懲戒解雇した従業員の有給休暇はどうなる?正しい取り扱いを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

懲戒処分には、戒告や減給、出勤停止など様々な種類がありますが、懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い処分とされています。
そして、時には、懲戒処分と従業員の有給休暇の関係で法的問題が起きることもあります。

そこで、本記事では懲戒解雇した従業員の有給休暇の取り扱いについて解説していきます。

目次

懲戒解雇した従業員の有給休暇はどうなる?

従業員を懲戒解雇した場合、以下で解説する予告解雇をするか即時解雇をするかによって、有給休暇の取り扱いが異なってきます。

詳しくは以下の各ページをご覧ください。

予告解雇と即時解雇で有給休暇の扱いが異なる

懲戒解雇には、予告解雇と即時解雇の2種類があります。両者の違いは、解雇までに一定の期間を設けるか否かという点にあります。

予告解雇とは

労働基準法20条1項前段は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30前にその予告をしなければならない。」と定めています。
このように、解雇する旨を予告してから一定期間後に解雇の効力が発生する解雇を、予告解雇といいます。

詳しくは以下のページをご覧ください。

即時解雇とは

解雇予告から一定期間後に従業員を解雇させる予告解雇と異なり、即時に解雇の効力を発生させる解雇を、即時解雇といいます。

予告解雇の場合は有給休暇を取得させる義務がある

予告解雇をされたとしても、解雇予告期間中にある者は、従業員であることに変わりありません。
そのため、有給休暇を請求する権利を有しており、会社は、従業員からの有給休暇申請を拒むことはできません。

会社は時季変更権を行使できるか?

従業員がしてきた有給休暇申請に対し、使用者は、従業員が請求した時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権を行使して、他の時季に有給を与えることができます(労働基準法39条5項ただし書)。

ただし、単に「忙しいから」や「人手が足りないかもしれないから」といった曖昧な理由では時季変更権は認められません。裁判例でも、会社側が合理的な代替措置を講じた上で、それでも支障が避けられない場合に限って、時季変更権の行使が適法とされています。

また、時季を変更したとしても、解雇の効力が発生する日までに有給を取得させる必要があります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

即時解雇の場合は有給休暇を取得させる義務がない

即時解雇をした場合、従業員は、解雇を言い渡された日に解雇され、労働者としての地位を失います。
そのため、その従業員は有給休暇を取得する権利を失うところ、即時解雇の場合には、有給休暇を取得させる義務はありません。

会社に有給休暇を買い取る義務はあるか?

原則として、会社が有給休暇を買い取る義務はありません。

これは、労働基準法第39条が「労働者に休暇を与えること」を目的としており、有給休暇の本来の趣旨は労働者の心身のリフレッシュにあるためです。したがって、休暇を取らせずに金銭で補うことは、原則として法律に反するとされています。

もっとも、解雇等、使用者の意向によって退職となるために労働者が有給休暇を消化できなかった場合には、未消化の有給休暇に変えて金銭を支給したとしても、労働基準法に違反するものではないと考えられます。

繰り返しになりますが、会社が有給休暇を買い取るかどうかは任意です。労働者が希望しても、会社にその義務はなく、応じるかどうかは会社の判断に委ねられます。

有給休暇を適切に与えなかった場合のリスク

懲戒解雇の対象となった従業員に対して有給休暇を取得させなかった場合、例えば、当該従業員が出勤してきてしまうリスクも考えられます。

懲戒解雇とされた従業員の中には会社に対して負の感情を抱く者もおり、職務の放棄をはじめ、会社に損害を与える行為をすることも考えられますので注意が必要です。

懲戒解雇と年次有給休暇をめぐる裁判例

事件の概要(平成27年(ワ)37426号・平成29年11月24日・東京地方裁判所)
原告が、勤務先の商品を横領したとして被告から懲戒解雇されたところ、未払賃金や解雇予告手当等の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断
裁判所は、被告が、平成27年2月20日に原告に対して横領事実を確認したところ、被告がこれを認めたため即時解雇したこと、同月21日以降原告は出社していないこと等から、本件解雇は平成27年2月20日に原告に告知され同日に効果が発生したと判断しました。

これに対し、原告は21日以降出社していないことについて、有給休暇を取得したと主張しました。
しかし、尋問の結果、原告の主張する有給申請は同月18、19日頃に申請されており、本件横領が発覚する前にしたものと認められるため、同月20日以後に原告が被告に有給休暇を申請したとは認めがたい等として裁判所は原告の主張を認めず、請求を棄却しました。

ポイント・解説
裁判所は、原告が12月21日以降について従業員が有給を取得していたと主張する点について、12月20日の時点で解雇の効力は生じており、12月20日以降に有給申請をしたとは認めがたい等として、原告の主張を認めなかった点がポイントです。

懲戒解雇時の有給休暇でお困りの際は、労務分野に特化した弁護士にご相談下さい。

懲戒解雇は、懲戒の中でも最も重い処分であり、適切な手続きや対応が特に求められます。適切に対応しなかった場合、バックペイや付加金の支払いなど企業側の受ける不利益は大きいものとなります。
そのため、労務分野に特化した弁護士に相談・依頼し、対応していくことが重要です。

弁護士法人ALGには、労務分野に特化した弁護士が多数在籍しております。懲戒解雇時の有給休暇でお困りの際は、ぜひ当事務所までご連絡ください。

よくある質問

懲戒解雇する従業員からの有給休暇の申請を拒否することは可能ですか?

即時解雇による懲戒解雇をする場合には、有給休暇の申請を拒否することが可能です。
これに対して、予告解雇による懲戒解雇をする場合には、有給休暇の申請を拒否することができません。

従業員に未消化の有給休暇がある場合、予告解雇と即日解雇のどちらを選択すべきですか?

どちらかを選択しなければならないという義務はありません。

労働者を解雇する場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない旨が、労働基準法20条1項に定められています。そのため、原則として予告解雇をすべきと考えられています。

もっとも、懲戒解雇の場合には、即時解雇されるのが通例です。

業務の引き継ぎが必要であることを理由に、予告期間中の有給休暇の申請を拒否できますか?

業務の引継ぎが必要であるという事情があったとしても、そのことを理由に予告期間中の有給休暇の申請を拒否することはできません。

予告した解雇日までに有給休暇を消化させる場合、解雇予告手当は支払わなくてもよいですか?

予告した解雇日までに有給休暇を消化させるとしても、解雇予告手当は別途支払う必要があります。
有給休暇と解雇予告手当は別個の制度であるためです。

詳しくは以下のページをご覧ください。

有給休暇の残日数分だけ、解雇までの期間を伸ばすことは可能ですか?

従業員を懲戒解雇する場合、解雇の30日前に解雇予告をしないのであれば、使用者は、従業員に対して解雇予告手当を払う必要があります(労基法20条1項本文)。

もっとも、どのタイミングで従業員を解雇するかは、使用者が決定することができます。
そのため、有給休暇の残日数分だけ、解雇までの期間を伸ばすことは可能です。

即日解雇により有給休暇を買い取る場合、会社が買い取り金額を決めてもよいですか?

有給休暇の買取は、有給休暇を「与えなければならない」とする労働基準法39条に反し無効と考えられています。

もっとも、解雇等、使用者の意向によって退職となるために労働者が有給休暇を消化できなかった場合には、未消化分の有給休暇に代えて金銭を支給したとしても、労働基準法に違反するものではないと考えられます。

とはいえ、有給休暇の買取は、会社の任意でなされるものです。
そのため、有給休暇を買い取るか否かといった点やその金額については、会社が決定することができます。

懲戒解雇の前提措置で自宅謹慎を命令した場合、謹慎期間に有給休暇を充ててもよいですか?

自宅謹慎を命令した場合の欠勤は、従業員からの有給申請によるものではありません。
そのため、会社が一方的に謹慎期間に有給休暇を充てることはできません。

解雇日までの有給消化中に賞与支給日が来たら、賞与を支払わなければなりませんか?

有給休暇を消化している最中であるとはいえ、解雇対象の従業員は会社に在籍しています。
そのため、会社としては、賞与を支払う必要があります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

懲戒解雇が無効と判断された場合、解雇によって取得させなかった有給休暇はどうなりますか?

懲戒解雇が無効と判断された場合、労働者としての地位があることとなります。
そのため、その従業員には、残っている有給休暇を取得する権利があります。

有給休暇の取り扱いで労働審判や訴訟になった場合、会社はどう対処すべきでしょうか?

有給休暇の取り扱いで労働審判や訴訟になった場合、どのような手続きや主張をしていくか等について、専門的な知識や経験が必要になるケースがあります。

弁護士法人ALGには、労務分野に特化した弁護士が多数在籍しております。
少しでも不安がある場合は、一度当事務所までご相談ください。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。

0120-630-807

受付時間:平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

執筆弁護士

弁護士 久保田 惇
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士久保田 惇(東京弁護士会)
弁護士 東條 迪彦
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士東條 迪彦(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます