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監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
会社を経営している中で、経営不振等によって従業員の人件費を十分に支払えないとき、やむを得ず従業員に退職してもらうことや、場合によっては解雇することを考えなければならない場面があります。
もっとも、従業員に退職するようにお願いしたり、解雇する等して従業員に会社を辞めてもらうとしても、やり方を間違えると従業員から損害賠償を請求される等、会社の負担を軽減させるはずが、結果として負担が増してしまうことがあります。
以下では、会社の人員を整理する方法について解説する他、その注意点について解説していきます。
目次
- 1 人員整理の方法
- 2 行き過ぎた退職勧奨は違法とみなされる
- 3 大人数の退職勧奨で気をつけるべきポイント
- 4 退職勧奨に応じてくれない場合の対処法は?
- 5 整理解雇が認められるための4要件
- 6 退職勧奨や整理解雇に関するお悩みは、労働分野に強い弁護士法人ALGにご相談下さい。
- 7 よくある質問
- 7.1 退職勧奨と希望退職の違いは何ですか?
- 7.2 大人数の退職勧奨を行う場合は説明会を開くべきでしょうか?
- 7.3 退職勧奨で提示する優遇措置にはどのようなものがありますか?
- 7.4 退職勧奨を行う際に再雇用を約束してもよいですか?
- 7.5 退職勧奨に合意できた場合、退職合意書には何を記載すべきでしょうか?
- 7.6 退職勧奨により合意書を交わした場合でも、合意退職の効力が否定されることはありますか?
- 7.7 退職勧奨は自己都合退職と会社都合退職のどちらとして扱われますか?
- 7.8 整理解雇の4要件のうち「人員選定の合理性」とはどのような基準であればよいのでしょうか?
- 7.9 大人数の整理解雇では、「人員削減の必要性」はどの程度求められますか?
- 7.10 整理解雇をする際、解雇予告・解雇予告手当の支払いは必要ですか?
人員整理の方法
会社が経営不振等によって人員整理をする必要に迫られたとき、人員整理をする方法としては、①退職勧奨②整理解雇③希望退職者制度の3つが主に挙げられます。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が特定の従業員に対して、会社を辞めてもらうように依頼することを指します。退職勧奨においては、会社が退職勧奨を行う従業員を選別し、当該従業員との間で退職に関する話し合いの場を持つこととなります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
整理解雇とは
整理解雇とは、会社が経営不振等を原因として、経営上の必要性から人員削減を行うためになされる解雇を指します。いわゆる「リストラ」と呼ばれるものです。
退職勧奨と整理解雇の違い
退職勧奨と整理解雇は、特定の従業員を選定して、会社を辞めてもらうという点において共通する人員整理の方法ですが、次のように異なる点もあります。
・退職勧奨
会社が従業員に対して会社を退職するように依頼し、お互いの合意で従業員に退職してもらうという特徴がある
・整理解雇
退職勧奨と異なり、会社が従業員に対して一方的に解雇を言い渡すもので、従業員との合意がなくとも会社を辞めさせることができるという特徴がある
詳しくは以下のページをご覧ください。
その他の人員整理の方法
人員整理のために用いられる他の方法としては、希望退職者制度が挙げられます。
この制度は、特定の社員に限らず、会社全体又は特定の部署等から広く退職希望者を募り、退職に応じてくれた従業員に対して、退職金の積み増し等の優遇措置をとるというものです。
希望退職者制度は、特定の社員を対象としないという点で退職勧奨と異なりますが、会社と従業員の合意をもって従業員を退職させるという点では退職勧奨と共通します。
詳しくは以下のページをご覧ください。
行き過ぎた退職勧奨は違法とみなされる
会社が人員整理をする方法は複数ありますが、退職勧奨はやり方を間違えると、違法なものとして扱われ、従業員から損害賠償を請求されることがあります。そのため、退職勧奨を行う場合には、退職勧奨の方法や態様について注意する必要があります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
退職勧奨が違法と判断された裁判例
それでは、退職勧奨が違法なものと判断され、会社が従業員に対して損害賠償を行うこととなった事例を以下でご紹介いたします。
【事件の概要】
航空会社の客室乗務員であった従業員が、退職勧奨の末に解雇された事案です。
業務中の事故により4年間の休業・休職を行った従業員が、復職後、会社の規定する復職者試験に複数回不合格となったことから就業規則における解雇事由である「労働能力の著しく低下したとき」に該当することを理由に解雇されました。
この事案においては、復職後、従業員の上司にあたる者たちで約4ヶ月間、三十数回にわたって「面談」といった名目で退職勧奨がなされ、その中には8時間もの長時間にわたるものがありました。面談の際には、「CAとしての能力がない」、「別の道があるだろう」、「寄生虫」、「他のCAの迷惑」等といった言葉がかけられ、大声を出したり、机を叩く等の行為がなされました。また、従業員が断っているにもかかわらず、従業員の居住する寮にまで赴いたり、従業員の家族に直接会って、従業員が退職するように説得してくれるよう求める等の行為を行いました。
そこで、従業員は、会社に対し、解雇及び退職強要が違法であったとして、不法行為に基づく損害賠償請求を行いました(なお、従業員は他にも従業員としての地位の確認及び未払賃金の請求も行っています。)。
【裁判所の判断(平成11年10月18日 大阪地方裁判所 平8(ワ)9953号)】
これは、全日本空輸事件といわれる事件です。本事件において、裁判所は、本件で解雇事由の該当性が認められない旨の判断を示すと同時に、退職勧奨に関して、以下のように判示し、精神的損害に対する慰謝料として50万円が認定されました。
「被告会社の対応をみるに、その頻度、各面談の長さ、原告に対する言動は、社会通念上許容しうる範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない」
【ポイント・解説】
本事件のポイントは、退職勧奨は労働者の任意の意思を尊重して行われるものであることを前提として、退職を説得する際の手段や方法に過度に行き過ぎた点がある場合には、不法行為が成立し、会社が従業員に対して損害賠償責任を負うことを示した点にあります。
退職勧奨を行うにあたっては、暴力的又は威圧的な言動を避けることはもちろんのこと、面談の頻度、各面談の長さ、回数等の面においても労働者側の自由な意思が損なわれたと疑われるような方法をとることは避けるべきと言えるでしょう。
大人数の退職勧奨で気をつけるべきポイント
通常、退職勧奨は少数かつ特定の社員を対象として行われるものですが、会社の経営状態等の都合によっては、大人数を対象として退職勧奨を行うこともあります。大人数を対象として退職勧奨を行う場合には、以下の点について留意することが必要です。会社の経営状態を十分に説明したか?
退職勧奨を行う際に、会社の経営状態が悪化しており、このままの人員体制のままでは会社が倒産する等の事態が避けられない等の事情を真摯に説明することが重要です。
退職勧奨は労働者の自由な意思によって成り立つものであるところ、その前提として退職を判断するための情報を開示することが求められます。仮に、会社が経営状態の情報について隠すような態度で勧奨に臨めば、労働者側からは退職勧奨に応じない姿勢を示されてしまう可能性もあります。
検討する時間をどの程度与えたか?
退職勧奨を行うにしても、退職を促された従業員の立場からすれば、突然の話であり、拙速に決断を迫ると、労働者の自由な意思が損なわれたとして、退職強要にあたるリスクも否定できません。
会社としては、経営状態の改善を図るために退職をお願いすることになるため、退職勧奨の適法性を担保するっという観点からすると、従業員に対して、十分な熟慮期間を設けることが肝要であると言えるでしょう。
金銭的な優遇措置を提示したか?
金銭的な優遇措置を提示することも重要です。例えば、退職勧奨に応じてくれた場合には、通常の退職金よりも少し上積みした金額を支払うことを約束する等、退職の要請に応じてくれるだけのメリットを提示すると、退職勧奨が成立する可能性が高くなるでしょう。
退職勧奨に応じてくれない場合の対処法は?
従業員側が退職勧奨に応じない場合には、やむなく解雇を検討することもあり得るでしょう。
なお、解雇にはいくつかの種類がありますが、経営不振が原因で退職勧奨を行っていた場合には、整理解雇を検討することが一般的です。
詳しくは以下のページをご覧ください。
整理解雇が認められるための4要件
整理解雇が認められるには、①解雇を行う経営上の必要性があること②解雇の必要性・相当性③解雇対象者の選定基準と適用の合理性と客観性④説明・協議と理由の告知が必要と言われています。
①は、会社が倒産寸前である状態までは必要ではなく、会社が合理的に経営を続ける上で一定程度の必要性があると認められるレベルのものがあれば足りるとされています。
②は、会社が解雇を避けるための努力を尽くしたかという点が考慮されます。例えば、他の部署への異動や希望退職者を募集する等の次善策をとったかという点があると、②を充たしていると判断される可能性が高まります。
③は、例えば遅刻や欠勤が多い等の勤務態度不良な社員を優先して解雇対象とするといった基準の妥当性が求められます。④は、解雇に向けて、会社が説明会を開催する等して労働者の理解を求める機会をしっかりと持ったといえるか等が考慮されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
整理解雇が無効と判断された裁判例
会社の経営状態等を原因として行われることもある整理解雇ですが、退職勧奨と同様に方法を間違えると解雇が無効とされることがあります。以下では、整理解雇が無効と判断された事例をご紹介します。
【事件の概要】
当初、派遣労働者として会社に派遣されて勤務していた労働者が、その後直接派遣先の会社にパートタイマーとして雇用され、後に無期雇用の下でのパートタイマー労働者となり、15年間勤続していたところ、会社が業績不振や業務量の減少を理由に解雇しました。
これに対し、労働者側が解雇の無効を訴えた事件です。会社側は、経営上リストラの必要性があり、当該労働者が余剰の人員にあたり、解雇することは適法であると主張しました。
【裁判所の判断(平成12年12月 1日 大阪地方裁判所 平12(ワ)5267号)】
これは、ワキタ事件と呼ばれる事件です。本事件において、裁判所は、会社側の主張するリストラを行う必要性自体があったことは認めながらも、労働者側の主張を認め、解雇は無効であると判断しました。
裁判所は、労働者が長期間会社に勤めていたことに鑑みて、今後も会社に勤め続けることができる高度な期待が生じている上、他の部署に配転することができた可能性もあったと指摘しました。
また、当該労働者の賃金は一般の正社員と比較して高額ではなく、当該労働者を解雇したとしても出費を大きく削減できたと言い難いとも指摘しました。他方で、会社は解雇を避ける観点から、配置転換の指示や退職勧奨等の次善策も実施していない点も問題視されました。
結果として、裁判所は、会社が解雇回避のための努力を尽くしていないとして、解雇は無効であると判断しました。
【ポイント・解説】
本事件のポイントは、整理解雇の4要件の枠組みの中で、整理解雇を行う必要性については認めたものの、解雇回避のための努力を十分に尽くしたとは言えないとして、解雇を無効と判断した点にあります。
すなわち、整理解雇する必要性自体が認められたとしても、解雇はあくまで最終手段であり、解雇を避ける努力を尽くしてから解雇を検討するという道筋をたどらなかった場合には、解雇が無効になるリスクがあることを示したものと言えます。
退職勧奨や整理解雇に関するお悩みは、労働分野に強い弁護士法人ALGにご相談下さい。
退職勧奨や整理解雇は、方法を間違えてしまうと、会社の負担を軽減するはずが、却って負担が増してしまう結果になる可能性があります。後々手続きに問題があったと指摘されるリスクを低減させたい場合は、是非労働分野に強い弁護士法人ALGまでご相談ください。
よくある質問
退職勧奨と希望退職の違いは何ですか?
-
2つは会社と従業員の間における合意をもって、従業員が会社を退職する点で共通しますが、前者は特定の社員を対象として退職の話し合いをする一方で、後者は特定の社員に限らず、会社全体又は特定の部署から広く退職希望者を募るという点で違いがあります。
大人数の退職勧奨を行う場合は説明会を開くべきでしょうか?
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退職勧奨においては、労働者の自由な意思を担保することが重要なポイントです。
そこで、大人数の退職勧奨を行う場合には、説明会を開催し、労働者が退職勧奨に応じるか否かの判断材料を提供する場としての機会を設けることが肝要です。
退職勧奨で提示する優遇措置にはどのようなものがありますか?
-
退職勧奨で提示する優遇措置としては、退職に際しての退職金の積み増しや有給休暇の買取りに加え、再就職の支援等が挙げられます。
退職勧奨を行う際に再雇用を約束してもよいですか?
-
退職勧奨時に再雇用を約束することは避けた方が良いです。というのも、退職勧奨の際に再雇用を約束したものの、実際に再雇用が果たされなかった場合、虚偽の意向をもって退職勧奨が行われたとして、違法な退職勧奨と判断されるおそれがあります。
退職勧奨に合意できた場合、退職合意書には何を記載すべきでしょうか?
-
退職勧奨において、従業員との間で合意が成立した場合、退職合意書には以下のような記載事項が考えられます。
- ① 会社が従業員に支払うべき金銭がある場合にはその額
- ② 会社が合意書の締結をもって従業員に支払う金額以上の支払い義務が一切ないことの確認
- ③ 口外禁止条項 等
その他にも、協業避止義務、貸与物の返還、会社の情報に関しての秘密保持義務などの条項が設定されることもあります。
退職勧奨により合意書を交わした場合でも、合意退職の効力が否定されることはありますか?
-
退職勧奨により合意書を交わしたとしても、労働者の自由な意思に基づかずに作成されたものであると認められた場合には、合意退職の効力が否定されることとなります。
強引な退職勧奨が行われた場合には、そのようなリスクが高まるでしょう。
退職勧奨は自己都合退職と会社都合退職のどちらとして扱われますか?
-
退職勧奨による退職の場合には、離職票に記載する退職事由は、原則、会社都合となります。
なお、会社都合による退職者が出た場合には、助成金や補助金の受給において不利益が生じる可能性があるため注意しましょう。詳しくは以下のページをご覧ください。
整理解雇の4要件のうち「人員選定の合理性」とはどのような基準であればよいのでしょうか?
-
例えば勤務成績、労働者の生活の影響の程度等が、合理的な基準として挙げられますが、個々の事案により基準の合理性も変わってきます。
他方で、国籍や性別、妊娠・出産等の違法な差別にあたるような基準等で、人員選定することは許されません。詳しくは以下のページをご覧ください。
大人数の整理解雇では、「人員削減の必要性」はどの程度求められますか?
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整理解雇をする場合、人員削減をしなければ会社が存続するか否かの危機にあるといった状況までは必要とされません。基本的には、人員削減の必要性について、裁判所も会社側の経営判断を尊重する傾向があります。
もっとも、整理解雇の人数が相当数に及ぶ場合には、会社としては、そのような人数を整理解雇する必要があることを主張立証する必要があります。そのため、必要以上の人員を整理解雇の対象としていないかについては慎重に検討する必要があります。
整理解雇をする際、解雇予告・解雇予告手当の支払いは必要ですか?
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整理解雇の場合であっても、通常の解雇と同様に30日以上前の解雇予告、30日前までに解雇予告ができない場合は不足する日数に相当する解雇予告手当の支払いが必要となります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士髙木 勝瑛(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある