健康情報(要配慮個人情報)の保護

企業は、健康診断の結果や、従業員の健康確保措置の活動を通じて、従業員の心身の状態に関する情報を保有することになります。
本ページでは、企業が従業員の健康情報を取り扱うにあたって注意すべき点などについて解説します。

企業における健康情報(要配慮個人情報)の取り扱い

企業は、安全配慮義務や職場環境配慮義務の一環として、従業員の健康を保持することを求められています。そして、企業が従業員の健康を管理するうえで、健康情報を取り扱うことは避けて通れません。

個人情報保護法改正による要配慮個人情報の新設(2017年)

2017年に行われた個人情報保護法改正により、個人情報の中に新たに「要配慮個人情報」というカテゴリーが設けられ、特別な取扱いをすることと定められました。

要配慮個人情報とは

要配慮個人情報とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよう、その取扱いに特に配慮を要する個人情報を指します。

健康情報の定義とその取扱いについて

健康情報とは、労働安全法等に基づき実施する健康診断の結果や、従業員の健康確保措置のための活動を通じて得られる、従業員の心身の状態に関する情報のうち、「要配慮個人情報」に該当するものをいいます。

企業は従業員の健康情報を保護する義務がある

労働安全衛生法104条1項は、企業が従業員の健康情報を収集・保管・使用するに当たっては、従業員の健康の確保に必要な範囲内で収集し、当該収集の目的の範囲内で保管・使用しなければならないと規定しています。また、同条2項は、企業は、従業員の健康情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならないと規定しています。

このように、法は、企業に対し、従業員の健康情報について適正な取扱いを行うことを求めています。

健康情報取扱規程策定の義務化

企業は、医師による面接指導や健康診断の結果などから必要な健康情報を取得し、従業員の健康と安全を確保することが求められています。しかしながら、健康情報の管理・取扱い方法については法的な定めがありませんでした。そこで、健康情報取扱規程の策定が義務化されました。

取扱規程の策定方法

健康情報等に関する取扱規程は、労使の協議により策定することが求められます。

  • 常時使用する従業員が50人以上の事業場においては、原案を作成のうえ、事業場ごとに設置が義務づけられている衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」といいます)において審議することが求められます。
  • 常時使用する従業員が50人未満の事業場においては、衛生委員会等の設置義務はありませんが、安全衛生の委員会、従業員の常会、職場懇談会等の「関係従業員の意見を聴くための機会」を設け、取扱規程について従業員の意見を聴取したうえで、策定することが求められます。

取扱規程に定めるべき内容

取扱規程には、指針に基づき、原則として次の(1)~(9)に掲げる各項目について定めることが必要です。

  • (1)健康情報等を取り扱う目的及び取扱方法
  • (2)健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲
  • (3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得
  • (4)健康情報等の適正管理の方法
  • (5)健康情報等の開示、訂正等の方法
  • (6)健康情報等の第三者提供の方法
  • (7)事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
  • (8)健康情報等の取扱いに関する苦情処理
  • (9)取扱規程の従業員への周知の方法

本人の同意取得に関する注意点

要配慮個人情報は、あらかじめ本人の同意を得ずに取得することはできません。また、オプトアウト(個人情報を第三者提供することについて何らかの形で通知しておき、本人が明確な反対をしない限りオプトアウトとされます)による第三者提供も禁止されています。

すなわち、要配慮個人情報は、取得についても第三者提供についても、あらかじめ本人の同意が必要とされています(ただし、「法令に基づく場合」や「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」などの例外的な場合には、本人の同意は不要とされています)。

健康情報を取り扱う者に対する教育の必要性

企業は、健康情報を取り扱う従業員に対して、情報の取扱方法や権限の範囲など、取扱規程に定めた内容について周知させなければなりません。そのため、企業は、健康情報を取り扱う従業員に対して教育研究を実施するなどの対応が求められます。

健康情報の取り扱いに関する裁判例

ここで、企業が把握した従業員の健康情報について、その開示漏洩が問題となった裁判例を紹介します。

事件の概要

Xは、ソフトウエア業務等を営むA社に雇用され、同ソフトウエアの販売等を営むB社に派遣された従業員であるところ、派遣先の健康診断でHIVに感染していることが判明し、B社がA社に対して感染の事実を連絡しました。
Xは、B社の当該連絡行為が違法であるとして慰謝料の支払いを求めました。

裁判所の判断

<東京地方裁判所 平成7年3月30日判決>

裁判所は、HIV感染者に対する社会的偏見と差別の存在を考慮すると、極めて秘密性の高い情報に属し、何人もみだりに第三者に漏洩することは許されないと判断しました。

ポイントと解説

健康情報は、社会的な偏見や差別につながるものもあり、特別な配慮が必要となります。特にHIVについては「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」も制定されているところであり、従業員が誤解や偏見により職場において不当な扱いを受けることがないようにしなければなりません。

健康情報(要配慮個人情報)の適正な取り扱いについて、専門知識を有する弁護士がアドバイスさせていただきます

健康情報の取扱いを誤ると、上述のように裁判にもつながるおそれがあります。また、2020年6月5日にも「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が成立したように、法改正も度々行われています。法律を遵守して従業員の健康情報に対する適正な取扱いができるよう、ぜひ弁護士ALGにご相談ください。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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