社内に監視カメラを設置することは違法?プライバシーの問題や注意点など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「犯罪やハラスメントを抑制したい」、「セキュリティーを向上したい」といった目的で、職場に監視カメラの設置を検討している経営者もいらっしゃると思われます。
しかし、監視カメラは、監視カメラに映る人物の一挙手一投足を記録し得るものであり、設置した場所や映像の活用・保管方法などによっては、従業員のプライバシーを侵害するものとして、違法と判断される可能性があります。そのため、従業員のプライバシーには十分に配慮した上で、設置を検討しなければなりません。

以下では、監視カメラを設置することの可否や設置する場合の注意点について解説します。

目次

職場で監視カメラ(防犯カメラ)を設置するメリットとは?

職場に監視カメラ(防犯カメラ)を設置することで得られるメリットとしては、以下の4つが考えられます。

犯罪や不正行為の抑止

職場に監視カメラがあることで、従業員の行動を把握することができるため、従業員による機密資料の持ち出しや横領等の犯罪行為をした場合の証拠を残すことができます。
そのため、従業員に対して犯罪行為をさせないようにする、という抑制効果が期待できます。

また、多くの人が訪れるオフィスでは、外部から不審者が訪れて従業員に危険が及ぶことも想定されます。
監視カメラを設置していることをオフィスの入り口などに掲示することだけでも、不審者の来訪を抑止する効果が期待できます。

さらに、機密情報や重要書類を保管している場所に監視カメラを設置することで、機密情報の漏洩や不正アクセスを未然に防止することが期待できます。

ハラスメントの防止

職場内における監視カメラは、セクハラやパワハラなどハラスメント行為の抑制にもつながると考えられ、それにより、職場環境の改善も期待できます。

また、ある従業員から、他の従業員からセクハラやパワハラを受けたとの相談があった場合でも、監視カメラの映像を調査することによって、セクハラやパワハラといったハラスメント行為が行われた事実を確認することができるため、カメラの映像に基づき適正な処分を行うことができると考えられます。

労務管理

監視カメラの設置によって、従業員が始業時間に遅れずに出社できているか、終業時間に業務を終えているか、許可なく残業をしていないか等を把握することができ、タイムカード等の他の方法と併せて、より詳細に労務管理をすることが期待できると考えられます。

業務の効率化

監視カメラを設置することで、職場内の様子を細かく把握することが可能となります。そのため、前述のような犯罪行為・不正行為やハラスメント行為の証拠収集を効率的に行うことができ、これらの問題解決に向けて迅速に情報収集をすることができるようになります。

また、就業すべき時間に外出しているなど、従業員の勤務態度不良等の証拠も記録することができるため、従業員に対する懲戒処分を行う場合の懲戒事由に当たる事実の立証に役立ちます。

監視カメラを社内に設置することの違法性は?

監視カメラを設置することは違法となるのでしょうか。
結論としては、セキュリティーの確保などそれを正当化する業務上の必要性がある場合には、適法と認められる可能性が高いと考えられます。

しかし、以下で述べるような、従業員のプライバシーや個人情報には配慮する必要があります。

監視カメラは従業員のプライバシーを侵害するか?

職場内への監視カメラ設置は、従業員の職場内での行動を細部まで記録するものであり、従業員に緊張感や不快感を与えうるものであるため、前述のようにセキュリティーの確保など監視カメラを設置することを正当化する業務上の必要性がない限り、従業員のプライバシーを侵害するものとして不法行為となりうる可能性があります。

監視カメラの映像は個人情報に該当するか?

個人情報保護法における「個人情報」とは、以下を指すと考えられています。

生存する個人に関する情報であって、氏名や生年月日等の情報それ自体で特定の個人を識別できるもの、他の情報と照合することにより特定の個人を識別できるもの、個人識別符号が含まれるもの(同法2条1項2号)

この「個人識別符号」とは、個人情報保護法2条2項に定められています。
同項1号に定められる「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの」の例としては、指紋データや顔認識データが挙げられます。そして、身体的特徴としての容貌等も「個人識別符号」に含まれるものと考えられています(同法2条2項1号、同法施行令1条)。

したがって、職場内の監視カメラに録画された映像データも、特定の個人が識別できる限り、個人情報保護法上の個人情報に当たる可能性があります。

プライバシーを侵害した場合のペナルティは?

監視カメラを設置することは、前述のようなセキュリティー確保など、監視カメラの設置を正当化する業務上の必要性がない限り、従業員のプライバシーを侵害するものとして不法行為となりうる可能性があります。

また、監視カメラの設置が従業員の組合活動対策としてなされた場合には、支配介入として不当労働行為(労組法7条3号)に当たり、不法行為にもなりうることがあります。

不法行為に当たる場合、会社は、従業員に対し、損害賠償として慰謝料を支払わなければならない可能性があります。

社内に監視カメラを設置する際の6つの注意点

職場内に監視カメラの設置をするにあたり、適法に、かつ、従業員とのトラブルが発生しないようにするためには、以下の6つのポイントに注意する必要があります。

適切な場所に設置する

会社側としては、職場内を死角なく広範囲に撮影できる場所に監視カメラを設置したいと考えることがあります。
しかし、監視カメラの撮影場所に、トイレ、更衣室、休憩室など従業員のプライベートな空間が含まれている場合には、業務上の必要性が低い、又は必要性がないとして、プライバシー侵害となる可能性があります。

特に、トイレや更衣室などは、業務上の必要性が特に認められないと判断されやすく、さらに、盗撮を疑われる可能性もあります。

目的や設置場所を従業員に周知する

監視カメラによる映像情報の取得に際しては、事前に監視カメラに映り得る従業員に対し、監視カメラの利用目的を明示しなければならないとされています(個人情報保護法21条1項)。もっとも、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」には、その利用目的を公表する必要がないとされています(同条4項4号)。

そして、防犯・安全のために監視カメラを設置し撮影する場合は、「取得の状況からみて利用目的が明らか」と認められる可能性が高いと考えられます。
そのため、防犯・安全のために監視カメラを設置し撮影する場合は、個人情報保護法上は、従業員に利用目的を明示する必要はないと考えられます。

しかし、監視カメラを防犯・安全以外の目的で利用する場合、具体的には、従業員の懲戒事由に該当する事実の調査をする目的がある場合には、「取得の状況からみて利用目的が明らか」と認められない可能性があり、従業員に対し当該利用目的を公表しなければならない場合もあります。

また、監視カメラを設置することに法的な問題はないとしても、会社から一切説明なく、突然、監視カメラが設置された場合には、従業員のなかには好ましく思わない人も出てくることが想定されます。
会社に対する不信感が生じると、当該従業員の業務遂行に支障が出てしまう可能性もあります。
そのため、従業員とのトラブル防止のためにも、監視カメラを設置する場合には、その設置の目的と場所を周知する必要があります。

責任者を配置する

監視カメラにより記録された映像は、従業員の個人情報となりうるものであり、場合によっては、従業員のプライバシーを侵害する可能性を秘めています。
そのため、監視カメラの設置・運用・記録された映像の活用についての責任者を配置し、監視カメラの映像を適切に管理させる必要性があります。

社内規定を策定する

監視カメラの映像は個人情報になりうるところ、個人情報取扱事業者は、事前に本人の同意を得ないで、利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を利用してはならないとされています(個人情報保護法17条1項)。
そのため、監視カメラの設置場所や利用目的について、社内規定に規定することで、個人情報を適法に運用するための指針になるといえます。

また、社内規定に明記されることで、従業員にとっても監視カメラの設置場所や利用目的が明確になります。

録画した映像を適切に管理する

個人情報取扱事業者は、事前に本人の同意を得ないで、利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を利用してはならないとされています。
他にも、個人情報取扱事業者は、以下のように定められています。

  • 違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない(個人情報保護法19条)
  • 取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(同法23条)

地方自治体や経済産業省のガイドラインを確認する

防犯カメラを設置する際には、個人情報保護法だけでなく、各自治体が制定している監視メラに関する条例やガイドライン、経済産業省等の省庁が公表しているガイドライン等も確認する必要があります。

自治体によっては、公共の場所に向けて監視カメラを設置する際には、事前の届け出を義務付けている地域もあるため、監視カメラを設置する前に確認するべきであるといえます。

社内の監視カメラの設置が問題となった裁判例

これまで解説してきたとおり、職場における監視カメラの設置には、犯罪行為やハラスメント行為を防止することができるというメリットがある一方で、従業員のプライバシーを侵害する可能性があります。
以下では、職場内に監視カメラの設置されたことについて、従業員に対する不法行為に該当するかが争われた事例を紹介します。

【平20(ワ)24169号、平20(ワ)23474号・平成24年 5月31日・東京地方裁判所・判決】

事件の概要
Y社の従業員であったXが、Y社に対し、Y社がXの働くY社千葉支店に、Xの席を右斜め後方上部から視認することができるネットワークカメラ警戒監視システム(以下「本件監視システム」といいます。)を設置したことについて、嫌がらせ目的でXの勤務場所であるY社千葉支店の事務室内に監視カメラを設置し、休日、早朝、深夜を問わずXにパソコンに行動予定を詳細に入力するように指示するなどしたY社代表者A又はY社取締役Bの一連の行為が、不法行為を構成するとして、不法行為又は民法715条の使用者責任に基づき慰謝料を求めた事案です。

裁判所の判断
裁判所は、「Y社千葉支店の周囲の状況、職員構成に照らすと、セキュリティーの向上のために本件監視システムを設置する必要性が認められるし、ネットワークカメラの設置場所についても、防犯上、建物外側の正面玄関、裏通用口のほかに、事務室内を俯瞰する位置とすることに合理性がある。確かに、事務所内のカメラは、Xの右斜め後方上部に設置されており……Xの動静をつぶさに観察できるものであり、Xが、前年の本件減給処分による精神的圧迫の中、更なる圧迫感を感じたことは理解し得ないでもないが、事務所内のカメラは、事務所内全体を俯瞰することができるものであり、Xの座席のみを撮影するものではないし、……Xは営業の仕事のために外回りをすることも多かったことがうかがわれるほか、A又はBがY社本社のパソコンでXの動静を終始観察していたことを認めるに足りる証拠もない。また、Y社がXの動静を観察することのみを目的として137万5500円もの費用をかけて本件監視システムを設置したと解するのも現実的ではない。」と判示して、本件監視システムのネットワークカメラによる撮影が、Xのプライバシーを侵害するということはできないと判断しました。

ポイント・解説
裁判所は、監視カメラを設置することについて、従業員の行動を詳細に把握することができるとしても、そのことのみをもって従業員のプライバシーを侵害したと判断されるものではなく、職場の状況や従業員の構成、監視カメラの設置場所等の事情を考慮した上で、監視カメラの設置についての必要性・合理性を検討し、プライバシー侵害といえるか否かを判断していると考えられます。

なお、以上の裁判例は、あくまで職場全体を俯瞰できるカメラを設置した場合において、特定の従業員の行動を詳細に把握できるとしても、当該事案における事情においては、プライバシー侵害に当たらないという判断がなされたにすぎず、監視カメラで記録された映像の利用については、別途問題となる点には注意が必要です。

監視カメラの設置によるプライバシー問題でお悩みの際は、労務問題に詳しい弁護士にご相談下さい

職場内における監視カメラの設置には、一定のメリットがある一方で、プライバシー侵害や個人情報保護法上の問題を生じさせる可能性もあり、監視カメラの設置には十分な注意が必要となります。

監視カメラを設置しようと考えているが、法的に問題がないか不安であったり、監視カメラの映像について、従業員との間でトラブルが起きてしまい、対応に困っている場合には、是非、弁護士にご相談ください。

よくある質問

監視カメラの社内設置に関する法規制はありますか?

監視カメラを設置すること自体について、それを規制する法律はないと思われます。
しかし、監視カメラを設置することで、従業員のプライバシー侵害や個人情報保護法上の問題が生じる可能性はあります。

職場の監視カメラの設置はパワハラにあたりますか?

監視カメラの設置目的や設置する位置によっては、パワーハラスメントに当たる可能性があります。

監視カメラの映像は個人情報にあたりますか?

身体的特徴としての容貌等は、「個人情報」に含まれる「個人識別符号」に該当すると考えられています(同法2条2項1号、同法施行令1条)。
そのため、職場内の監視カメラに録画された映像データも、特定の個人が識別できる限り、個人情報保護法上の個人情報に当たる可能性があります。

休憩室に監視カメラを設置することは違法ですか?

休憩室は、職場内とはいえ、業務との関連性が薄いプライベートな空間であると考えられることから、休憩室に監視カメラを設置することは、業務上の必要性が低いものとして、プライバシー侵害となる可能性があります。

職場に監視カメラを設置する場合、事前に従業員から同意を得る必要はありますか?

従業員の各個人から個別に同意までを得る必要はないと考えられます。
しかし、監視カメラを設置するにあたり、当該監視カメラの設置目的・映像の利用目的を明示しなければならない場合もあります。

監視カメラの映像は、社内の誰が閲覧できるようにしておくとよいですか?

監視カメラの映像は、個人情報に当たる可能性があることから、適切な管理が必要となります。
そのため、監視カメラの映像を管理する管理者を配置して、当該管理者に映像の管理をさせることが適切といえます。

監視カメラで音声を録音することは法律上問題がありますか?

監視カメラで音声を録音すること自体に規制等はないと考えられます。
しかし、「6.1 監視カメラの社内設置に関する法規制はありますか?」及び「6.4 休憩室に監視カメラを設置することは違法ですか?」で触れたように、その設置態様や記録内容の利用方法によっては、プライバシー侵害等の問題を生じさせる可能性があります。

社内で監視カメラを設置する場合、どこに設置するのが最適でしょうか?

防犯目的としては、オフィスの出入口に設置することが効果的といえます。
また、機密情報や重要書類を保管している場所に監視カメラを設置することで、機密情報の漏洩や不正アクセスを未然に防止することが期待できます。

従業員が監視カメラの設置に反対した場合はどうしたらよいですか?

監視カメラの設置に反対されたことから、直ちに監視カメラの設置が違法となるわけではありません。
しかし、反対しているまま監視カメラの設置を断行すると、従業員とのトラブルの原因になり得るため、利用目的やカメラの設置場所を明示し、従業員のプライバシーにも配慮することを説明することが適切と考えられます。

監視カメラによるストレスを従業員に感じさせないためは、どのような対策が必要ですか?

トイレ、更衣室、ロッカー、休憩室などのプライベートな空間に監視カメラを設置することを避けることが必要であると考えられます。
また、労務管理や従業員の就業状況の把握を目的として監視カメラを設置する場合であっても、みだりに監視カメラを使用して指導・叱責をするのではなく、監視カメラの映像の利用は、必要最小限にとどめることが適切といえます。

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執筆弁護士

弁護士 田中 佑資
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
弁護士 東條 迪彦
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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