内定取り消しを円満に行う方法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

新型コロナウイルス感染症の影響により、2021年の春に就職する予定だった高校生や大学生への採用内定取消が、2019年春卒業者の4倍近くであると報じられています。
内定取り消しは簡単に行えないため、内定者と対立すれば法的手段に訴えられるおそれがあり、裁判等に対応する負担が生じるおそれがあります。

さらに、内定取り消しが無効となれば金銭的な負担も大きくなります。会社側に正当性があったとしても、円満に交渉等を進めることが望ましいのは間違いありません。
ここでは、円満に内定取り消しを行う方法を説明します。

企業による内定取り消しは認められるのか

企業による内定取り消しは、基本的に有効となりません。なぜなら、内定取り消しは解雇に相当するからです。

一般的には、企業による募集とそれに対する応募、採用試験を経て、企業からの採用内定通知が出されて内定となります。内定を出すと「始期付解約権留保付労働契約」が成立します。

これは、入社するまでに留年したり、重大な傷病により仕事ができなくなったりしたときなど、留保された解約権の行使による以外は取り消すことができません。基本的に、内定を取り消すためには解雇と同様の要件が必要になるのです。

そのため、解雇の際に要求される、「合理的な理由があって社会通念上相当である」と認められなければ、一方的な内定取り消しは有効になりません。

なお、企業の採用内定について、基本的なことを知りたい方は以下の記事をご覧ください。

内定取り消しが認められる理由・要件とは

内定取り消しが有効とされるのは、通常の解雇と同様に、「客観的かつ合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が認められるときに限定されます。
具体的には以下のようなケースが該当します。いずれも採用内定当時に知る由もなく、また知ることが期待できないような事実があった場合です。

内定後に犯罪行為をした場合

犯罪行為については、内定取り消し事由に該当する場合が少なくありません。ただし、事案により結論が分かれると考えられます。

例えば、逮捕されただけでは冤罪かもしれないため、内定取り消しについては慎重に対応する必要があります。また、内定企業とは直接関係しないところで行われた犯罪については、必ず内定取消事由に該当するとまでは言えません。

しかし、内定を受けた企業とは関係のない状況での窃盗や痴漢等であっても、有罪判決を受けた場合や、起訴猶予になった場合等では、内定を取り消しとなる可能性は高いと考えられます。これは、犯罪の事実があったと考えられるため、社員としての適格性に疑問を抱かせる事情となるからです。

内定者の重大な経歴詐称が発覚した場合

経歴詐称が内定取り消し事由になるかは、事案により結論が分かれます。それは、会社にとって重大な経歴詐称であると言えるかによって判断されます。
会社にとって重大だと考えられる経歴詐称として、以下のようなものが挙げられます。

  • 高卒だが大卒だと偽っており、高卒だと知っていれば採用しなかったとき。
  • 仕事に必要不可欠な資格を有していると偽っており、実際には資格を有しておらず、近々取得できる見込みもないとき。
  • 前職で業務上横領を行い懲戒解雇された事実を隠して、金融業等の内定を得たとき。

一方で、会社にとって重大ではないと考えられる経歴詐称もあります。例えば、交通事故に遭ってしまい、前職を短期間で退職したことを隠していたものの、現在は回復しており他の支障もないケース等です。

内定者が大学などを卒業できなかった場合

新卒採用の内定において、事前に予定していたタイミングで卒業することは前提条件とされており、大学等を卒業できなければ内定取り消しは正当とされます。ただし、内定を取り消すためには、募集・採用条件として「四年生大学卒」等の条件を明記しておく必要があると考えられます。

内定者の健康状態が悪化した場合

内定者が重大な怪我や病気によって働けなくなったときには、内定取り消し事由になります。ただし、内定者が事前に病気等について申告しており会社側が了承していた場合や、仕事に影響のない怪我や病気であった場合には、内定を取り消すことはできません。

企業の業績が悪化した場合

企業の業績が悪化したとしても、内定取り消しは基本的に認められません。もしも内定取り消しを行いたいのであれば、「整理解雇の4要件」と呼ばれる要件を満たす必要があります。

「整理解雇の4要件」とは、以下の4つです。

  • ①経営が危機的である等、人員を削減する必要性がある
  • ②役員報酬の削減や希望退職者の募集等、解雇を回避するための努力を尽くした
  • ③被解雇者の選定について合理性がある
  • ④解雇の対象者や労働組合と上記①~③、解雇の規模、方法等について納得を得るために説明を行い、誠意をもって協議する等、手続きが妥当である

不当な内定取り消しを行った場合の企業リスク

不当な内定取り消しをすると、訴訟等により取り消しを無効とされるリスクや、損害賠償請求をされるリスク、企業名の公表によるイメージダウンのリスク等が生じてしまいます。

不当とされるリスクが高い内定取り消しの理由として、以下が挙げられます。

  • 妊娠していることが明らかになった
  • アルバイトでホステスをしていたことがある
  • 特定の宗教に入信している
  • 社風に合わない、陰気に見える
  • 仕事には影響しない持病がある
  • 魅力的な求職者の応募があり、そちらを採用したい

また、真実でないにもかかわらず、前職における勤務状況や退職の経緯等について「悪い噂」があるために内定を取り消した事案(東京地方裁判所 平成16年6月23日判決、オプトエレクトロニクス事件)では、内定取り消しは無効とされています。

内定取り消しで企業名が公表されるケース

高校や大学の新卒者の内定取り消しを防止するために、厚生労働省は、新規学卒者の内定取り消しについてハローワークへの報告を義務付けており、「悪質なケース」だと考えられるものについては、内定取り消しを行った企業名を公表すること等を定めています。

「悪質なケース」だと考えられる内定取り消しとは、具体的に以下に挙げるようなものです。

  • ①2年連続で内定取り消しを行った
  • ②事業活動の縮小を余儀なくなったことが明らかに認めれない
  • ③内定取り消しの対象となった内定者に、取り消した理由について十分な説明を行わなかった
  • ④内定取り消しの対象となった内定者について、就職先確保に向けた支援を行わなかった
  • ⑤同一年度内に10名以上の内定を取り消した(但し、④を行った場合を除く)

採用における内定に関して、基礎的なことから知りたい方は、以下のページをご参照ください。

内定取り消しを円満に行う方法

内定を受けた求職者は、入社できることを期待して、求職の活動をやめているケースが多いです。そのため、内定取り消しは、なるべく円満に行うのが望ましいでしょう。

内定取消を円満に行うには、具体的にどのような点に配慮すればいいのでしょうか。以下で、内定取り消しにおいて企業側が留意すべき点を解説します。

取り消し事由をあらかじめ明示しておく

円満に内定取り消しを行うためには、内定取り消しがあること及び内定取り消しの対象行為について、内定段階で、内定通知書と誓約書に明記しておくことが肝要です。

また、内定取り消しをせざるを得ない事態となるリスクに常に備え、内定取り消しを行うときには、なるべく早い時点で通知する必要があります。

内定通知書や誓約書の内容、説明資料及び説明会の開催、内定取り消しの対象者への説得方法等についてわからなければ、弁護士に相談することをお勧めします。

内定取り消しの通知は早めに行う

内定取り消しの通知が早ければ、求職者は早期に求職活動を再開できるので、内定取り消しの通知はなるべく早く行うことで、紛争化することを回避すべきです。

さらに、解雇の通知を30日前までに行う必要があることから、内定取り消し通知も解雇の通知の場合と同様に、入社予定日の30日前までにしなければなりません。

内定取り消しの通知が遅いほど、内定取り消しの無効を争われるリスクも高くなると考えられます。もしも通知が遅くなっても、なるべく金銭的な補償を行ったり、新たな職を探すための支援を行ったりすることで、内定を取り消された者の不安や負担を軽減するようにしましょう。

書面のみではなく直接説明する

内定取り消しは、書面で通知するだけでなく、担当者が直接会って説明するのが望ましいです。なぜなら、書面による通知だけでは誠意を感じることができず、SNSで悪評を広められてしまうリスク等が生じるからです。

同様の理由で、電話やメールだけで通知するのも避けたほうが賢明です。内定取り消しがやむを得ない事情を、証拠となる資料等も添えて丁寧に説明するべきでしょう。

金銭補償等を提示する

内定取り消しを円満に解決するために、内定者が被る不利益や、精神的苦痛への配慮として、金銭補償を検討する必要があります。

特に、入社が近い時点で内定取り消しを行うと、新たな就職先を見つけるのに時間がかかると考えられます。そのため、経済的な負担も大きくなりかねず、補償額を増やすことも検討するべきでしょう。

内定取り消しの補償金の具体的な金額は、数十万円程度であることが多いと考えられます。なお、リーマンショックの影響で内定取り消しを行った企業が、迷惑料として100万円を支払ったケースもあります。

トラブル防止のため合意書を作成する

内定取り消しを通知して、対象者から同意を得ることができたときには、必ず合意書を作成する必要があります。なぜなら、口頭のやり取りだけでは、後で蒸し返されて紛争になるリスクがあるからです。

なお、SNS等で内定取り消しについて広められてしまうと、内定取り消しの対象者に落ち度があったとしても、世間から、いわゆるブラック企業だと認識されてしまうおそれがあります。そのため、合意書には会社への誹謗中傷を禁止する規定を定めておくと良いでしょう。

新型コロナによる内定取り消しと企業に求められる対応

いかに新型コロナウイルス感染症の影響が世界規模であっても、経営の悪化による内定取り消しは容易には認められず、通常の整理解雇と同様の要件を満たさなければ行うことができません。そのため、あらゆる手段を尽くさなければ、内定取り消しは無効とされるおそれがあります。

そこで、感染症の影響によって内定取り消しを検討している企業は、まずは「雇用調整助成金」等を活用して採用を維持できないかを検討する必要があります。「雇用調整助成金」は、特例として受け取りやすくなったため、積極的に利用するべきでしょう。

内定取り消しについて争われた裁判例

ここで、内定取消について争われた裁判例を紹介します。

【東京地方裁判所 平成9年10月31日決定、インフォミックス(採用内定取消)事件】

事件の概要

大手外資系企業である甲に10年間勤務していたXが、Yからヘッドハンティングされて採用内定に至り、甲に退職届を出してYへの入社準備をしていたところ、Yが経営危機に陥り、XとY間の話合いも不調に終わったため、YがXに対して内定取り消しをしたことにつき、Xが内定取り消しの無効を主張して、地位の保全及び賃金仮払いの仮処分を申し立てた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、企業が経営の悪化等を理由に採用内定を取り消す場合には、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきであると指摘しました。

そして、以下の「整理解雇の4要件」を判断基準として採用しています。

  • ①人員削減の必要性
  • ②人員削減の手段として整理解雇することの必要性
  • ③被解雇者選定の合理性
  • ④手続きの妥当性

整理解雇と同様の基準を採用するのは、採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれていることを理由としています。

ポイント・解説

当該事案では、上記の「整理解雇の4要件」のうち、①②③は満たされていると判断されましたが、「④手続きの妥当性」に問題があるとされました。

原告Xは、10年間勤めた甲を退職したにもかかわらず、被告Yは、経営悪化を理由として入社予定日の2週間前に採用内定を取り消しており、信義則に反していると裁判所は認めました。さらに、Xの納得が得られるように十分な説明を行う信義則上の義務があると指摘しました。

そして、Yは必ずしも債権者の納得を得られるような十分な説明をしたとはいえず、債務者の対応は誠実性に欠けていたといわざるを得ないと認定し、内定取り消しは無効であると認定しました。

内定を取り消したいけどトラブルにならないか不安……まずは弁護士にご相談ください

内定取り消しは、その手段を間違えれば企業イメージに大きな打撃を受けるだけでなく、内定取り消しが認められるかどうかは事案によって異なります。そのため、このケースであれば認められるだろうと主観的に判断することは非常に危険です。

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、内定取り消しを行う必要性に迫られている方もいらっしゃることでしょう。そのような苦しい状況であっても、相手方に納得してもらい、なるべく円満に解決するのが望ましいと言えます。

弁護士法人ALGには、企業法務に長けた弁護士が多数在籍しています。内定取り消しをお考えの際には、トラブルを回避するためにも、ぜひ前もって弊所弁護士にご相談ください。

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執筆弁護士

所長 弁護士 川村 励
弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス所長 弁護士川村 励

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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