監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2020年4月、新たな障害者雇用促進法が施行されました。本ページでは、これまでの法改正の歴史にも触れたうえ、今回の改正によって何が変わったのかをご紹介していきます。
障害者を雇用していくなかで、障害者雇用促進法の改正内容を知ることはとても重要ですので、しっかりと理解を深めていきましょう。
目次
近時の障害者雇用促進法の改正について
日本の障害者雇用政策の中心となっている法律である障害者雇用促進法は、幾度の改正・名称変更を経て現在の形となりました。これまで行われた障害者雇用促進法改正の歴史を、改正内容のポイントを確認しながら振り返ってみましょう。
障害者雇用についての詳しい内容は、下記のページをご覧ください。
障害者雇用促進法改正の歴史
平成20年の改正内容のポイント
平成20年の改正では、中小企業での障害者雇用の促進を図るため、障害者雇用納付金制度の対象が拡大されました。また、雇用率制度について、短時間の身体障害者・知的障害者を0.5人として参入する等の改正も行われました。
平成20年の改正におけるポイントは以下の通りです。
1 中小企業における障害者雇用の促進
①障害者雇用納付金制度の適用対象の範囲拡大
障害者雇用納付金制度(納付金の徴収・調整金の支給)が適用される対象範囲を常用雇用労働者100人を超える中小企業に拡大
〔中略〕②雇用率の算定の特例
中小企業が、事業協同組合等を活用して、共同で障害者を雇用する仕組みを創設
〔中略〕2 短時間労働に対応した雇用率制度の見直し
障害者の雇用義務の基礎となる労働者及び雇用障害者に、短時間労働者(週20H以上30 H未満)を追加3 その他
特例子会社(※)がない場合であっても、企業グループ全体で雇用率を算定するグループ適用制度の創設
※障害者雇用に特別の配慮をした子会社
平成25年の改正内容のポイント
平成25年の改正は大改正といえます。障害者に対する差別的取扱いの禁止、事業主の合理的配慮の提供義務、苦情処理・紛争解決援助制度が定められるとともに、法定雇用率の算定基礎に精神障害者を加えることとして見直す等、法の抜本的な改正が行われました。
平成25年の改正におけるポイントは以下の通りです。
1.障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応
(1)障害者に対する差別の禁止
雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止する。(2)合理的配慮の提供義務
事業主に、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることを義務付ける。ただし、当該措置が事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる場合を除く。
〔中略〕(3)苦情処理・紛争解決援助
① 事業主に対して、(1)(2)に係るその雇用する障害者からの苦情を自主的に解決することを努力義務化。
② (1)(2)に係る紛争について、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の特例(紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告等)を整備。2.法定雇用率の算定基礎の見直し
法定雇用率の算定基礎に精神障害者を加える。ただし、施行(H30)後5年間に限り、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えることに伴う法定雇用率の引上げ分について、本来の計算式で算定した率よりも低くすることを可能とする。3.その他
障害者の範囲の明確化その他の所要の措置を講ずる。
説明に登場した「差別」「合理的配慮」「(法定)雇用率」について、それぞれの詳しい内容は下記の各ページで解説していますので、ぜひご覧ください。
2020年4月1日施行「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」
一部令和元年より段階的に施行される改正内容
今回改正された障害者雇用促進法は、令和元年(2019年)6月14日、同年9月6日、令和2年(2020年)4月1日と段階的に施行されています。
週20時間未満の短時間労働についても特例給付金を支給
事業主に向けた特例給付金とは
「事業主に向けた特例給付金」とは、所定労働時間が週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対して支給される給付金のことです。
今回の改正が行われるまでは、週20時間を下回るような短時間でなければ労働することができない障害者については、法定雇用率の算定対象とならないため、雇用機会の確保が難しいという問題がありました。
そこで、短時間であれば就労可能な障害者等の雇用機会を確保するため、新たに特例給付金の制度が創設されることとなりました。
支給要件・支給額
特例給付金の支給要件・支給額は以下の通りです。
なお、支給を受けるにあたっては、申請書類等を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構へ提出、又はホームページから電子申請する必要があり、年度毎の申請期限もありますのでご注意ください。
事業主区分 支給対象の雇用障害者 支給額注1 支給上限人数注2 100人超(納付金対象) 週10時間以上20時間未満 7,000円/人月(≒調整金@27,000円×1/4) 週20時間以上の雇用障害者数(人月) 100人以下(納付金対象外) 5,000円/人月(≒報奨金@21,000円×1/4) (注1)支給額は、支給対象の雇用障害者数(実人数)に基づき、月ごとに算出する。
(注2)支給上限人数の算定においては、重度のダブルカウント及び短時間のハーフカウントを行う。
特例給付金に人数の上限はあるのか?
特例給付金の支給対象の人数は、「所定労働時間が週20時間以上の雇用障害者数」が上限となります。中小企業を対象とした優良事業主の認定制度を創設
制度の対象となる中小企業とは?
一定の基準を満たす中小企業の事業主に対し、厚生労働大臣が優良事業主と認定する制度が創設されました。この制度の対象となる中小企業とは、常時雇用する労働者が300人以下の事業主をいいます。
認定されることのメリット
優良事業主に認定されると以下のようなメリットがあります。
- 障害者雇用優良中小事業主認定マークを使用できる
- 日本政策金融公庫の低利融資対象となる
- 厚生労働省、都道府県労働局、ハローワークによる周知広報の対象となる
優良な事業主であると認定されるためには
優良な事業主であると認定されるためには、以下の「認定基準」を全て満たす必要があります。
なお、認定を受けるにあたっては、申請書類等を都道府県労働局に提出する必要があり、認定の審査には3ヶ月程度の期間を要するとされています。
【認定基準】
※ここに記載している以外の要件もあります。詳細は事業主向け認定申請マニュアル第4章をご参照ください。[ 1 ] 障害者雇用への取組(アウトプット)、取組の成果(アウトカム)、それらの情報開示(ディスクロージャー)の3項目について、各項目ごとの合格最低点に達しつつ、合計で50点中20点(特例子会社は35点)以上を獲得すること
[ 2 ] 雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上雇用していること
(特例子会社制度、関係会社特例制度、関係子会社特例制度又は事業協同組合特例制度を利用している親事業主又は事業協同組合等が申請する場合は、これらの制度を適用せずとも、当該親事業主又は事業協同組合等において雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上に雇用していることが必要です。また、特例子会社が申請する場合は、特例子会社制度又は関係会社特例制度により、親事業主も雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上に雇用していることが必要です。)[ 3 ] 指定就労支援A型の利用者を除き、雇用率制度の対象障害者を1名以上雇用していること
[ 4 ] 過去に認定を取り消された場合、取消しの日から起算して3年以上経過していること
[ 5 ] 暴力団関係事業主でないこと
[ 6 ] 風俗営業等関係事業主でないこと
[ 7 ] 雇用関係助成金の不支給措置を受けていないこと
[ 8 ] 重大な労働関係法令違反を行っていないこと
「障害者雇用水増し問題」と再発防止策の強化
障害者雇用を巡っては、平成29年6月時点で国の28機関で計約3700人分を水増し計上していたことが発覚しました。
そこで、再発防止のため、以下のような法改正が行われました。
- 厚生労働省が公的機関に対し、障害者雇用の報告を求める権限を明記
- 民間企業と同様に、公的機関にも障害者手帳の写しなど確認書類の保存を義務付け
- 厚生労働省が公的機関に是正勧告ができる権限を明記
障害者雇用を促進するために取り組むべきこと
障害者雇用を促進するためには、雇用に取り組む意義と方針を立てる、社内理解を得る、支援機関や雇用支援業者に相談する、助成金などの雇用支援制度を活用するといった取り組みを行うことが望ましいといえます。
障害者雇用促進法違反の罰則
障害者雇用促進法に違反すると、納付金の徴収、罰金、企業名公表等の不利益を受ける可能性があります。
障害者雇用を促進するには、改正点について正しく認識する必要があります。不明点があれば弁護士にご相談ください。
障害者が安定して働ける環境を整えるという目的を実現できるよう、障害者雇用促進法は頻繁に改正が行われています。事業主として、障害者雇用の促進に真摯に向き合っていく姿勢は非常に重要であり、障害者雇用促進法の改正点については正しく認識していかなければなりません。最新の改正法に対応していくためにも、ご不明点はぜひ弁護士にご相談ください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある