円満に内定取消を行う方法

本原稿の執筆時点(2020年9月)において、2020年春卒業の大学生や高校生への採用内定取消が、2019年春卒業者の約5倍であると報じられています。
新型コロナウイルス感染症の影響が大きいものと考えられますが、そのほかの理由による内定取消も、円満に行うに越したことはありません。

ここでは、円満に内定取消ないし内定辞退の交渉を行う方法を説明します。

内定者の問題行為を理由に内定を取り消せるのか?

一般的には、企業による募集、これに対する応募、採用試験を経て、企業からの採用内定通知が出され、内定となります。
この内定の法的性質は、始期付解約権留保付労働契約の成立とされています。

内定取消が認められるかは、採用内定通知書や採用内定者が提出する誓約書に記載された取消事由につき、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています(最高裁判所 昭和55年5月30日判決)。

なお、労働契約、解雇権濫用法理に関しては、以下のそれぞれのページで解説していますので、ぜひご参照ください。

内定者側の事由により内定取消が認められるケース

内定取消に関しては、企業側でなく、内定者側の事由により認められるケースもあります。
どのような場合に内定者側の事由によるものとして内定取消が認められるのか、あるいは認められないのか、以下で裁判例を挙げて解説します。

犯罪行為をした場合

犯罪行為のような、内定企業とは直接関係しないところで行われた非行行為については、内定者に対して就業規則の適用はないことから、懲戒処分ということはあり得ませんが、非行行為を行ったという事情が適格性に疑問を抱かせる事情となり得ることも否定できません。

結局は、それが適格性を疑わせる事情として十分かどうかを事案ごとに判断するほかなく、私的領域で行われた犯罪行為であるとの一事をもって内定取消事由にあたらないということにはならないと考えられます。

重大な経歴詐称が発覚した場合

経歴詐称についても、事案により結論が分かれます。

在日朝鮮人であることを隠していたとしてなされた内定取消については無効とされましたが(横浜地方裁判所 昭和49年6月19日判決 日立製作所事件)、無届けデモに参加して起訴猶予処分を受けた事実を隠していたことを理由とする内定取消については有効とされた裁判例があります(最高裁判所 昭和55年5月30日第二小法廷判決 電電公社近畿電通局事件)。

“悪い噂”で取消は認められるのか

真実でないにもかかわらず、前職における勤務状況や退職の経緯などに関する“悪い噂”に基づき内定を取り消した事案(東京地方裁判所 平成16年6月23日判決 オプトエレクトロニクス事件)では、内定取消は無効とされています。

円満な内定取消とリスク回避の重要性

内定取消は、企業にとって非常にリスクのある行為です。一定の条件を充たせば、企業名の公表などが行われてしまい、イメージダウンは避けられません。
 やむを得ず内定取消を行う場合は、企業にダメージのないよう、細心の注意を払って行わなければなりません。

内定取消で企業名が公表されるケース

高校・大学新卒者の内定取消防止に向けて、厚生労働省は職業安定法施行規則において、実際に起こった事案をハローワークで一元的に把握すること、企業への指導、内定取消をした企業名の公表などを定めています。

ただし、企業名の公表は、2年度以上連続して内定取消がなされた場合、同一年度内に10名以上の内定取消がなされた場合などに限るとしています。

内定取消を円満に行う方法

では、内定取消を円満に行うには、具体的にどのような点に配慮すればいいのでしょうか。
以下で、内定取消において企業側が留意すべき点を解説します。

内定取消の事由をあらかじめ明示しておく

まず、内定取り消しがあること及び内定取消の対象行為について、内定段階で、内定通知書と制約書に明記しておくことが肝要です。
また、内定取消せざるを得ない事態となるリスク対応に常に備え、内定取消の説明資料の作成や説明会、説得等に向けた機動的な態勢整備も必要です。

内定取消の通知は早めに行う

内定を出し、誓約書を提出させることで、当該内定者は他社就労の機会を放棄することになります。
内定取消の通知が早ければ早いほど、当該内定者は再度の就職活動を早期に始めることができ、就職先がなくなるというリスクを回避できる可能性が高くなるわけですから、内定取消することを決定したら、すぐに通知を行うべきです。
通知が遅いほど、取消の無効を争われるリスクも高くなると考えられます。

内定者と直接話し合う

内定取消が有効か否かの判断には予測可能性が担保できませんので(裁判官によって判断が異なりうるため)、実務的には、退職勧奨と同様、内定者の意思による内定辞退に向けた条件交渉を行うべきケースが多いと考えられます。

条件交渉の一環として、解決金(支度金)等の金銭補償を提示することも有用ですし、交渉の経緯を記録しておくとともに、内定辞退が成立した場合には、その旨の書類(合意書)を作成しておくことが後のトラブル防止にもつながります。

内定取消について争われた裁判例

ここで、内定取消について争われた裁判例を紹介します。

事件の概要

大手外資系コンピュータ会社甲に10年間勤務していたXが、Yからヘッドハンティングされて採用内定に至り、甲に退職届を出してYへの入社準備をしていたところ、Yが経営危機に陥り、XとY間の話合いも不調に終わり、YがXに対して内定取消をしたことにつき、Xが内定取消の無効を主張して、地位の保全及び賃金仮払いの仮処分を申し立てた事案です。

裁判所の判断(東京地方裁判所 平成9年10月31日決定 インフォミックス事件)

始期付解約権留保付労働契約における留保解約権の行使(内定取消)に関しては、過去に、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認するものに限られると解するのが相当であるという判決がなされています(最高裁判所 昭和54年7月20日第二小法廷判決)。

そして、上記の判決を踏まえ、この裁判では、以下のような判決がなされました。

採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。
引用元:東京地方裁判所 平成9年(ヨ)第21114号 地位保全等仮処分申立事件 平成9年10月31日

ポイント・解説

期間の定めのない雇用をされている労働者、いわゆる“正社員”に対する整理解雇については、①人員削減を行う経営上の必要性、②十分な解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④被解雇者や労働組合との十分な協議という4つの要素を総合考慮して判断されることになりますが(東京高等裁判所 昭和54年10月29日判決など)、内定取消についても、整理解雇の4要素により有効性が判断されるとしています。

なお、上記事案においては、内定者に対する辞退勧告がなされたのが入社予定日の2週間前であり、しかも、Xが勤めていた甲に退職届を提出した後であったことから、Yの対応に誠実を欠くところがあったとして、内定取消が無効とされています。

内定取消を円満に行うには会社側の配慮が必要です。労使トラブル防止のためにも、まずは弁護士にご相談下さい

内定取消は、その手段を間違えれば企業イメージに大きな打撃を受けるだけでなく、内定取消が認められるかどうかは事案によって異なるため、このケースであれば認められるだろうと主観的に判断することは非常に危険です。

弁護士法人ALGには企業法務に長けた弁護士が多数在籍しております。内定取消をお考えの際には、トラブルを回避するためにも、ぜひ前もって弊所弁護士にご相談ください。

執筆弁護士

弁護士 奈良 亜希乃
弁護士法人ALG&Associates 弁護士奈良 亜希乃

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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