上の必要性があり、その必要性が労働者の不利益を上回る特別な事情がある場合は、不利益取扱いが例外的に認められると解されています。例えば、経営悪化による人件費調整が避けられない場合、労働者に能力不足や勤務態度の問題があり、育児休業とは別に人事措置が必要な場合などが該当します。

労働者が同意している場合

労働者が会社の人事措置に同意していて、しかもその措置によるメリットがデメリットより大きく、会社が内容や理由を十分に説明している場合は、不利益な取扱いが例外的に認められるとされています。

ただし、会社の圧力や説明不足があるなど、自由な意思での同意といえない場合は、その同意が無効と判断される可能性があります。

育児休業取得を理由に不利益な取扱いを行った場合の罰則

事業主が育児休業の取得を理由に不利益な扱いを行った場合、厚生労働大臣から報告を求められたり、助言・指導・勧告を受けたりする可能性があります(育児・介護休業法56条)。そして、この勧告に従わなければ、その事実と企業名が公表されるおそれがあります(同法56条の2)。

さらに、厚生労働大臣から報告を求められたにもかかわらず、事業主が報告をせず、または虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が科されるため注意が必要です(同法66条)。

企業名の公表は社会的信用の低下につながり、過料とあわせて大きなコンプライアンスリスクとなります。事業主は育児休業を取得する従業員に対して適切な取扱いを徹底しなければなりません。

育児休業を理由とする不利益取扱いに対する企業の取り組み

育休の取得を理由とする不利益取扱いを防ぐには、「育休は権利であり、不利益な扱いはしない」という方針を従業員に周知し、安心して育休を取得できる環境を整えることが不可欠です。企業が取り組むべき対策として、以下があげられます。

  • 就業規則の整備と周知
  • 管理職・従業員向けの育児休業制度研修
  • 復帰後のキャリア支援
  • 男性社員の育児休業取得の促進
  • 相談窓口の整備

特に就業規則の整備は重要です。育児休業制度の内容や不利益取扱いの禁止、違反した場合の懲戒規定などを明確に定めて従業員に周知することで、トラブル予防につながります。

育児休業を理由とする不利益取扱いの禁止に関する質問

育児休業の取得を「契機として」とはどのように判断されますか?

一般的には、育児休業の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、育児休業の取得を「契機として」いると判断されると考えられています。

ただし、人事異動や人事評価、雇止めなど、実施時期があらかじめ決まっている措置については例外があるため注意が必要です。こうした措置では、1年を過ぎていても、育休の終了後に初めて迎える実施のタイミングで不利益な扱いが行われた場合、育休の取得を契機とした判断と評価される可能性があります。

育児休業復職時に配置転換することは不利益な取扱いに該当しますか?

育休からの復職時に異動させても、直ちに違法となるわけではありません。

ただし、育休後は原則として、育休前の職務または同等の職務での復帰が求められます。異動によって賃金などの待遇が下がったり、キャリアに不利な部署へ配置されたりする場合は、不利益取扱いと評価される可能性があります。

部署閉鎖などやむを得ず異動を行う場合でも、労働条件が不利益とならないよう配慮しなければなりません。

男性社員の育児休業取得を理由にした不利益取扱いの例を教えてください。

男性社員が育児休業を取得することは、法律で認められた正当な権利です。しかし現実には、「男性が育休を取るのは珍しい」という偏見が残っており、育休を理由に不当な扱いを受けるケースも多いです。例えば、次のような対応は、不利益取扱いに当たる可能性があります。

  • 育休を申請した際に、男性が育休を取る必要はないと拒否される
  • 育休取得を理由に、給与・賞与を減らされたり、昇進候補から外されたりする
  • 復職後に本来の業務から外され、補助的な仕事に回される
  • 男性が家庭を優先するのは組織に向いていないなど、性別による偏見で評価を下げられる

育児休業を理由とした不利益取扱いとならないために、企業労務に強い弁護士がアドバイスいたします。

育児休業を理由とした不利益取扱いは、行政指導や企業名の公表につながり、企業の信用を大きく損なうおそれがあります。

近年は法改正も続いており、育児休業に関する判断には、最新の法令知識を踏まえた対応が欠かせません。適切な人事運用を行うためには、専門家によるサポートが有効です。

弁護士法人ALGには、企業側の労働法務に精通した弁護士が多く在籍し、育児休業制度に関する実務サポートを幅広く行っています。法改正に対応した就業規則の整備や社内運用の見直し、不利益取扱いに当たらない人事措置の判断など、企業の状況に合わせて的確にアドバイスすることが可能です。育児休業取得者への対応に不安がある場合には、ぜひ私たちにご相談ください。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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