継続雇用で提示された労働条件の適法性~名古屋高裁平成28年9月28日判決~ニューズレター 2019.10.vol.94

Ⅰ 事案の概要

平成24年改正の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「改正高年法」といいます。)の経過措置に基づき、Y社は、Y社及び同社労働組合との労使協定で定められていたとおり、同協定で定める基準を充足する者に対してはスキルドパートナーとしての継続雇用条件を、同基準を充足しないものにはパートタイマーとしての継続雇用条件を提示していた。

本件においては、Y社はX(平成25年で60歳による定年)に対し、同基準を充足しないことを伝え、パートタイマーとしての継続雇用条件を提示した。Xはこれに反発し、期限までに帳票を提出せず、スキルドパートナーとしての雇用継続を求める旨の書面を提出するなどしたが、Xは継続雇用されず、Y社を定年退職した。

本件訴訟は、XがY社に対して、スキルドパートナーとしての労働契約上の地位確認請求を行い、また、YがXに対し、パートタイマーとしての継続雇用条件を提示したことが、改正高年法に反する違法なものであって、平等取扱義務及び人格尊重義務に違反し、労働契約上の債務不履行または不法行為に当たるとして、損害賠償請求を行ったものである。

Ⅱ 判決のポイント

1 スキルドパートナーとしての地位確認請求について

労使協定で定められた基準は、「恣意的に継続雇用を排除しようとするものであって、不相当であるとまでいうことはできない。」「Xは基準を満たさない」と判断され、スキルドパートナーとしての地位確認請求は棄却された。

2 継続雇用条件の提示が、改正高年法に反する違法なものか否かについて

(1)判断基準

本判決は、Y社の行った継続雇用の条件提示(パートタイマーとしての継続雇用条件)が、改正高年法に反する違法なものか否かについて、以下のとおり、改正高年法の趣旨に遡り、判断基準を示している。

「改正高年法は、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準で限定できる仕組みが廃止される一方、従前から労使協定で同基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしたものであるが、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられることにより(老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は先行して引上げが行われている。)、60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に無年金・無収入の期間が生じるおそれがあることから、この空白期間を埋めて無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとしたものと考えられる。そうすると、事業者においては、労使協定で定めた基準を満たさないため61歳以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、定年後の継続雇用としてどのような労働条件を提示するかについては一定の裁量があるとしても、(①)提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、(②)社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合においては、当該事業者の対応は改正高年法の趣旨に明らかに反するものであるといわざるを得ない。」

本判決が述べるのは、改正高年法の下、継続雇用の機会を与えなければならないにもかかわらず、前記①②の場合には、実質的に継続雇用の機会を与えていないことになるから、違法であるということである。

(2)①②についての判断

ア 上記①については、Xがパートタイマーとして1年間継続雇用された場合(年収127万1500円)は、老齢厚生年金の報酬比例部分(148万7500円)の約85%の収入が得られるため、「無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準」であるとはいえないとした。

イ (ア)上記②について、本判決は以下のとおり述べる。

「上記の改正高年法の趣旨からすると、Y社は、Xに対し、その60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、(ⅰ)両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、(ⅱ)従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。」

本判決は、(ⅱ)の事実が認められない限り、(ⅰ)従前の業務内容と全く別個の職種に属するなど、性質の異なる業務内容を継続雇用条件として提示することは違法である(②に該当する)と判断している。

(イ) 本判決においては、従前のXの業務内容は事務職であったが、Y社が提示したのは、シュレッダー機ごみ袋交換や、清掃等の、単純労務職であると認定され、(ⅰ)の点について、全く別個の職種であると認めている。

(ウ) (ⅱ)の点について、Y社は、Xが平穏なコミュニケーション能力を欠き、勤務規律及び遵守事項に違反する行為があったなど主張したが、本判決においては、「事務職全般についての控訴人の適格性を検討したものではないし」、「勤務規律及び遵守事項に違反する行為があったとして、けん責処分にしたにとどまるのであって、控訴人の問題点が事務職全般についての適格性を欠くほどのものであるとは認識していなかったと考えられる。しかも、被控訴人会社は、我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられるにもかかわらず、従前の業務を継続することや他の事務作業等を行うことなど、清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務があるか否かについて十分な検討を行ったとは認め難い。」と認定され、(ⅱ)の事実は認められないという判断をしている。

(エ) 以上を踏まえ、本判決は、上記②に該当し、Xに対して継続雇用の機会を実質的に与えたものではないから、Y社の継続雇用条件提示は、改正高年法の趣旨に反する違法なもので、雇用契約上の債務不履行に当たるとともに不法行為に該当すると判断し、パートタイマーとして1年間勤務したのと同額の慰謝料額を認めた。

Ⅲ 本事例からみる実務における留意事項

本判決で特に注意しなければならないのは、②(ⅰ)(ⅱ)であると考えられる(本判決の②(ⅰ)(ⅱ)については批判もあるが、一応本判決が存在することは念頭に置く必要がある。)。

継続雇用する場合、業務内容が変わることは多々あると思われる。仮に業務内容が全く異なる性質のものになる場合、まずは労働者に十分な説明、説得を行い、その様子を記録しておくべきであろう(説得が、事実上の強制の程度に至ってはならない)。労働者が「真に」同意をしているのであれば、不法行為とは認定されないと考えられる。

一方、提示された業務内容に不服があり、説得に応じない者に対しては、(ⅰ)のとおり、職務内容を全く性質の異なるものとはせず、類似する業務内容での継続雇用を検討する必要があるだろう。

仮に従前の業務内容と全く異なる性質の業務内容しか提示できない場合には、従前の職種全般について適格性を欠くといえなければならない。職種全般について適格性を欠くといったことを立証できる程度にまで準備しておくことは現実的には困難である可能性が高いと考えられるため、従前の業務内容と類似する業務(全く異なる性質とまではいえない業務)を提示するのが現実的であろう。

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