代表者らの背任行為の通報等を理由とする懲戒解雇の有効性(神社本庁事件)~東京地裁令和3年3月18日判決、東京高裁令和3年9月16日判決~ニューズレター 2023.5.vol.137

Ⅰ 事案の概要

本件は、原告X1が、雇用主である被告Yの代表者らの背任が疑われる行為を告発するための行為等をしたところ、Yにより、X1は懲戒解雇とされたため、その懲戒処分の有効性が問題となり、結論として懲戒処分は無効であると判断された事案です。
なお、本事案ではもう一名原告がいますが、本記事では省略します。

Ⅱ 争点

X1に対する懲戒解雇処分の有効性が主要な争点となっています。

Ⅲ 判決のポイント

事案は複雑ですが、概ね以下のような言動に対する懲戒解雇の有効性について、判断されています。

X1について、(1)Yの代表者らの背任行為を批判する内容等が書かれた文書(本件文書)をYの理事2名に交付した行為、(2)匿名で作成されていた本件文書への関与を否定した行為、(3)Yの内部文書やYの代表者らの背任行為を批判する文書等を警察官に交付した行為、(4)自宅待機を命じられたことに関してYの代表者に質問状を送付した行為、が就業規則等の懲戒事由に該当するものとしてYは主張していました。

この点、裁判所は、行為(1)に関しては、「交付した理事2名を起点として,本件文書の記載内容に理解を示す可能性のある被告の理事,評議員,職員及び関係者の多数人に対し,本件文書が交付されることを期待して,本件文書を理事らに交付したものと認められる」ことや「本件文書の作成者の氏名などを墨消しした文書が都道府県神社庁などの関係者に送付されたり,Aネットに掲載されたり,一部のマスコミに送付されたりしたことが認められる」ことを指摘し、多数人に対し、事実を摘示し、Yの役員等の社会的評価を低下させる行為であり、これらの者の名誉を毀損するものであると同時に,Yの信用を毀損し,Yの組織における秩序を乱す行為であると認められるものとして、就業規則等の懲戒事由に外形的に該当する旨判断しました。

その上で、行為(1)は,「労働者が,その労務提供先である使用者の代表者,使用者の幹部職員及び使用者の関係団体の代表者の共謀による背任行為という刑法に該当する犯罪行為の事実,つまり公益通報者保護法2条3項1号別表1号に該当する通報対象事実を,被告の理事及び関係者らに対し伝達する行為であるから,その懲戒事由該当性及び違法性の存否,程度を判断するに際しては,公益通報者保護法による公益通報者の保護規定の適用及びその趣旨を考慮する必要がある」とし、公益通報者保護法について検討を行い、「これらの規定の内容,及び,公益通報者を保護して公益通報の機会を保障することが国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資するとの当該規定の趣旨に鑑みると,労働者が,労務提供先である使用者の役員,従業員等による法令違反行為の通報を行った場合,通報内容の真実性を証明して初めて懲戒から免責されるとすることは相当とはいえず,①通報内容が真実であるか,又は真実と信じるに足りる相当な理由があり,②通報目的が,不正な利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく,③通報の手段方法が相当である場合には,当該行為が被告の信用を毀損し,組織の秩序を乱すものであったとしても,懲戒事由に該当せず又は該当しても違法性が阻却されることとなり,また,①~③の全てを満たさず懲戒事由に該当する場合であっても,①~③の成否を検討する際に考慮した事情に照らして,選択された懲戒処分が重すぎるというときは,労働契約法15条にいう客観的合理的な理由がなく,社会通念上相当性を欠くため,懲戒処分は無効となると解すべきである」としています。

結論として、行為(1)に関して、「本件文書の内容について,真実であるとの証明がされたとは認められない」ものの、「X1が,これを真実と信じるに足りる相当の理由があったといえ,不正の目的であったとはいえず,手段は相当であったから,公益通報者を保護し,公益通報の機会を保障することが,国民生活の安定などに資するとの公益通報者保護法の趣旨などに照らし,本件文書の交付をもってこれらの事実を摘示した行為は違法性が阻却されて懲戒すべき事由といえない」としています。

行為(2)に関しては、虚偽の事実を申告したことが「庁内の秩序保持(就業規則4条2号)に違反したものいえ,就業規則67条1号,2号,3号の懲戒事由に該当する」ものの、本件文書は背任行為という犯罪事実に係るもので公益通報といえるものであること、「X1が,本件文書への関与を認めると,懲罰を受けるおそれがあったことに照らせば,公益通報者を保護して,公益通報の機会を保障し,社会の利益を守る見地においては,X1の虚偽申告を,重大であるとして非難することは相当ではなく,解雇に相当するとはいえない」と判断しています。

行為(3)についても外形的には就業規則等に定める懲戒事由に該当するものの、行為(1)と同様に、公益通報の性質を認定し、「違法性が阻却され懲戒すべき行為に当たらない」としています。

行為(4)については、そもそも自宅待機を命じられた労働者が自宅待機は無効であるとの意見を述べることは「組織の秩序を乱すとまではいえないものであり,就業規則の懲戒事由に該当するとはいえない」としています。

したがって、X1について懲戒処分は無効であると判断されました。

Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項

本事例においては、労働者の行為が外形的には懲戒事由に該当しうるようなケース(本件でいえば、使用者の名誉・信用を毀損する言動)であっても、公益通報者保護法の規定の内容や、公益通報者を保護して公益通報の機会を保障することが、国民生活の安全などに資するとの公益通報者保護法の趣旨などを考慮すると、懲戒処分が無効となりうることが示されています。

加えて、公益通報をした労働者に関して、通報内容の真実性の立証までは求められず、真実と信じるに足りる相当の理由があり、通報目的が不正な目的でなく、通報手段・方法が相当である場合には懲戒から免責されることも具体的な要件として示されています。

そのため、実務においても、公益通報の重要性を理解した上で、公益通報をした労働者の懲戒処分を行うことには慎重になる必要があるほか、真実ではない情報が拡がることを避けるためには、内部文書の保管や情報管理などについても見直しが求められる場合があります。高裁判決では、疑惑が生じているにもかかわらず十分な説明が尽くされなかったことも真実と信じるに足りる根拠として挙げられており、疑わしい状況が生じたときには説明の機会を活かして十分に行うことも重要でしょう。

また大前提として、法人にとってコンプライアンスは非常に重要となるため、背任行為(又は背任行為と疑われる行為)の生じない体制を確保し、公益通報があった場合には迅速かつ適切に事実確認を行うことが欠かせないでしょう。

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