監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労災や過労死が発生した場合、企業には重い責任が生じ得ます。また、迅速かつ適正な対応をとらなければ、従業員の不安や社会からの不信が募る等、様々な影響が懸念されます。
そこで、今回は、労災や過労死が発生した場合に、企業が取るべき対応等について解説していきます。
目次
労災・過労死が起きた場合に企業が取るべき対応とは
社内において、万が一、労災や過労死が発生してしまった場合、企業としてはどのような対応を取る必要があるのでしょうか。一概に労災や過労死といってもその原因は様々なものがあるため、企業は、この原因を調査して明確にするとともに、適正な対応を行うべきです。
従業員の過労死で問われる企業の責任
社内で過労死が発生した場合、企業は具体的にどのような責任を負うのでしょうか。以下で、2つの観点からご説明します。
なお、労働災害発生時における企業が取るべき責任や対応については、以下のページで解説しています。併せてご覧ください。
法的責任
企業は、従業員を自らの管理下におき、その労働力を利用して活動を行っていることから、労働内容や従業員の健康状態を把握し、その過程において従業員の生命及び健康が損なわれないよう、安全を確保するための措置を講じるべき「安全配慮義務」を負っています。
賠償責任
過労死が発生した場合、企業は、従業員に対し、安全配慮義務違反又は不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
過労死等防止対策推進法における「過労死等」の定義
過労死等については、過労死等防止対策推進法2条により、次のように定義づけられています。
①業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
②業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
③死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
厚生労働省が定める過労死ラインとは
厚生労働省による労働時間の評価の目安によれば、時間外労働が1ヶ月あたり100時間以上、又は2~6ヶ月の平均が80時間以上となれば、過労死との関連性が強いとされます。すなわち、月45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、過労死との関連性が強いと認められやすくなります。
過労死の労災認定基準
厚生労働省によると、過労死が労災と認められるには、脳・心臓疾患が業務での明らかな過重負荷を受けたことにより発症したことや、特定の精神障害が業務での強い心理的負荷のみによって発症したこと、といった要件を満たす必要があります。
労災保険の申請について
企業で労災が発生した場合や、地方公務員等が労災を受けた場合、労災保険を申請するためには、一定の手続きを取る必要があります。詳しくは、以下のページをご覧ください。
労災・過労死が発生した際の初動対応
企業で労災・過労死が発生した場合、迅速かつ適正な初動対応を取ることが重要になります。
以下、簡単に解説していきますが、詳細については以下のページも併せてご覧ください。
救急車や警察への通報
労災につながるような重大事故が発生した場合、企業は救急車の出動要請や警察への通報を行うべきです。企業が従業員に対して、従業員の生命及び健康が損なわれないよう安全を確保する義務を負っていることからも、当然に企業が対応すべき事項となります。
労働基準監督署への届出
労災が発生した場合、企業は所轄の労働基準監督署に対して、労働者死傷病報告書を提出する義務が生じます(労働安全衛生法100条参照)。
被害者・遺族への対応
労災が発生した場合で、被害者が存在するときには、企業が当該被害者に対し、使用者責任としての損害賠償義務を負う可能性があります。また、労災について、企業の安全配慮義務違反が認められる場合には、労災を受けた又は過労死した従業員の遺族に対して損害賠償義務を負う可能性があります。
事故原因の調査
企業は、労災が発生した場合、その原因を調べなければなりません。
一般的に、労災発生の原因には、「機械設備等の状態が不安全だった」という物的要素と「労働者の行動が不安全だった」という人的要素があります。また、この2つの原因が生じたのは、「安全管理における不備や欠陥」があったからだといえます。
なお、原因を調べる際は、直接的なものだけでなく、間接的なものまで掘り下げることがポイントです。例えば、労働者が不安全な行動をとった原因(作業の流れが確立できていなかったことなど)も調べ、明確にしておくことが望ましいでしょう。
企業に求められる再発防止策の徹底
企業としては、仮に労災が発生した場合であっても、同種・類似の災害を繰り返さないよう対策を講じる必要があります。
そのためには、労災発生の原因を調査し、再発防止対策の検討を行い、その防止対策を実行することになります。
従業員の過労死で使用者への責任が問われた判例
長時間にわたる残業を恒常的に伴う業務に従事していた従業員が、うつ病にり患し自殺して、企業に対する損害賠償責任が肯定された判例があります(最高裁 平成12年3月24日第二小法廷判決、電通過労自殺事件)。
事件の概要
原告の長男は、大学卒業後に大手広告代理店である被告企業に入社したが、当初から、長時間にわたる残業を行うことが常況となっており、次第にこれが悪化する傾向にありました。その後、業務遂行のために徹夜まですることもある状態であり、企業の上司らは、このような状況を認識していましたが、具体的な対応としては、業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うように、等と指導したのみでした。その後、原告の長男は、うつ病にり患し、業務を終えて帰宅後に死亡しているところを発見され、原告が被告企業に対して損害賠償請求を行ったという事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
本判決の原審は、原告の長男が再び従前と同様の長時間労働の日々が続くことをむなしく感じ、うつ病によるうつ状態が更に深まって、衝動的、突発的に自殺したと認められるとし、最高裁も当該認定を肯定して、原告の被告企業に対する損害賠償請求を認めました。
ポイント・解説
本判決においては、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」として、安全配慮義務には「使用者の心身の健康配慮義務が含まれること」を認定しました。また、通常、自殺は本人の自由意思に基づく「労働者の故意による死亡」となりますが、本判決では、業務と自殺との因果関係を認めた点に大きな意義があります。
企業としては、過労死につながる業務を従業員に強いることがないよう、また、適切な業務負担軽減措置を取るようにすべきであるといえます。
労働問題の専門家である弁護士が、労働災害や過労死の対応についてサポートいたします。
労災や過労死が発生した場合の対応については、事後的なトラブルや高額な損害賠償義務が発生する可能性もあるため、確実に行うことが重要です。しかし、被害者や遺族への対応など、デリケートな問題も含むため、社員の方だけで対応するのが難しい場合もあります。事態を悪化させず、きちんと収束させることができるよう、労災や過労死についてご不安がある場合、専門的な知識と経験を有する弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある