出産後1年を経過していない保育士に対する解雇の有効性等(社会福祉法人緑友会事件)~東京地裁令和2年3月4日判決~ニューズレター 2021.1.vol.109

Ⅰ 事案の概要

1 Xは、平成24年5月、Y法人が経営する保育園(以下「本件保育園」といいます。)にパート保育士として入職し、同年12月1日、常勤補助職員としてY法人に雇用され、平成25年春、正規登用試験に合格して正規職員に登用されました。
その後、XとY法人は、Xの妊娠が判明したことから、平成29年3月末まで勤務し、同年4月1日以降産休に入ることを合意し、Xは、同年5月10日に第1子を出産しました。

2 Xは、平成30年3月9日、Y法人の総務課職員と面談し、同年5月1日を復職日としたい旨を伝え、復職後に時短勤務を希望する書類を提出しました。XとY法人の理事長(以下「A」といいます。)は、同年3月23日に面談し、Aは、Xに対して「本件保育園の園長(以下「B」といいます。)が無理だといっていることから復職をさせることはできない。」「実際には解雇である。」旨を伝え、退職を条件に3か月の特別休暇の提案をしました。しかし、Xは、このAからの提案を断り、Aに解雇理由証明書の発行を求めました。 Xは復職を希望した平成30年5月1日以降、Y法人において就労していません。

3 Xは、退職に合意していないこと、Y法人がXに対してした解雇(以下「本件解雇」という。)が権利の濫用に該当すること、また、男女雇用機会均等法9条4項に違反することから無効であると主張して、Y法人に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②労働契約に基づく賃金・賞与等の支払い、③本件解雇が不法行為に当たると主張して、本件解雇により受給することができなかった産休・育休の社会保険給付相当額の損害賠償金等、ならびに慰謝料等の支払いを求めて提訴しました。

Ⅱ 判決のポイント

1 本判決は、「労働者が退職に合意する旨の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源である職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認められるか否かについては、慎重に検討する必要がある」と判示しました。

そして、XがAから復職させることはできない旨を伝えられたのに対し、それを承諾する旨の意思表示をしたと認めることはできないとして、退職合意の成立を否定し、AのXに対する面談における復職させることはできない旨の通告は、実質的には、Xに対する解雇の意思表示であるとしました。

そのうえで、Xに解雇に相当するような問題行動があったと評価することは困難であり、また、XのBらに対する言動に、仮に不適切な部分があったとしても、BがXに対して度重なる注意、改善要求をしていたとは認められず、Xには、十分な改善の機会も与えられていなかったと認定し、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることもできず、権利の濫用として、無効であるとしました。

また、男女雇用機会均等法9条4項について、「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。」と判示しています。また、同但書についても、規定本文の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解されると判示しました。

そして、本件解雇には客観的合理的理由があると認められないことから、男女雇用機会均等法9条4項に違反するとし、この点においても、本件解雇は無効としました。

2 また、本件解雇は無効であるから、Xは、復職を希望していた平成30年5月1日以降、Y法人に対し、労働契約に基づく賃金請求権を有するとして、①平成30年5月から平成31年3月まで(第1子の育児休業から復帰し、第2子の産前休業取得前まで)、②令和2年6月以降(第2子の育児休業から復帰後)の期間につき、賃金の請求を認めています。

賞与請求についても、Y法人に対し、給与規程及び運用基準の規定により、労働契約に基づく賞与請求権を有すると判断しました。

3 本判決は、本件解雇は、権利の濫用にあたり無効であることに加え、男女雇用機会均等法9条4項に違反するものであるから、違法であり、被告Y法人に不法行為責任が成立するとしました。

そのうえで、損害について、第2子の産休・育休期間中の社会保険給付相当額につき、「本件解雇がなければ、Xの第2子の出産に係る産休・育休期間は、平成31年4月1日から令和2年4月末日までと合意されたであろうと考えられることからすると、当該期間に受給できなかった出産一時金及び育児休業給付金相当額が、本件解雇と相当因果関係のある損害といえる」としました。

次に慰謝料については、「解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを有する場合は少ないと解される」としつつ、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続きを進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、男女雇用機会均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっており、このような経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛がおおむね慰謝されたとみることは相当でなく、Y法人による違法な本件解雇により、Xに生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は30万円としました。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

本判決は、男女雇用機会均等法9条4項本文や同但書への抵触にかかわらず、本件解雇が権利の濫用として無効であることを示しています。男女雇用機会均等法9条4項違反がなくとも、本件解雇の有効性の結論は変わりません。しかしながら、本判決は、結論が変わらないにもかかわらず、同項違反であることを明示しており、さらに、本件解雇に不法行為責任が成立すると判断する理由としても明示しています。不法行為として認定されたことが慰謝料30万円の認容に繋がっているので、産後1年を経過していない従業員の解雇は、慎重に検討しなければなりません。

執筆弁護士
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