パートにもボーナスが必要?賞与なしの違法性や企業の注意点を解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

パート・アルバイトにも賞与(ボーナス)を支給する企業がある一方で、「パートに賞与を支給する義務はあるのか」「正社員との違いはどこまで認められるのか」と悩む企業は少なくありません。近年は同一労働同一賃金の考え方が浸透し、賞与を含む待遇差の合理性が重要視されています。

この記事では、パートへの賞与支給に関する法的な考え方や裁判例、企業が注意すべきポイントを解説します。

パートにボーナス(賞与)を支給する義務はある?

原則として、従業員が賞与を請求することができる権利は、就業規則の定めや個別の雇用契約等によって発生します。したがって、これらの定めがない場合にただちに賞与の支給義務が生じるわけではありません。

しかし、法的には「同一労働同一賃金」の原則に基づき、正社員(通常の労働者)との間で不合理な待遇差を設けることが禁止されています (短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」といいます。)8条、9条)。

詳しくは、以下のページをご覧ください。

同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート・有期雇用労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す制度です。

主に、職務内容等の違いに応じた範囲内での待遇を求める「均衡待遇」(パート有期法8条)と、職務内容等が同一の場合に差別的な取扱いを禁止する「均等待遇」(パート有期法9条)の二つの柱から成ります。

詳しくは、以下の記事もあわせてご覧ください。

正社員との不合理な待遇差はトラブルにつながる可能性がある

パート有期法8条により、正社員との間で不合理な待遇格差を設けることは禁止されています。格差が不合理と判断される場合、行政による履行確保措置や行政ADRの対象となるほか、民事上も不法行為として認定され、賠償リスクを負う可能性があります。

パートへのボーナスなしが違法になるケース

有期雇用・パートだから、という形式的な理由だけで賞与を一切支給しないことは認められません。いわゆる同一労働同一賃金ガイドラインでは、業績への貢献に応じた賞与について、同一の貢献には同一の、相違がある場合にはその相違に応じた支給が求められます。

特に、正社員に対して職務内容や業績に関わらず全員に一律に賞与を支給しているにもかかわらず、パート等にのみ全く支給しない場合は不合理と判断されるリスクが高まります。

有期雇用労働者の賞与に関する裁判例

事件の概要(令元(受)第1055号・第1056号 令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷)

本件(大阪医科薬科大学事件)は、大学を運営する学校法人との間で有期労働契約を締結し、フルタイムのアルバイト職員として教室事務に従事していた労働者が、正職員には支給されていた賞与や私傷病による欠勤中の賃金等が自身には支給されなかったことについて、正職員との待遇差は当時の労働契約法20条に違反すると主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

第一審は賞与の不支給を不合理とは認めませんでしたが、控訴審は、正職員の賞与の支給基準の60%を下回る部分について不合理な待遇差に当たると判断しました。これに対し、最高裁は、賞与の性質・目的に加え、正職員とアルバイト職員の職務内容、責任の程度、配置変更の範囲その他の事情を踏まえ、賞与を支給しないことが不合理といえるかを判断しました。

裁判所の判断

最高裁は、アルバイト職員に対する賞与不支給について不合理とはいえないと判断しました。その主な理由として、賞与には「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」という人事施策上の目的があることをあげました。

その上で、正職員は高度な業務や責任を担い人事異動の可能性もあったのに対し、アルバイトは軽易で定型的な業務に従事し配置転換も原則ないという職務内容および配置変更の範囲の相違を考慮しました。また、正職員への登用制度の存在も、不合理性を否定する事情の一つとして挙げられています。

ポイント・解説

この裁判では、賞与の性質が労務対価の後払い、功労報償、意欲向上、人材確保といった多様な趣旨を含み得ることが強調されました。ただし、本件では比較対象のアルバイト職員にも一定の流動性があったことや、他の有期労働者には支給されていた等の個別事情も影響しています。賞与を全く支給しないことが常に適法とされるわけではない点に注意が必要です。

パートにボーナスを支給する場合に企業が注意すべきポイント

①支給対象者を明確にする

どのような属性の労働者に賞与を支給するのか、適用範囲を明確にする必要があります。

パート有期法に基づき、正社員との間で「不合理な待遇差」を設けることは禁止されています(均衡待遇)。特に、職務内容が同一で、将来にわたる配置の変更範囲も同一と見込まれるパート労働者に対しては、正社員との差別的取扱いが禁止されるため(均等待遇)、賞与の支給対象から一律に除外することはできません。

単に「パート・有期雇用だから」という属性のみを理由に不支給とすることは、法的に認められない可能性があります。

②支給基準・計算方法・タイミングなどを決定する

いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」では、会社の業績への貢献に応じて支給する賞与について、正社員と同一の貢献をしたパート労働者には同一の支給を、貢献に一定の相違がある場合でもその相違に応じた支給を行うよう求めています。支給基準を定める際は、貢献度等を適切に評価する仕組みが必要です。

③就業規則や賃金規程へ規定・周知する

権利義務関係を明確にするため、具体的な算定方法や支給日を就業規則等に規定し、周知する必要があります。
パート労働者専用の規則を作成せず、賞与支給を定めた正社員用規則のみが存在する場合、正社員の規定がパート労働者に準用され、予期せぬ未払賞与の支払い義務を負うリスクがあります。

④正社員との待遇差を説明できるようにする

パート有期法14条2項に基づき、パート労働者から正社員との待遇差の内容や理由について説明を求められた場合、事業主はそれらを説明する義務があります。説明に際しては、単に「正社員だから」という理由ではなく、職務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲などの具体的な違いに基づいた説明が求められます。

よくある質問

正社員とフルタイムパートで賞与額に差を設けてもよいですか?

職務内容、配置の変更の範囲、その他の事情に基づき、不合理な相違でなければ差を設けることは可能です(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」といいます。)8条)。

パートのボーナスを寸志にすれば問題ありませんか?

寸志も、実質的な取り扱いに応じて賃金や賞与と同じ性質のものと扱われます。そのため、名称を変えること自体に大きな意義はなく、正社員の賞与等との間で不合理な待遇の相違があると判断されれば違法となるリスクがあります。

アルバイトにもボーナスを支給する必要がありますか?

法律上、一律に支給を義務付ける規定はありません。ただし、職務内容や人材活用の仕組みが正社員と同一の場合は、原則として同一の支給が求められます(パート有期法9条)。

扶養内のパートへボーナスを支給する際の注意点を教えてください。

賞与の支給によって年間の合計収入が増加し、所得税の非課税枠や社会保険の扶養範囲といった、いわゆる「壁」を超えてしまう可能性がある点に注意が必要です。

パートのボーナスを一律支給しない運用は違法ですか?

法律上、一律に支給を義務付ける規定はありませんので、就業規則等に別途の定めがなければ、一律不支給も適法となり得ます。ただし、職務内容や人材活用の仕組みが正社員と同一の場合は、原則として同一の支給が求められます(パート有期法9条)。

パートのボーナス支給を廃止することはできますか?

就業規則等に支給要件が明記されている場合や、慣習的に長年ボーナスを支給していた場合には、一方的な廃止は制限されます。不支給とするには就業規則の整備や適切な変更手続きが必要です。

パートのボーナスに所得税や社会保険料はかかりますか?

原則として、賞与は法的には賃金としての性質を持つため、パートのボーナスであっても、所得税や社会保険料はかかります。

パートの賞与制度に関するお悩みは弁護士へご相談ください

パートへの賞与の支給義務は一律ではありませんが、正社員との待遇差に合理的な理由がなければ、同一労働同一賃金の観点から問題となる可能性があります。そのため、賞与制度を設計する際は、支給対象や基準を明確にし、待遇差を説明できる体制を整えることが重要です。

制度設計や運用に不安がある場合は、労務問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

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執筆弁護士

弁護士 久保田 惇
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士久保田 惇(東京弁護士会)
弁護士 合田 千真
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士合田 千真(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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