内部通報制度を作るときに押さえておくべきポイント

弁護士が解説する【内部通報制度を作るときに押さえておくべきポイント】について

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監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

昨今、企業のコンプライアンスが叫ばれる中、企業の大小を問わず、経営上のリスクを可能な限り早く把握する必要性が高まってきています。
そのため、大企業においては、従業員から情報を取得する“内部通報制度”が設置されるケースが増えてきていますが、中小規模の企業においては、まだまだ普及していないというのが実情のようです。

消費者庁の調査(平成28年度)によると、中小企業における内部通報制度が普及していない理由は、「どのような制度なのか分からない」「導入の方法が分からない」といった理由が多数となっているようです。
そこで、本稿では、内部通報制度の基本的な内容を確認し、内部通報制度を作るときに押さえるべきポイントをご紹介していきます。

内部通報制度とは

内部通報制度の意義と導入する目的

消費者庁によると、内部通報制度とその目的とは以下のとおりです。

<内部通報制度>
「企業内部の問題を知る従業員から、経営上のリスクに係る情報を可及的早期に入手し、情報提供者の保護を徹底しつつ、未然・早期に問題把握と是正を図る仕組み」

<目的>
「自浄作用の発揮とコンプライアンス経営を推進し、安全・安心な製品・役務の提供と企業価値の維持・向上を図ること」

引用元:消費者庁「内部通報制度の実効性向上の必要性」(令和元年10月11日)

なお、より詳しい解説については、以下のそれぞれのページも併せてご覧ください。

内部通報制度のメリット・デメリット

内部通報制度は、現場の従業員からの情報提供をさせる仕組みを構築することで、導入前には把握できなかった経営上のリスクを早期に発見できるようになる点からして、うまく運用できれば、導入のメリットは大きいものと考えられます。

しかしながら、運用がうまくいかないと、制度設置の人的コストや経済的コストがかかってしまうことはもちろん、会社に対する不信を招いたりする危険性もあります。

具体的にいえば、従業員が意を決して通報をしたにもかかわらず、窓口担当者が誠実な対応をしなかったり、通報をしたことに対して不利益な取り扱いをしてしまったりすると、制度の存在そのものが、かえって従業員からの情報提供を妨げる原因となってしまいかねません。

改正公益通報者保護法による整備の義務化

令和2年の公益通報者保護法の改正(令和2年6月12日公布)において、事業者に対し、内部通報に適切な対応をするために必要な体制の整備が義務付けられるようになりました(300人以下の事業者については努力義務)。

具体的には、「公益通報対応業務従事者」を定める義務(改正後の法11条第1項)及び内部の労働者等からの「公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置」をとる義務(改正後の法11 条第2項)が課されるようになります。

かかる法改正の施行日は、公布の日から2年以内となっているため、対象の事業者は、準備を急ぐ必要があります。

より詳しい解説は、以下のページに譲ります。

内部通報制度を作るときに押さえておくべきポイント

内部通報窓口の整備

内部通報制度に欠かせない要素としては、まず、内部通報窓口を整備することです。

また、窓口を設置するだけでは足りず、従業員に対し、その設置の事実に加え、通報の受付方法について、十分かつ継続的に周知することが必要とされています。

なお、300人を超える企業にあっては、上記窓口の設置は、「公益通報対応業務従事者」を定めることとなり、かかる「公益通報対応業務従事者」は、後述のように、重い守秘義務(改正後の法12 条)を負うことになりますので、明確な説明が必要となる点に注意が必要です(企業としては、誓約書等の取り付けをしておくべきでしょう。)。

秘密保持の徹底

通報は、従業員の身近な問題を告発するものであることから、その事実が職場内に漏れてしまうと、通報した従業員にとって、重大な不利益を生じさせるおそれがあります。

そのため、内部通報制度においては、以下の対応が極めて重要になります。

  • ①情報共有が許される範囲を必要最小限に限定すること
  • ②通報者の情報を、情報共有が許される範囲外に開示する際には、通報者の明示の同意を要すること
  • ③通報者を探索することを禁止すること
  • ④①~③のルールを周知徹底すること

経営陣と通報窓口の独立

内部通報は、ともすると、一部の経営陣にとって不都合な事実が明らかになる場合も想定されます。

そのため、通報窓口は、特定の経営幹部の影響下におかれないよう、社外取締役や監査役を経由するような通報ルートを用意しておく等、経営陣からの独立性を意識しておくべきと考えられます。

公正な検討・調査

窓口が通報を受け付けた場合、調査が必要かどうかについて、公正かつ誠実に検討する必要があります。

その実効性を確保するため、通報を受けた窓口から通報者に対して、検討の内容や今後の対応について、明示的に報告するようルールを徹底しておくべきです。

不利益な取り扱いの禁止

内部通報をすると職場で不利益な扱いをされるおそれがあるような状況では、従業員が自発的に内部通報を行うことが期待できません。

そこで、内部通報制度では、内部通報をした従業員に対して、以下のような不利益取り扱いを禁止すべきです。

  • 解雇や労働契約の更新拒否等、従業員たる地位そのものに関して、不利益な取り扱いをすること
  • 降格や不利益な配転・出向等人事上の不利益な取り扱いをすること
  • 減給や退職金等の一時金の減額といった経済待遇上の不利益な取り扱いをすること
  • 事実上の嫌がらせ等、精神上生活上不利益な取り扱いをすること

なお、公益通報者保護法の要件を満たす通報に関して、上記のような不利益取り扱いをしてしまった場合には、内部規程に禁止規定がなかったとしても、その不利益取り扱いが、同法により禁じられるものであることに注意が必要です。

以下のページでより理解を深めておくと良いでしょう。

社内リニエンシーの整備

社内リニエンシー制度とは、法令や社内規程に違反してしまった従業員等が、自主的に内部通報した場合に、当該従業員の社内での責任を減免する制度をいいます。

そもそも、職場内で行われる不正行為は、不正行為の関与者しか知り得ない密室で行われるケースが多く、問題の早期発見自体が難しいものです。

そこで、関与者による自主的な通報が望ましいところ、それを促すための制度として、社内リニエンシー制度の活用が考えられます。

社内リニエンシー制度の運用にあたっては、自主的な内部通報ができる時期や、内部通報のタイミングに応じた優遇措置の内容を明確に定めておく必要があります。

通報窓口は社内のみに設置しておけば良いのか?

社内窓口と社外窓口を併用すべき理由とは

内部通報窓口は、社内の誰かにとって都合の悪い情報を通報する点、社内での対応が難しいケースも散見されます。

また、社内での対応そのものが客観的には難しくなくとも、通報者との関係において、担当者が必要な対応をしたかどうかについて説明をするのは、意外と難しいものです。

特に、通報の事実が具体的に確認できなかったりし、“通報者にとって”満足のいく回答ができないような場合には、社内の窓口であるということが不要なバイアスを生んでしまい、通報者との信頼関係の構築が難しくなってしまう可能性があります。

そのような場合も想定すると、通報窓口は、社内の窓口だけでなく、社内の人間関係から独立した社外の窓口の設置も検討しておくべきでしょう。

顧問弁護士に委託する場合の注意点

なお、企業によっては、顧問弁護士がいるから、そちらに外部の通報窓口が委託できると思われがちですが、想定される通報の内容によっては、顧問弁護士に通報窓口を委託することにはリスクがある点にも注意が必要です。

というのも、通報の内容が、通報者と企業との間で紛争が生じるようなもので、企業としては、当該通報者との間で交渉をしたいと考えた場合(例えば、上司のパワハラを通報されたが、どちらかというと通報者に問題がある場合等)に、かかる通報を顧問弁護士が受けてしまっていると、顧問弁護士は、通報者から通報の内容を「相談」されてしまっていると評価しうることから、ケースによっては、顧問弁護士が、企業の代理人として当該通報者との交渉を行えない場合も想定されるからです。

もちろん、あらゆるケースが、通報者との間で利益相反になるものではないと考えられますが、ケースによっては、会社の内情を知る顧問弁護士を使えないリスクを負ってまで、顧問弁護士に通報窓口を委託しておくべきかどうかは、よくよく検討しておくべきでしょう。

内部通報制度の認証制度について

内部通報制度認証とは、2018年からはじまった内部通報制度にかかる認証制度をいい、「WCMS認証」(WCMS:Whistleblowing Compliance Management System)と呼ばれています。

この認証制度は、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(平成 28 年 12 月9日消費者庁)を踏まえ、内部通報制度を適切に整備・運用しているかどうかが審査されるものであり、認証を取得することができれば、質の高い内部通報制度を整備・運用しているとして、企業ブランドの向上が期待されるものです。

内部通報制度の実効性を向上させるためには

内部通報制度を設置しても、実効性のある運用ができなければ、絵に描いた餅となってしまいます。

しかしながら、実効性のある運用といっても、その内情は企業ごとに違うため、その内情に即した運用方法を模索していくほかありません。

そして、企業の内情に即した運用方法を確立していくためには、やはり、制度の継続的な見直しが必要なものです。

制度の見直しに際しては、内部通報制度の整備・運用の状況や実績を、客観的な事実に即して把握しつつ、上記ガイドラインに即した運用ができているかを検討していきましょう。

また、内部通報制度は、従業員からの通報がない場合には、その運用実績が把握しづらい特性があるため、組織のコンプライアンスの状況に関する匿名のアンケートを、すべての従業員向けに定期的に行っておくことは、効果的なものと考えられます。

公益通報者保護法違反に対する罰則

まず、内部通報制度の整備・運用をすべきである企業に対して、内閣総理大臣は、その実施の状況等について報告を求めることができ、企業がその報告をしない場合や、虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が科される可能性があります(改正後の法22条)。

また、「公益通報対応業務従事者」又は「公益通報対応業務従事者であった者」が、正当な理由なく、その業務上知り得た事項であって、公益通報者保護法上の公益通報者を特定させる情報を漏洩させてしまった場合には、30万円以下の罰金を科される可能性があります(改正後の法21条)。

内部通報制度に関する裁判例

ここで、内部通報制度に関する裁判例として、【東京地方裁判所 平成28年10月7日判決】を紹介します。

事件の概要

内部告発をした従業員を探す目的で、行われたアンケート調査について、それを拒否した従業員に対し、その回答拒否を理由の一つとして、当該従業員に対する普通解雇が行われた事案があります。

通報の内容としては、当該従業員が企業から業務委託先での業務を指示されていたところ、かかる業務命令は偽装請負(労働者派遣法違反)を命じるものではないかと考え、東京労働局にその旨の申告をしたものでした。

かかる裁判においては、内部告発の犯人捜しのアンケートの回答拒否を理由に行われた、普通解雇が有効かどうかが争われました。

裁判所の判断

裁判所は、労働者派遣法の規定に触れつつ、通報した従業員には、偽装請負申告(内部通報)を理由とする不利益取り扱いから保護される法律上の利益があると判示しました。

この種の申告者が申告を理由とする不利益な取扱いから実効的に保護されるためには,申告者の秘密や個人情報も保護されることが重要で(「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」「国の行政機関の通報処理ガイドライン(外部の労働者からの通報)」参照),みだりに申告者の意思に反して申告者を特定しようとする「犯人捜し」の行為は相当でない
引用元:東京地方裁判所 平成27年(ワ)第1761号 地位確認等請求事件 平成28年10月7日

上記のとおり判示し、その「犯人捜し」であるアンケート調査に答えなかったことは、普通解雇の理由としては不適切なものであると断じました。

もっとも、当該従業員については、その他の事情から普通解雇自体は有効と判断され、従業員への解雇は認められる形で判決は下りました。

ポイントと解説

本判決は、ガイドラインについても明確に触れながら、内部通報制度の趣旨に反する取り扱いを主たる理由とする解雇は、違法となることが示されている点がポイントです。

内部通報は、企業にとって不都合な内容が明らかにされてしまう場合があるため、難しい対応を迫られる可能性があるものですが、内部通報があったことを契機として、通報者を解雇に持ち込むことは当該解雇が無効と判断される高い法的リスクを負うものと考えられます。

内部通報制度の体制を整えるには専門家のサポートが必要です。制度に関するお悩みは弁護士にお任せください

内部通報制度の体制整備については、社会のコンプライアンスに対する関心が高まるにつれ、よりニーズが高まってくる分野になっています。

また、内部通報制度に関する法規制については、具体的な罰則も想定される厳しいものに変遷してきており、今後の対応は、専門家のサポートを受けることが推奨されるものでしょう。

弁護士法人ALGでは、お気軽にご相談いただける体制を整えていますので、ぜひ一度お問い合わせください。

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執筆弁護士

シニアアソシエイト 弁護士 大平 健城
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所シニアアソシエイト 弁護士大平 健城(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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