弁護士が解説する【内部通報制度を作るときに押さえておくべきポイント】について
YouTubeで再生する監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
コンプライアンス意識が高まる昨今、内部通報によって企業の不正を早期に発見することはとても有効です。また、2022年には「公益通報者保護法」が改正され、内部通報制度の強化が図られるなど、内部通報の重要性も高まっています。
本コラムでは、内部通報制度において企業に求められる対応、適切な措置を怠った場合のリスク、法改正のポイントなどを詳しく解説していきます。
目次
内部通報制度とは
内部通報制度とは、企業内の不正リスクを早期に発見するため、社内で不正行為に関する通報や相談を受け付け、調査・是正する制度です。適切に運用することで、企業には以下のようなメリットがあります。
- 社内不正・不祥事の抑止や被害拡大の防止ができる
- 行政機関や報道機関に通報されるのを防止できる
- コンプライアンス意識が高い企業として、取引先や顧客から高評価を得られる
企業の不正発覚のきっかけは「内部通報」が最も多くなっています。そのため、不正リスクを防ぐには有効な制度といえます。
【改正】公益通報者保護法による整備の義務化
2022年6月1日には、改正公益通報者保護法が施行されました。これにより、内部通報制度の実効性がさらに高まると期待されています。法改正の主なポイントは、以下の6つです。
- ①事業者の体制整備の義務化
- ②公益通報対応業務従事者の守秘義務
- ③行政機関等への通報の要件緩和
- ④保護される公益通報者の範囲の拡大
- ⑤保護される通報対象事実の範囲の拡大
- ⑥公益通報者としての保護内容の拡大
なお、大企業ではこれらすべてを実施する義務がありますが、従業員数300人以下の企業については一部が“努力義務”となっています。
改正点の詳しい内容は、以下のページをご覧ください。
内部通報制度を整備していないとどうなる?
内部通報制度に関して、以下のような罰則が設けられています。
- 内部通報制度の整備を怠った場合
消費者庁による行政措置(報告徴収、助言、指導、勧告)の対象となり、企業名が公表されるおそれがあります。 - 報告徴収に応じない、または虚偽の報告をした場合
20万円以下の過料を科される可能性があります。 - 公益通報対応業務従事者(従事者)が通報者に関する情報を外部に漏らした場合
守秘義務違反として30万円以下の罰金(刑事罰)を科されることがあります。
企業は通報体制を整備するだけでなく、従事者に向け守秘義務に関する教育や研修を実施することも重要です。
内部通報制度を作るときに押さえておくべき7つのポイント
内部通報制度を整備する場合、企業は以下の7つのポイントを押さえておきましょう。
- ①内部規程をつくる
- ②内部通報窓口の整備
- ③秘密保持の徹底
- ④経営陣と通報窓口の独立
- ⑤公正な検討・調査
- ⑥不利益な取り扱いの禁止
- ⑦社外窓口を設置する
各ポイントについて、次項から詳しく解説していきます。
①内部規定をつくる
制度を導入する前に、内部通報に関する社内規定を作成します。規定では、通報窓口の担当部署や担当者、窓口の利用方法、通報後の対応などの制度設計をわかりやすく記載することが重要です。
また、通報しても降格や解雇といった不利益な取り扱いを受けない旨も明記しておくと、労働者が安心して通報できるでしょう。
ただし、制度設計は自社の状況を踏まえて行う必要があるため、高度な専門知識が求められます。労務問題に詳しい弁護士のサポートを受けるのが得策でしょう。
②内部通報窓口の整備
内部通報制度に欠かせない要素として、内部通報窓口を整備することが挙げられます。
また、窓口を設置するだけでなく、労働者に「設置の事実」や「通報の受付方法」などを十分かつ継続的に周知することも重要です。
なお、従業員数が300人を超える企業では、窓口の設置にあわせて「公益通報対応業務従事者」を定めることが義務付けられています。
また、公益通報対応業務従事者は、通報者に関する情報について重い守秘義務(改正後の法12 条)を負うことになるため、明確な説明が必要となります。例えば、誓約書等の取り付けをしておくと安心でしょう。
③秘密保持の徹底
通報は、労働者の身近な問題を告発するものであることから、その事実が職場内に漏れてしまうと、通報した労働者に重大な不利益をもたらすおそれがあります。
そのため、内部通報制度では以下のような“秘密保持”が極めて重要になります。
- ①情報共有が許される範囲を必要最小限に限定すること
- ②通報者の情報を、情報共有が許される範囲外に開示する際には、通報者の明示の同意を要すること
- ③通報者を探索することを禁止すること
- ④①~③のルールを周知徹底すること
④経営陣と通報窓口の独立
内部通報の内容は、一部の経営陣にとって不都合となる可能性もあります。
そのため、通報窓口は、特定の経営幹部の影響下におかれないよう、社外取締役や監査役を経由するような通報ルートを用意しておく等、経営陣からの独立性を意識しておくべきと考えられます。
⑤公正な検討・調査
窓口が通報を受け付けた場合、調査が必要かどうかについて、公正かつ誠実に検討する必要があります。
その実効性を確保するため、通報を受けた窓口から通報者に対して、検討の内容や今後の対応について、明示的に報告するようルールを徹底しておくべきです。
⑥不利益な取り扱いの禁止
内部通報をしたことで何らかの不利益を受けるような状況では、労働者が通報をためらうことが想定されます。
そこで、内部通報をした労働者については、以下のような不利益取り扱いを禁止すべきです。
- 解雇や労働契約の更新拒否等、従業員たる地位そのものに関して、不利益な取り扱いをすること
- 降格や不利益な配転・出向等人事上の不利益な取り扱いをすること
- 減給や退職金等の一時金の減額といった経済待遇上の不利益な取り扱いをすること
- 事実上の嫌がらせ等、精神上生活上不利益な取り扱いをすること
なお、不利益取扱いを禁止する社内規定がなくても、内部通報に対して上記のような不利益取扱いを行うことは“違法”になるため、注意が必要です。
不利益取扱いの禁止については、以下のページでさらに詳しく解説しています。
⑦社外窓口を設置する
通報窓口は、社内だけでなく社外にも設置するのが望ましいといえます。
社内窓口の場合、人事部や総務部が窓口となるのが一般的ですが、労働者の中には社内の人間に通報することをためらう人も多いでしょう。そのような状況では、内部通報制度が十分に機能しているとはいえません。
社外窓口を設置することで、労働者はより安心して不正を通報できるようになります。通報の件数が増え、企業の不正リスクを早期に発見できる可能性も高まります。
社外窓口としては、顧問弁護士や法律事務所、民間の受託機関などが挙げられます。特に弁護士であれば、法的知識を活かし不正に対して適切に対応することができるでしょう。
顧問弁護士に委託する場合の注意点
通報窓口を顧問弁護士に委託する場合、以下のようなリスクもあるため注意が必要です。
・労働者が通報をためらう
「顧問弁護士=企業の味方」というイメージが強いため、「通報しても意味がない」と考える労働者もいます。また、通報したことがバレるのではないか、何らかの不利益を受けるのではないか、などと不安を抱え、通報を控える人もいるでしょう。
・利益相反が生じる
顧問弁護士は本来企業の味方ですが、通報を受けた以上、労働者(通報者)のサポートに徹するべきとも考えられます。そのため、仮に通報がきっかけで労働紛争が発生した場合、顧問弁護士が企業の代理人として交渉にあたれない可能性が出てきます。
これらのリスクから、通報窓口を顧問弁護士に任せるかどうかは慎重に検討する必要があります。
内部通報制度の認証制度について
内部通報制度認証とは、内部通報制度を適切に整備・運用していると評価された企業に与えられる認証のことです。企業のインセンティブ向上を目的に、2018年より実施されていました。
しかし、改正法において従業員300人を超える企業で内部通報制度の整備が義務化されたことに伴い、本認証制度は当面休止されています。
今後は、法改正の状況や事業主の意見などを踏まえ、新たな認証制度が導入される可能性もあるとされています。
内部通報制度に関する裁判例
内部通報制度に関する裁判例として、【平27(ワ)1761号 東京地方裁判所 平成28年10月7日判決】を紹介します。
事件の概要
内部告発をした労働者を探す目的で行われたアンケート調査について、それを拒否した労働者に対し、その回答拒否を理由の一つとして、当該労働者に対する普通解雇が行われた事案があります。
通報の内容としては、当該労働者が企業から業務委託先での業務を指示されていたところ、かかる業務命令は偽装請負(労働者派遣法違反)を命じるものではないかと考え、東京労働局にその旨の申告をしたものでした。
かかる裁判においては、内部告発の犯人捜しのアンケートの回答拒否を理由に行われた普通解雇は有効かどうかが争われました。
裁判所の判断
裁判所は、労働者派遣法の規定に触れつつ、通報した労働者には、偽装請負申告(内部通報)を理由とする不利益取扱いから保護される法律上の利益があると判示しました。
この種の申告者が申告を理由とする不利益な取り扱いから実効的に保護されるためには、申告者の秘密や個人情報も保護されることが重要で(「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」「国の行政機関の通報処理ガイドライン(外部の労働者からの通報)」参照)、みだりに申告者の意思に反して申告者を特定しようとする「犯人捜し」の行為は相当でない
引用元:東京地方裁判所 平成27年(ワ)第1761号 地位確認等請求事件 平成28年10月7日
上記のとおり判示し、その「犯人捜し」であるアンケート調査に答えなかったことは、普通解雇の理由としては不適切なものであると断じました。
もっとも、当該労働者については、その他の事情から普通解雇自体は有効と判断され、労働者への解雇は認められる形で判決は下りました。
ポイントと解説
本判決は、ガイドラインについても明確に触れながら、内部通報制度の趣旨に反する取扱いを主たる理由とする解雇は、違法となることが示されている点がポイントです。
内部通報は、企業にとって不都合な内容が明らかにされてしまう場合があるため、難しい対応を迫られる可能性があるものですが、内部通報があったことを契機として、通報者を解雇に持ち込むことは当該解雇が無効と判断される高い法的リスクを負うものと考えられます。
内部通報制度を作る際は労働問題に強い弁護士法人ALGまでご相談ください
内部通報制度の体制整備については、社会のコンプライアンスに対する関心が高まるにつれ、よりニーズが高まってくる分野になっています。
また、内部通報制度に関する法規制については、具体的な罰則も想定される厳しいものに変遷してきており、今後の対応は、専門家のサポートを受けることが推奨されるものでしょう。
弁護士法人ALGでは、お気軽にご相談いただける体制を整えていますので、ぜひ一度お問い合わせください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
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