契約社員に対する退職金の不支給の適法性(メトロコマース事件)~最高裁令和2年10月13日判決~ニューズレター 2021.4.vol.112

Ⅰ 事案の概要(一部簡略化)

本件は、東京メトロの完全子会社(第一審被告)で働く有期労働契約社員(第一審原告)が、無期労働契約の正社員と同じ業務を行っているにもかかわらず、退職金が支給されないことが改正前労働契約法20条(現パートタイム労働法8条)の不合理な待遇の相違であるとして、退職金相当額の損害賠償の支払いを求めた事案です。

前提事実は、以下のとおりです。

①第一審被告(以下、「Y」といいます。)は、東京メトロの完全子会社で、東京メトロの駅構内における売店での物販事業を行う会社です。
②平成16年、第一審原告(2人いましたが、便宜上そのうちの1人を指し、以下、「X」といいます。)は、Yに採用され、契約期間を1年以内とする有期労働契約の更新を繰り返しながら、平成27年の定年退職まで、約10年間に亘り、駅構内の売店における販売業務に従事しました。
③Yにおいては、従業員は、正社員と契約社員に分かれ、Xは、正社員と異なり退職金支給規定のない契約社員として働いていました。
④Yの正社員は、無期労働契約を締結した労働者で、定年は65歳、本社の各事業本部の各部署に配置されるほか、各事業本部が所管する事業所等に配置される場合や関連会社に出向する場合もあり、職種の限定はありませんでした。正社員は、配置転換、職種転換または出向を命ぜられた場合、正当な理由なくこれを拒むことはできませんでした。このような正社員の中には、Xのような売店業務に従事する者もいました。そして、正社員には、退職金が支給されていました。
⑤一方、契約社員は、契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者で、定年は65歳、業務の場所の変更を命ぜられることはありましたが、業務の内容に変更はなく、正社員と異なり、配置転換や出向を命ぜられることはありませんでした。契約社員には、退職金を支給しないと定められていました。
⑥売店における業務の内容は、売店の管理、接客販売等で、これらは正社員と契約社員とで相違するものではありませんでした。もっとも、正社員は、売店において休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって業務を行う代務業務を行っていたほか、複数の売店を統括し、エリアマネージャー業務に従事することもありました。しかし、契約社員は原則として代務業務を行わず、エリアマネージャー業務に従事することはありませんでした。
⑦X は上記②のとおり、平成27年に定年退職する際、Yから退職金が支給されなかったため、提訴に至りました。

Ⅱ 争点

契約社員への退職金不支給の合理性について

Ⅲ 判決のポイント

1 Yにおける退職金の性質

 有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が退職金の支給に係るものである場合、それが改正前労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かの判断にあたっては、Yにおける退職金の性質や、これを支給することとされた目的を踏まえた上で、労働条件の同一性等を検討するべきである。

Yにおける退職金の支給対象たる正社員は、Yの本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等が命ぜられることもあった。また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と、職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていた。このようなYにおける退職金の支給要件や支給内容等に照らせば、Yにおける退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、Yは、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

2 正社員と契約社員との、職務の内容の相違

正社員と契約社員、両者の業務の内容はおおむね共通するものの、正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、エリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員は、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員は、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかったものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。

3 結論

以上のようなYにおける退職金の複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員の職務の内容等を考慮すれば、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。このことは、契約社員の有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、Xが約10年の勤続期間を有していることを斟酌しても、結論に影響を及ぼすものではない。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

最高裁が退職金不支給につき不合理ではないと判断した理由は、上記のとおり大きく分けて、⑴Yにおける退職金の性質と、⑵正社員と契約社員との職務の内容と変更の範囲の相違の2点です。

最高裁の判決内容を、語弊を恐れずに簡単に言い換えるならば、「⑴Yの退職金は、業務内容の変更や出向が命じられる正社員が、長年頑張ってくれたからこそ支給するもので、常に売店業務しかしない契約社員が長年働いてくれたとしても、それはそれでありがたいことだけれども、Yの退職金が想定している労いの対象ではない」、「⑵正社員が売店業務をしたときに、その売店業務が契約社員の業務内容と同じだからといっても、正社員は契約社員とは違って、急に欠勤が出た売店での代務や、複数の売店の統括など、エリアマネージャー業務もするし、売店業務以外の業務を行うこともあるから、これらを踏まえたときには、両者の職務の内容は相当に異なるもので、複雑かつ高度な職務を行う正社員にだけ退職金を支給したとしても不合理ではない」、というものです。

本件ではこのように、正社員と契約社員とで、職務の内容と変更の範囲に相当の差があったために、契約社員への退職金不支給も不合理ではないとされましたが、企業によっては正社員と契約社員とで職務内容や変更の範囲にほとんど差がない(実際の運用において差がなくなってしまっている)こともあるものと思われます。それにもかかわらず、正社員には退職金を支給し、契約社員には支給しないという規定、運用になっている場合には、契約社員から本件のような退職金相当額の損害賠償請求をされ、正社員に支給される退職金と同程度の、高額な賠償責任が認められる可能性があります。しかも、それが1人ではなく、複数人であれば、その人数に応じて賠償額は何倍にも膨れ上がる可能性もあります。通常退職金は、企業が退職金のために長期間にわたって積立てを行い、その支給に備えているものですから、その積立てがない状態で、急に退職金相当額を支払え等と請求をされ、仮にこれが認められた場合には、会社の存続が危ぶまれることもありえるでしょう。

昨今、日本の労働法制では、同一労働同一賃金を実現する動きがより高まっています。「正社員」と「契約社員」という2つの立場が、名ばかりではなく、具体的な業務内容の他、配置転換等、実態的にも異なるものでないか、見直していく必要があります。

執筆弁護士
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